前編のことなどすっかり忘れてしまってるでしょうから(^^;)
京から帰ってきて数ヶ月。頼久とラブラブな日々を送るあかね達の前に友雅と泰明が現れた。何やら波乱の予感…?
これだけで終わる前編の立場って一体…。

 固まってしまい微動だにしない頼久にあかねは苦笑しながら石化解除の呪文を唱えた。
「頼久さんが驚いてどうするのよ…。まあとにかく、『頼久さーん、助けて〜♪』」
棒読みではあったが、頼久には効果てきめんである。
「はっ、神子殿!大丈夫ですか!…あ…」
 ようやく状況が飲み込めた頼久は慌てて無礼を詫びた。
「ご挨拶もせず申し訳ありません。お二人とも息災のようで何よりです」
「姿は見違えるようなのに…頭は相変わらず固いのだね。でもなかなか面白い衣装だ。頼久、よく似合っているよ。私も是非着てみたい…そう思わないかい?泰明殿」
友雅は頼久よりも頼久が着ている服の方に興味を持ったようだ。泰明に話を振る。泰明はずっと車の回りできょろきょろしていたが、頼久を一瞥して呟いた。
「私はこれで問題ない」
「実際に体験してみればいろいろわかることもあるだろう?」
「それもそうだな。神子、私にもあの衣装着せてくれ。それにあの乗り物にも乗ってみたい」
 すでに友雅は泰明の操縦方法を身につけたようで巧みに泰明の好奇心をくすぐっている。泰明は瞳を輝かせてあかねの方を向いた。あかね達三人は顔を見合わせて苦笑するしかなかった。彼等も相変わらずだということが無性に嬉しかった。
「いつまでもここにいる訳にはまいりません。とにかく私の部屋に行きましょう」
 冷静さを取り戻した頼久が和んでいるあかねを促した。
「そうだね。友雅さんも泰明さんも乗って乗って。あ、天真君は助手席ね」
「な…なんで俺が!?お前は後ろかよ?」
「だって二人とも大きいんだもん。天真君まで後ろ乗ると狭いけどいい?」
「うっ…」
「だめだよ。よくわからないけど神子殿が私の横に座るとおっしゃってるんだ。こんな機会を逃す手はない」
 そう言って天真の返答を待たず、友雅はあかねの手を引いて車の後部座席に乗り込んだ。泰明はとうの昔に座っている。
「天真、お前も早く乗れ。動くところが見たい」
「………。おい、頼久。それでいいのか?」
「助手席は危険だと習ったからな。この車にはえあばっぐもついてない」
 最近の頼久の言動から確実にやきもちを焼くと思っていたのに、やはりあかねの安全が最優先らしい。天真は呆れながらも諦め切れず、
「友雅の隣の方が危険じゃねーか」
「友雅殿は嫌がることはなさらない」
「………。ほんっとに知らねえからな。でもさ、お前デート中もあかねを後ろに乗せるつもりか?」
「当然だろう」
 一も二もなく答えた頼久に天真は毒気を抜かれたようによろよろと助手席に座った。

「狭いところで申し訳ありません」
「何だか息の詰まりそうな所だねえ」
 頼久の部屋に案内された友雅は興味深げに中を見渡して言った。京の屋敷とはくらべようもないが、2LDKで一人暮らしには広めの間取りである。とはいっても狭い上に気密性が高いマンションである。通気性抜群の世界の人間である友雅でなくても息苦しくなりそうだ。頼久もこの住まいには未だに馴染めない。しかし、泰明の方はすでに部屋の中の物に心を奪われて気にならないようだ。特に電化製品が気になるらしい。照明のスイッチを何度も押しては感心している。
「これは何だ?あれは?どうして火もないのに光ってるんだ?」
 あかねは矢継ぎ早に質問を浴びせかけられ、天真に助けを求めるが、頼みの天真は助手席での苦行にすっかり憔悴していてそれどころではない。後部座席の三人はさほどダメージを受けてないようだが、それはひたすら喋っていて前を見ていなかったかららしい。それはさておき、頼久もこればかりはあかねを救うこともできず、途方にくれている。
「これこれ。あまり神子殿を困らせてはいけないよ。しばらくここにいるんだから、慌てなくてもいいだろう?」
「それもそうだな」
 友雅の助け舟でようやく泰明はあかねを離した。すかさずあかねは頼久の背後に隠れる。さらに天真を盾にしようと頼久を天真の後ろへ引っ張っていった。
「…お前なあ」

