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THE FINAL:YOU MAKE ME HAPPY! |
くりこま 悠 |
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THE FINAL:YOU MAKE ME HAPPY! さて。そろそろ卒業シーズンである。 「受験地獄変」や「センター試験虎の巻」や「怒濤のクリスマス大作戦」といったお話も 無かったわけではないのだが、物語の展開上、省かなければならなかった。許せ。 機会があれば、こういった事にも触れようとは思っているのだが、あくまでも予定は未定である。 それはそうと、卒業シーズンである。 こういう時期になると、例の2人の将来が心配になってくるわけであるが、透は何処ぞのコードネーム「King Water」を名乗る前編集長に「俺が高坂さんの不幸をすべて取り除いてやる」等と宣われ、喧嘩を売られたため、それを倍額で返済。 透には「実はかなり強い」という設定があるにはあるのだが、その一文の前には 「バーチャロン・フォースが」という一文が抜けていたりする。別に喧嘩は強くない。 ま、まぁ、そんなわけで、この2人も、1人の男子高校生によって、より仲が良くなった様なので、心配は要らないだろう(そういう意味では、コードネーム「King Water」に感謝をせねばなるまい)。 涼子と隆介の絶妙な関係も、きっと時が解決してくれるだろう。ケッ、勝手にしやがれ。 そんなわけで卒業シーズン。 春は出会いの季節である以上に、別れの季節なのである。 ちょっと切ないこの時期でも、部活はいつも通り行われる。 2002.2月上旬 「ねぇねぇ」 「ん?」 ディスプレイに向かってCGを作っていた「岡村“なんちゃってイケメン”誠二」に、 「瀬名“究極的電波系委員長”真弓」は話を持ちかけた。 「どうした?」 誠二は手を休め、振り向きざま真弓に言った 「先輩達、そろそろ卒業だよね」 「あ、そうか。日本じゃ、9月じゃなくて、4月になったら卒業なんだっけ」 「エレメント“交換留学生”ボーダー」も、文章を書く手を休めて、誠二達の方を向いた。 彼女の座っていた台に映っている、コラムのタイトル。 その名も「お茶の心」!! 日本を愛した1人の留学生は、ついに機関誌「STEN」に、お茶系のコラムを書くまでに 日本語が堪能になったのである。それは同時に、茶道部での地道な活動が実を結んだ 瞬間でもあった。 もっとも、日本語に関しては、初めから堪能だった気もしたが。 「エレメント。そういや君は、いつまで日本にいるんだ?」 「え、私?実は…」 「実は?」 誠二と真弓は、顔をしかめた。 そういや彼女も、極めて早い段階で登場していた。 もうすぐ日本に来て、1年になる。 もしかして、先輩達と一緒に、彼女ももうすぐ、この学校を離れざるを得なくなるのか? 「実は…」 重苦しい空気が流れる中、エレメントは神妙な面もちで、静かに口を開く。 「ココ日本があまりにも居心地がいいので、思わず編入試験を受けてしまい… …見事に合格してしまいました」 誠二と真弓に限らず、そこにいる全員が、思いきりすっ転んでしまった。 部室の椅子はコンピュータ室のお古で、大多数が脚にローラーを搭載しているのも 原因の一つだ。 「…な、何を…」 「来年度からは、私も正式な五ッ高生になるから、ヨロシクね♪」 エレメントは明るく言ってのけた。 「もう、何て言ったらいいのか分からねぇ…」 「と、とりあえず、おめでとう」 「ありがと♪」 放っておいたら、日本に帰化すらしかねない。 名字は「望田(『ぼうだ』と読む)」に決定だろう。 「って、そうじゃなくてー!!」 真弓は話を戻した。 「先輩達が卒業するに当たって、私達も何か出来ないかなぁ」 「歌を歌う(ぼそ」 影が薄い(というより、今まで出てくる機会がなかった)「竹内 雄太」が、そんな提案を し始めた。 気が付けば、彼は左手に愛機 ROLAND AX-7 ショルダー・キーボードを。 右手にYAMAHA EZ-EG 通称「光るギター」を抱えている。 忘れているだろうが、彼の趣味は音楽だ。 今まで、全然話題にも上らなかったが、彼の趣味は音楽だったら音楽なのだ。 楽器類を両手に抱えている姿は、路上パフォーマンスをしているような人にも見えるが、 彼は純粋にDTMが趣味なのだ。信じてくれ。 彼はAX-7を、同じく出番の無かった人間の1人「高柳 康介」に手渡すと、 いきなり歌い出した。 「きょーおーもー そしてあーすーもー 僕は崖っぷーちー♪」 「『崖っぷち』じゃダメだろ」 誠二はギターをぶんどると、ギターをかき鳴らし始めた。 「仕事をマッハで終わらせて〜 今日こそ早く帰りたい〜 可愛い彼女が待っている〜 6時半までに帰りたい〜♪」 「ダメダメ。そんな2人が会えないような歌詞じゃ、立石先輩や高坂先輩に失礼ですぅ!」 真弓はAX-7を肩に掛け、音色をエレキギターに合わせた(ギターは弾けないらしい)。 「ほぉらぁ 白い顔に残した〜 逆さま配列忘れぬよう〜 鉛で〜 瞼開いt… …って、あれ?」 気が付けば、とっても冷ややかな目線が、彼女に送られている。 「お前が一番失礼だ!!」 「失礼しました」 真弓は悪びれた様子で、舌を出した。 と、その時、部室のドアが開いた。 透、真樹、涼子、隆介。 ようするに、いつもの四人衆だ。 