直球で行こう!〜友情編



その日、ユーイだってなんとなくは気付いていたのだ。
はっきりとした理由はわからなかったけれど、カンのいい彼のことだ、そこにぴりぴりとした空気のことをひしひしと感じてた。
そう。
なんか、今日は、ティムカの機嫌が滅茶苦茶悪い
その反面。
メルは何かいいことがあったのかどうか、ひどく機嫌が良くって。
本当なら、この三人の中で一番こまやかに人の感情を受け取って、時にフォローするメルが、ティムカの様子に気付かないまま、浮かれてる。

ちょっぴり嫌な予感を感じつつも、ユーイは恒例の三人でのお昼休みを過ごしていた。
いつもなら、時間が短く感じるほどに話題は尽きず、いろいろな会話を楽しむはずが、なんだか今日は話に花が咲かない。
どんな話題を振っても「そうですか」としか言わないティムカ ―― でも、顔は怒ってないところが彼らしくてかえって恐い ―― に、どんな話題を振っても「そうなんだ」と、幸せそうな表情で上の空のメル。
会話が続かず、ちょっとした沈黙が続いている。

なんというか、こういうのは苦手だ、と思いながらもふと思い出した話題を口にするユーイ。

「今日、ルヴァ様の誕生日だったろ。みんなで用意した贈り物、すごくよろこんでたぞ」

常より釣りを楽しむルヴァのために。
この三人は疑似餌(ルアー)をそれぞれ手作りして送ったのだ。
魚の彫刻はユーイがふたりに教え、細かな装飾はメルがふたりに教え。
ルアーに必要な鳥の羽根はティムカが大切に持っていたものから一部拝借。
協力し合ってそれぞれ作った三つの疑似餌。
そろって三人で渡しに行ければよかったんだけど、平日ということもあってじゃんけんで勝ったユーイが、朝一番にルヴァ様に渡してきたのだ。
流石にこの話題にはメルも嬉しそうに反応。

「そうだ、今日だったよね。ルヴァ様の誕生日。喜んでくれてよかったあ。今度一番誕生日が近いのは …… あ、ユーイだ!」
「ほんとうだ、オレだ。その次はもしかして、ティムカか?」
「うん、ティムカだよ」

ジュリアス様を忘れてるよおまえら、と突っ込みいれたいところだけど、とりあえず話を先に進めよう。

「この間は僕の誕生日もお祝いしてくれたから、ユーイとティムカの時もお祝いするね。何か欲しいものとかってない?」
「そうなだぁ ……」
楽しそうに考え出すユーイとは対照的に、相変わらず淡々としているティムカ。
メルはここに来て、やっと彼の様子がおかしいことに気がついた。
「…… ティムカ、どうしたの?調子でも悪いの?」
訊かれていいえ、と首を振るティムカ。
ただ、と続ける。

「誕生日を迎えるからといって、一歳年をとるわけではないのだな、とちょっと思っただけです」

それは、まあ、確かに。
守護聖になったからにはいかに聖地で暮らしていようと、一年で一歳体が年をとるわけじゃない。
長い時をゆっくりと生きる体質になってしまった彼等の苦痛を減らす意味で、女王陛下の慈悲によって聖地の時間はゆっくり流れてはいるが、それでも全部フォローはしきれない。
メルはそうだね、と呟いて、でもそれはそんなに気にならないな僕。とあっさり。
龍族は普通の人間と成長の速度や寿命が違うから、彼にとってはけっこう些細なことなのかもしれない。
ティムカ自身もまあ、守護聖拝命した時点でそれは割り切った事柄のことだったのだけれど、と前置きしてこう言った。

「せめて十七歳になってから拝命すればよかったと、おもわなくもないです」

ははーん。そういうことか。
なんとなく、読めてきました、ティムカが不機嫌な理由。
十七歳なら、あれだよね。コレット陛下と同い年。年下じゃ、ないもんね?
でもメルはそのことに気付かず言っちゃった。

「一歳くらい、大差無いよ。実際僕らの中で一番大人びてるわけだし」

本当はメル、自分より二歳年下でも非常に大人びているこの友人を、常々羨ましく思ってた。 だから、そんな些細なことを気にしている様子を見てちょっぴり頭にも来たのだ。 言葉に刺を含ませたつもりはなかったけれど、そういう感情はえてして伝わりやすいものだ。 ティムカもなんだか意地になって反論する。

