あたためる
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些細な出来事がきっかけだった。
共に休日を過ごしていた時にのこと。
悪戯に吹いて窓から踊って入った風が、その娘の髪をゆらし、その幾すじかが頬に留まったままなのをみて、ただ無意識に指でのけようとしただけのことだ。
私の指先が、その頬に触れたとき、びくりと反応があった。
悪気はなかったが、驚かせたか。だが。

。…… 何を驚く」

娘は、驚いたというか、と前置きして、話し出す。
私の手が、冷たい、のだそうだ。
それまで自覚などしなかったが、言われて見ればそうであるかもしれぬ。
つい、まじまじと見やった己の手。
その様子を何が面白いのか楽しげに見やって、娘は思ったとおりだと言う。
心外、というほどではなかったが、思ったとおりと言われるほどに私の手は冷たく見えるのだろうか?
言葉に出さなかったが、表情にでたか。
娘が慌てて、悪い意味ではないと付け加えた。
良い意味とも思えぬが。
やはり、言葉に出さなかったが、表情に出たか。
更に慌てて、娘が私の手を取った。

こうすれば、温かくなります。

とかなんとか言いながら。
必至に己の手で包み込もうとしている。
思わず、笑みが零れた。
何故なら、娘の手は、包み込んで私の手を温めるには、ずいぶん小さすぎるように思えたからだ。

「…… その必要はない」

いって、手を引き上げた私を、娘は不安そうに見やる。
そのような表情をする必要もないものを。
くつくつと、笑う、己の声。
そして、先ほどまで私に触れていた娘の手の、手首を掴み引き寄せる。
胸元に倒れかかる、その温もり。
やわらかな髪をかきやり、あたたかな首筋に触れれば、やはりつめたいのであろう、僅かに震える細い体。
だが、離してやるつもりなどない。
温めてくれるというのであれば、その言葉に甘えようではないか。

「あたためて …… くれるのではないの、か?」

耳元で言えば、やはり震えたように思えたが、それは冷たさ以外の理由であろう。
それで、いい。
てのひらで、などと言わず。
、おまえの体そのもので、この手を。


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王道(?)クラたんv
指を…どこで温めるかは想像におまかせーーーー!(書き逃げ)
05.06.18