「ああ〜、疲れた〜」(透) 「康介君。高柳センセーって、密かに日本史も教えられるわけ?」(涼子) 「いつもの先生じゃないから、ペースが全然掴めなかったみたいだよ」(隆介) 「…私、待ち疲れて、つい寝ちゃった…」(真樹) ぞろぞろと、何事もないように入ってくる、情研部のエースと呼ばれた面々達。 「叔父貴は…一応、文系科目なら何でも教えられるって、前にフカしてましたし… っていうか、先輩。今、自由登校ですよね?」 康介は、うろたえながらも、4人に聞く。 「“自由”登校なんだから、別に来ても問題はないだろ?」 透は、何も語りたくないと言った様子で、そっと呟いた。 ちなみに、一般的に自由登校期間内に学校に来るというのは、登校日か、 よっぽど暇なのか、もしくは補習があるということを示している。 来ても問題はないだろうが、来る必要があるのは、よっぽど問題のある生徒であると 言っても過言ではないだろう。 「うかつだったわ。受験で使わないからって、油断してたのが仇になったみたい…」 涼子もまた、ガックリと肩を落として、そう呟いた。 「要するに…アレですか? どうせ理系科目で受験するからって、揃いも揃って内職でもしてたんですか? 日本史の時間に…」 誠二は思い切って、自分の推測を、4人にぶつけてみた。 「揃いも揃ってじゃないよ」 隆介は、苦笑しながら答えた。 「私は専門学校だし、神田君は就職。 両方とも、受験勉強は必要なかったから、普通に授業を受けてたの」 真樹が補足をする。 「へぇ。そういえば、どうだったんです?」 「ダメだった」 1つバグを直したら、3つ程新しいバグを発見したプログラマーのような表情で、 透は呟いた。 「いや。単位がダメになりかけてるのは、見れば分かりますから。 そっちじゃなくて、受験の方」 「ああ。何とか。俺は私立だけどセンター(入試)が利用出来たから、 それでギリギリな所でクリアした」 「私も前期試験でキッチリとケリを付けたから、後は…」 「日本史の補習を受けるだけ(ぼそ」 隆介が、そう毒突いた。 「立石の家で、立石と城之崎の受験合格記念パーティーをやってたんだ。 それで、佳境に入った辺りで、電話が鳴って」 「透君と涼ちゃんが、日本史がギリギリ赤点だったとかで、その補習の連絡が来て」 「それで、こんな時期に、こんな所にいるっていうわけだ」 透と涼子が、同時に溜息を吐く。 「カラオケに行こうって計画していた日が、よりによって補習とぶつかったんだよな」 「何やってるんだか…」 隆介と真樹は、半ば呆れ顔で透と涼子を見つめた。 同時刻 生徒会室。 「ふぅ〜」 前期生徒会会長「沢口 武」(忘れられている可能性:大)は、1人椅子に座って、静かに 文庫本を読んでいた。 映画のワンシーンにありそうである(BGM:BUMP OF CHICKEN「メロディーフラッグ」) 「会長…じゃなかった、元会長。どうしたんですか?こんな所で」 前期生徒会副会長「桜井千鶴」が、荷物を置きつつ、そう呟いた。 「いや、何、もうすぐ卒業だべ。 わんつかばし感傷に浸りたいと思ってね」 折角のBGMが台無しになった。 「あのー。日本語を話して下さい」 「桜井クン。君は、これが日本語じゃないゆい張るつもりかい?」 「あ、ちょっと分かりやすくなった…って、何で津軽から広島に飛ぶんですか?」 千鶴は武の向かいの席に座った。 「しかしさ、あっという間だよな。ホント…」 「そうですね。入学したのはつい昨日のように感じるのに、もう卒業なんですから」 千鶴は溜息を吐いた。 『桜井クン』 『何ですか?かいちょ…元会長』 『武…って読んでくれないかい?』 『どうしたんです?武…さん』 武は文庫本を閉じた。 『俺、卒業したくないんだ。ぶっちゃけ』 『な、何を言ってるんですか?』 『考えてもみろ。ここ2年ほどは、僕がいて、君もいて、それが当たり前だった』 『は、はぁ…』 『でも、あと何週間かで、俺と君は、離ればなれにならなくちゃいけない…』 『大丈夫です!かい…武さん!!』 千鶴は席を立った。 『例えどんなに離れても、私と武さんは一心同体です!! いつまでも想っていますし、何処までも付いていきます!!』 『桜井クン…』 『千鶴って、呼んで下さい』 『千鶴―――ッ!!』 『武さん!!』 画面が、少しずつフェードアウトしていく。 「そして、2人は…」 「桜井クン。俺さ、ずっと思ってたんだけど?」 「はい?」 千鶴は期待の目で、武を見た。 「君のその妄想癖は、全然直らないね」 「…うぐぅ…」 千鶴は、その場にへたり込んだ。 「ところで桜井クンは、何で学校にいるんだい?」 「うぐっ!!」 聞かれたくない質問だったらしい。 何の因果で、生徒会元副会長たる人間が、マラソンの追走如きで学校に招待されなければいけないのか。 千鶴は心底、自分が情けないと思った。 「ところでさ、桜井クン」 「何ですか?かいちょ…元会長」 「武…って読んでくれないかい?」 「え?」 ちょっとばかし、早い春だった。 2002.3.1 かなり時間が飛んだような気もするが、それだけ月日が流れるのは早いということで ある。 決して、この後のカラオケ合戦あたりの話が纏まらなくなったからではない。 そんなわけで卒業式である。 「卒業するのが、こんなにも大変な物だとは思わなかったぜ」 透は、遠い目をしてそう呟いた。 どうやら、随分と補習に苦しめられていた様子である。 手にペンだこが出来るぐらい、随分と熱心に補習をさせられたのだろう。 