必見の映画「パラダイス・ナウ」

 この映画は、結局福岡では上映されなかった。テーマが少々エキセントリックだったせいか、パレスチナの映画ではお客を呼べないと考えたか、おそらくそのどちらもが該当したのだろう。DVDが販売されたのでようやく見ることができた。
 映画は、自爆テロに選ばれた二人の青年の動揺を描く。このようなテーマが、映画に登場したのはおそらく初めてはないだろうか。ためらいつつ実行に向かう青年の一人には、父親が密告者だったというつらい過去がある。テロを命じる者たちの偽善も描かれる。
 自爆テロは、よく日本の神風特攻隊との類似性を云々される。特攻隊は狂気じみた行為だったが戦争の最中の一つの作戦である。自爆テロは無辜の民衆が対象となる点決定的に異なる。ヴェトナム戦争では、戦争に抗議する僧侶の焼身自殺が数多く見られたが、これはテロではない。自爆テロの背景に、宗教と民族性の違いがある。
 この映画を作ったハニ・アブ・アサドはパレスチナ人である。ロケもパレスチナ内(一部イスラエル)で行われた。完全にパレスチナ側の映画だが、一方に偏したという印象はない。自爆テロは絶対に許されてはならないが、そこに追い込まれた若者たちの心情に共感するものがある。
 これに比べれば、イラクの宗派間のテロなど同情に値しない。扇動者の罪深さを、おののきながら見守る。しかし、一方的に非難しきれないのは、西欧側指導者たちにも責任の一端があるからである。
 今年(2008年)、イスラエルは建国60周年を迎えた。5月15日、中東歴訪中のブッシュ大統領の、イスラエル議会での演説内容をロイターが伝えている。
「この地は神に選ばれた民族(chosen people)の約束の地である」「イスラエルの敵ハマス、ヒズボラ、アルカイダは、神と悪魔の戦い同様敗北するだろう」「イランの核開発を許すことは次の世代に対する裏切りである。それはヒトラーにたいする宥和政策に等しい」
 この無神経な言葉の数々が、世界一の権力者の口から発せられることに驚く。これでは中東和平が成立するはずがない。パレスチナの人々が絶望するはずである。第二第三の「パラダイス・ナウ」が登場しても決しておかしくない。

2008.5.17.記


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