笑顔の理由
〜ランディ〜
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◇◆◇◆◇

落ち込んだり、行き詰ったりしている人をみるとつい。

大丈夫だよ、とか。
心配ない、とか。
元気出せよ、とか。
そういう台詞を口にしてしまう。

あ、口にしてしまう、って言っても、もちろんそれが偽りの気持ちとか、そういうんじゃなくって、本心からそう思っているし、励ましたいと思って口にしているんだけどさ。

それと同じで、自分自身が落ち込んだ時も。
元気出せよなって、自分にいつも言い聞かせてる。
到底元気なんかだせないほど、落ち込むときも本当はあるけれど。
少なくとも周りには、ヘンに落ち込んでいる自分を見せて心配なんかさせたくないなあって、思うんだ。

意外、かい?

―― ちょっと事情があってさ。
俺は幼いとき父と一緒に暮らせなかった。
母と妹と三人で、小さな部屋で暮らしてた。
もちろんそれが不幸だったわけじゃなく、とても温かくて幸せな日々だったけれど。
時折顔を曇らせる母を元気付けたくて。
いつしか、明るく振る舞うのが当たり前になってた。
多少落ち込むことがあったくらいで、暗い顔なんか、したく、なかったんだ。

そしていつの間にかそうするのが当然になって。
なんだか、それが自分になってしまったんだよな。
挙句、ちょっとやそっとのことじゃ、落ち込まなくもなった。

あ、だから、その自分が嫌だとか思っているわけじゃないから。
大丈夫。
うん、大丈夫。
本当だから、信じてくれよ、

ただ。
そんな俺でさえ。
守護聖となる時に抱えた迷いが無かったわけじゃない。
けれど、今こうして君と出会えて。
ようやくそのすべてが、吹っ切れたような気がする。

俺はまだまだ未熟だし、守護聖になってさして時間が経った訳じゃないけど。
それでも外界じゃそれなりの時間は過ぎ去っていて。
―― それが辛くないといったら嘘になるけど。
ただ、俺がこの場所にいなければ、ずっと後に生まれてきた君と、こうして会えることもなかったんだって。
そう、思った。

そして、そのことを気づかせてくれた君。

その君に。
心配かけたくないからいつだって笑顔でいたいという想いと。
君には落ち込んだときには素直に落ち込んだ姿を見せたいという想い。
今俺はその両方を抱えてる。

だからいつか。
君の前で、俺はいつか情けない姿を曝してしまうかもしれない。
そんな俺を君は受け入れてくれるだろうか。
きっと受け入れてくれるんだろうと、そんなふうに感じてしまうのは、甘えかな?

ああ、バカだよなぁ、俺。

眠る君の姿を見ながら。
こんなふうに色々心の中で話し掛けたりして。
でもこうしているとなんだか自然に笑顔になってしまう。
もうひとつ君に教えてもらった。

そうだよね。
本当は、笑顔に理由なんていらないはずだ。
暗い顔を見せたくないから笑顔になるとか、何かを考えて浮かべるものじゃないってこと。
そんな当たり前のことを。
今更俺は知ったよ。

でもこの表情のまま君が目を覚ましたら、にやけてるとか言われると恐いから。
ここはひとつ真面目な表情に気を引き締めようか。
でもそれってけっこう、難しいかもしれないな。

そうして、君が目を覚ます。
俺と目があって、なんだか照れたようにシーツの中に顔を隠してしまった。
なんだかそんな風にされると俺も照れくさいけれど。
でも、同時にこれまで以上に君が愛おしく思えて。
俺も、一緒にシーツの中に頭を潜らせて君の顔を見る。
目があって。
やっぱり二人して照れて。
でも、おはようと言って、生まれたままの姿君を。
生まれたままの姿で抱きしめて。
そしてキスをする。

これほどまでに大切な存在を俺は他に知らない。
もう一度、強く抱きしめて。
君に囁くよ。

。君を、大切にする」


◇◆◇◆◇


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私が書くとランディですら、苦悩する。
彼は貴族の父と、平民の母の間に生まれて、母は姑と上手くいかず、一時期下町で母と妹との三人での生活を余儀なくされたという過去を持つ。 そんな公式設定前提。
本当は友情モノで書こうと思ってたネタのため、いずれ他作品で流用するかもしれない

05.08.14 佳月