そんな、1人感慨深い様子の透を見つめながら、真樹が一言。 「それ、透君と涼ちゃんだけだよー」 ある意味、言ってはいけない一言であった。 「大学に合格した人間が、補習に呼ばれちゃ世話ないな」 武山が挨拶代わりに、透に言った。 「聞いたよ。ずっと補習を受けてたんだって?」 透は、訝しげに武山を見つめた。 「俺さ、お前に話した覚えはないんだけど…」 「うん。お前から聞いた覚えはない」 「…誰から聞いたの?」 気が付けば、武山の後ろには涼子がスタンばっている。 口調も、吐息も、視線も、全てが絶対零度を超越していた。 『いやぁ、あの時は何ていうんでしょう。寒気がしましたねぇ。 背筋がゾクゾクッとして、殺気みたいのを感じました。 普段からうちの部長と張り合っていたから、恐ろしいっていうのは知っていたんですが、 まさかあそこまで凄いとは。見ると聞くとじゃ大違いでしたね』 県立高校3年・男子(プライバシー保護のため、一部音声を変えて放送しています) まぁ、分かりやすく書くと、こんな感じだ。 「…誰から聞いた?」 涼子はもう一度だけ訊いた。 聞き取りやすいように、ゆっくりと訊いたようだが、それは殺気を増幅させる効果しか なかったようだ。 「そうだね。それじゃ、順を追って話すことにしよう」 武山は精一杯の作り笑いをしながら、涼子の方を振り向いた。 よろ蹌踉めきながら、武山は壁によっかかる形で、話を始めた。 「あれは、俺がまだ、いたいけ幼気な少年だった頃だ。その頃、俺は…」 刹那、光速で涼子の拳が飛び、壁は破片をまき散らしながら、めり込んでしまった。 「ま、待て。だから、順を追って説明していると…」 「要約しなさい、要約!!」 「わ、分かったよ。え〜と、この間、吉野家に行ったんですよ。吉野家」 壁の凹みが、も1つ増えた。 それと同時に、武山から血の気が引いていく。 「も、もうね、馬鹿かと、アホかと」 「いい加減にしないと、小一時間、殴りつける問い詰めるわよ」 千の言葉より、一の暴力が勝った瞬間だった。 「そ、それは、うちの元部長から…」 武山は素直に、そう答えた。 「…諸町 冴子…」 透は、不意にその言葉を発した。 涼子の唯一無二のライバルにして、元イラストレーション部部長。 通称、女帝。 もはや、作者すらも存在を忘れていた、「そういえば居たな」系のキャラクターだ。 「冴子…か」 涼子は溜息を吐いた。 高校生活に置いて最大のライバルだった彼女。 まだ、ケリは付いていない。 涼子自身は別にどうでも良いのだが、きっと彼女の方が黙ってはいないだろう。 「というわけで、ラストバトルよ!涼子!!」 気が付けば、ベランダに冴子の姿があった。 窓を開いて、ビシッと涼子を指差す。 3月とはいえ、まだ肌寒い季節だ。 「…」 涼子は無言で、窓を閉め、ご丁寧にも鍵を掛けた。 冴子は必死で窓を叩く。 「さてさて、どうしたものかしらねぇ」 「『どうしたものかしらねぇ』って、お前…」 透は呆気にとられたような表情で言う。 真樹は完全に呆れきった様子である。 とても、主人公だとは思えないような目立たなさだ。 「大体、主役の居ないところで話を勝手に進められても…」 「その勝負、僕が判定しよう!!」 突如、元生徒会長が現れた。 後ろには、千鶴の姿も見える。 「また、ややこしいのが出てきた…」 武山が頭を抱える。 「っていうか、段々俺達の影が薄くなるんだけど…」 「せめて、もうちょっと目立たs」 透と真樹に至っては、画面の隅っこの方で、そんなことを訴え出す。 だが、残念ながら、そんな事は涼子達の知ったことではない。 涼子は至ってまじめな顔で、武に訊く。 「判定って?」 「今までに危険度Sランクの生徒として君達の行動を監視してきた、 我々元生徒会メンバーによって、君達を 今までにない、最高の勝負空間を演出しようと いう、正に画期的な試みだ」 何処ぞの学校の執行部なんかよりも、よっぽどタチが悪そうだ。 「監視?今まで?」 涼子は怪訝な表情で、武に問い詰める。 「監視したって、そのデータで一体何をしていたわけ?」 「いや、それは…その〜」 「監視しているだけで、任期が過ぎたんだな」 「きっと監視する方に夢中になって、本来の目的を忘れちゃったのよ。 本末転倒の典型例ね」 困った顔をしている武を見ながら、透と真樹は話す。 成る程。何も喋れなければ学校で1,2を争うほどの美少女(という設定のある)、 最強女子高生涼子。 確かに、監視を始めれば、その美貌に夢中になってしまうことも無いとは言えないだろう。 「で、いつ始めるの?その三つ巴の勝負は…」 気が付けば、冴子が教室に入っていた。 鍵を締められたので、仕方なく自分の教室→廊下を経由し、大急ぎでやって来たらしい。 「…三つ巴?」 武は、自らの言葉を思い出しながら、思わず呟いた。 彼の記憶が確かならば、彼は一言も「三つ巴」と言った覚えはない。 勿論、誰も「三つ巴」と聞いた覚えはない。 「誰と誰と誰が戦うんだよ」 今回の主役は自分ではないと悟った透は、投げ遣りな口調で冴子に聞く。 「私と涼子と元生徒会長に決まってるじゃない」 当然でしょ!? 冴子は、そう言いたげな表情で、そう告げた。 「成る程ね。あー、良かったー」 『最終回ぐらい、俺は脇役でマッタリとするからな』と決め込んでいた透は、 ほっと胸をなで下ろした 良くないのは企画しただけなのに、勝手に参戦することにされた、元生徒会長、沢口武である。 