直球で行こう!

■2005VD企画のサウンドノベルコーナーに投稿した物を一本の創作として書き直したものです。
また、虚無のギャグコネタと内容かぶってるのでご了承ください。


自分があまり「女の子らしい」部類でないことは、私だって知っている。
それでも、ここはひとつ世間のお祭り騒ぎに乗せられて、チョコレートのひとつでも作ってみようという気になったのは、そうでもしなければ意中の人に気持ちを伝えるのは難しいと思ったからだ。
その司る力そのままに。
自由で奔放で、真っ直ぐな彼 ―― ユーイ様は。
思わせぶりな言葉や態度でこっちの気持ちを察してくれるなんてきっとありえない。
そりゃあ、それで気付いてくれれば嬉しいな、などと思わなくもないけれど、どう想像しても、ありえない(どきっぱり)。
そんなのを期待してもたもたしていたら、きっと気持ちを伝える前に、エトワールとしての期限の一年間が過ぎてしまうに違いないから。

そんなわけで、私は慣れぬ台所仕事をしている。
はっきり言えば、料理はあんまり得意じゃない。
というより、大の苦手だ。
もともと大雑把な性格で、細かい作業をしようと思っても途中で嫌になって放りだしたくなるような人間なのだ。もしも今作っているのがけっこう適当にやっても誤魔化しの効く家庭料理 ―― 肉じゃがとか、味噌汁とか男性が夢を持っているけれど実は簡単な料理 ―― だったらできなくもないけれど。
チョコレートというのは実はけっこう難しかったりする。
テンパリングとかいって、微妙な温度調節をしながら、手早く仕上げなければいけないだなんて。
溶かして固めるだけって思っていた私が甘かった。
ええ、チョコレートよりも甘うございました、ってな感じ。

自分の甘さを恨みつつ。
何度も失敗して、でもようやく当日ギリギリに間に合ってできたチョコレート。
少し見栄えは悪いかもしれないけれど、心、というか努力と根性に近い想いは沢山込もってる、と、思う。たぶん。

さあ、今日は決戦の十四日。
午前中のうちに、サクリア拝受のドサ廻りを済まし、私は覚悟を決めて、意気揚揚と聖獣の聖地の正殿へと向った。

◇◆◇◆◇

たどり着いた正殿の中庭。
時間的に今は昼休み。
そこには予想通り、ユーイ様がいた。彼はいつものようにティムカ様とメル様とで食後のお茶と会話を楽しんでいる。
私は流石にその中に割って入って一人にチョコを渡す勇気がないので思わず物陰に身を潜める。
なんだか、出歯亀っぽい?まあ、いいか。
開き直ったところにお三方の会話が聞こえて来た。
せっかくだからと耳を澄ませてみる。
ユーイ様が何かを質問している様子。

「なあ、VDってなんだ?」

え?え?もちろんヴァレンタインデーですけど、もしかしてご存知ナイ?
私は慌ててしまったけれど、よくよく考えればそれも当然なのかもしれない、と思い直す。
神鳥の宇宙の主に主星圏の文化なわけだから、彼が知らなくっても当然と言えば当然なわけで。
でも、大丈夫。
きっとティムカ様かメル様が丁寧に意味を教えてくださる。
そう思った私の耳に聞こえてきたお二方の言葉。

「私も知らないんです。最近良く目にしますよね。なんでしょう?」
「僕もだよ。何だろうって思ってたんだ」

って、オイ。
私はハリセン以って突っ込みを入れそうになったわけだけど、ぐぐっと物陰で耐える。
所詮主星とはかけ離れた文化圏出身の二人。ヴァレンタイン・デーなどユーイ様同様知らないわけか、と自分なりに納得した。
その時、しばらく考えている様子だったティムカ様が明るい表情をして一言。

「わかりました!きっと『DV』の間違いですよ」

DV、それは。
―― ドメスティック・ヴァイオレンス。和訳で家庭内暴力。
全然ちがいますてば!
再びハリセンで突っ込みそうになったけれど、やはりここは耐える。
耐えるのよ、エンジュ。
こんなことで切れちゃいけない。大人にならなきゃ ……。

それにしても、ティムカ様って歳のわりに異様に大人びて見えるけれど、時おり素でボケるわよね。
やはり、そこは庶民とは違う元王様たる所以。
どうでもいいけど、誰かツッコミしてあげてください、と。
物陰で祈っていると何処からともなくセイラン様が現れた。
どこから現れたのだろうか、と。少し不思議に思う。
仲間に入りたくて、ずっと聞き耳立ててたんだったら笑えるけれど。
まさかね。

