あいのかたち


 好きと言えば微笑みを返してくれる。
 胸に飛び込んだら抱き締めてくれる。

 でも…

 好きだと言ってくれたことはない。
 抱き寄せてくれることもない。

 本当は…

 私のこと迷惑なんじゃないの?
 誰でもいいの?

 お願い…

 一度でいいから
 あなたの気持ちを聞かせて欲しいの

 やっとのことで告白して、一応OKもらったはずなのに…。な〜んにも変わらない。朝の挨拶して、それから彼はご主人様の用事に忙しくって昼食はバラバラ。午後から私は剣の稽古で彼は槍。彼は熱心だからそのまま夕方ってこともざら。そしたら夕食食べてバタンキュー…。こんな感じで毎日が過ぎていく。
 奥様が気を遣って時々お茶に呼んでくれる。でも、彼ったら給仕の方が楽しいらしい。お茶を入れるのに真剣で私に構ってもくれない。たまにお菓子も作るくらい気合いを入れている。それが悔しいくらい美味しいのよ。
 そりゃあ私だって考えてるわよ。剣は免許皆伝になったし、槍も習うことにしたの。そしたら彼に教えてもらえるから少しでも側にいられるじゃない?…それなのに!今のクラスからだとマスターナイトになるしかないっていうのよ。そんなのあり?確かに全ての武器や魔法使えるようになるのは嬉しいわ。かっこいいしね。だけど…弓はともかく斧もって…。ううん。そういうことじゃなくて、彼に会う時間が今まで以上に減っちゃうってことなの。こんなはずじゃなかったのに…。

 今日もエスリン様がお茶に呼んでくれた。そしていつものように彼は喜々としてお給仕してる。本日のお茶請けは彼お手製のスコーン。その前に弓の稽古をしてたから(ブリギッドって本当に厳しいのよ)、お腹はぺこぺこ。味も申し分ない。彼は相手をしてくれないし、エスリン様はキュアン様とラブラブだし、ひたすら食べるしかない。
「キュアン…。お腹も膨れたことだし、少し散歩でもしない?」
「俺はまだ…痛っ!…そうだな腹ごなしにでも行くか」
 キュアン様は少し怯えた表情を浮かべながらエスリン様に引っ張られていった。
「それじゃあ、フィン。後はよろしくね」
エスリン様は彼にそういうと私にウインクをして部屋を出られた。それってもしかして…。確かに二人っきりになりたかったけど、こんなに急じゃあ何を話したらいいのかわからないわ。心の準備が…。
「ラケシス様、お茶のお代わりはいかがですか?」
…生真面目にエスリン様の言い付けを守ってる。確かに好きなところの一つでもあるんだけど、ちょっとあんまりじゃないの?
「ありがとう。頂くわ」
言葉にとげを刺してみる。きっと顔は酷いことになってるだろう。それでも彼は平然とお茶を入れ始める。何だかイライラしてきたわ。
「ねえ、フィンってば!」
「はい。何でしょう?」
「…こうやって二人きりになれたの…本当に久しぶりなのよ…何か言うことないの…?」
「とおっしゃいますと?」
「…もういい!フィンの馬鹿!」
頭は真っ白だった。フィンがどんな顔をしてるのかもよく覚えてない。とりあえず、思いっきり走った。今の私を彼に見られたくない…。

 走って走って、気が付いてみると城の裏手の森の中だった。かなり奥まで来てしまったみたい。目の前に湖が見える。確か森の中心にあるって誰かが言ってた…そしてこの森って迷いやすいんだって…。どうしよう…一人で来たことないのに…。もちろん思い浮かべるのはただ一人。私が飛び出したことを知ってるし。でも…部屋でふて寝してるって思ってたらどうしよう。いいえ…私のこと呆れてたら…もうお終いだわ…。
 とりあえず自力で帰ろうと何度も城の方向へ向かって歩くんだけど、どうしても湖に突き当たってしまう。日も暮れかかってきたし、だんだん不安になってきた。まあ、スコーンたくさん食べておいてよかったわ。これでひもじかったら悲惨すぎるもの。でもこれからどうしようかしら…。
「きれい…」
水面に映る夕日がとっても綺麗。キラキラ光ってて…そういえば、最近夕日も夜空も楽しむ余裕なんてなかった。忙しかったのは確かだけど、勝手に忙しがってたような気がする。こうなったら開き直ってこの景色を楽しみましょう。きっと何とかなるわ。