「あなたはそれは、かまわないでしょう。ネネさんだって十六歳だし」

そうか〜、そうなんだ、ネネちゃんか〜。可愛いよね。あの子。
いきなり意中の人の名前を出されて慌てるメル。

「なっ!彼女は関係ないよ!なんだか、ティムカ変だ。そんなことにこだわるなんて」
「そんなことって。ええ、そうでしょうとも、メルにとってはそんなことでしょう」
「もっと本質をみようよ、僕なんか、いつだって実際の年より子ども扱いされてて。ずっと大人びたティムカが羨ましかった。 僕が十五の時だって、ともすれば十三歳の君の方が年上にみられてたじゃないか」
「今はそんなことはないでしょう?それに三年前の女王試験の時は意図的に私だって大人に見えるよう、振る舞ってた。あなたのように何も考えてなかったわけじゃない」
「何も考えてない…って…!そんな言い方、ないよ!」

冷静に見ると、どうみてもティムカのほうがおかしい。
普段冷静な彼らしくなく、感情論につっぱしってます。
メルも初めは理で説いてたんだけど、だんだん、ヒートアップ。
口論になっちゃった。

ティムカ、あれかなぁ。
彼がこんなに感情的になるなんて、コレットになんか、言われたのかなぁ。
『可愛い』とか、なんとか、自分が『年下』であることをもろに実感するようなことを言われちゃったんだよね、きっと。
彼女に悪気はなかったんだろうけど、それで機嫌が悪いんだ。彼。

まあ、そんなわけで。
ユーイがふたりをなだめるタイミングも見つけられぬまま、お昼休み、終わっちゃいました。

◇◆◇◆◇

「ティムカ様とメル様が喧嘩、ですか」
「そ、すんごいくだらない理由で」

あの喧嘩の日から三日が経過。
ふたりは仲直りする気配もなく、お昼もばらばら。
そんな事情を仕事の合間に執務室を訪ねてくれたエンジュに経過を説明して溜息をつくユーイ。
今回は珍しく、彼が害を被る役割のようです。
「あのお二人、そうか、以前からのお知りあいだったんですもんね」
「三年前らしいから、メルが十五で、ティムカが十三の時からの付き合いだな」
そういって、何故か渋い顔ををする。
今更だけど、ユーイもエンジュも、彼等の小さい時の姿、知らないんだよね。
エンジュ思わず。

「きゃ〜、十五歳のメル様や十三歳のティムカ様ってどんなんだったんだろう〜。 きっと可愛かったんだろうな。今度レイチェル様に訊いてみようかしら!」

ミーハーが顔出して、こんなこと言っちゃってます。
筆者より余計を承知で補足させて頂いていいなら。
食べちゃいたいくらい可愛いです。特に十三歳ティムカは。
ユーイが聞きとがめて、ちょっとだけ眉の根を寄せて。
「…… 興味、あるのか」
「あ、いえ、べつに。(げふげふ)」
わざとらしい咳払いをしてそっぽを向くエンジュ。ユーイはまあ、いいや、と話を本題に戻した。

「でだ、あのふたりを仲直りさせたいんだ」
「いい方法はないか、ってことですね?任せてください!なんかいい作戦立てましょう」
「作戦、ってそんなめんどうなことしないで、仲直りしろって説得に行かないか?」
「そんなことしたら、余計意地張ってこじれちゃいますよ。なんか、遠まわしに上手くいく方法を考えましょう」

エンジュの意見、もっともなような、そうでないような。微妙なかんじです。
でもエンジュ真剣に腕組んで考え中。
そしてなにかひらめいたのか、よし、と頷く。

「ここは、ユーイ様も喧嘩の中に混じるってどうですか」
「ええ?」
「仲直りするまで、くちきかない、とか、なんとか。お二人が困って、自然に協力するように仕向けるんです」
「大丈夫かな。オレ、仕向けるとか、そういうの多分苦手だそ」

まあ、そういう小技、裏技ができるタイプだとは思ってないが。
でもエンジュ、にっこりわらって。

「大丈夫、善は急げ、今度彼らに会う機会があったら早速実践しましょう!」

本当に大丈夫なのか?
そこはかとなく、不安です。
で。
そこへ丁度良く、獲物、じゃなかった。ティムカ登場。
執務の回覧の資料を回しに風の守護聖の執務室を訪ねたようです。
ちなみに、神鳥と違って、聖獣では回覧版は地の守護聖から順に夢、鋼、緑、炎、水、風 …… とまわります。
理由は推して知るべし。