「ずいぶん無粋なものと間違えているようだね」

なんて。
セイラン様は皮肉な口調でありながらも、皆様にきちんとヴァレンタインデーたるものを教えてくれている。
チョコレートをもらったら、それが愛の告白であることと告げられた時の、やたらめったら驚いている三人の反応が気にならなくはなかったけれど、今はとにかくセイラン様のその背後に後光が見えた気がした。
さて、セイラン様が去った後。

三人とも、妙にそわそわして、ヘンな様子なことに私は気付いた。
なーんか嫌な予感がするんですけど。
そんな時、ユーイ様がひどく複雑な表情をして口火を切った。

「どうしよう」
「何が、ですか?」
ティムカ様に突っ込まれてユーイ様、ためらいがちに。

「レイチェル様から、チョコを貰ってしまった」

残りのお二人も、ひどく複雑な顔をして。
「…… 僕もだ」
「…… 私もです」

えーと。
誰か。
義理チョコってのを、彼らに教えてあげてやってください。

◇◆◇◆◇

気まずい沈黙の流れるお茶の席をひしひしと感じながら、私は物陰でふたたび祈る。
お願いですから、誰か正しい知識を ―― いや、いっそのことここから飛び出して自分で教えようか?
でも、そうしたら、今までの会話をこっそり聞いてたことがばれてしまう。
などと。葛藤を繰り返し、えーい、自分で教えちゃえ。
そう決心して物陰から飛び出そうとしかけたその時。
チャーリー様が現れた。
思わず私は再び物陰に隠れる。
チャーリー様は皆が手にしたチョコをみやって一言。

「おー、もらっとる、もらっとる。どや、義理だけでのうて、本命もちゃんともろたか?」

三人組がきょとんとしてるのが、こっちにも伝わってきた。

グッジョブ!チャーリー様!(親指立てて)
そのまま一気に説明になだれ込んでください!

期待通り、メル様が聞いている。
「ギリとか、ホンメイとかって、何?」
チャーリー様は任せておけとばかりに、ギリとホンメイの説明を彼らに的確にしてくれた。
ああ、今度はチャーリー様に後光が差して見える。
チャーリー様が去った後、ユーイ様は憮然として。

「まったく、チョコで愛の告白だなんてするからややこしいんだ」

そ、そんなこと言わずに。
手にした箱を握り締めて私はちょっと焦る。
メル様とティムカ様も深く頷いている様子だ。
けれども、メル様は思い直したようにこう言ってくれた。

「でもさ、実際口にするのって恥ずかしいじゃない?愛の告白の手段としては、いいとおもうな、僕」

その言葉に救われて、私は元気になる。
でもユーイ様は。

「そうか?オレならそんなまどろっこしいことせずに、はっきり、すっぱり言うぞ!」
ティムカ様、にこりとわらって。
「どんな台詞で言いますか?」
とか聞いてる。
メル様も興味があるみたい。
私も!私も、凄く興味があります!

「『オレのヨメになれ!』だな」

なんだか、自分が言われたみたいに、頭に血が上ってしまった私。
ああ、クラクラくてしまった。
すごくいいかも。それ。
でも、ちょっと、いえ、かなり、すごく唐突な気も、しなくもない。
いえ、ぶっちゃけ第一段階の愛の告白にしてはぶっとび過ぎてると思う。ハイ。
メル様も納得行かないらしくて。

「えー、それはいきなりすぎるよ。ねえ、ティムカ?」
当然同意してもらえると思って話題をふったと思うのだけれど、ティムカ様、しばらくの間の後。

「そう、ですか?普通ですよ?」

普通じゃありませんって!ティムカ様!
(筆者註:ティムカは十三だったSP2で、『僕のお嫁さんになってください!』とカマした恐るべき過去を持つ)

メル様落ち込んでますけど、気にしないでください。
そのメンツが特殊なだけです。きっと。
それが普通だと思わずに、メル様頑張って見識広めてくださいね。
そのままのお友達付き合いだと、非常に偏った知識だけ増えていくような気がしないでもないので、くれぐれもお気をつけて。

◇◆◇◆◇

そうこうするうちにお昼休みが終わって、お三方はそれぞれの執務に戻っていく。
私は気を取り直してユーイ様の後を追いかけた。
そして小走りに駆けながら、どんな台詞で渡せばいいんだろうかと悩んでいた。
さっきまでのやり取りで、彼はもう今日渡されるチョコレートの意味を知ってる。
だから、私が今手にしている小箱を渡せばきっと意味を汲み取ってくれる。
でも、こうも言ってたわけで。
「そんなまどろっこしい」って。
何ていえばいいのかますます悩む私の脳裏に、さっきの彼の言葉が浮かぶ。

『オレのヨメになれ!』

そ、そんなこといわれたら、私、嬉しすぎてどうにかなってしまう。
想像で頭に血が上ってきた私は足を止めてひとつ深呼吸をする。
冷静にならなければ。だって、今日は私から言わなければいけないのだから。
そして、とあるフレーズが私の脳裏に浮かぶ。

