必見の映画 ホテル・ルワンダ

 ルワンダでは、1994年、民族抗争に短を発した大量虐殺が発生した。昨年、NHKで報道されたドキュメンタリー・シリーズ「歴史を変えた戦場」でも取り上げられている。この事件の最中、ホテルの支配人だった一市民が、知恵の限りを尽くし、多数の人をかくまい、救い出した実話の映画化で、非情に感動的である。
 映画評は、専門家に任せるとして、人のたくらみについて考えて見たい。
 人のたくらみは、上品な言葉で言えば、戦略ということになる。西欧諸国が植民地で行った「たくらみ」によって、どれだけ深い傷跡を残してきたことか…。日本も朝鮮半島の人々から、未だに恨まれつづけているが、それでも幸いにして、西欧諸国ほどのたくらみを持たなかった。
 例えば、インドで、イギリスは宗教対立を煽動した。イギリスにしてみれば、民族を統一した独立運動は、なんとしてでも押さえ込みたかった。その煽動の結果が、インド、パキスタンの分離独立であり、独立後の血を血で洗う抗争である。
 ルワンダで、ベルギーはツチ族、フツ族を峻別し、ツチ族を植民地支配の手先として利用した。別けられた当人たちも、なぜツチ、フツの区分があるのか分からないままだった(その過程はNHKのドキュメンタリーにも出てくる)。しかし、権力の犬に対する被支配者の怨念は増幅し、ちょっとした煽動で暴発してしまう。それを利用して、権力や利益を得ようとする輩も生まれる。
 国益を守るため、国家は戦略をたてて行動を起こす。その戦略は、常に狭い視野、限られた期間に限定されている。所詮は、人間の考えることである。戦略に大義が伴なうことも、たまにはある。が、多くの場合、後からつけた屁理屈の場合が多い。理性的、論理的という戦略の多くが、常に近視眼的である。
 現在、イスラム教諸国の取る過激な行動には、首肯できないことが多い。ムハンマドのカリカチュア問題にしても、指導者が沈静化を図るのではなく、政治的な目的で煽動している(ように見受けられる)。だが、それ以前に、これまでの先進諸国の取ってきた戦略と行動に、彼らが深く傷ついてきたことを認めない限り、問題は解決の方向に向かわない。
 人のたくらみの、いかに浅はかなことか…、を反省させられる映画だった。

2006.03..05.記

必見の映画 麦の穂をゆらす風

 アイルランドの悲劇を描いた映画は多いが、これはそのなかでも特筆すべきものである。
 考えさせられるのは、アジア人の目からは殆ど同一に見えるイギリスとアイルランドが、ケルトとアングロ・サクソン(民族対立)、カトリックとプロテスタント(宗教対立)の違いで相争い、片や支配者として抑圧搾取の限りを尽くし、片や血みどろな報復で抵抗している、その相克・怨念の深さである。それはいまも、北アイルランドで続いている。 
 この映画の監督ケン・ローチがイギリス人であることは意義深い。反英国的と非難されたであろうことは推測するまでもない。彼は、兄弟の運命をギリシャ悲劇のように、人間には逆らえないものとして描き出す。同時に「逆らえないか」とも質問を投げかける。「許し」はないか問いかけている。
 民族・宗教対立は、西欧と中東だけではない。人が、何か絶対的なものを持ち出したとき、寛容は排斥される。

2006.11.26.記

もとに戻ります。