君が碧き瞳ひらけよ


君が碧き瞳 ひらけよ
小鳥は 愛の歌 うたいて
暁の光に 花咲き ものみな 麗し
目覚めよ 目覚めよ
君が碧き瞳 ひらけよ

君よ 地上の美を 忘れよ
愛こそ たぐいなき めぐみぞ
歌は 我が胸の 奥に鳴り
心の中に 日は 輝く

◇◆◇◆◇

空を飛ぶも覚束ない、愛らしい子雀等の元気なさえずり。
萌えいずる若葉をやさしくゆらしてさざめく楡の大木。
日はすでに高くにあって
白い光は木の葉を通してやわらかな木漏れ日となり窓辺にさし込む。
昨夜の余韻を微かに残して
けだるく火照るふたりの肌。
そのうえを通り過ぎる白雲木の花の薫りをふくんだ穏やかな風。

聖地の休日は今日もやさしく訪れる。

「まだ、眠っているの、か……?」
肌を寄せ、となりでまどろむ愛しいひとにクラヴィスは甘やかに囁く。
「ひとのことは言えぬが、休日のおまえは……なかなか寝坊助だな」
アンジェリークは瞳を閉じてはいるものの、意識はあるのだろう。
クラヴィスのつややかな黒髪をくいくい引っ張りながら
「……クラヴィス様に、言われたくないですよ〜だ」
まどろみつつ、愛らしく憎まれ口をたたく。
それでも眠りの妖精は彼女を離してはくれないらしく、彼女の森の緑にも似た美しい瞳は、まだ瞼の奥に隠れたままだ。
「ふ、いってくれるな……」
クラヴィスはそう囁くと、アンジェリークにくちづけた。
激しい接吻でも、ふれるだけのくちづけでもなく
ねっとりと、そのひとの唇の感触を確かめるようなそんなくちづけだ。

「ん」
まどろみのなかで与えられたくちづけは、どこまでも甘やかで、アンジェリークのうっとりとした声が漏れる。
「……今日も良い天気のようだな。外は美しく輝いて見える。だが」
耳元に囁かれるやさしい声。
そして、もう一度ふさがれる唇。
「……おまえの、碧に煌く瞳が……いちばん美しかろう。はやく、見せてはくれないか……?」
今度は瞼に唇がふれる。
その言葉に、アンジェリークは瞳を開くと、にっこりと満面の笑みを浮かべて言った

「おはよう。クラヴィス様」

クラヴィスはすこし意地悪げに笑み、応じる。
「ふ、ようやく起きたようだな……まあ、寝ているおまえを眺めるのも、悪くないが……」

「え?きゃっ!」
その言葉に、アンジェリークはシーツがはだけて露わになっている自分の体に気付き、慌ててシーツの中に潜り込む。
「……かくさずともよいものを……闇に浮かぶおまえの肌もいいが……木漏れ日に包まれた姿もまた、愛らしい……」
彼は意地悪な笑みを浮かべたまま、そう囁いて抱き寄せた。
「意地悪」
そう言うと、アンジェリークはクラヴィスを軽く、拗ねたようにねめつける。
「『意地悪』だと……?聞き捨てならんな」
この唇がそんなことをいうのか、とばかり、みたび、今度は激しい接吻を交わした。

けだるい朝はとても甘やかで、時間さえもまどろみのうちにゆっくり流れていそうな気がする。
ふと、目に入る外の景色の明るさにアンジェリークは元気に言う。
もう、目ははっきりと醒めたようだ。
「これから、外で、朝ご飯にしましょう?きっと気持ちいいわ」
「……昼食の間違いではないか……?」
笑いながら応えるクラヴィス。
「んもう、どっちだっていいのっ。どうします?」
頬を膨らませつつも、すぐに表情を笑顔に変える天使をみつめて
「……私は……今日一日、こうしているのがよいな……」
そう言うと、しなやかに、起き上がりかけていたアンジェリークの肢体を腕で絡めとる。
「ク、クラヴィス様っ……これから起きるんじゃなかったんですか?!」
慌てるアンジェリーク。クラヴィスはといえば
「知らんな」
と、全く意に介さず、そのふくよかな胸元に唇を押し当てた。
白く長い指は、丹念に体を這う。
「……ぁん……」
昨夜の余韻の残る肌は、少しの愛撫で敏感に反応をかえす。
さらに、指は、熱くなめらかに濡れた部分をなぞりはじめた。
芳しく涼やかな風も、ふたりの火照る体をもう、冷やす事はできない。
アンジェリークの白い肌が、薄紅に染まる頃、甘やかな吐息のあいまに彼女は小さく囁く。
「……部屋が明るくて……お願い、カーテンを……」
「……私は……おまえをみていたい……そうやって、熱くなってゆくおまえを……」
赤くなって、アンジェリークは潤んだ瞳でクラヴィスをみつめた。
「……気になるなら……瞳を閉じていればいい……」
瞼におとされるくちびる。
そうして、意外なまでの激しさをもって、アンジェリークを貫く熱い彼自身。
零れる吐息と、互いの名を呼ぶ甘い声。

初夏の若葉を映し、窓からさし込む薄淡い緑に染まったやさしい木漏れ日は
寝台の上で睦みあうふたりの肢体に不思議な紋様を染め上げた。

◇◆◇◆◇

「ホントに、お昼になっちゃった。お休みの日だからいいけど」
寝台の上でアンジェリークが諦めたようにつぶやく。
「ふ、はじめになかなか起きなかったのは、おまえの方ではないか……?それに私は」
にやり、と口の端を上げるとそう言って、さらに耳元に囁く。

「……休日でなくとも一向に構わんが……?」

◇◆◇◆◇


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うおおおおおお(悲鳴)
きっと、数年前これが書けたのは、若さゆえの勢いです。


2004.11.02 再録に際し