電気製品のお話

 その3 テープレコーダー


 今もよく再放送をやっていますが、サンダーバードという人形劇は今から30年以上も前に作られたにもかかわらず、かなり正確に未来(つまり今現在)を予見してました。ロケット、ジェット機、壁掛けテレビ、コンピューター、建築物、そしてペネロープの乗っている6輪のロールスロイスなんかきわめつけ。ずっと後になったけど実車を作った人もいたなあ。
 でも、予測もできなかったこともあったようで、サンダーバード5号の通信器なんかその一例です。(今コマーシャルに出てくる、宇宙ステーションのあれです。よく見てください。)通信記録を残すのが、オープンリールのテープレコーダー。今だったら、MOとかDVDを使ってるはず。


 あ、オープンリールそのものがわからない人もいるんだっけ。
 カセットデッキがでる前にあった、カセットの中身だけ取り出して10倍ぐらいに拡大したような物で、音楽を聴くときは片側に空のリール、もう片側に録音したテープが巻き付けられたリールをセットし、いちいち録音、再生ヘッドにテープを通してからやっと音楽が聴けるという物です。
 もちろんオープンリールさえなかった時代もあったわけで、うちにテープレコーダーがきたのが、昭和40年頃。トランジスタが発明されソリッドステートなどという言葉を耳にし出した頃です。
 ソリッドステートというのは真空管に変わって、ソリッド(石・・かな)であるトランジスタを使った回路のことで、この普及がなかったら家庭にオーディオなんぞくることはなかったはずです。だって真空管でテープレコーダー作ったらどれだけの大きさになることか。この頃、トランジスタは1個の真空管にかわる物でしたが、その後集積回路(LSI)が発明され今や1個の100円ぐらいのチップがトランジスタ何百個、何千個分のやくめをはたすようになりました。(この過程はNHKの電子立国日本を見ればよく理解できます。再放送、またやってくれないかなあ)


 さて、今オープンリールデッキなんて見ることはありません。カセットテープがでたのが中学1年の頃だったから、昭和45年頃。それでもカセットはテープが薄く、幅が半分しかないため音が悪く、通の人はずっとオープンリールを使ってました。(今は総合メーカーになってしまったけど、当時TEAC、AKAIのオープンリールといえば超一流でした。)
 当時、生録音といって野外の自然音を録音するのがはやってたけど、これをかついでいくのはつらかったなあ。なにせ重さは10kg以上、小型の石油ストーブぐらいの大きさだもの。しかしクロームテープやメタルテープが出現し、さらにヘッドの精度や材質が進化し(カセットの一番の悩みはクロストーク、つまりテープの幅が狭いために右側の音声信号が左側にもれてしまうことだったけど、ヘッドの精密加工が進歩して解決された。)、駆動方式にダイレクトドライブモーター(それまではモーターの回転をベルトで大きなフライホイールに伝え回転ムラをおさえていたが、これはモーターのシャフトそのものをサーボが制御し、回転ムラを修正する方式)やクローズドループデュアルキャプスタン(ふつうカセットテープは片方から引っ張られていて、テープ自体に抵抗があると回転ムラがでる。この方式は2本の駆動軸があり、片方がテープを送り出し片方が引っ張っていくため、ヘッドを通るテープにはテンションがかからない。カセットではたしかナカミチのカーコンポに使われたのが最初だったかな。)などという高級そうなメカニズムが使われるようになって同等の性能が実現されると、 あっと言う間にオープンリールは消え去りました。その後カセットハーフ(カセットテープ自体のこと)そのものが進歩しクローズドなんて必要なくなったみたいだけど。
 この時期にオープンリールテープをカセットにしたエルカセット(VHSテープよりちょっと小さかったかな。)などというものもでましたが2年ほどで消え去りましたねー。そして、いまやカセットテープが消え去ろうとしてる。DATすら残らないみたい。MDやDVDも数年の命かも。なんて贅沢な進歩なんだろう。


当時僕らは、s/n比(シグナル/ノイズ比、音楽信号に対し雑音がどれくらいでるか)がどうの、ワウフラッター(回転ムラ、ふらつき、当時は0.1パーセント以下だと高級機だったと思う)がどうのと、大騒ぎしてましたが、今じゃそんな数字誰も気にしないですむようになりました。ワウフラッターなんぞプレーヤー自体が修正してしまい、数値が小さすぎて計測不能だし、CD等のデジタルメディアには雑音は存在しないものね。うーん、幸せなようなつまらないような。オーディオの数字で一晩ぐらい語り明かしたあの頃、決して今より不幸だったとは思えません。目の前で進歩を見てきたこと、これはこれで幸せだったかもしれないけど。


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