するってえと、赤字国債は国民を担保に入れてるんですかい?

ご主人「ところで、熊さん、なんだか世の中騒がしいようだなあ」
熊さん「なんでも、介護保険料の徴収をのばそうとか、わっしら貧乏人にはありがてえことを言う御仁
    が出てきましてね。その方の声が大きいんで、とても「静か」にしてられねえんでさあ」
ご主人「そんなことか?つまらねえことを、ごたごたやってんだなあ」
熊さん「するってえと、旦那は、このありがてえ話が気にいらねえんですかい」
ご主人「だってお前、店料の入らねえ家主が、店子にご祝儀を配るようなもんじゃねえか」
熊さん「…(だって、お金はいらねえってお上が言ってるからいいじゃねえか)」
ご主人「なんか言ったかい、熊さん」
熊さん「いえなにも。その御仁によると、子供が親の面倒みるのは美徳だそうで」
ご主人「えらいさんが美徳とか美風とか言いはじめたら怪しいぞ。そんなときは、きっと裏がある」
熊さん「…(疑い深いじいさんだな)それより、企業献金がどうのこうのって言ってますぜ」
ご主人「いやだなあ。下心のない金なんてないって言うじゃねえか。きたねえ金を集めようって根性が
    いやしいやね。志ってものがねえやな」
熊さん「それじゃ、わしらも今月から店料はおさめなくっていいんで?」
ご主人「ばか」
熊さん「なんとか、抜け道はねえもんかなあ」
ご主人「政治献金にはあっても、店料にはない」
…そこで、二人はお茶をごくり。
ご主人「大蔵が財投資金にしていた郵貯や年金を、来年から郵政省や厚生省が自主運用するってえ話は
    どうなった?」
熊さん「そんな難しいことをわっしにきかれても…」
ご主人「いまにみてみな、へ理屈つけてな、これからも特殊法人に金が行くような仕組みを作るから」
熊さん「特殊法人てなんです?」
ご主人「民間にやらせると、役人の数が増やせねえって仕組みさ」
熊さん「だって、難しい仕事なんでしょう?」
ご主人「やらせねえで、難しいかどうか分かるかい」
熊さん「そうだ、旦那は釘ひとつ打てねえ」
ご主人「郵便だって、あの広いアメリカより高いんだぜ。それでも、赤字って言うからおかしいじゃね
    えか」
熊さん「でも、こないだ、簡保の宿に泊まったら安うござんしたよ」
ご主人「集めた預金や税金で作って、民間の旅篭いじめをして、それで赤字だって言ってんだ。安いっ
    て喜んでりゃ世話ねえや」
熊さん「厚生の宿もありますぜ。こんど行ってみましょうや。たまには店子孝行をしても…」
ご主人「ばか」
…ふたたび、二人はお茶をごくり。
熊さん「お国の財政が赤字って騒いでますね。女房がうちと同じかってきいてましたぜ」
ご主人「お前んとこは、お前の飲み代が多いからさ。一緒にしちゃいけねえ」
熊さん「お国が破産するんですかい」
ご主人「しねえ」
熊さん「どうして」
ご主人「店料もろくろくはらわねえお前が、なぜ住んでいけるかって考えてみな。お前の息子がしっか
    りしてるから、働き始めたらちゃんと払うだろうって算料さ」
熊さん「…(ボロ家貸して、よく言うよ)」
ご主人「なんか言ったかい、熊さん」
熊さん「いえ、なにも」
ご主人「お前たちが、景気が悪いからなんとかしろって言うし、お国は、俺たちをカタ(担保)に入れ
    てな、金を作ってばらまいてるのさ」
熊さん「じゃ、俺たちは蛸みたいに手前の足を食ってんですかい」
ご主人「えらい。たまには、いいこと言うじゃねえか。蛸以下なのは、子供の足まで食ってるとこさ」
熊さん「景気が悪いから、金をばらまけって言ってたら、だんだん重石が大きくなるって寸法で…」
ご主人「見直したよ、熊さん」
熊さん「どうすりゃいいんで?」
ご主人「規制緩和を進める。特殊法人に補助金を出さない。民間にまかせていく…てことかな。重石を
    軽くするには、お上の体重を減らすしか方法はないやな」
熊さん「それができますかい」
ご主人「やった人がいるよ。サッチャーさんて女丈夫さ。エゲレスの人だよ。この人はな、お役所の仕
    事を政策的配慮を要するものと、そうでないものに分けたんだ」
熊さん「ちょっと、おいらには分かりにくい…」
ご主人「まあ、お上でなけりゃ出来ねえこととそうでないものと思えばいい。二つに分けたら、お上で
    なきゃならねえってのが二割五分しかなかったそうだ」
熊さん「じゃ、その分、お役人の数が多いってことに…」
ご主人「そうだよ。金が足らなくなると国債を発行するだろう、借金して給料を払ってるのさ」
熊さん「やっぱり蛸だ。日本人では出来ませんかね?」
ご主人「やれねえことはねえけど、お役人に任せてちゃダメだ。考えてもみな、汗かかねえで集めた金
    だ、ありがたみが分かってねえ。特殊法人に天下りして、退職金をがっぽりもらっても、当た
    り前って顔してら。ここで政治家ががんばらねえといけないんだが、志がないよな。票を気に
    してなんにもできねえ」
熊さん「…(どこか、へっぱくばかり言ってる旦那に似てるな)」
ご主人「なんか言ったかい、熊さん」
熊さん「いえね、この家には、菓子ってものはねえのかな」
ご主人「かし屋はあっても、菓子はねえよ」
熊さん「…」







いいえ、日本の現状はこんなものではありません。私は信じています。
                                  1999.11.18 記

もとにもどります。