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柔らかな若葉に風が通る音がする。
そして喜び歌う鳥のさえずり。
それらを遠く聞きながら、徐々に意識が覚醒していくのを彼は感じる。
―― ああ、今日もいい天気のようだ。
カティスは瞳を閉じたまま、よく晴れた朗らかな青い空と、それに向かい歌う梢のあいまの小鳥の姿を想像した。
いつもと同じようで、いつもと違う朝。
目覚めてひとりであることに、僅かな孤独を感じずにいられる朝。
長く過ごした地を離れてからずっと、何を求めているのかもわからぬまま、浮き草のように旅を続けていた自分が。
ようやく大地に根ざして立つ新樹となったような。そんな気がする。
ならば、その枝で歌う鳥は。
となりで眠る大切な人。
すべてが夢でないことを祈るように、彼はゆっくりと目を開けた。
そして確かにそこに眠る人を確認して穏やかな笑みを零す。
と。
彼が口の中で小さく呟いた名が聞こえたのかどうか。
彼女がゆっくりと目を開き、カティスを見た。
「ああ、おはよう。外はいい天気のようだ ―― 鳥の声が聞こえている」
はええ、と頷きそしてふたりは穏やかな笑みを交わす。
先ほどまで、夢でないことを祈った彼女の微笑をさらに確認するように。
カティスは彼女の方へと体を向けると、手を伸ばしその頬にそっと指で触れた。
僅かに恥じらいを見せたその瞳に向かい、
「…… 目がさめて、君がここにいてよかった」
頬に触れた指は。
つ、と動いて顎への線をなぞる。そして顔を上向かせると彼は彼女に口づける。
それは、昨夜の名残を秘めた濃厚なくちづけ。
吐息を零して背中に回された彼女の手に応じるよう、カティスもそのやわらかな体に腕を回す。
そして、愛していると囁いてから。
ふと、少しばかり悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「さあ、起きようか。それとも ――」
それとも?
と、問い返す彼女を、逃げてしまわぬように優しく抱きしめて。
カティスはもう一度思う。
―― そう、己が新樹であればその
腕で歌う鳥は。
自分に向けられた瞳に微笑んむ
そのくちびるをカティスはそっとくちびるでなぞる。
「今日はベッドの上で、このまま鳥の声をきいていようか?」
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この企画のために書いた創作群の中で一番最初に書いた作品。
そのため、SS馴れしておらず…拙さは多めに見ていただけると(笑)
05.05.25 作 07.07.09 再録