葉月の叔母

「自己のエゴイズムを性癖で塗り固めたり、言い訳に使う人はこの世界には多いのよ。 サディストだから自分は何をしてもいい、相手は奴隷だからどんな事をしても良いって。 そういう風に自分の身勝手さに言い訳するのよ。性格と性癖は本来別物なんだけどね」 葉月はこの人物が苦手だ。 「と、まあ、これはカレン・ホーナイっていう精神分析家の受け売りなんだけど」 目の前でクスクス笑ってみせる、葉月はこの人物が苦手だ。 奴隷を相手にしている時はサディストとして、そして女王として優越感に浸っていられるが、 この人物を前にするとそんな幻想も消えていく。 気持ちよく酔っているはずなのに急に覚めてしまうのだ。 「自分が出来もしないことを相手にしろって言う人間には誰もついては来ないわ。 でも、そういう人間ほどこの世界、言いなりになる奴隷を欲しがり、ご主人様、女王様になりたがるのよ。 それは単純に下卑た欲望だったり、つまらないプライドから来ることも多いわ。 そんな人間は本来、人の上に立ってはいけないのにね。 私から言わせてもらえれば、ご主人様、女王様どころか、自己の欲求もコントロールできない、 欲望の奴隷よ。 ねえ、葉月、貴方は上司から無理難題を言われた時、心の中でこう反発しない? 『それじゃあ、自分でやってみせなさいよっ』ってね」 「ええ……確かにそう思いますわ、叔母様……」 葉月は自分の叔母がとても苦手だった。叔母が鞭を手に取り、自分の掌に軽く叩きつける。 「武田家の武将だった甘利信忠という人は薬として渡された馬糞汁を飲むのを拒んだ部下の為に自ら、 相手の目の前で馬糞汁を飲んで見せたそうよ。そしてその部下は感激して、甘利に忠誠を誓ったの。 主従関係を築き上げるというのは、本来はこういうものよ。 互いの信頼を作り上げるというのは、暖かい春の日に花を育てるような穏やかなものじゃないわ。 むしろ、凍える真冬の日に地面に張った氷を割っていくような辛い事なのよ」 そういうと叔母が葉月の胸から顎の辺りを鞭の先端で一撫でした。 「私は奴隷に与える責め苦は全て自分で身を持って体験してから行うわ。 増上慢にならないためにもね。それこそが本当の女王様のあるべき姿だと私は思うわ。 ジョン・アクトンに曰く『権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する』 リンカーンに曰く『ある人物の本性を知りたいのならそいつに力を与えてみろ』 そして心理学者のキプニスは人は権力を握るとどんな人物であれ、横暴に振る舞い、 目下の者に理不尽な要求をするようになることを突き止めたわ。 私もこれまでの人生でそんな人間を見てきたからわかるの。 でもね、人は相手に感謝し、自らを戒めることで堕落を防ぐことが出来るのよ それとも葉月はそれは違うと思う?」 「いえ、叔母様の仰るとおりだと思います」 葉月は叔母の言葉に頷いて見せた。葉月はこの人物がとても苦手だ。 叔母が優しげに頬を緩ませて、葉月を見つめながら語りかける。 「ふふ、そんなに畏まらなくてもいいわ、葉月。私も少し背伸びをして、ちょっと尤もらしい説教をしてみたかっただけだから」 そう言いながら、アンティーク調の椅子から立ち上がり、叔母が葉月に顔を近づける。 「それでも、やはり説得力は必要よ。葉月、あなたが何かの拍子で約束を破ってしまった時、 『約束を破ることは悪いことだ』とあなたに忠告した相手がいつも約束を破ってばかりいる人だったら、 あなたはどう思うかしら?その人の忠告自体は確かに正論ではあるわ。 でも、あなたは相手に何の説得力も感じないでしょうね。『いつも約束を破るような人にそんなことを言われたくはない』って」 葉月はいつも感じるのだ。叔母の双眸の奥に称えられた知性と狂気の光を。 そして、葉月は黙って叔母に臀部を突き出すと、スカートを捲くりあげ、下着を下ろした。 途端に叔母の鞭が葉月の尻肌に食い込む。 「ぐう……ッ」 「葉月、あなたは奴隷に恵まれているわ。それはあなたにとっての幸福よ。 でもね、あなたの幸福は奴隷にとっての幸福ではないわ。 そして偽りの優越感というぬるま湯に浸かっていれば、あなたはいつまで経っても女王様として成長しなくなるのよ」 叔母が鞭を交差させ、葉月の尻肉に鮮やかな赤い線を刻んでいく。 室内に鞭を打ち鳴らす響音が広がり、葉月は苦痛に顔を歪ませながらも叔母の手による鞭打ちに耐えた。 葉月の尻房を鞭で責めながら、叔母が穏やかな口調で語りかける。 「よく聞きなさい、葉月、あなたはエスの女王様とエゴの女王様を間違えてはいけないのよ」 「くうぅっ、はあ……はあ……わかりました、叔母様……」 尻肌一面が真っ赤なミミズ腫れに覆われ、血が滲み始めた。そこで叔母が鞭の手を休め、葉月の臀部の具合を掌で撫でて確かめはじめる。 ひんやりとした叔母の手の感触は葉月の痛みを僅かながら和らげた。 「葉月はやっぱり賢いわね。それじゃあ、今日はたっぷりと責めてあげるわ」 叔母が微笑みを浮かべながら、準備をし始める。

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