葉月様ヒストリー3 葉月様の女王修行
3月中旬の郊外。桜も開花間近だったが、まだ4月前の時期故に風が冷たく肌寒かった。僅かな雑木林を除けば吹きさらしに近い丘陵で、数軒 の民家や、道路沿いのコンビニやガソリンスタンド、ファミレスやモーテル等が点在しているのみの殺風景な場所に一つのバス停留所があっ た。そこに一台のバスが停まり、小早川葉月が降りてきた。 大きな旅行用のキャリーケースを手に、19歳とは思えない大人びた装いだった。ベージュのオーバーが風に揺れ、飛びそうなエンジ色のベレ ー帽とマフラーを抑え、葉月は足を進めた。 バス路線の道路の脇道に入ると、なだらかな坂道になっており、程なく目的地に到着した。四方を石垣に囲まれたビルで、石垣の上は木々が 生い茂っていた。今の時期はまだ葉がついておらず、ビルの下の階も見えた。ホテルともマンションともつかない、不思議なビルだった。 ただ、あまり高い建造物ではなかったため、周りが殺風景でも、余り違和感が無かった。 石垣に備え付けられてあった幅広いシャッターを通り過ぎると、石垣をのぼる幅広いスロープがついていた。車が通れる広さだった。 その入り口のアンドンを葉月は見上げた。 (ホテル・カチューシャ…、表向きはラブホテル・モーテルの類い。叔母様の話だと、その裏で秘密の会員制SM倶楽部“リリィ・プリズン” を営んでいるとか…) 葉月は旅行用のキャリーケースを引きずって、スロープを上っていった。 話は昨日に遡る。 葉月の高校卒業式の翌日、とある高級ホテルにて、小早川家主催の、葉月と、その学友の卒業記念パーティーが開かれ、小早川家一族は元よ り、政界、財界より多くの人達が集まっていた。葉月の父は卒業式の当日にパーティーを開きたかったのだが、母と叔母が高校の謝恩会に出 席するため、一日ずらしたのだった。 葉月は家族四人と叔母を交えての、ささやかなお祝いを希望したのだが、 「弥生さんだけ呼んで、他の親戚呼ばないわけにはいかんだろ」 と、いう父の一言で、大パーティーになってしまった。その為葉月は少々辟易気味だった。だが、葉月は葉月で、招待客の名簿に仲良しの同 級生二人の、父と祖父の名前を見つけて、 「同じ日に同じ学校卒業したのに、私だけのお祝いなんて不公平よ」 と、言い張り、その父と祖父が国会議員と某銀行頭取だった為、渋々二人のお祝いも兼ねる事になった。当の議員と頭取は小早川氏に感謝し たが…。 小早川家当主としてのレールは父に敷かれていたが、肝心の走らせるのは葉月自身で、 「発進や停止の操作は、走らせる私がする」 と言うのが彼女の言い分だった。実際、父に最も強く言えたのは夫人よりも葉月だった。 そういう性分故、葉月は親戚や関係者の子供達に人気があり、このパーティーでも少年少女達の集まりの中心になった。 「葉月お姉様、御卒業おめでとうございます」 おかっぱ頭の愛くるしい女の子がお辞儀をし、リボンのついた包みを差し出した。 「あら、井上社長のお嬢さん。美麗ちゃん…、だったわね。ありがとう」 美麗のプレゼントを受け取り、彼女と少し話し込んでから別れた後、辺りを見渡した彼女は、意外な来客達に気付いた。 叔母と話していた、あのホテルのオーナー。そして文子女王や都夫人。オーナーはここのホテルのオーナーでもあり、文子は全国的なエステ サロンチェーンの社長でもあった。都は夫がロシアの貿易商で、かなりの大富豪だった。だから、この三人がここにいても不思議ではなかった が、深沢和美と曾根崎遙の姿まで見かけた時は驚いた。 ハンカチに和美のサインを貰って喜んでいた睦月によると、和美はオートバイレーサーとしてのスポンサーが父の会社だそうで、父と談笑し ていた老紳士の側に遙がいた事については、父から、大東亜生命社長と本社の営業部長さんだと言われた。ひょんな事から遙と葉月が知り合 いである事を知り、それで社長が彼女を連れて来たらしい。生保レディであるとは聞いていたが、まさか本社の営業部長とは思わなかった。 そんなパーティー会場の隅で、弥生と二人きりになった時、葉月は一枚の封筒を受け取った。 「さっき、あのお方から渡されたの。