六花

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■地の文がクラヴィスの台詞、カッコ内が情景描写となっています。


驚かせたか……?ふ。わたしがここへ来るのがそんなに不思議か。
……おまえに見せたい場所が在る。一緒に来てはくれない……か……?

(嬉しそうに微笑んでうなずく)

そうか……誘いに来て良かったと……そう思う。
外は寒い。何か羽織った方が良い、な……。そう、そのショールを……
こちらへ……。

(クラヴィスはそのショールを自ら肩にかけてくれる)

では、ゆくか……。

(外は雪景色であった。)

この聖地で雪が降るとはな……ふ……。だが、それもたまにはいいものかも知れぬ……。
寒さ故に……こうして……傍らにいるおまえの温もりが、一層近くに感じられる……。
おまえも……私を傍に……感じているか……?

(頬を微かに紅にして目を伏せる。
クラヴィス、くつくつと笑って)

……まあ、いい。

(暫しの間、言葉もなく歩くふたり。そしてついたのは
以前にも来たことのある花野であった、しかし、今は白銀の雪原となっている。
誰にも侵されていない一面の純白の世界
すべての音は雪に溶け込み、深々と辺りは静寂に満ちていた。
わずかにある雪雲の切れ目から零れ落ちる太陽の光をうけて
雪は光が踊るがの如く煌いている。)

……この景色を……おまえに見せたかった……いや、見たかったのだ……おまえと、共に……。
この汚れ無き雪は……おまえの心に似ているな……
光に溢れていながら、闇の安らぎさえ併せ持つ……

(ふいに目に溢れる涙。それにクラヴィスは気付き優しく問い掛ける)

……何を泣く……?
ああ、そうか、……そうかもしれぬ……人は、どこまでも清らかな風景に出会ったとき……
悲しみにも、孤独にも似た想いが、心を貫く……
何故なのだろうな……この心の痛みは……。
だが、隣には私がいる……そして、私の隣に、今、おまえが居る……
違うか……?

(クラヴィスはそっと腕の中に引き寄せ、後ろから抱きしめる。
強く、強く。
冷たい風がふたりの傍らを通り過ぎてゆく
雲の切れ間から僅かに顔を見せていた太陽も、今はもう無い)

風が…出てきたな…。
寒いか…?

(手を取って)

おまえの、手が冷たい……。
私か?…私は…寒くはない。こうして、腕の中におまえを抱いているのでな……
ふ……

(クラヴィスは耳元に囁く)
 

今しばらく……こうしていたい……おまえの温もりを感じていたい……  

(顎に指をかけて、上を向かせるとしっとりとくちづける。
雪がちらちらと舞いはじめる)
 

……静かだ……唯、おまえの鼓動だけが聞こえる……
 

(空からは六花(りっか)が舞い落ち、けぶるように辺りを満たす
夕暮れの闇が少しずつ、少しずつ世界をいだきはじめ
銀色の光景は淡い青へと推移してゆく)
 

……おまえを……愛している…… ……
 

(闇に響く微かな囁き
舞い散る雪の中、寄り添いあったふたりの影だけがぼんやりと浮んで)


―― 終


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