「…僕?」 「そう、貴方」 既に決定済みらしい。 「武さん」 千鶴は、武の肩を叩いて、一言。 「頑張って下さいね。応援していますから!!」 (ブルータス、お前もか…) 完全に、引っ込みが付かなくなった。 ここで「元生徒会長権限で、この勝負を中止する」と言っても、もはや誰も聞かないだろう。 「ここから先は、私が解説しますね」 千鶴がプリントの束(目測30枚)を持って、3人の真ん中に割って入る。 「まずは、この“五ッ川高校最強王者決定戦文化部連合杯THE FINAL”のあらましから 説明した方が良いですか?」 「ページが足りなくなるから、良いよ」 「既に要らない余談を書き綴って、随分とページを削っちゃったしねぇ」 「っていうか、タイトル長ッ!!」 「そうですか。では…」 千鶴は、目測29枚ほどのプリントを近くの机に置くと、なお説明を続けた。 「ルールは単純です。卒業証書授与式典終了後に、体育館に特設ステージを製作します ので、そこで試合をしてもらいます。 3カウントを取られるとその人は敗退。サドンデスルールなので、注意して下さいね。 以上ですが、質問は?」 その場にいた誰もが、省かれた目測29枚のプリントの束に視線を移した。 「質問です。そのプリントの束には、何が書いてあったんですか?」 透は、思わず質問をした。 「今大会のあらましを含めた、この五ッ川高校での過去の戦いにおける勝敗の記録です。 陸上部の国体出場記録から、放送部の全国大会出場記録。更に情研部のソフトコンテス トの出展記録や、イラスト部の夏コミ・冬コミ出展同人誌の総売上。 あと、ライフスタイル研究部の、今年の流行ファッション意識調査の全記録…」 「あぁ。2行目からは読んでないけど、大体分かった」 透はそう言って、自分が質問をしたことに後悔した。 「この資料って、そういう事が全部載ってるんだ。ちょっと興味深いかも」 真樹は真樹で、プリントを読み始める。 …が、プリントの束を整理しようとしたところで、手から滑り落ちて。 『あ゛』 ほぼ全員が、一斉に叫んだ。 「また、蛍光灯が落ちるかな。ここ数ヶ月無かったから、大丈夫だと思ってたんだけど…」 気が付けば、透は涙目になっていた。 金井は、黙ってエアガンを手にした。 サバイバルゲームにも充分使えそうな、高性能な奴だ。 慣れた手つきで銃底を引く。 ガシャンという、冷たい音が響き渡る。 彼は黙って銃口を壁に向けると、静かに引き金を引いた。 …銃口からは、小さめの大豆が発砲された。 「お前らの部活って、何やってんの?」 金井はエアガンを床に置くと、武山に聞いた。 「絵を描いてるよん♪」 武山は、「当然のことを聞くなよ、ブラザー」と言いたげな顔で、そう答えた。 床には、これでもか、親の仇だ、ってな具合に、銃器類の山が築かれている。 「絵?」 金井はマルイのエアガンを手にし、頭を抱えた。 「この間、イラスト部恒例の豆まき大会があってね」 「あー、節分の?」 「その時に、武器として武山君に持ってきてもらったのよ」 「12月から、少しずつ持ってきては部室に放置してたんだ」 カートリッジの交換作業をしながら、武山は答える。 「エアガンで豆まきか。ハードだな、イラスト部は…」 頭に包帯を巻いた透が、思わず呟く。 その後ろで、真樹は申し訳なさそうに、落ちてきた天井のタイルの後処理をしている。 たまに引っ掛かって、転けていたりしているみたいだが。 「で、その武器を、一体何に使うのって言ったら」 「勿論、五ッ川高校最強王者決定戦文化部連合杯2nd Stage THE FINAL Act.1全国大追 跡スペシャルに使うのに決まってるでしょ♪」 冴子は武器の点検をしながら、ニヤリと笑った。 涼子はエアガンを手に取り、思わず質問をする。 「実行委員長殿!武器の使用は許可されるのですか!?」 「これ、借りるよ?」 「あ、元生徒会長…」 かくして、実行委員長兼出場選手である武の口から出た一言によって、武器の使用は許可されることとなった。 「そう。そっちがその気なら、こっちだって考えがあるわよ…」 涼子はそう言って、絶対零度の微笑みで、透の方を向く。 「立石く〜ん♪」 「ぎくっ」 「ちょっとお願いがあるんだけど〜♪」 「ぎくっ、ぎくっ」 「部室に行って、武器になりそうな物を取ってきて貰えるかにゃ〜♪」 風下に立ったのが、透の不運といえば不運だった。 蛇に睨まれた蛙のようなもので、誰も責めようがない。 「じ、自分で行けば?」 透の怪我が、更に悪化したのは言うまでもない。 金井は、黙って5インチFDDを手にした。 業務用にも充分使えそうな、高性能な奴だ(ただし、10年前の話だが)。 慣れない手つきでスイッチを回す。 ガシャンという、冷たい音が響き渡る。 彼は黙って挿入口を見ると、静かにFDを引いた。 …挿入口からは、随分と昔のワープロソフトが検出された。 「勝てんな」 「ほっといて!!」 涼子が思わず叫ぶ。 苦労して運び込んだ物品に、そんなに冷静にツッコミを入れられても困るわけだ。 「大体、ページが普通に足りてないんだよ。 これ以上余計なことを言うのは、止めてくれよ」 半泣き状態で、透が訴える。 「分かった。言わない」 金井はそう言って、FDDを床に置いた。 「しかし、それにしても…」 片や、エアガンの山。 片や、大昔のOA機器の山。 どう考えても、ミスマッチである。 知らない人が見たら、思わず「廃品回収?」と聞いてしまうだろう。 「そうそう。