闇の彼方に

序章:二つの世界


 そこは光に満ちあふれていた。目に刺さるような威圧的な光ではなく、慈愛に満ちた光だった。でも、白…ただそれだけの世界。自分以外の存在は全く感じられない。それでも寂しいとは思わなかった。いつもと同じ。何も見えないだけそこは快適な場所だった。

 しばらくくつろいだ後、周りを見渡すと、遥か彼方に小さい「点」があることに気付いた。その「点」を見つけるや否や、イシスは走り出した。ひたすら走り続け、それが「点」ではなくなった頃、イシスは初めて自分が寂しかったのだと悟った。

 「点」だったものは、イシスが通り抜けられるくらいの穴だった。向こう側は真っ暗で、何も見えない。今いる世界とは正反対の世界。すこし躊躇ったが、イシスは穴の中へ足を踏み入れた。

 一歩足を踏み入れただけで、周囲は闇に包まれた。先までいた光の世界は跡形もなくなっていた。不思議と恐怖は感じなかった。むしろ心地よかった。暖かい。そう感じた。 対照的な2つの世界。イシスにとっては共に居心地の良い場所であったが、決定的な違いがあった。闇の世界には誰かがいる。何も見えるわけがないのに、イシスには姿形をはっきり感じることができた。黒髪が印象的な端正な顔をした男性だった。会ったことがないはずだが、何故か懐かしさを覚えた。イシスが話し掛けようとした瞬間、その男性はイシスに微笑みかけて消えてしまった。それと同時に光が闇の世界に侵入してきた。

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