春眠
〜セイラン〜
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アンジェリーク   エンジュ   自分で設定
現在女性の名前は「」に設定されています。

◇◆◇◆◇

春眠不覚暁 ―― 春眠暁を覚えず
処処啼鳥聞 ―― 処処 啼鳥 を聞く
夜来風雨声 ―― 夜来 風雨の声
花落知多少 ―― 花 落ちること 知る 多少ぞ

春の眠りの夢うつつ 未だ目覚めの時を知らず
ただ耳に届く  鳥の歌声
夜半に聞いた雨風は 何処(いずこ)へと()
おそらくは、幾許かの花を散らして。


まどろみの中で。
鳥の声を聞いた。
確かにさっきまでは雨の混じる風音だった。
ああ、そうだ。
君を抱いていたときもそれは聞こえていていたね。
それは君の零す細い声にも似て。
―― 外ゆく風は花を散らしていったとして。
さて、僕は君という花を手折って散らしたのか、それとも咲かせたのか。



いったい、どちらだと君は思うかい?

◇◆◇◆◇

夢と現実の曖昧な境界を彷徨いながら、いろいろな言葉を紡いだ記憶の残像だけがあって。
実際目がさめたら何一つはっきりとは思い出せぬまま、僕は君の背中をみつめている。
春の眠りはけだるげで。
きっとまだ君は、その甘いまどろみにつかまったま目を覚ましてはいない。
だから後ろからそっと抱きしめてから。
目覚めたらなんて声をかけようかなどと、我ながら自分らしくないことを考えていると、小さなうめき声が聞こえる。

「もう、おきたかな」

かけた声に君がぴくりと僅かに動いたのが、体に回した腕に伝わった。
けれどもそれ以上の反応がない理由は、想像するにさほど難しいことじゃない。

「恥ずかしがっているのかい?」

無理にこちらをむかせて見ようか、と。
考えなかったわけじゃない。
けれども、それもずいぶん無粋だ。
「無理してこちらを向かなくていいよ」
そう、何故なら、背中を向けていても、朝の光に照らされた君の瞳の色も、恥じらいに淡く染まる頬のなめらかさも。
僕は十分思い描くことができる。
そうでありながら、僕は君の細い腰に腕を回して、白い首筋から背中へとくちびるを這わすことができるのだから。
この状態は悪くない。
腰から上へ、優美な曲線をなぞっって到達した乳房の柔らかなふくらみ。
後れ毛が優しいうなじと、それに連なる華奢な肩。
しばらくそうやって君自身を感じて楽しんでいたけれど、どうやら君はもう黙っていられなくなったらしく、小さな声を零したあとに、くるりとこちらをむいて。
もう、と僕を睨めつけた。

そのすこし潤んだ瞳をみて、思わず笑みが零れる。
何が可笑しいんですか、と抗議するような声をだすくちびるをゆっくりと塞ぐ。
その時、思い出した。
夢うつつで考えていた(ことば)

―― 僕は君という花を手折って散らしたのか、それとも咲かせたのか。

そう囁いて、僕は君の体をゆっくりと愛撫する。


さあ、(こた)えて。

◇◆◇◆◇

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よし!満足!反省点は引用した漢詩が有名すぎることか。

※再録時に追記:わかる人はわかると思うけれど、これが元ネタです(笑)