式典のすぐ後に開催するので、武器を使用する場合は、卒業式典の時に 予め持ち込んでおいて下さいね」 桜井千鶴実行委員長代理に一言に、周りに集まっていた人々が固まる。 「…」 沈黙が周囲を支配した。 「…あ、あのさ、これを持ち込めっていうの?卒業式に…」 「ええ」(即答) 「だ、大体さ、すぐ後って、ホームルームとかあるんじゃないの?」 「それは大丈夫。実行委員権限で、どうにでもなります。多分」 「多分って何―!?」 涼子と千鶴のやりとりを聞いている間に、透は段々と頭の傷が内部から広がっているような感覚を味わった。 「頭痛ぇ」 「あれ?高柳先生、どうかしました?」 「いやぁ。思った以上に体育館の老朽化が進んでましてな。 まぁ、今日明日にどうなるという事は無いでしょうが、春休み中に業者を呼んで、 補修しようかと思いまして…」 「なるほど。ああ、ヒビが入ってる。これはマズイかもしれませんね…」 「流石に、まだ授業がありますから、今からというわけにも…」 「それにしても、体育館だって、それ程古い物でもないでしょう?」 「まぁ、色々ありましたから。新入生オリエンテーションで、緞帳が落ちてきたとか…」 「後始末が大変でしたね」 「越前谷先生は、ストレスでゲシュタルト崩壊を起こしちゃうし…」 「と、とりあえず大丈夫ですよ。今日に限って、ああいう大事には・・・」 「なぁなぁ、知ってる?情研とイラ部と元生徒会長が、バトルをするんだってよ」 「ああ。春休みだよ全員集合!!五ッ川高校最強王者決定戦‘03文化部連合杯2nd Stage THE FINAL Act.1全国大追跡2時間スペシャルだろ?」 2人の横を、そんな会話をしている生徒が通り過ぎていく。 溜息が重なった。 「不安だ」 「卒業生、入場!!」 そんな声が、体育館中に響きわたった。 「先輩達も、とうとう卒業か。おめでてーな」(誠二) 「よーし、俺、卒業記念品残してやるぞとか言ってんの。もう、見てらんない」(エレメント) 「ちょ、ちょっと。何で、毒突いてるの?」 真弓は、そんなことを言う2人に、思わず突っ込みを入れた。 そうこうしているうちに、卒業生が入場してくる。 社会人として羽ばたく覚悟を決めたような、凛々しい表情で歩いていく。 ただし、最後の一団を除いて。 「フル装備だな。先輩達・・・」 イラスト部の面々は、肩に担げるだけエアガンを担ぎ、頭にはヘルメットを、 目にはゴーグルをといった具合に、考え得るだけの武装を施している。 しかも、それだけの武装をしつつも、あくまでも制服(しかも正装)だからタチが悪い。 この、随分と異彩を放つ一団が過ぎ去った後、次に来たのは情研部の人々であった。 こちらもPC9801や5インチFDD、解像度もたかがしれてるディスプレイなど、随分と 重武器を持ってきたようだ。 もっとも、重すぎて、持ってくるだけで大変みたいだが。 やがて、列は普通に戻っていった。 まるで、何事もなかったかのように。 「そういえば、みんな、春休みだよ全員集合!!五ッ川高校超最強王者決定戦‘03文化 部連合杯2nd Stage THE FINAL Act.1全国大追跡2時間スペシャル〜巴里は萌えてい るか〜とかいうのがやるんだっけ?」 どんどんタイトルが長くなっていく。 「あれって、本当にやるんだ。ネタだと思ったんだけど」 真弓がふと、そんな事を呟いた。 エレメントに至っては、呆れ顔で 「ワタシ、ニホンゴワカリマセーン」と宣っている。 「こういう時に限って、外人に戻るなー!!」 誠二が思わず突っ込みを入れる。 「イッターイ!ナニスルデスカー!?」 「コイツ、本当に外人に戻ってやがる・・・」 誠二は助けを求めるような表情で、真弓の方を向く。 ・ ・・寝ている。 出来る限り、異常という名の外界との接触を断ちたいらしい。 意地でも典型的な外人を演じきりたいエレメントと、自分の殻に逃げ込んだ真弓に挟まれ、誠二は涙を流した。 「以上、在校生からの送辞に代えさせていただきます」 現生徒会長が送辞を読み上げると、会場からは拍手が巻き起こった。 在校生代表という責務から解放された生徒会長は、心なしかホッとした表情をしている。 「卒業生答辞。卒業生代表、沢口武」 「はい」 武は席を立ち上がり、壇上へと歩みだした。 「2003年3月1日。僕達は、この五ッ川高等学校から、社会へと巣立っていきます・・・」 ごく普通の、ありきたりな文章を読み上げる武。 そんな彼に違和感が与えている物があるとするならば、それは背中に背負った エアガンと、迷彩柄のヘルメット。それと、銃撃戦に備えたゴーグルであろう。 「平成15年3月1日。卒業生代表、沢口 武」 彼は答辞を読み上げると、顔を真っ赤にして、早足で壇上から降りて来た。 「あー、恥ずかしかった」 彼は席に座るなり、そう呟いた。 時折、エアガンがパイプ椅子に当たり、ガシャンという冷たい音を響かせる。 「…〜ッ」 武のすぐ後ろに座っていた隆介は、溜息を吐いた。 「何でだ?」 隆介は武に訊く。 「何で、ここの教職員は、こうやって完全武装を施した生徒が居るのに、何もなかったかの 様に無視をするんだ!?」 「そ、そんな事、僕に言われても…」 「それについては、私から解説しましょう」 武のすぐ横に座っていた千鶴が、2人の間に割って入った。 「卒業式典は練習の時のように、ポンポン怒ることが出来ないんですよ。 教育委員会やPTA、あと保護者の方が来るから。 