Let's go to see tree.





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僕が、王太子、あるいは国王としての責務・・・言葉がよくないのであるならば立場、を忘れ、年齢なりの自分に戻れた貴重な時間を一緒に過ごした、得難い、友、と呼ばせて貰ってさしつかえないなら、三人の友が、飾りつけたというクリスマスツリー。

それは、長いようで短いあの115日を過ごした、かの星にある。
あの時、遠く離れた故郷の星と民への心配と、まるで見えてこない自分たちの明日への不安におしつぶされそうになっていた僕の心を明るく灯してくれたあの人に、僕が惹かれたのは当然だったと言えよう。
でも、あの人もまた僕を思っていてくれた幸運を、僕は素直に神に感謝したいと思う。
だから今日は、その生誕を僕も祝おう。

というのは、多少こじつけもあろうが、僕とあの人は、なんとか時間に折り合いを付けて、件のクリスマスツリーを見に行く約束をした。
ツリーがあるのは、すべてが終わり、小宇宙へと変化した、かの地での再会を果たした思い出の場所・・・そこは、今でも時折、僕とあの人がつかの間の安息を求め、訪れる場所でもある。
それを知ってか知らずか、三人の友はその大きな木にクリスマスの飾りを施したという。
もちろん、この、特別な夜にあの人と会える喜びは大きかったが、それに勝るとも劣らないほど、その大きな木がどれだけ見事に飾りつけられているのだろうか・・・ということが楽しみだった。
それを早くこの目で確かめたくて、僕は約束の時間よりだいぶ早くその地に着いた。
でも、それよりも先にあの人がそこで、もう僕を待っていた。

慌てて駆け寄って握った手は既に冷たく、どれだけここにいたのだろう、と後悔と自責の入り混じった感情でそれを問うと、自分のことはいいから、あなたは本当に出てきて大丈夫だったの、と僕を心配する言葉が返ってきた。
ああ、なんて慈愛に満ちた優しい言葉と、そして眼差しなのだろう。
この広い宇宙の中で、神はどうしてこんなにも素晴らしい女性を僕に与えたもうたのだろう。
感極まって、僕は思わず、自分の思いを素直に言葉に乗せて、あの人の耳元で囁く。

すると・・・

頭上の、それはそれは見事なクリスマスツリーの、オーナメントのいくつかがはじけて、紙テープが舞い落ちてきた。
あっけにとられていると、更に、聴きなれたあの懐かしい友たちの声で、僕たちを祝福する言葉が・・・

おそらく、その、僕の言葉と、僕の声を認識して作動するシステムを、友の一人が仕掛けておいたのだろう。
あの人は・・・いや、アンジェリークは、その青緑の瞳に驚きと喜びの混じった光を宿して、まっすぐに僕を見つめていた。
僕も、言葉を失い、アンジェリークを見つめ返した。

なんて素敵なサプライズだろう。
一瞬の沈黙の後に、どちらからともなく、僕たち、僕とアンジェリーク、は声を挙げて笑った。
重責に押しつぶされそうな毎日をすごしている僕たちにとって、こんなに心の底から笑ったことは、いったいいつ以来だったのだろうか。

それはそれは見事なツリーの下。
僕とアンジェリークは、いつまでも声を挙げて笑いながら、
遠く離れた友に感謝して、
この、幸せを、かみしめていた・・・


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◇ 「彩雲の本棚」へ ◇


マコトさん、ラヴーーーー!
こんな素晴らしい物語をありがとう!!!
クリスマスをお題に、5つ+αの創作をお書きになっているマコトさん。その三話目の物語を強奪頂いてまいりました。
大人びた口調で、けれど時折少年らしさを覗かせるティムカの語り口が、さすがモノローグをお得意とするマコトさんっ!という感じでです。ほのめかされる「三人の友人」ににやりとしつつ、久方の逢瀬に喜ぶ恋人たちの姿に、また幸せな気持ちになりました。
祝福の紙テープが舞い落ちる仕掛け。その仕掛けの動作するティムカの「言葉」が何であったのか。
それが明記されていないことに、私はとにかく感動しました。
筆者様の、なんて粋なはからいなのでしょう!
そう、その言葉こそきっと。
「あなたの、こころのなかで」

なお、この物語。5話+αの連作になっております。
一つ一つ読んで楽しめるのはもちろんのこと、続けて読むと隠されたネタににやり、とできます。それぞれのキャラの、それぞれのクリスマス。是非読んでみてください!
あなたの胸をあたたかくしたり、切なくしたりすること請け合い!
マコトさんのサイト「ビタァ・スヰート・チョコレイト」へは、リンクページからどうぞ〜。
佳月