ウォレスとグルミット 危機一髪!

 ワンダバである。なんと言っても、この映画はワンダバに尽きる。
 ワンダバというのはいわゆるロボットアニメなどの発進シーンのこと。なんでも、ウルトラシリーズか何かで、戦闘機の発進シーンに「ワンダバダバダバ」というスキャットが流れていたのが語源だとか。(真偽のほどはしらない)。ともかく、この映画の魅力は、ウォレスとグルミットがサイドカーに乗り込む「ワンダバ」シーンにその魅力が集中している、と断言してしまおう。

 レバーを引くと、するすると上へ上っていくウォレスの椅子。滑り台を滑りながら、自動的に服を着替えさせる装置。倉庫の中のターンテーブルで一回転するサイドカー。ワンダバに登場するガジェットは、同じ英国製のサンダバードや何かで見たような懐かしさがある一方で、英国流の上品なユーモアの味付けもさりげなく潜んでいる。そして、懐かしさやユーモアより何より、大切なことはこのワンダバが格好いいということである。ワンダバはヒーローが最もヒーローらしく描かれるシーン。だから、ワンダバが格好いいということは、すなわちウォレスとグルミットがヒーローらしくて格好いい、ということなのだ。

 ヒーローにはやらなくてはいけないことがいくつかある。悪漢を倒すことはもちろんだが、それに至る前に罠にはまること、ピンチに切り札を持っていること、そして、美女と出会い別れること。ウォレスとグルミットはこのヒーローに課せられた役割をきっちりと果たしている。そして、これだけの要素が31分間にぎゅうぎゅうに濃縮されているのだから、つまらないわけはないのである。手に汗をにぎり、ドキドキ、ワクワクしている間にこれが短編映画であることも忘れてしまう興奮が味わえるのだった。

 何が正義で何が悪かがわかりにくくなっている今の時代、ヒーロー像をヒーロー然と描くのは難しいこ、とだ。いくら実写映画からの影響が多くあるとはいえ、ウォレスとグルミットの活躍を実写で再現したとすれば、それは醜悪な道化にしかならないだろう。だからこそ、クレイアニメというリアルとフィクションの狭間にある表現方法ならではの手法で、正々堂々と正義のヒーローが描かれたことに感謝しよう。そして、あのワンダバとともの2人の冒険に再び立ち会えることを期待したい。


動画的迷宮 RN/HP