例の“女王試し”の事。いつでもいらっしゃいって」 封筒の中には、在る建物の住所と地図のメモ、そして半分に手で千切られた女帝のタロットカードが入っていた。 「そのタロットが割り符で、そこのフロントに出せば判る様に手配して下さるそうよ」 葉月の表情が思い詰めたものになった。そして。 「早速、明日行くわ。4月になったら大学入学の準備やらで忙しくなりそうだし、早くケリつけたいから…」 「そう。それじゃ、まだここにいる筈だから、伝えておくわね。がんばってね」 弥生は葉月にカクテルグラスを笑顔で差し出し、葉月はそれを一気に飲み干し…。 吹き出した。 「ノンアルコールじゃなくて、本当のカクテルじゃないの!! 」 ホテルのドアを開け、フロント前に立つと、フロントが挨拶してきた。あまり良いフロント対応とは言い難かった。 だが、タロットの半分を差し出すと、相手の態度が一変した。 「これは失礼いたしました。少々お待ち下さい」 フロントは奥の内線電話でどこかに連絡すると、葉月に後の椅子を勧めた。それに座って待っていると、フロント横の“関係者以外立ち入り 禁止”が表示されたドアが開き、30代前半か半ばらしい、髪を纏めた黒縁メガネのメイド姿の女性が現れた。 「お待たせしました。小早川様でございますね。お話は承っております。どうぞ」 二人はドアの中に消えていった。 「私、リリィ・プリズンでメイ奴長を努めております、鞠亜と申します。お見知りおきを。エカテリーナ様より、江藤様の姪御様がお見えと の事で、案内する様、申し使っております」 そう言いながらドアのすぐ前にあった階段を降りていき、地下の駐車場入り口や、そこの受付らしき場所に出た。 あのホテルのオーナー、女帝陛下は“エカテリーナ”という通り名を持っているらしい。 「ここは女王様方専用の駐車場にございます。お荷物はこちらにどうぞ」 オーバーを脱ぎ、パステルカラーの薄紫のブラウス、焦げ茶色のスカートに黒のパンティストッキングの姿になった。叔母から、あまり痛ま しくない服装で行った方が良いと言われていた為、リサイクルショップで、なるべく見栄えが良い物を購入していた。 受付に荷物を預け、スリッパに履き替え、メイドに案内されてエレベーターに乗り込んだ。葉月は気付いていた。このメイドは首輪を填めら れており、メイド服もやたらと短いスカートで、後ろ姿は臀部が少し見えていた。その上、エレベーター内で、メイドが落としたペンを拾お うと腰を落とした時、スカートの中のパンティ代わりに装着されていた金属製の貞操帯が露出した。二人の目と目が合った時、恥ずかしそう にメイド長が口を開いた。 「私共メイ奴は、エカテリーナ様の奴隷として、如何なる羞恥に動じる事無く働く様、調教されております」 最上階に着くと、そこには別の女性が待機していた。軍服の制帽を深く被り、筋肉質だが全裸の体にゴムの長手袋と首輪を填め、ブカブカの ニッカーボッカーを履き、それをサスペンダーで吊るし、足はピンヒールのブーツだった。ニッカーボッカーの中は何も履いていておらず、 ニッカーボッカー自体も彼女のウェストの倍以上のサイズで、サスペンダーも紐を長めにしていた為、臀部や陰部が丸見えだった。案内して くれたメイドより若そうだったが、きついメイクを施されているせいか、メイドを威圧してる様に見えた。 「調教師長、お連れしました」 「うむ、開けろ」 メイドがエレベーター前の大きな扉を開けている最中、調教師長と呼ばれる女性が深々と頭を下げて、葉月に挨拶した。 「調教師長の冴子にございます。お待ちしておりました」 調教師長が葉月を中に案内した。メイドが照明を点灯していくと、室内の様子が明らかになった。 そこは正に王宮の、謁見の間だった。扉から正面に向かって長くて赤いカーペットが敷かれ、一番奥は二段程のひな段があり、玉座と言って も良い椅子が置かれていた。部屋の大きさは30畳程はあるだろう。ヨーロッパの古城を思わせる様な内装が施されていた。 玉座の正面、やや離れた所に座布団が敷かれ、葉月はそこに座らされた。調教師長は葉月の右斜め後ろの壁際で、休めの姿勢で待機。