エンジュがいるのをみて、すみません、と一礼するティムカ。
いつもならエンジュもここで私の用事は終わりましたから失礼します、と退室するところなんだけど。
ティムカに用事を優先するよう、お先にどうぞ、なんて言いつつ、一歩下がったところからさっきの作戦をちゃーんとユーイが実行するかどうか、何気に見張ってます。
エンジュに見張られてちゃ、ユーイもしかたない、溜息をついて、黙ってティムカから手渡された書類を受け取る。
なんだか様子が変だということに気付いてティムカも不審顔。

「ユーイ、どうしたんですか?」

いつもなら、ここで、ありがとう!という礼の後に、回覧の書類の内容に対する質問が怒涛の如く浴びせられてくるのだ。
もちろん、最近は彼も執務に慣れてきたこともあって質問事態は少なくなったけれど、挨拶の一言もないのはひどく不自然。
困惑気味なティムカに、ユーイ意を決して言いました。

「おまえ、メルと仲直りしたか?」
「…………。」

返事なし。
溜息ついて、ユーイ、作戦決行。

「おまえたちが仲直りしなければ、オレもおまえと口きかない」

なんつうか、小学生の喧嘩みたいな展開だな、おい。
ティムカもなんだかそれは感じたみたいで。

「私とメルとの諍い事は、ユーイには関係のない話でしょう。ましてや今は執務の話をしているんです。子供っぽいこと言ってないで必要であれば質問なりなんなりいつものようにしてください」

先日はティムカこそ妙に子供っぽくメルに突っかかったくせに、少し冷静になったのかもっともなことを言う。
けれども機嫌が悪いのは相変わらずなようで、いつもの笑顔や気配りのある言い回しが全くナイ。
その態度に流石のユーイもかちん、ときた。
「心配してるのにオレには関係ないってのは聞き捨てならない。それに子供っぽいって、このあいだわけわかんない理由でメルにつっかかってたオマエに言われたくないぞ!オマエこそなんだか子供っぽい!」

あちゃー。
言っちゃった。言っちゃったよ。エンジュもあちゃー、と言う感じで眉間抑えてます。
ティムカに向って、『子供っぽい』は禁句だよね。
ちなみに『大人びてる』も場合によっては禁句だったりするから意外と気難しいんですよ。この元王様は。
この間の喧嘩だって、大人ばかりの環境と責務の中で早く本当の己を捨てて、大人にならなければいけなかった彼の、でもそのままの自分をわかってもらえてる思ってたメルに、大人びてる、と言われてちょっと悲しかったんだよ。本当はね。
そんなティムカ、表情を変えずにそうですか、と一言。

「ユーイ、あなたはメルの味方なんですね」

あちゃー。
っていうか、表情を変えないティムカ、あなたが恐いです。
そこで憂い顔とかしてくれればまた違った印象なのに。
なんだか、張り詰めちゃってる部屋の空気。
ここはなんとかせにゃ、とエンジュが口を開きかけたその時。

「ユーイ、いる?」

もう一人の獲物、じゃなかった当事者、メルたんが登場。
なんつうか、修羅場ですか?これは?
男同士の喧嘩でも修羅場と言うなら、ですけど。
メル、扉を開いて先客に気付いた。エンジュに軽く挨拶して ―― ティムカはスルー。根に持ってるみたいです。
そりゃそうだよ。
十五の頃だって、ずっとずっと早く大人になりたくて、内気ながらも日々努力してた彼だ。そんな自分をわかってもらえてると思ってたティムカに、何も考えてない、って言われて悲しかったんだよ。本当はね。
結局はメルもティムカも、お互いを大切な友人だと思ってたからこそ、些細なことから生まれた齟齬が、ひどく大きな痛みになってしまって。喧嘩を引きずっちゃってるわけだ。

メル、ユーイに向って用件を言い始める。
「ごめん、仕事の話じゃないんだ。この間の君の誕生日のお祝い、何がいいかって聞きそびれてて」
で、ユーイ、ここで困った。
さっきの、エンジュとの作戦。
仲直りするまで、両方と口をきかないと言う作戦は、果たしてまだ有効なのか。
返事をできずもごもごしているユーイをよそに、ティムカが一言。
「執務中の話題ではないですよ。メル。ユーイも困ってます」
困ってるのは別の理由なんだけどね。
っていうか、ティムカ、小ジュリアス化現象。
まあ、傾向としては似てると以前から思ってはいたけれど。
ユーイ、勝手に自分の台詞を代弁されてかちんとこないわけでもなかったけれど、確かに今する話題としてはメルが持ってきた話は能天気すぎた。
「悪い、メル、その話今度でいいか?っていうか、さ、そもそもお昼休みを三人で過ごさないからその話も頓挫 ―― 」
ここで、メルが一言。