『ヨメにしてください!』

「ままままま、まさか、そんなこと言えない!」
思わずアホなフレーズを想像をして、知らずに私は声にだして叫んでいたらしく。

「なにが、言えないんだ?」

はたと我に帰り、声のする方を振り向いて愕然とする。
「ユーイ様!」
慌てて、手にしていた小箱を隠したわけだけど、どうやらしっかり見られた様子。
「なあ、今隠した包みだけど、もしかして ―― 」

お願い、気付かないで。
そんな願い空しく、彼はまっすぐ私をみやって言う。

「もしかして、チョコレートか?」

あああ、ユーイ様、単刀直入すぎます。
いえ、そんなあなたが大好物、じゃなかった、大好きなんですけれど。
私は観念して頷いた。
そしてそのまましばらくは緊張して真っ直ぐに彼の顔を見れず俯いていたけれど、決心して面をあげた。
けれど、彼はなんだかとても苦い顔をしている。
不安が過ぎった。彼は、これを受け取ることを望んでいない?

「そのチョコレート、誰にやるんだ?」

不安で逃げ出したくなるのをぐっとこらえて、私は包みを彼に向けて差し出した。
結局、何て言って渡して良いかわからずじまいのため、黙ったままで。

「オレになのか?」

目を見開いて、彼は言う。
私は、コクコクと頷くしかできない。
自分の性格のことを。
即決断、即実行。多少の苦難は何のその、そんなふうに思っていたのに。
ことが恋愛となると、こんなに内気だったのかと情けなくなってくる。
そんな私をよそに彼は何かを考えているようだった。

「今日がVDってやつだと知ってて、か?」

先ほど得た知識を一応確認しているらしい。
私はやはりコクコクと頷く。
彼はさらに考えている。

「義理ってやつか?」

やっぱり先ほど得た知識を確認しているらしい。
今度はふるふると、首を振った。
彼はなんとも表現しがたい複雑な表情をしている。
しばらくの沈黙。
もう、緊張と心臓の鼓動でどうにかなってしまいそうだった。
そして彼の一言が沈黙を破る。

「そういうまどろっこしいのはどうも苦手だ」

聞いた瞬間、さっきまでとは違った感覚で心臓がはねる。
それは、ひどく痛かった。
彼の心に中に、私のいる場所はなかったのだろうか。
みせてくれる笑顔が、彼から紡がれるその言葉が。
ときおり、自分と同じ気持ちでいてくれるかも、と。
そう思っていたのはすべて勘違いで。
彼から見ればただの友人?
涙が滲みそうになって、でもそれを見られたくなくて、私は踵を返そうとする。
なのに。

「ちょっと待て、話が終わってないぞ」

強く腕をつかまれて、引き寄せられた。
目の前にある、彼の真っ直ぐな琥珀の瞳。
そして、彼のくちびるが言葉を紡いだ。

「まどろっこしいのは苦手だ。だから、オレが言う。このチョコを、おまえが他の誰かにやるんじゃないかと思って、さっきは少し ―― 不安な気持ちになった」

そこで一旦言葉を切ってから何かを考えるように小声で、『ヨメになれ』はいきなりすぎると言ってたな、と呟いて。
そして。

「おまえが好きだ。だから、凄く、嬉しい」

私は、その言葉を幾度も幾度も心の中で繰り返して。
そのうち、気づかないうちに、嬉しさのあまり ―― 驚いたことに ―― 涙がぽろぽろ零れて。

「な、な、なんで泣いてるんだ?何かヘンなことオレ言ったか?ヨメになれの方がよかったか!?」

彼のほうも、なんだか混乱してるみたいだった。
その反応にこんどは私は泣き笑い。
涙と笑いで声が詰まって何もいえないから、思い切って。
そう、思い切って彼に抱きついた。
しばらくの間はわたわたと、手の置き場に困っていたみたいだけれども、ようやく置き場所を見つけたように私の背に手が回される。
そのぬくもりに、心臓が張り裂けそうになりながらも、やっと落ち着いた私はようやく言うことができる。

「―― だいすき」

『ヨメになれ』でも嬉しかったし、『ヨメにして』でもよかっただろうか。
そんなことを頭の隅で考えつつ。
私は、背に回された手に力が込められるのを、幸せな気持ちで感じていた。


―― オシマイ



◇◆◇◆◇


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ヴァレンタイン創作はかかないと言った舌の根も乾かぬうちに、こんなものをUPしてしまいました。懺悔。
とある事情により、どうしてもユーイの恋愛創作を本棚に置きたかったものですから。
最強カップル。シリーズで書けたらいいなと思ってます。
そしておそらく被害者はティムカでしょう。ニヤリ。

2005.02.16 佳月拝