手紙

(3)――言葉と想い



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数週間のやり取り割愛
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ごめんなさい!
ジュリアス様、私、昨日はあんな態度とるつもりでも、あんなことを言うつもりでもなかったんです。
でも、ジュリアス様、おっしゃいましたよね?
「女王候補と守護聖以外のなにものでもない」って。
私、あの時どうしても、素直に頷くことができなかったんです。
お怒りになってしまったかもしれません。
でも、何故かは解らないけれど、嘘をつくことは、できなかった。
それを、解っていただけたら、嬉しいです。
やっぱり、言葉って難しいですね。
伝えたい想いはたくさんあるのに、言葉にしてしまった瞬間それは、千分の一も伝わらないような、そんな気がします。
こうして綴るこの文字でさえ、どれだけ何を説明できるのか私には解らないけれど、ジュリアス様、また、明日、いつものように執務室に伺います。
今日は、ほんの少し、勇気が足りないみたいで、きっと、このノートは直接お渡しできないでしょう。
許して下さい、というのも違います。これから気をつけます、というのも違います。
解って下さい、というのも、何か違うような気がします。
でも、言葉にできない部分の気持ちを、このノートなら、伝えてくれるような。
そんな気持ちに賭けてみたいと思います。

――アンジェリーク



                                               
アンジェリーク、謝ってなどくれるな。
私も後悔していたのだ。
先日森の湖で、そなたが私の隣に、女王候補としてでなくいるのだと、そう言い張った時、私は、どうしていいか解らなくなってしまったのだ。
そなたを傷つけるような言葉を言ってしまったかもしれない。
今、ただ、それだけが気にかかる。
そうだな。言葉は時折、人を傷つける。
発した主に、たとえその気がなかったとしても。
私は、まだ、未熟なのだな。
これだけ、長い、時を生きて来てなお、言葉ひとつ、うまく扱えないなどとは。
アンジェリーク。
そなたが伝えたいと思っていること全てを理解できたなどど、思い上がったことは言わぬ。
ただ、また、いつものように、執務室に来てくれたなら、嬉しく思う。
今日は、そなたの出した問題に、私が応える番なのだな。
問題の答えは、これで、よいだろうか?

―――ジュリアス


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閑話
「言葉について」詩の引用
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先日私はある耳の聞こえない人たちと
つたない手話で話す機会を持った。
私の手話はほとんど伝わらないようだったけれど
それでも彼等は笑顔を零し
その笑顔に私も嬉しくなった。
さて
「言葉」とはなんであろう
遥か太古生命がうまれたとき
彼等はどんなふうに気持ちを伝え合ったのだろうか?
「言葉」という道具を得た時
そのときもしかしたら人は
沢山の「感情」を失ってしまったのかもしれない
なぜなら
感情の数だけ言葉があるのではなく
言葉の数だけしか感情を表現できないからだ。
いま、隣にいる大切な人を「好き」と想う気持ちは
たとえば「好き」と言ってしまえばそれまでである。
けれど、
身の内にある言葉にできない気持ちを
人はどう伝えたらいいのか?
きっと、遠い昔に忘れてしまったのだろう。

いま、言葉で誰かを傷つけたとする
けれど言葉で傷を癒す時もある

言葉では伝わらない想い
言葉でしか伝わらない想い
それらのことを知ってか知らずか
それでも人の世に
こうして言葉は満ちている。

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閑話休題
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ジュリアス様
ジュリアス様って、やっぱり、すごいです。
自分でさえ、良く解っていなかった気持ちを、解って下さったんですから。
「言葉ひとつうまくあつかえない」そうありました。
でも、それはきっと、私達が人間だからですね。
人間だから、間違うし、人も傷つける。
でも、その反対に、人間だから、許したり、許されたりもできるんだって、そう、思いました。
すべて、あなたから学んだのだと、そう思います。

さあ、勉強再開!
久々の質問です67ページの…
(中略)
では、お願いしますっ!

―――アンジェリーク


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数週間のやり取り割愛
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今日は、約束をしていなかったのにいきなり尋ねてすまなかったな。
どうしても、そなたと一日過ごしたくなったのだ。
そなたが、湖でなかなか帰りたいといわなかった時、正直私も同じ気持ちであった。
やはり、ここでは、つい正直なことばが出てしまうな。
あの後に行ったテラスからの星はどうであったろうか?
(作者註:アンジェリークデュエットの「帰りたくない」イベント参照)
言葉もなく、見つめていたようだな。
そなたがみつめていたあの星は、いつも夜空で一番に輝き出す。
まだ消えやらぬ夕焼けに夜の到来を誇示するように。
夕焼けはそれに気付き、譲るように退いてゆく。
だが、それすらも調和なのだ。
美しい星に先導されて夜の帳がおりはじめる。それは天の毎日の儀式なのだろう。
この宇宙には、そのようにさだめと言うものがある。
それは、わかっている。
だが、時折。
そのさだめも、宿命も、調和もすべて顧みず、己の望むように生きれたら、そんなことを想う時がある。
いや。
女王候補に聞かせる言葉ではなかったな。すまない。
(中略)
ついに、学習も最終段階だな。では、いつものように。

―――ジュリアス



                                               
ジュリアス様
星をみながら考えていたことがあります。
このまま、時が止まってしまえばいいと。
そう考えずにはいられませんでした。
ずっと、このまま。
すみません。へんなこと書いちゃいました。
忘れて下さい。
解いた問題はいつものページに。

―――アンジェリーク



                                               
時がとまればいい、か。
宇宙の調和と逆らうそのことを、私も願いそうになる瞬間がある。
いや、これは、そなたの文章と同じく忘れて欲しい。
そなたが女王候補としてここに来てどれくらいになるだろうか。
女王候補としてずいぶん成長したように思う。
このまま、そなたは、優秀な女王となって、民を導いて行くのだろうな。
そして、私は新しい女王を頂くと同時に、大切なものを失うのかもしれない。
もう二度とふたたび、公園で、森の湖で、あの花野で共に過ごすことはできないだろう。
私は、###############
   (註:修正した跡。解読不可)
そなたと過ごした飛空都市での日々を、忘れないであろう。

―――ジュリアス




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