こんな学校でも、世間体だけは気にしないといけませんからね」 「なるほど。分かったような分からんような…」 よく分からないが、ここで納得をしないといけない気がする。 既に、朝の大騒ぎに参加していなかった時点で(本当は教室に立ち寄ろうとしたのだが、 中でエアガンの山を築かれ、天井タイルが四散し、透が血を流して倒れている状況を 見て、思わず引き返したのだが)、この話に参加する権限が無い様に感じられるのだが。 「まぁ、俺には関係ない話っていうことで、俺はそつぎょーしょーしょだけ貰えたら、 とっとと家に帰ってゲームをする用事g」 「神田君。私の勇姿を見ててね」 隆介の肩に、ポンと手が置かれる。 その手の先には部長さん(元)。 「一応、本日のメインイベントですから、よろしければ観ていって下さい」 卒業式の日に、文化部の勝手な抗争がメインイベントになるというのは、どういう了見なのか。 隆介は考えようとしたが、止めた。 自分が3年間通ってきた学校は、そーゆー学校なのだと、納得することにしたからだ。 「ただ、せめて最後の1日ぐらい、マトモな学生生活を送りたかったかも」 溜息は、PTA会長のありがたいお話にかき消された。 「卒業生、退場!」 体育館内に、そんな声が響き渡る。 卒業生全員が起立し、無言で体育館から立ち去る。 後に残った物は、エアガンやPC9801等の、いわゆる「武器」だ。 「高柳先生、何なんでしょうかね、これ…」 「私はもう、知りません。知りたくありません」 流石の熱血現国教師も、自らの理想や常識の類と、現実の狭間で、心身共にボロボロになっているようだ。 卒業生退場後、その父兄の方々にも、退場の声が掛かる。 何やら分からぬまま、退場する保護者の方々。 保護者が全員外に出たのを確認すると、扉は閉められ、電気も一斉に消された。 暫くしたのと、ステージにスポットライトが当てられた。 「レディース エンド ジェントルメーン!!」 スポットライトが光っているのを確認すると、マイクを握った誠二が、ステージに 登場した。 安っぽい、ラメでギラギラしているスーツを着込んでいる。 「これより、本日のメインイベント、 『ひらけ!春休みだよ全員集合!!五ッ川高校超最強王者決定戦‘03 文化部連合杯2nd Stage THE FINAL Act.1全国大追跡2時間スペシャル 〜巴里は萌えているか〜 TYPE-R』 を開催します!! 本日の司会進行を担当いたします、情報研究部 岡村誠二です。 皆様、どうぞヨロシク!」 「わー!!」 ギャラリーは一斉に歓声を上げた。 彼らは別に、この戦いに疑問など持たないらしい。どーゆーわけかは知らないが。 大体、何故誠二が司会進行をしなければいけないのか、その意味すらも分からない。 だが、どんなに理由を考えたところで、結局の所「そーゆーものなんだ」の一言で 済まされてしまうので、ここでアレコレ思案するだけ、時間の無駄であろう。 そうこうしている間にも、誠二の前説が続く。 「本日の解説はPTA会長の加藤 御作さん。 実況は校長先生です。本日は宜しくお願いします」 「え?あ…」 唖然としている校長・PTA会長の前に、即席の実況席が設けられる。 暫くうろたえた後、校長はマイクを握った。 「何が何やら分かりませんが、ひらけ!(略)TYPE-R 実況は、私、校長。 解説は、PTA会長の加藤さんです。本日は、宜しくお願いします」 「よ、宜しくお願いします」 何か良く分からないが、校長・PTA会長サイドは、知らないうちに丸め込まれている。 つまりは、そーゆー学校なのだ。 「続いて、選手入場です。 青コーナー 行くぜ我らがビューティーファイター。 文化祭恒例の美人コンテストでもお馴染み、城之崎 涼子選手!!」 いつの間にか設置されていた白煙筒から白い煙が上がる。 それと共に、身軽な服装(上着を取っただけ)になった涼子が現れる。 いつの間にか、やる気十分になっているようだ。 「ちょ、ちょっと。城之崎…」 何とか理性を保っている高柳教諭が、涼子に近寄る。 だが… 「おーっと、城之崎選手の卍固めが炸裂。ちょっと羨ましいぞ、高柳先生ッ!!」 3カウントの後、高柳教諭は倒れ込んだ。 試合前のデモンストレーションは、どうやら成功したようである。 「続いて、赤コーナー 女帝の名がよく似合う、同人系聖戦士。 城之崎選手最大のライバルとして有名、諸町 冴子選手!!」 「も、もろま…」 高柳教諭は必死に立ち上がろうと試みた物の、結局、冴子のパフォーマンス 「逆エビ固め」の餌食に終わってしまった。 高柳教諭の教師生命も、もう少しで途絶えるかもしれない。 「そして、今回の目玉!!隠れた実力者として、この五ッ川高校を牛耳ってきた 元生徒会長、沢口 武選手!!」 武はペコリとお辞儀をしながら、入場してきた。 「さ、さ…」 武は、何か言いたそうに倒れている高柳教諭の前に来ると、そのまましゃがみこんだ。 「お疲れさまです。先生…」 「あ、ああ。ありがとう…」 …ガクッ。 高柳教諭は、武の一言で安心しきったかのように、深い眠りに就いた (教諭はその後、甥っ子に担がれ、保健室へと向かったらしい)。 「さぁ、こうして3人の戦士が出揃った所で、各選手の様子などを覗いてみたいと 思います。中継の桜井先輩?」 「はい、こちらメインステージ前です。今、3人の選手が揃いました。 それでは、各選手の意気込みを聞いてみたいと思います まずは沢口選手」 千鶴は武にマイクを向けた。 