「ユーイ、あなたはティムカの味方なんだね」

それぞれに同じようなこと言われちゃって、これには流石のユーイもがっくし、しょんぼり状態。
でも、しょんぼり状態から、なんだかふつふつ怒りがたぎってきて、そしてぷっつんいっちゃいました。
ひらりと執務机を飛び越えて、そっぽを向いて目をあわせようとしない二人の胸座(むなぐら)つかんで引き寄せると、こう怒鳴った。

「いいかげんにしろ!オレはティムカもメルも大好きだ、大切な友人だ。おまえらがそんなふうに喧嘩してると、たまらなく悲しいぞ!」

我に返ったようなふたりの表情。
ちょっと気まずそうに、メルとティムカはお互いを見やってます。
ユーイの吐露はそれでも続いて。

「それに、正直に言う。今回の喧嘩で、ああ、おまえらって長い付き合いだったんだなって、そう思った。三年前のこととか、女王試験だとか、そんなこといわれてもオレにはわからない。だから、ふたりは喧嘩しているはずなのに、その喧嘩はおまえらの絆の上に成り立ってるみたいで、ひどく ―― 寂しかった」

それは、ユーイの本当に正直な気持ちだと思う。
さっきメルとティムカは三年前からの知り合いだとエンジュに説明しながら何故か浮かべた渋い表情。
その理由が、きっとこれだ。
そんな気持ちを、はっきりと口にして伝えちゃうあたり。まさしく直球。流石、ユーイです。

ふたりの胸座を掴んでいた手が、ゆるくなって。
俯いて、黙ってしまったユーイの肩に、そっとかけられた手。
右肩と、左肩。
右肩には、龍族特有の鋭い爪が特徴的な、手。
左肩には、浅黒い色が特徴的な、手。

「すみません、でした。ユーイ。それにメル」
「ごめんね、ユーイ。それに、ティムカ」

どちらともなく謝って、後は怒涛のフォロー合戦。
「でも、付き合いの長さとか、そういうのは関係ないんだよ、僕にとってもユーイは大切な友達だよ?だから誕生日だってお祝いしたいし、そうやって本音を言ってくれてすごく嬉しかった」
「そうです。あなたはいつだって、私たちに驚きと変化をくれる。それはもちろん、頑固で意地っ張りで真っ直ぐすぎて時に仰天させられることや困らされることや、果ては痴話喧嘩のとばっちり食らうことも多々ありますが、それでも、大切な友人だと、思っているんです」

微妙にティムカ、フォローになってない気持するけどまあ、いいか。
ユーイには真心が伝わったみたいで、彼は、そっか、と面を上げてふたりを見る。
「おまえたちは?お互いに、言いたいことはないのか?」
ふたりはお互いをみやって。

ティムカが言った。
「私は望む望まずに関わらず、大人ばかりの環境と責務の中で早く本当の己を捨てて、大人にならなければいけなかった。でもそんな私の年齢のままの ―― ありのままを知ってもらえる友人があなたです。だから、大人びてる、と言われて少し寂しくなって、意地を張りました。あなたが何も考えていないなどと、本気で思ったわけではないのです。申し訳、ありませんでした、メル」
メルが言った。
「僕はずっとずっと早く大人になりたかった。いつもたよりないってばかり思われて、それでも頑張って努力したんだよ。だから何も考えてない、って言われて悲しくて。ただ、あなたが本心で言っているわけじゃないってことだってわかってた。あのね、しっかりしてるあなたが羨ましかったのは本当だよ、でもそれはやっぱり、僕から見た、ありのままのティムカがそうなんであって、外側の器の話をしたわけじゃない。嫌な気持ちにさせたならごめんね」

そして、三人はにっこり笑って仲直り。
よかった、よかった。
それにしても。ユーイに似て、だんだんこの二名も言動が直球じみてきているのは気のせいか?
そこに思い出したようにティムカが言う。

「あの、二人にお願いがあるんです」
「何?」
「なんだ?」

ちょっと照れたような笑みを浮かべて。
「今度の日の曜日にでも、セレスティアへ三人で遊びに行きませんか。そこで一緒にユーイの誕生祝になりそうなものも探したり、相談したりできるかもしれませんし。でも本当のことを言ってしまえば、理由はそれだけではなくて。先日、神鳥のマルセル様ランディ様ゼフェル様が一緒に、おそらくはルヴァ様の誕生祝を探しながら楽しそうにしていらっしゃるのを見てひどく ―― 羨ましかったんです。同じ年頃の友人と、そうやって遊ぶ機会が私にはなかったから」

