クシー君の発明


 夜空を飾る煙草座や電車のスパークから生まれた青猫、そして流れ星の加速度で走る市電に流れ星整備工場……。鴨沢祐仁は、天文学や化学の単語を利用しながら、独自のメルヘン世界を描く作家だ。いつも夜が舞台となるその世界は、ひんやりとしながら妙に手に馴染む、懐かしのブリキのオモチャの感触にも似た雰囲気がある。 

 今回、新装版として再刊された本書は、'75年のデビュー作から'88年までに発表された短編を収録。鴨沢はあとがきで'70年代の作品について「当時のぼくのマンガの原料はわずかな貧しい資料と、幼年期の思い出だった」と振り返り、天文台で木星を見たことやラジオや懐中電灯をおもちゃに遊んだ思い出を紹介している。その思い出に登場するさまざまな小道具への愛着と郷愁が、懐古趣味ではなくメルヘンに昇華しているところがこの作品の魅力だ。

 その意味で、鴨沢は、科学と芸術を同じ目線で捉えた宮沢賢治や、飛行機への幻想を終生失わなかった稲垣足穂という孤高の作家の、数少ないフォロワーともいえるのではないだろうか。


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