日本映画の人間像・2

女が社会を引っ張る時代に

喜びも悲しみも幾歳月

1957年/木下恵介監督/高峰秀子・佐田啓二

古都

1963年/中村登監督/岩下志麻・吉田輝雄

 『喜びも悲しみも幾歳月』。きよ子(高峰秀子)はお見合いして3日後に結婚し、灯台管理を仕事とする夫(佐田啓二)と一緒に観音崎へやって来た。磨き抜かれたライトが2人を照らし、さらに夜の海を遠くまで照らしている。「しっかりやろう。仲良くしよう。約束しよう、死ぬまで別れないって」。仕事一途な夫と、家庭を守る妻。人生の荒波は彼らにも押し寄せるが、嬉しい時も悲しい時も、夫についていく。これがきよ子の幸せ。これから先も、きっとそう、とうたい上げる。木下恵介監督は腕のいい職人の芸。碧い海を背景に、人々はみな明るく清らか。

 一方、『古都』の中村登監督は、ねっちりとした演出で京都の物語を描く。ねずみ色の重い屋根瓦。京の町屋が、人の世のうつろいを見つめ続ける。出生に謎を秘めた双子の姉妹(岩下志麻の2役)。苗子と千重子は、蒸し暑い祇園祭の宵宮で偶然に、初めて出会う。堅くかき合わせた襟元からは、立ちのぼる汗の香りが感じられる。姉妹は最後にそれぞれ結婚するが、まとわりつくような映画の質感が、見る者に不安を残す。2人の将来は、本当に幸福なのか。結婚は女の幸せという神話に、ひやりと影が落ちる。

 そして30年。雷におびえていた岩下志麻は、今や押しも押されもせぬ天下の極妻。『極道の妻たち』シリーズこそ、現代の女性映画の代表格だろう。初めのうちの極妻は、わりと健気な女。機関銃をぶっ放すのも、夫を扶け一家を維持するためだった。だが最新作、『極道の妻たち 危険な賭』のヒロインは、「北陸の女帝」と恐れられている。大組織の跡目争いをきっかけに、極道社会の頂点に立ってみせたると野心を燃やす。女が社会そのものを引っ張っていく時代が来た。

日本映画100年。その中で生きる女たちは、泣き、笑い、怒り、戦い、とうとうここまでたどり着いた。



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