冷静なあなた


ふと夜目覚めた夜に、あなたの胸に体を寄せるのがとてもすき。

目がさめるとこうしてあなたの腕に中にいて。
私はいつも安心してもう一度目を閉じる。
直接ふれあう肌がさらさらとして、すこしくすぐったいようで。
それでいて、さっきまでの濃密な愛情の交換の名残を秘めていて、官能的。
寄せた体からあなたの鼓動が聞こえて、その繰り返す旋律が、またふたたび私を眠りにさそう。

なんて幸せなんだろうと、そう思う。

つぎに目覚めるのはきっと朝。
カーテンを思いっきり良く開け放して。
なかなか起きないあなたのまぶたにくちづけをすると、眠そうに開かれたまぶたの奥から、日に映えて紫を帯びた瞳があらわれる。
その瞬間は、何度体験してもどきどきして、眠り姫を起こす王子様って、きっとこんな気持ちだったんじゃないかって。 そんなことまで思う。

そう、これ以上ないほどに幸せ。

―― でもあえて言うならひとつだけ。
最近、不満に思い始めたことがある。

ずるいと、思う。
なにがって、その。

「…… 何をしている」

いつのまにか、あなたの長い黒髪を指にからめてつんつんと引っ張っていた私に、あなたが問いかける。
「あ、いえ、別に。起こしちゃった?」
「…… 起こすつもりでひっぱったのではないのか? なにやら、物言いたげな顔をして」

どうやら、考えていたことが顔に出てしまっていたらしい。

「なんでもないの」
言って顔を布団にうずめた私の顎を取ってあなたはくちづけをする。
「そうは、いかぬ …… そのような不満そうな表情で」

不満、というときっと語弊がある。
さっき言ったとおり幸せだし。
その、愛される時も。
こんな感覚があるんだって自分でびっくりするくらいで。
比較対照がないからわからないけれど、はっきり言って、すごい部類だと思う。たぶん。

そんなことを考えるうちにも、あなたは私の体に幾つものくちづけを落としていて。
少しぼっとしてしまいそうなところを必死で耐える。
さっきだって、そう。
結局私は熱くなってしまって、朦朧として。
気がつけばあなたの腕の中で眠っていて。
なのに、私の記憶の中のあなたはいつも。

―― 冷静なまま。

深く、くちづけられて、それに私も応える。
くちびるが離れた時、思わずため息が零れた。
「…… 言ってみろ」
やさしく、あなたが促した。
私は、その声だけでも、熱くなってしまうのに。
なのに。

「…… あなたは、私を抱く時、いつも冷静だなって、そう考えていたの」

「……冷静?私が、か……」
なんだか、とても不満そう。
「おまえが、知らぬだけだ」
だからそれを見てみたいのに。
いつも先に、私が。

「おまえを腕に抱きながら、冷静であれたことなど、一度もない……」

そういいながらも脚を絡めとって、あなたの手は私の中に滑り込む。
そういうところが、冷静なんだってば。
でも、そうまで言うなら、今度こそ見届けて ―― 。

「あ……」

触れられて、思わず声が零れてしまう。
見届けさせる気なんて、これぽっちもないんでしょう。
ぬめるような指の動きで、自分の体がすでに十分あなたを欲していることがわかる。
このまま、わからなくなってしまうのも悔しいから。
あなたの背に手を回して、均整の取れた胸にある乳房をそっとくちに含んだ。
反応は。

―― あいかわらず、冷静。

というよりも、私の悪戯心を見透かしたのか、あなたはいっそう激しく私を愛撫する。
手のひらで、感じやすい部分を刺激されたまま、幾本かの指で中をかき回される。
隠微な音が部屋に漏れて、恥ずかしさと、与えられる感覚とで気が遠くなりそう。
やっぱり、だめかも。
そう思うころにふと手の動きが止まって、引き抜かれる。
私は、既に息が荒くて、消えた感覚に少し安心して、少し残念に思う。
膝の後ろから脚をささえられて。
深くくちづけをしながら、あなたが、ゆっくりと身を沈めてきた。
はじめて受け入れたときは、何かが間違っているのではないかと思うほどに感じた異物感。
でも今は。
まるで自分の体の一部のように感じる。
幾度も繰り返すうねり。
激しくなったり、ゆっくりになったり。
私の体も、自然に動きに反応するようになった。

これ以上ないほどに、あなたとそばにいるのに。
もっとそばにいきたくて、もっとあなたがほしくて。
手や脚やくちびるを。
あなたに絡める。

「…… そうやって、おまえが熱くなればなるほど …… 私は冷静でなどいられぬ」

そう耳元でささやくあなたの声は、確かに熱を帯びて。
でも、それに応える私は、すでに言葉にならない声をあげるだけ。
かろうじてあなたの名を呼べば、あなたはそれに言葉と体でこたえてくれる。

ねえ、おしえて。
今のあなたは、冷静?
それとも、あなたから時折零れる吐息と声が教えてくれるのが答えなら。
少しは冷静でなくなってる?
とても、確認したいのだけれど。
ああ、やっぱり。

―― また、だめかも。

◇◆◇◆◇

目を覚ましたら、あなたの瞳が飛び込んできた。
「で……目的は果たせた……か?」
くつくつと笑うあなたをねめつけて、その黒髪を軽く引っ張った。
答えなんて、聞かなくたってわかっているくせに、こういうところがとっても憎らしい。

「おしえてあげない」
いつか、ぜったい、目的を果たすから。
だから、もっと大人になってやろうと、ちょっと闘志を燃やしてみる。
ああ、でも結局その過程もあなたの手の内なわけで。
やっぱり無理なのかしらと考えていると、お見通しとばかりあなたの声が聞こえる。

「楽しみなことだな」

ああ、もう、憎らしいったら!
なのにこんなに愛おしい。
私はあなたにくちづけをして。
「ええ、楽しみにしておいて」
そう宣戦布告をした。

―― 了

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あー、満足(笑)
中途半端な甘創作手直ししてたまった鬱憤(煩悩?)を開放したらこんな創作できちゃいました。
こんな早く書きあがるとは思っていませんでした……
満足、といいつつ、ちょっと不満があるとすれば。
もっと濃くしてもよかったかな。なーんて。

ほんとうに裏だけの話で、背景に流れる物語が無くて恐縮ですが、お誕生日月でもありますし、ふたりのあまあまっぷりを楽しんでいただければ、嬉しく思います。
「冷静」ネタを提供してくださったロンアルさんに感謝を込めて〜(笑)


2004.11.11 佳月 拝