甘えて
〜ティムカ〜


◇◆◇◆◇

この状態をどうしたものかと、私は彼の腕の中で考え込んでいた。

既に起き出すには早くない時間帯。いや、休日であることを考えればこのさい時間などどうでもいいことなのだけれど。
目がさめたのは、実は一時間ほど前。
しばらくは昨日のことを思い出したりして恥ずかしいやら照れくさいやらでひたすらひとりで赤面していた。
それからちょっとだけ落ち着いてきて、正視できるようになった彼の寝顔。
まじかで見るそれは、いつもとはずいぶん違うと、そう思った。
普段なら。
歳の割に大人びて、 しっかりしてて、ちょっと真面目すぎる時もあるかも、って思うくらいで。
十三歳で出会ったときですら、つい年下だってことを忘れてしまいがちで、ましてや今となってはほとんど歳上っくらいに感じていた彼が、 どこかあどけない、無防備な表情。
そのままの彼が、ここにいる。
少し嬉しくなって、眠る彼の頬にそっと手を伸ばすせば、自分の指先との対比で、いっそう深く感じる浅黒い肌。
はじめてであった頃とは比べ物にならないくらいに男性らしくなった顎の線に、彫りの深い目元、影を落す長い睫毛。
まっすぐ通った鼻梁の筋と、眠りに僅かに開かれたくちびる。

―― ああ、このくちびるが、昨日。

ついそこまで考えて、私はまた烈火の如く照れて、ひとりで赤面する。
そんなふうに、ひとり先に目覚めた朝を過ごしていたわけだけれども。
すこし体の向きを変えようと、身動きしようとして気付いたのだ。
私の体にしっかり回された腕。
きっと今ここで私が動いたら、彼を起こしてしまうかもしれない。

そう、起きるにはもう早くはない。
でもこの時間を終わりにしてしまうのは惜しいような、そんな気がした。
穏やかに眠っている彼を、このまま独り占めするような気持ちで眺めていたかった。
だから彼が朝の日差しに気付いて、その黒真珠色の瞳を覗かせるときまで、そっと、こうしていようと。
そう思ったのだ。

彼は起きたら、どんな反応するだろうか。
きっと私と違って照れたりしない。
なんだか余裕すら感じる笑顔で。

―― おはようございます、もうおきていたんですか。

って、そんなふうに挨拶をするいちがいない。
そんなことをおもいながら、彼の寝顔をみて時間を過ごすうち。
やっぱりすこし体の体勢を変えたくなってきて。
この状態をどうしたものかと。
私は彼の腕の中で考え込んでいたわけなのだ。

横向きになって、下敷きになった右腕が、すこしだけ痺れている。
やっぱり仰向けになろう、と、彼の腕をそっと外そうとすると。
その腕にいきなり力がこもり、抱き寄せられて、彼は私の胸に ―― なんというか、裸のままの胸に ―― 顔をうずめている状態になる。
腕に込められた力とは妙に対照的で眠そうな声の彼が言う。

「…… 起きるんですか?」
「ええと、寝返りを打とうかなって ……」
私がすべてを答える前に、一層強く抱きしめられて、そして彼の声が聞こえる。

「ダメです。…… もう少し、このまま ……」

だめ、っていわれても。
困惑する私をよそに、言うだけ言って彼は心地よさそうな寝息を立てている。
しばらく呆気にとられたけれど、気がついた。

―― もしかして、寝ぼけてる?

たぶん、そうなのだろう。
可笑しくて笑いそうになるのをこらえて、しょうがない、我ままを聞いておこうと決める。
きっと、こんなふうに彼に甘えてもらえることなんてめったにない。
そして彼がはっきり目がさめたとき、この話をしたらどんな反応をするか考える。
さっきは照れたりしないと考えたけれど、撤回。
昨夜のことに関しては照れないかもしれないけれど、寝ぼけて私に甘えたことを知ったらひどく慌てて照れるに違いない。
その様子を想像すると、自然と顔が緩んでしまう。

でも、慌てたり、照れたりする必要なんてないのに、とも思う。
どうかこうして、甘えていて。
あなた自身にそれを許させる私で在れることが嬉しいから。

そして私は。
覚醒までのしばしの時間を堪能すべく、彼の頭を抱き寄せて目を閉じた。
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ちゅどーん。ヤヴァいです。妄想警報発令中。ティムカの描写をしながら、自分がヘンタイな気がしてきた。(今更)

05.06.09