裏を返せば女と行く機会はあった、ということだが触れないでおこう。

「もちろん!」
メルが勢いよく言ってから、しまった、今度の日の曜日は…と呟いた。
どうやら、ネネちゃんとデートの約束でもしている模様。
すぐに気付いてティムカがフォローする。
「あ、もちろん来週でもかまいません」
「それなら大丈夫!予定を空けておくよ。ユーイは?」
訊かれてユーイも頷こうとして、ハタと思い当たる。来週の日の曜日は、確か。
そして、仲直りした三人を少し離れたところから嬉しそうに見守っていたエンジュのほうをちらりと見やれば。
気付いたエンジュはにっと笑ってウインクをする。
流石、エンジュちゃん、広い心をお持ちです。

◇◆◇◆◇

夕方、エンジュを送りながらユーイが言う。
「来週、ごめんな。今週末はオマエが任務で聖地を離れてるから逢えないのに」
「気にしないでください。そりゃ、ふたりっきりで過ごしたいのもやまやまだけど、おんなじくらいお三方が仲直りしたのが嬉しいんです。私」
快活に笑うエンジュにユーイはそか、と呟いて。でもなんだかちょっと元気がない。
エンジュもちょっとあれ?とはおもったけれど結局深く追求せずに、アウローラ号までついちゃいました。
船の入り口の前で足を止めたユーイに、エンジュはじゃ、と別れを告げようとしたその時。

「エンジュ、ほんとうはちょっと我侭も言って欲しかった。明日から任務の関係でずっとおまえに逢えない。だから、寂しいし、おまえにもちょっとは ―― 寂しいって思って欲しかった。オレの方こそ我侭だな」

そんなユーイの言葉に、きゅん、と心臓をわし掴みされてしまったエンジュ。
ふわっと彼に抱きついて、囁いた。

―― 私だって寂しいですよ?
―― ほんとうは、ずっと、ずっと。いつだって一緒にいたい。
―― でもやっぱりそれは無理だってわかっているし。
―― それにあなたが今こうして、寂しいって我侭言ってくれただけですごく嬉しい。

「そっか」

ユーイも嬉しそうな優しい微笑を浮かべて、エンジュの背中に腕を回す。
しばらくお互いの体温を楽しむように抱き合って。
そろそろ帰りますね、と、身を離しかけたエンジュをユーイは強く抱きしめて腕の中におし留める。

「ああ、ダメだ。離したくないし、帰したくなくなってしまう。今はまだ、我慢できる。でももしかしたら、そう遠くない将来我慢できなくなって、 おまえが ―― ぜんぶ欲しいって。言い出すかもしれない。どうか、その時もオレのこと、恐がったり嫌いになったりしないで欲しい。いつだったかの痣の跡も、そのとき見せてやる」

一気にそれだけいうと、ユーイは身をひるがえして、サラバだ、と夕日の中を走ってさってゆく。
残されたエンジュの頬が真っ赤なのは。
きっと、夕日のせいだけじゃない。

っていうか、いつだったかの痣の話は、やっぱりそういう意味だったのか。
友情も深まったかもしれないけれど。
このお騒がせカップルの、愛もちょっと深まりそうな予感がする、今回の一幕でございました。


―― オシマイ

◇◆◇◆◇


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◇ 「彩雲の本棚」へ ◇


そしてティムカはメテオールプレイスでもぐらたたきをするのだ。
「さあ、もぐらさん負けませんよ!」(エトワールの中での台詞)

っていうか、ティムカってもぐら好き?
トロワでも、なんか、「もぐらがこっちをみてますよ」とか聞くから
「みつめ返しましょう」っていうと「どうしましょう、目があったまま、そらせなくなってしまいました ……」とか言うんだよ!これが!可愛い!<アホ
ちなみに「ほっときましょう」というと
「もしかして、もぐら、お嫌いですか?どうしてでしょう。あんなに可愛いのに…。あっ、もぐら…ひっこんじゃいました……。」
かーわーいーーーー!もぐらよりあんたの方が千倍可愛いよ!

あとがきになってなくてゴメン。
(しかもユーイの話題じゃないし)
ええと、突発的に思いついて3時間ほどで仕上げました^^;;
序盤、ルヴァ様の誕生日に触れているのは今日が7月12日だったからです。
なんか、練れてないのがバレバレで、論点ずれまくってる話なんですけど、まあ、所詮コメディなんで、勢いで楽しんでもらえればとおもいます。(コラ)
いきなりメルネネの上に、ティムカが黒ティムですね、今回(笑)

2005.07.12 佳月拝