メイド 長は玉座のひな段左側のカーテン内に入っていった。 数分後、再び同じカーテンからメイド長が出てきて、続いて二人の少女のメイドが出てカーテンを左右に開いた。 「エカテリーナ様のお越しにございます」 メイド長の大きな一声に、調教師長は気を付けの姿勢に直り、敬礼をした。メイド長も直ぐさま深々と頭を下げた。葉月も、この様子から頭 を下げなければならないと悟り、床に座らされていた彼女は土下座した。 そこに、あのホテルのオーナーが現れた。顔を上げていなかった葉月は足音と玉座に腰掛ける音でその事を認識した。 「小早川葉月、お顔を上げなさい」 意外と丁寧な口調とハスキーながらも柔らかな声だった。 顔を上げたとき、二段程高い台の上に自分を見下ろす、あのオーナーがいた。しかし、遠くから見かけた時と、面と向かい合っている今とで は、印象がまるっきり違っていた。しかも、今はホテルのオーナーとしてではなく、ここの女主人として向かい合っているのだ。 やや小太りな体を黒革のボンデージで引き締め、肩を覆うケープ、チョーカー、革の長手袋、網タイツに編み上げブーツのピンヒールを全て 黒一色で統一し、腰に巻かれた薔薇柄のスカーフだけが黄色だった。パーマをかけた、やや短い髪は栗色に染められ、比較的色白の顔に施さ れたメイクは眉や目元が黒くくっきりと浮かび、紅いルージュがピアスのルビーと共に白い肌に映えていた。 葉月が第一印象で感じたのは、圧倒的な威厳と迫力だった。 いわゆる、ごく普通の飾り気の無いシンプルな女王様スタイルだったが、そのシンプルさが、虚飾を排した、この人物自身の威厳を際立たせ ていた。 葉月は背筋を伸ばし、凜とした表情で、目の前で玉座に膝を組んで腰掛け、自分を見下ろす人物を見据えた。エカテリーナは確かに美人では なかったが、それ程醜女でもなかった。しかし、カリスマ的な暴君を思わせる、傲慢そうな眼差しは、葉月を余計に緊張させた。 「初めまして。小早川葉月です」 最初に言葉をかけたのは葉月だった。再び彼女は頭を下げた。 「面と向かって挨拶したのは初めてだけど、何度か会っているわよね。ここではエカテリーナと呼ばれているわ。私の本名は弥生から聞いて いるんでしょう」 玉座の肘掛けに肘を立てて、上に向けた右手の指先に、二枚のタロットの割り符が挟まっていた。 「私も弥生から貴女の事は聞いてるわ。貴女を縛った話を聞いた時、叔母と姪と揃って奴隷になるつもりかと思ってたら、そのうち自分を縛 らせて、貴女を王女様にしたって…」 指先に挟まれたタロットが、掌に運ばれ、握りしめられ、揉みくしゃにされた。 「そして、貴女を女王に育ててくれって…。嗤わせるわ…。奴隷の姪が女王だなんて、1億年早いのよっ!! 」 女帝は丸められたタロットを葉月に投げつけた。それは頭を下げてる葉月の肩に当たり、葉月は上目で彼女を見返した。 「いいのよ、顔を上げても。貴女は“女王試し”を始めてないうちは私のお客様なんだから。それに貴女の叔母の顔も立てないとね。私に奉 仕したいというマゾ奴隷は沢山いるけど、私の直属、つまり、ここで飼育している奴隷と違って、外から通う事を許してる奴隷のうちの一匹 よ。私が認めた女王の中で、最も位の高い文子女王の評判も良いし、娘のアナスタシアの調教の練習台にもなって貰った。そんな彼女の自慢 の姪だから、特別に“女王試し”を受けさせてあげるわ」 「有り難うございます…」 その女帝の言葉に礼を言い、頭を下げた葉月だったが、女帝とその娘に敵意を覚えた。最愛の叔母に対する仕打ちに怒りを感じたからだった。 「しかし、弥生も何も私の所によこさないで、自分達だけで“女王様ゴッコ”に興じていればいいものを…」 半ば睨む様な目つきに変わった葉月を見下ろしながら、女帝が言葉を続けた。 「私のあずかり知らぬところで、誰が、どこぞの安いSMクラブとかで女王を名乗っても構わないけど、私と接点を持った者で、私の眼鏡に適わ ない者が女王を名乗る事は許さないわよ…」 女帝の瞳に冷酷な光が宿った。その眼差しに思わず葉月は生唾を飲んだ。 