一緒に
〜船長さん〜


◇◆◇◆◇

朝の光に彼が目をあければ。
飛び込んでくるのはいつもと同じ船室の低い天井。
しかしいつもと違うのは、一人寝に慣れたのはずの寝台の上の傍らの気配。
コンラッドがそちらに目をやると、いつもはおさげに結われている彼女の長く甘い色の髪がゆったりと波打って広がっている。
その髪に縁取られるように、やはり目がさめたばかりといった風情の彼女の愛らしい素顔。
視線が重なり、彼は微笑んで言う。

「おはよう、エンジュ」

彼女は幸せそうに微笑んで、コンラッドのその歳を感じさせない広い胸板に頬をすりよせて甘えてきた。
あまりに可愛らしい仕草に、彼はつい照れる。

「なんだか、照れくさい、な。…… この年になってそんなふうに思うとは正直考えもしなかった」

あまりに正直に言った彼の一言に、エンジュもまたほんのりほほを染める。
けれどもここは持ち前の活発さからか、それとも彼女なりの照れ隠しなのか。
「私も照れてますから、お互い様です」
などと言う。
思わずひきよせてくちづけを落とすと、彼女は髭がくすぐったいと言いながらも、でもこれでこそ船長さん、とご満悦の様子である。
しばらくはそうやって、朝の甘いひと時を楽しんでいたが、コンラッドはさて、と身を起こす。
そして勢いで露わになりかけた彼女の体の上にきちんと掛布をかけ直すその様子は、まるで大切な宝物を隠すかのようだ。

「君は疲れているだろうから、もう少しよこになっているといい。俺が朝飯を作ろう」

エンジュは一旦はこくりと頷いたが、彼が背を向けて寝台から降りようとしたとたん、その背中に抱きついてくる。
やわらかな胸の感触をはっきりと感じて
「こ、こら」
慌てるコンラッドに、彼女の声が背中越しに聞こえる。

「やっぱり私も起きます。だってもっと一緒にいたいもの」

腹部に回された彼女の手を、ぽんぽんと叩いて。
これからもずっと一緒だ、と。
彼は小さく呟く。
その資格が。
己にあるのかと。
僅かに過ぎった想いを振りほどいて彼は言う。

「では、朝食は一緒に作ろう。私も君と一緒にいたい」

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いや、疲れてるのは船長さんも一緒だと…げふげふ。