 ピンポ〜ン♪

 友雅は聞いたことのない音に戸惑い、泰明は素早く音の源インターホンにかぶりついている。
「あ、蘭だ。鍵開いてるから入って〜」
未だにあかねと蘭はどこかで繋がっているようだ。兄妹以上の繋がりを見せつけられて天真の機嫌はますます悪くなる。
「こんばんは〜。あかね、大変なことになったみたいだね。私も鈴の音聞こえたから気になってたの」
「…僕もいるのに…冷たいなあ、あかねちゃん」
 ドアを開けた蘭の後ろからひょっこり顔を出した詩紋はかなり拗ねている。あかねはしまったという表情を浮かべたが、すぐに詩紋の機嫌取りに回る。
「そんなことないよ…詩紋君♪待ってたんだから〜。頼りにしてるんだよ」
「本当?それならいいんだけど…」
呆気無く詩紋は落ちた。顔をうっすら赤らめている。頼久と天真は苦笑して顔を見合わすばかりである。あかねも二人の方を見てにやりと笑った。
「ところで…詩紋君。泰明さんがいろいろ教えてほしいんだって。土の属性同士で札めくりの時はいつも一緒だったもんね。任せたわよ」
「ま…任せるって…あかねちゃ〜ん」
 あかねは用はすんだとばかりに詩紋の側を離れた。その代わりに泰明がべったりと張り付き、詩紋をあちらこちらに連れ回し、質問攻めにする。
「…頼久…本当にあんなのでいいんか…?」
その様子を見ていた天真は小声で頼久に話しかけた。頼久は平然として答える。
「もちろん」
それからあかねばりの笑顔で付け加えた言葉に天真は絶句するしかなかった。
「…そういうお前も逆らえんのだろう?」
「うっ…」
「頼久さんったら…あんまりお兄ちゃんを虐めないで下さいよ。そうそう、言われてた物買って来たんだけど、どうします?」
「すまないな。そのてーぶるに広げようか。いくらかかった?」
「私とお兄ちゃんの分はお兄ちゃんから貰いますから…」
 妹の助けに一瞬飛び上がりそうになったが、すぐにほったらかしにされ、ますますいじける天真であった。その天真の肩をポンと叩く者がいた。友雅である。蘭の方を見てしみじみと呟いた。
「天真もなかなか大変だな。それにしてもランは素敵な姫君になったねえ」
「友雅!蘭には手を出すなよ!」
「はいはい。君を兄とは呼びたくないしね」
「だーっっ!」
「天真君…怒ってるの?」
「何でもない」
 後ろから声をかけられて不機嫌そうに振り返った天真はあかねのうるうる攻撃を受けた。天真の最も苦手な攻撃である上に、少しでもあかねを泣かせることになると頼久がただでは置かない。さらに今は友雅と泰明がいる。彼らにとってあかねは今でも『龍神の神子』なのだ。
「…ちょっと疲れただけだから、心配すんな」
「だったらいいんだけど…もうすぐご飯だからね♪」
「お…おう」
 頼久と蘭のいる方に向かうあかねの後ろ姿を目で追いながら、天真は深い溜め息を吐いた。
(俺もいいかげん諦めろよな…)

 あかね達を家に送ったついでにあかねの家から布団を借りた頼久は、身も心も重く自分の家に戻った。友雅と泰明の見張り役として残っていた天真もげっそりとやつれて帰っていった。
「お二方とももうお休みになられますか?」
「いや…今宵は満月だ。月を愛でながら一献といきたいところだね」
「酒か…私には興味ないからてれびを見る」
 泰明はそう言うと一番のお気に入りのTVの前に陣取り、リモコンのボタンを押してはいちいち反応している。友雅は呆れたように肩を竦めた。
「泰明殿…余り近付いては目を悪くするそうですので身の丈ほどはお下がり下さい」
「それは怨霊の力なのか?ならば調伏するが」
「…そういう訳ではなさそうですが…」
「まあいい。忠告には従う」
泰明は暗い部屋では見るなとかTVのお決まりの注意事を頼久から聞かされ、真剣に聞き入っている。そして測ったようにきっちり自分の身長分だけ離れて、瞳を輝かせて画面に魅入った。

「…この世界では満月の光も霞んで見えるんだね」
「このような夜更けでも光が溢れておりますから…」
 窓際で月を見ていた友雅に頼久はコップを渡し、日本酒を注いだ。
「不粋な物しかなく、申し訳ありません」
「こちらの物は何でも新鮮だからね。気にしなくていいよ」
友雅はシンプルなコップを月に翳して目を細めるとくいと飲み干した。
「この酒も趣が違っているね」
「私は澄酒を飲んだことがありませんでしたから…」
「あれはあれでいいものだよ…一度飲ませてあげればよかったか」
「お言葉だけでも有り難く…。ところで…お伺いしてもよろしいでしょうか?」
 友雅の酌を受けて、コップを空けてから頼久は真面目な表情で友雅を見つめた。友雅は苦笑して再び注がれた酒に視線を移した。
「…本当に真面目だね。それが君達のいいところだが…神子殿にも言われたよ」
「え?何とおっしゃっておられましたか?」
「『頼久さんを迎えに来たのなら私に遠慮しなくていいからね』と。神子殿はよい恋をしているようだ」
「と、友雅殿…」
頼久は真っ赤になってコップが手につかないほど狼狽している。友雅は愉快そうに笑った。
「ははは…。神子殿は本当に大人になられたと思うよ。…それはともかく、確かに君に用件はあるが、それを今言ったところでどうしようもないんだよ」
「?…とおっしゃいますと?」
「私としても頼久を困らせたくはないが…。向こうに帰れる日時は決まっているのでね。次の新月の日までしかここにいられないのだよ。あと二週間…ゆっくりさせてもらいたいな」
「……わかりました」
 頷いたまま俯いてしまった頼久を見て刹那辛そうな表情を浮かべた友雅であったが、
「そうしてくれると助かるよ。私達もせっかくこちらに来た以上楽しみたいからね。…ああ…すまない、空いているのに気がつかなかったよ。君の酒だが、どんどん飲もうじゃないか」
と一升瓶を軽々と片手で持ち上げ、頼久のコップになみなみと注いだ。頼久は迷いを振り切るように顔を上げ、一気に飲み干した。

まだ続いてしまいます(^^;)

…これは終わるんだろうか(汗)
次で何とか終わらねば…っていうか終わりたい(^^;)書きたかったことが遥か彼方に行っちゃったって感じです。
頼久さん主役はもう取り戻せないかも…(諦めるなって)。

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