「沢口選手といえば方言のエキスパートとして有名ですが、今の意気込みを表すとした ら、何弁が似合うと思いますか?」 「えぇ?Σ( ̄ロ ̄||| ほ、方言ですか? …う〜ん、鳥取弁かなぁ」 「ありがとうございました」 「って、今の分かったんかい!!」 「分かりましたよ。ねぇ?」 千鶴はそういって、目線を観客(主に1,2年生)に向ける。 「おー!!」 観客の皆さんは、素直に叫ぶ。 兎にも角にも、こーゆー、ノリだけは無駄に良い学校なのだ。 「駄目だ。こいつら、みんな脳味噌筋肉になってる…」 武は溜息を吐いた。 「続いて、諸町 冴子選手に聞いてみましょう。こんにちは」 「こんにちは」 「諸町選手は、進路も比較的早めに決まったそうで、冬コミでもつつがなく新刊を出品する ことが出来たみたいですね」 「そ、そうですね。一応…」 「それで、クリスマスは彼氏と一緒に過ごせたんでしょうか?」 「…(;-;)」 「…え?」 「…今年もフリーですた。ウワアアン。・゚・(ノД`)・゚・。」 「そうですか。ありがとうございました。 続いて、城之崎選手」 「はい」 「好きな人に、何か一言!」 「え?」 涼子は瞬間的に固まった。 「え、え〜と。 神田君!私の勇姿をしかと見届けて下さい!!」 「ハイ。愛しの神田君のためにも、頑張って下さいネ☆」 「頑張ります」 涼子は力強く答えた。 残念ながら、隆介は席を外していたみたいだが… (一部の情報によると、透に「トイレに行って来る」と伝えて出ていったらしい) 「というわけで、ページも少ないので、とっとと始めましょう。 今宵限りのスペシャル・プログラム。 皆さんもご一緒に、ガン○ムファイト!」 「レディー ゴー!!」 よーするに、そーゆー(略) それはどうでもいいとして、試合は開始された。 だが、3人共、何故か止まったままである。 「いきなり、3人とも動きを止めてしまいましたが、どうなんでしょうか、加藤さん」 「これはきっと、彼らなりの作戦でしょう。 じっと睨み合い、隙あらば攻撃する。そういう体勢だと考えられます」 しっかり職務を全うしている校長・PTA会長の勝手な憶測を余所に、3人は色々と 思案を巡らせていた。 (冴子は何だかんだ言って、結構強いからな〜。まずは弱い方を倒しておくかな) (涼子って、結構強いのよね〜。弱い方から倒しちゃお) (気のせいか、2人の殺意が僕に向かって来ている気がするな。 第一、 この試合自体、あんまり乗り気じゃなかったし、だからといって、今更棄権する わけにもいかないし。弱ったな…) 武はポリポリと頭を掻いた。 彼に隙が生まれた瞬間であった。 「…あ、あれ?」 ふと気が付くと、涼子も冴子も、武に向かって全力攻撃を… 「早くも一名が脱落しました。流石は最強生徒決定戦。油断も隙もありませんね」 「隙を見せたら死んでしまいます。そういう世界なんです」 武は救護班の手によって、保健室へと連れて行かれた。 とりあえず、武の手によって、試合は本格的にスタートした。 そういう意味では、この大会に少しは貢献したということで、武も本望であろう。 「それにしても、動き出したら、両者とも非常に良く動きますね〜」 「そうですね。両者とも、本気で戦っているみたいですし」 武を瞬殺した後、涼子は8インチFDD(こんな物、知ってる奴がいるのか?)を、 冴子はエアガンを手に取った。 冴子の持つエアガンからは、間髪入れずにBB弾が発射される。 カートリッジの取り替えも早い。流石に、慣れた手つきだ。 対する涼子は… 「おや、8インチFDDを投げましたね」 「あと10年もすれば貴重な資料になるのに、勿体ないですねぇ」 そんなことを言われようが、武器は武器だ。 それ以上でも、それ以下でもない。 涼子はそう言いたげに、適当にピックアップした機材を、次々と冴子に投げつける。 ハッキリ言って、美しさの欠片もない。 「おっと」 ファミコンと同じ配色の、任天堂製テープレコーダーをギリギリの所で避けつつ、 冴子はなおもBB弾を打ち続ける。 「いたたたた」 仕方が無いので、涼子は大昔の98ノートで、無理矢理防御をする。 そんな中、やがて2人とも、重大な局面を迎えることとなった。 弾 切 れ である。 結局、最後は肉弾戦へと発展する運命らしい。 直接格闘するのは、新入生オリエンテーション以来になるわけだが、2人とも その時以上の力を発揮している。 ただ力が強くなっているのではなく、戦闘自体のテンポも早くなり、油断や隙すらも見せつけない、傍目から観る限り「パーフェクト」な戦い方に進化している。 「流石ね。冴子…」 「それはこっちの台詞よ。涼子…」 2人の戦いは、もはや激化するばかりであった。 もはや止めることなど、不可能であろう。 「それにしても、俺達、いつも以上に目立ってないよな」 「ホントねー」 「まぁ、何だかんだ言って、城之崎は影の主役だから」 体育館の隅の方で、じっくりと観戦をしていた真樹、透、隆介は、そんなことを呟いた。 「それにしても、ここから観ている限りだと、2人とも互角だねぇ」 隆介はじっと、涼子の事を見守る。 その雰囲気を察した透は、隆介の肩を引き寄せて、一言。 「お前さ、一言『涼子―、頑張れー』って言ってみ?」 「応援?」 「応援」 「涼子―、頑張れー」 隆介は、思い切って叫んでみた。 「え?神田君?」 涼子は思わず、隆介の方を振り向いた。 同時に、冴子の一撃を喰らった。 「ぐっ!」 