あなたという存在
〜ルヴァ〜


◇◆◇◆◇

先に目がさめたのは、私だった。
そしてそうであって良かったと、まだぐっすりといった風情で眠っている隣のあなたをみつめて、心からそう思った。
私は枕に肘をついてうつぶせになった格好で、ゆっくりと眠ったままのあなたを眺める。
だって、こんなチャンスはめったにない。
あなたが目を覚ましたら間違いなく、慌てふためいて、真っ赤になって。つられてこっちも照れるようなことになるに違いないから、眠っている今のうちに、ゆっくりとあなたの眠る姿を堪能しようと、そう考えているのだ。

触るとすこしだけ硬い感触の短い髪。起きたらきっと寝癖がついているだろうとすこし微笑ましい気持ちになる。
前髪のかかる広い額、眉毛の描く優しい弧。
閉じられた瞳は今どんな夢をみているのか。
掛布の下の、寝息とおなじリズムで上下する胸は。
昨日、その胸に抱かれてはじめて、ああ、男性の胸というのはこんなに広くてあったかいものなのだと、はじめて知った。

そこで私は、昨夜のことをありありと思い出して。
突如激しく早鐘を鳴らしだした胸を落ち着けるべく、あたりに視線を泳がせる。
そうしてふと目に入った、

―― 昨夜、あなたが私の前ではずしてくれたターバン。

手を伸ばして引き寄せて、頬を寄せてみる。
じんわりと心を満たす嬉しさがあって、そのきもちのまま、ふいにあなたの頬にくちづけをしたくなった。
眠ったままのあなたの方へ身を伸ばして、そのほほにくちびるを寄せる。
その時。
ふにゃ、と。
くすぐったい、とかなんとかそんな意味かもしれない呟きの後に、ぱっちりと、あなたが目を覚ました。

「……!ああああ。アンジェリーク!」

わたわた、という擬音語がそのまま当てはまりそうな怒涛の如くの慌てよう、照れように、逆に私は自分のしていた仕業を照れる機会を逸してしまう。
そして不思議なほどに落ち着いた笑みがくすり、と零れて、言っていた。
「おはよう、ルヴァ」
あなたはしばらくきょとん、としてから、現状を把握したらしく。
私の大好きなあのおっとりとした微笑をむけて。
「…… おはよう」
そう答えてくれた。
その微笑に、今度は私が遅れて照れくさくなる番。
さっき手元に手繰り寄せたターバンを、おもわずぐりぐりといじったりひっぱったりしている様子を、あなたは不思議そうにみている。
「あー、ターバンが、どうか、しましたか?」
まさか、なんだか嬉しくてあなたが眠っている間に頬寄せて堪能していました、とは言えない。
「あ、いえ、べつに」
歯切れ悪くつぶやいて、あなたの頭部にふわりとかぶせようとすると、そのまま力強く抱き寄せられる。

「夢では、ないんですね」

その声は、私の好きな、静かなトーン。
夢では、ないです。
と、言う意味をこめて私が腕の中で頷くと、一旦腕の力を緩めてあなたははひどく優しい笑顔で私の顔をのぞきこんだ。

「ここにいてくれて、ありがとうございます」
「……?先に起きだしてしまうと思ってたんですか?」

怪訝に思いきき返した私に、ああ、いえそういう意味ではなく。
呟いてから、もう一度、こんどはふんわりと私を抱きしめてこう言った。

「あなたという存在がここにあることに ―― ありがとうと、言いたいのです」

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私のルヴァ様妄想、こんなんで如何でしょう?!師匠!(笑)