テロは文明の衝突 あるいは
被抑圧者から抑圧者への最終的反撃

 9月11日の夜(米国では朝)、アメリカの産業と国防のシンボルとも言うべき建物が、テロの攻撃を受けました。死者は一万人に達するかもしれません。許されることではありません。しかし…、
 冷戦が終って、これからは国家ないし主義の争いから文明の争いとなる、と喝破したサミュエル・ハンチントンの慧眼に、いまさらながら敬服しています。
 テロは、抑圧された側に、なんら訴えかける方法がないとき発生します。抑圧側に、その意識があるかないかは関係ありません。欲望と同じく、憤懣は二乗的に増大します。
 アメリカ産業界の代理人であるブッシュ大統領のとった政策が、この結果を招いたとも言えます。
 強面の外交が、北朝鮮をロシアと中国に接近させました。ロシアと中国も、その仲のよりをもどしつつあります。環境問題では世界の孤児となる道を選び、人種差別撤廃会議(9月7日南アフリカで閉幕)では、イスラエルと共に途中退席しました。
 あまりにもイスラエルよりの姿勢は、全ての回教徒を敵に回し、狂信者を怒らせてしまいました。
 ハイジャックは予測出来ても、その飛行機を操縦して目標めがけて突っ込むとまでは考えない…誰もがカミカゼとの類似を思い起こしたことでしょう。あの時代の、日本人の狂気は、思い起こすだに身震いしたくなります。回教徒にとって、アメリカとの戦いは聖戦であり、戦死者は英雄です。精神に刷り込まれる教育・宗教の恐ろしさを、いまさらながら思い知らされています。幼年期の我々は神国日本の教えを、疑うこともなく刷り込まれたのでした。
 テロの首謀者は、巷でささやかれているオサマ・ビン・ラディン氏かも知れません。そうでないかも知れません。アメリカは報復すると表明し、実際にやるでしょう。しかし、全回教徒国を敵には出来ません。
 テロ被害の大きさから見て、当面テロ側を支援する国はないでしょう。しかし、アラブ諸国が面従腹背の態度を取るであろうことを忘れてはなりません。
 アメリカはヴェトナムで敗れました。見えない敵と戦うのは非常に困難です。しかし、まだしも、このときは一つの国家でした。今回は文明そのものを敵に回そうとしています。国家間の争いではありません。最も苦手とする戦い方になりましょう。
 アメリカはヴェトナム問題をフランスから引き継ぎました。イスラエルの問題は、第二次世界大戦中のイギリスの空手形が起因しています。そして、今度はソヴィエト・ロシアが手を焼いたアフガニスタンと争うことになりそうです。
 アメリカは、よその国が起こした問題を引き受け、底の知れない泥沼に足を突っ込んでしまったようです。
 歴史の最大の皮肉は、ブッシュさんの背景にある軍需産業が世界に武器を売りまくった結果、めぐりめぐって我が身に災厄を招いたことです。
 多分、アメリカはどこかの回教徒国を攻撃するでしょう。多分、アメリカの言い分のみで決定的な証拠はないでしょう。そのとき、ほかの自由主義国はどう反応するのでしょうか?日本はどう対処すればいいのでしょうか?
 クリントンさんは、浮気者で脳天気な大統領でしたが、ブッシュさんより利巧だったようです。
 そして、願わくは、イスラエルの強硬派の人たちが、この際とばかりパレスチナ人居住区を攻撃しないで欲しい…もしそのようなことになったら、世界戦争が起きます。そしてそれは、テロ・グループの望む宗教戦争の色彩を帯びることになります。
 人間の本質は、所詮阿修羅なのでしょうか。
 それでもなお、希望してやまないことがあります。被抑圧者の方々が、マハトマ・ガンディーの取った「非暴力の闘い」の道を歩んで欲しい、と心から願っています。困難ではあっても、最も有効な道なのですから。

2001.9.13記

イスラエルよ、もっと自重を!

 アフガニスタンでの不幸な戦さが終ろうとしている折もおり、イスラエルとパレスチナの抗争が激化しています。パレスチナの過激グループ・ハマスのテロがきっかけだったのかもしれません。イスラエル強硬派の挑発が原因かもしれません。
 二千年以上遡るのであればともかく、ときを第二次世界大戦以後に絞れば、イスラエルは、この地では侵入者です。国を失ったユダヤ民族が、二度の世界大戦中にイギリスが約束した二枚舌を信じ、イスラエルを建国したことが、現在の紛争の原因なのですから。
 イスラエルは建国に成功し、数度の中東戦争に勝利して、既成事実を作り上げました。
 しかし、侵入者である事実は消せません。だとすれば、イスラエルはもっと謙虚であるべきであり、パレスチナを国家として認めない限り、紛争は終りません。
 そして、イスラエルが強硬であり続ければ、ことはその周辺にとどまらず、回教徒とユダヤ・キリスト教国の争いにまで発展することでしょう。不幸にも、千年近く時代を遡って、争いを繰り返すことに…。

2001.12.9記

もとにもどります。