 そのまま側の木の根元に座って、夕日が沈む様を楽しんだり、一番星を探したりしているうちにさっきまでのイライラも不安も消えていってしまった。今となったらどうしてあんなにイライラしたのかわからない。せっかく二人っきりになれたんだから素直に喜べばよかったのに。彼の入れたお茶を飲んで彼の作ったお菓子を食べて…それだけで十分じゃない。
 私がフィンを好きなの。
 想いを受け入れてくれたことが大事なの。
 何かしてもらいたい…そればっかり考えてた。
 私は何もしてないのに。
 フィンが何を望んでいるか…そんなこと考えたこともなかった。

 自分のことしか考えてなかったことに気付いて、どうしようもなく切なくなってきた。
「フィン…」
思わず、大切な名前を口にする。
「ラケシス様…」
「え?」
顔を上げるとそこに彼はいた。すっごく優しい、私の大好きな笑顔で。私は何も考えずに彼の胸に飛び込んだ。
「フィン…フィン…」
彼はいつもと同じようにそっと抱き締めてくれた。…違う…苦しいくらいに強く…。私はびっくりして彼の顔を見上げた。苦しそうな、ほっとしたような複雑な表情をしている。
「心配かけてごめんなさい…」
あっという間に視界がぼやける。彼はそっと微笑んで指で涙を拭いてくれた。
「お心細かったのですね」
再びぎゅっと抱き締められた。苦しい…でも夢みたい…。
「心細かったのは…私の方です。もしもあなたを見つけられなかったら…そう思うだけで胸が張り裂けそうで…」
思いもよらない告白に私はまた涙が出てきて止まらなくなった。私も彼の背に手を回し、ぎゅっと抱き締めた。

 城に戻った頃はすっかり夜も更けていたけど、エスリン様が上手く誤魔化して下さったみたい。おおごとにはなっていないようだわ。明日にでもエスリン様にお礼とお詫びに行かなくちゃ。…そういえば…森で会ってからずっと手をつないでる。流石にちょっとまずいわよね。
「フィン…」
「どうされました?」
「あの…手…」
彼はにっこり微笑みかけた。きっと私の顔は真っ赤だろう。ものすごく熱いもの。
「このままではいけませんか?」
私は黙ってかぶりを振る。彼は私の耳に顔を寄せた。
「お腹空きません?もう一度お茶しましょう…もう夜も遅いですからミルクの方がよろしいですね」
「ええ!」
 今度は私の部屋で二人っきりのお茶会(?)をした。熱いミルクと残り物のスコーン。今まで色んなお茶会やパーティーに出たけど、一番楽しかった。やっぱり彼はあんまり喋らないけど、話題に詰まれば彼をじっと見つめるの。そしたら彼ったら少し顔を赤らめて私に向かって微笑みかけてくれるから。ずっとこのまま時が止まってくれたらいいのに…。ああ、そうそう。帰り道でずっと考えてて答えが見つからなかったこと…本人に聞いてみるのが一番よね。
「ねえ、フィン…私にして欲しいことってある?私、本当に何にもできないけど…」
恥ずかしいから下を向いて一気に喋った。しばらく静寂が支配する。そうよね…彼は何でもこなすし、私は何もできない…。やっぱり私には無理なのね。そう思ったら何か悲しくなってきた。また泣いちゃいそう。
「ラケシス様…あなたにしかお願いできないことがあるのですが…」
「本当に!」
嬉しくなって顔を上げたら、すぐ近くに彼の顔があった。凄く真剣な顔してる。難しいことだったらどうしよう…。不安を感じながら彼の次の言葉を待った。そして頭の中が真っ白になった…。

 翌朝、私はキュアン様とエスリン様の前で笑うしかなかった。お二人も余りの急展開に呆れていらっしゃるようだわ。彼はというと相変わらずの真面目振り。まあそれが彼らしいっていうか…。変わらないでいてくれるってもしかしたら嬉しいことかもしれないって、ちょっと思った。
 
 でも本当に嬉しかった。
 ちゃんと見てれば気付くはずだった。
 こんなに深く愛されてること。
 
 愛し方なんて人それぞれ。
 彼は彼なりに。
 私は私なりに。

 ちゃんと受け取りたいし、ちゃんと渡したい。
 それだけでいい。
 それで十分。

Fin



後書きというより言い訳…にもなってないか。
カウンター4321を踏んで下さったゆいな様から「らぶらぶなフィンラケ」をリクエストしていただきました。
す…すいませんm(_ _)mコメディーになってしまいました。やっぱり無理です〜。ラケが壊れてます(^^;)口悪いです。
フィンがあんまり壊れてないのは何故でしょう?え…破壊力十分だって(笑)それにしてもラブラブって難しい…。

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