アナジ



海よ、この身さだめぬ流浪の生きものよ

低く響きわたる声に、

海を愛し、広く深い海の心で人を愛おしむ人間アナジの生き方が伝わってくるプロローグ。

始まりから終わりまで、かっこよすぎますぜ、ふなおさ!

にくいぜ、女心をじらせる谷先生!

人間愛をテーマにしているだけに、特定のラブラブモードがない。

で、この際、佐和は もちろん、盲目のオババから、妹、母に至るまで、

なりきりラブバージョンを楽しめちゃうってわけ。

朝鮮の舞姫だって、アナジを憎むことで自分のプライドを保ち、生きる支えにしてきたけど、

心の奥で愛してたんじゃないかしら。

「操を奪った俺が憎ければ憎め」って言われたら、

「ううん、もうどんどん奪って」

とか 言うじゃないですか普通。(普通じゃないってか)


と、まあ、周りですすり泣きもれる中、うっとりノーテンキなこと考えて・・・。

ばかりいたわけじゃあないですっ。


祖国愛・肉親愛・友情の、かなわぬ思いに胸が苦しくなりました。

勧善懲悪ではなく、そうした愛がテーマであるだけに胸が熱くなりました。

でもね、かなわぬ思いの死であっても、それが語りかけるものは「希望」そのものだったから、

悲しく暗い気分には全然ならないの。


「キリエ」の歌がながれる中、島に迎えられ、やがて人々の命を救うため自らの命をささげたアナジ。

その最期の姿には 十字架から天に昇ったキリストがかさなり、

これが絶望的な死ではないことを暗示していました。


それにやっぱり「海が結んでいる」ってあのアノお声が胸に響いて・・。

ながい時間と、はてしない距離を旅しつづける海。

はかない時を、狭い国土の中で生きる人間達は、抗えぬものの前に身を屈しはするけれど、

海のように広く深い心で結びあい、生き続けて行ける。

研一生達はじめ若くて一途なエネルギーがあふれて伝わり、

熱い感動と さまざまな思いの残る作品でした。


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