飾りはいらない
〜セイラン〜

■註:微妙にエトワの説得イベントのネタを含みます。


◇◆◇◆◇

かつて人里離れた山奥で、気ままな生活を楽しんでいた僕に君は言ったね。
孤独が好きなのか、と。
言いえて妙だ。
そして全くの的外れでもある。

おそらく僕は、一生付き合っていいと思うほどに孤独を好いているわけじゃない。
逆に、嫌っている、もしくは恐れていると言ってもいいのかな。
それでいて、いやだからこそ。
『孤独』というモチーフは僕に多大なインスピレーションを与えてくれる。
だからあえて、孤独という状態に身を置いていたわけだ。
わざわざ望んでそうしていたのだから、それはそれで『好き』なのだといえなくもない。
面白い逆説だね。

さあ、いま僕は、ひとつの非常に興味深い事象を観察している。
観察対象は、僕自身。
そして、君。

今こうして、君が傍らで愛らしい寝息を立てていて。
窓からは一日の始まりを告げる陽光が差し込んでいる。
この状態を、普通の人なら孤独などといわないだろうし、いかに皮肉屋だと思われている僕自身。
孤独などと表現するつもりはないってこと。

早い話が、 君という存在が、僕から『孤独』というモチーフを、望むらくは永遠に持ち去ってしまったわけだ。
でも反対に、僕は新たなものを得た。
恋は人を詩人にするという、かなり陳腐な言葉があるけれど。
君はどう思う?
果たして僕にそれがあてはまるだろうか。
その答えを知るのがひどく楽しみで。
僕はこうして、君が目覚めるのを待っているわけだ。

どうやらその時が来たようだね。
君がその神秘的な色合いの瞳をのぞかせて。
にこりと微笑んだ。


―― ああ。
なんて滑稽なんだろう。

何がって、僕自身のことだ。
だって、今の僕は君にかけるべき言葉を見つけられない。

気付いてしまった。
いまの自分の想いを伝えようとすればするほど、飾りつけた言葉は空虚になる。
多くを表現しようと思えば思うほど、それでも伝えきれない心が、もどかしくてどうしようもなくなる。
じゃあ、こんな時どうしたらいい?
答え。

飾りはいらない。

何故なら伝えるのは想いであるはずだから。
だから、そっと君に頬を寄せて。
その温もりを感じたまま僕は伝える。
心に浮かんだ、そのものの想いを。

「君にあえてよかった」

応じてくれた飾りない君の笑顔と、それを得たときの気持ちを、やっぱり表現する言葉など、僕は知らないらしい。
まあ、いいさ、そのままでいい。
そうだろう?
今生まれたままの姿で寄り添う僕たちに相応しく。

なにひとつ、飾りはいらない。

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がんばって、公式っぽいセイランらしさ、を目指してみた。(なんだそれ)