願いの糸は我が手に

「ナンナ、どうしたの?」
 窓から外を眺めている物憂げな背中にリーフは声をかけた。
「…………」
「……ナンナ?」
 リーフが側に立ったことでようやくその存在に気が付いたナンナは申し訳なさそうに頭を下げる。謝罪の言葉を遮ったリーフは窓を覗き込んで顔をしかめた。
「結構降ってるね」
 空には重い雲が垂れ込め、激しい雨が地面を打っている。
「ええ……。今日は会えそうにありませんね」
「え?」
 ナンナの意図が飲み込めず、彼女の顔に視線を移す。空を見つめ続けるその悲しそうな表情でリーフはやっとナンナの気持ちを理解した。
「織姫と彦星か……」
「一年に一度しか会えないのに……」
 幼い頃から織女と牽牛に両親を重ねてきたナンナは今にも泣き出しそうである。
「前に聞いたことがあるんだけど……」
「……?」
 リーフが言おうとしていることが読めず、ナンナはきょとんとした顔でリーフを見つめた。
「トラキアの方では、七夕の日に雨が降ったら竜が織姫を迎えにくるんだって言われてるそうだよ」
「竜が……?」
「うん。だから雨が降って天の川が渡れなくっても大丈夫。絶対会えるから……二人は」
「リーフ様……」
 最後の言葉が自分の両親のことを指しているのに気付き、ナンナの胸は温かいものでいっぱいになった。リーフは、ナンナの表情に照れくさそうに再び窓に目をやる。
「トラキアらしい言い伝えだよね。でも……僕も頑張るから」
「?」
「帝国を倒して平和を取り戻す。……それがフィンとラケシスの再会につながるはずだから」
「私も……頑張ります!」
 ナンナとにっこりと顔を見合わすと、リーフは窓際を離れてドアに向かった。
「せっかくだから笹飾り作ろうよ。笹切ってくる。とりあえず……願いごとは『字が上手くなりますように』かな」
 部屋を出たリーフをしばらく呆然と見送っていたが、ナンナは思い切り吹き出した。
「リーフ様ったら……。でも……私も『お裁縫が上達しますように』にしようかな……」

 ナンナがそれまでずっと短冊に書いてきた願いごとは二度と飾られることはなかった。

Fin

後書き
またもや捏造ものです……。もう完全に開き直っておりますので(すみません)、このままレンスターはあやしい国一直線でいくと思います。よろしければこれからもお付き合い下さいませ。

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