その場に倒れ込む涼子。 「どうやら、私の勝ちのようね」 冴子はそう呟いて、クールにその場を立ち去ろうとした。だが、 「…いや、まだ…よ」 涼子はふらつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。 「愛する人が見ていてくれるんだもの。まだ、負けられない」 「涼子…」 「で、どうするんだ。この調子じゃ、当分、バトルは終わりそうにないが…」 「それを今、考えているところだ。もうページも無いし」 隆介と透は悩んでいた。そんな時だった。 「やぁみんな。困ってるみたいだねぇ」 突如、金井が現れた。 「困ってるみたいじゃなくて、困ってるんだよ」 「だけど、そんな困ったニャーゴも、この装置を使えば一発さ!」 金井が指差す先には、雑巾とバケツが置かれている。 その上、バケツの中には水も張られている。 「…どういう事だ?」 「この装置には、あとは高坂の力も必要なんだが…」 「私?」 「そう。まず、高坂にバケツを持ってもらい、この雑巾の上に突貫。 綺麗にワックス掛けをしてある場所を乾拭き雑巾で拭くと、滑るだろ? それを利用し、そのままの勢いで2人の居る辺りまでGO! 直線上に段ボール箱を積んで置いたから、それに引っ掛かって、バケツの水を 2人にバッシャーン。神聖な戦いを邪魔すること、これ即ち…」 「悪いこと?」 「この体育館、何気に老朽化が進んじゃって、実は相当危ないんだよね…」 「…」 壁に出来たヒビを撫でている金井に、嫌でも冷たい視線が集まる。 「そんな危なっかしいことを、真樹にさせるつもりなのか!? 万が一、お前の言っている通りの事が起きたら…」 「良いよ。私は別に…」 真樹はそう言って、バケツを持った。 準備万端のようだ。 「それじゃ、レッツ突貫!!」 「はいな!!」 真樹は見事に床に置かれた乾拭き雑巾を踏みつけると、あれよあれよという間に 滑っていってしまった。 金井の読みは、完全に的中した。 2003年3月1日 県立五ッ川高校体育館 崩壊 奇跡的にも、一部を除き、全員無事に救助された。 体育館だった物(現・瓦礫)を背に、透、真樹、涼子、隆介は、校門へと歩き出した。 手にそれぞれ、卒業証書を入れた筒を持って。 「城之崎、お疲れサン」 「いやぁ、それにしても、壮絶だったわねー。 まさか、天井が崩れるなんて思わなかったし」 「結局、真樹が一番美味しいところを持っていったかな」 「えへへ。それ程でもー」 「よっしゃ。今から、飯食いに行こうぜー」 「飯飯―」 「そうだ、城之崎。今度、映画見に行かないか?」 「え、神田君と?いいの?」 「あー、いいなー、映画」 「彼氏の前で、露骨に羨ましがるな。そのうち、好きな映画見せに行ってやるから」 「ホント?やったー」 おまけ編 某県立病院へと向かう、救急車の車内にて。 武山「ほら。瓦礫に頭ぶつけたんだから、安静にしてないと」 冴子「…」 武山「え、何?聞こえないって…」 冴子「き、城之崎…涼子、つ…次こそは…勝…つ」 武山「もう、終わりだってば」 何か間違えている気がするが 終了 |
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□ ■□後書き□■□ 終わりました。終わったついでに、本当のことを白状します。 前回の巻末コメントで「次が最終回」と書いていたんですが、本当はこれを書く予定など 無かった。つまり本来であれば、前回が最終回であり、前回の内容こそ最終回用に用意していたネタだったんです。 まぁ、これも受験の影響ではあるんですが、冬休み中はずっと受験勉強をしているつもりだったのでまさか前号が発行された直後に大学に受かるなんて。 仕方がないので、思いつくままに文章を打ち込むこと1ヶ月。 16ページの予定が大幅に狂い、最終的には24ページ(挿し絵含む)。 もうね、馬鹿かと。アホかと。 キチンと校正、修正を掛けてくれること望みつつ、データを置き去り。 直ってますか?誤字とか脱字とか、ありませんか? そんなわけで、とりあえずUNHAPPY GIRLは、これでお終い。 ていうか、身内ネタ多数、音ゲーネタ多数、訳分からない、誤字多い、たまに素でキャラを間違える等、ヤケクソで書いていた超極悪仕様な小説だった割に、苦情が0件。 すげぇ<凄くない。 皆さんが寛容だった為か、はたまた呆れ返って苦情を書いて御意見箱に投書する気にもなれなかったのかは分かりませんが、みんな、NOと言える日本人になりましょうね。 約束だよ☆ あーあ、もう少ししたら卒業だよ。 早いね、時が経つのって。 つい最近入学した覚えがあるのになぁ(苦笑) というわけで、気が付いたらメディ部の居着いて、気が付いたら長居をしてしまいまして。 俺だけだよ。入部当初から卒業まで原稿書いてた奴って。 そりゃ編集長にもさせられますわな。エターナルにもなりますわな。もういいよ。 そんなわけで皆さん、3年間ありがとうございました。 ―――2003.1.9 自宅にて くりこま 悠 勝手にスペシャルサンクス(敬称略) .HaL 時雨 嘘ぴょーん 成田次元 諸町聡美 あと、読者の皆さん。みんな、本当にありがとう。 くりこま悠的web page “Radical Jet Tour” http://freett.com/kurikoma |
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