「実際、“女王試し”を受けて奴隷に堕ちた自称女王は何人もいるわ。どれも見かけ倒しの虚勢を張った小娘ばかりだけど、中には本物の女王 もいたわ…」 生意気な自称女王に引導を渡した自慢話の最中、カーテンの奥のベルが鳴った。女帝の顔がカーテンの方に向いた。 「支度が調ったようね。第一調教室で一週間かけて“女王試し”をするから覚悟を決めなさい」 女帝が立ち上がり、降りようと段に足をかけた時、足元で再度頭を下げた葉月が言った。 「お願いします、女王様」 その瞬間、その場が凍り付いた。 メイド達が一気に青ざめ、調教師の顔が強張り、女帝の眉間が動き、足が止まった。 女帝と調教師の目が合った瞬間、軽く頷いた調教師は葉月目がけて鞭を飛ばした。 「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!! 」 甲高い音と葉月の悲鳴が謁見の間に響いた。 「この無礼者め、もう一度言ってみろ!! 」 「お、お許し下さい、女王様…、ああっ!! ぐあっ!! 」 調教師は葉月を鞭で滅多打ちにした。冷ややかな眼差しでそれを見つめる女帝。恐怖で震え上がり、しがみついてくる少女メイドを抱きかか えながら、その様子を凝視するメイド長。 調教師の鞭は、葉月が悲鳴を上げられなくなるまで続いた。 女帝がストップをかけたのだ。 「女帝陛下!! もっと続けさせて下さい!! 」 「それ以上やると“女王試し”が出来なくなるわ。もう同じ過ちは繰り返さないわよね。そうでしょう? 葉月…」 女帝はひな段から降りて、ぐったりした葉月の元に歩み寄り、彼女の襟元を掴んで顔を上げさせた。その時、女帝の冷ややかな笑みが消え、 険しい顔になった。 「申し訳ございませんでした。女帝陛下」 汗と涙に濡れ、苦痛に表情を歪めながらも、葉月はキリリとした表情と眼差しで女帝を見据え、はっきりとした口調で答えた。 「首輪と手錠を持ちなさい!! それに後の扉を解錠!! 」 女帝の声に調教師とメイド達が驚いた。次の瞬間、女帝の手は葉月のブラウスを引き裂いた。 ハッと気付いた彼女達は各々動き出した。調教師が女帝を手伝い、葉月の服を身ぐるみ剥がし、少女のメイドが首輪と手錠を持参、メイド長 は玉座の後の、重々しい鉄扉を解錠し、開放した。 全裸になった葉月に首輪と、後ろ手で手錠が填められた。 (それで痛ましくない服を着なさいって…) 心の中で叔母の言葉の意味を思い返している最中、女帝は首輪を直に掴み、葉月を引き起こした。そして、葉月の頭を自分の肩に担ぎ上げた。 首輪と葉月の首の間に女帝の手が入ったため、葉月の首は圧迫され、苦しさに表情が歪んだ。 しかし、苦しい姿勢から葉月は逃れられなかった。抵抗しようにも女帝の腕の力が強く、水泳等で体を鍛えた筈の葉月でさえ、そのまま引き ずられる程の力だった。女帝は確かに小太り気味ではあったが、意外にも体そのものは弛んでおらず、どっちかというと筋肉質だった。 「調教師長にメイ奴長。急な話で悪いけど第一調教室じゃなく、奥の間に籠もるわね」 その一言に、メイド長は戸惑いの表情を浮かべた。 「えっ!? で、でもこの部屋は…」 「過去にも、ここで“女王試し”をしてるわよ。急な話で何も用意してないから、足りない物をアナスタシアに伝えておくわ。中に入ったら、 外から施錠しなさい」 不適な笑みを返す女帝に、メイド長は何も言えなかった。 そして、二人が扉の向こうに入りきると、メイド長は扉を閉め、施錠した。 突然の事に、四人は戸惑いの色を隠せなかった。 「妙な事になってきたな…」 「そうね。ここは陛下専用の特別調教室で、本来なら余程の粗相などをした奴隷を、陛下自らお仕置きなさる為の調教室なのに…」 「過去にもここで“女王試し”をしたと仰ってたな…」 「だけど、ここで“女王試し”を受けて、女王の位を賜った方はいないわ。大抵、三日そこらで裏から逃げだそうとするけど…、逃げられな いのよね…」 「ああ、裏から逃げても、エレベーターや階段は私達の詰め所やメイ奴の作業場に出るから…」 「後はそこで取り抑えられて、陛下の元に送り返され、再調教されてマゾペットに…。そんなのが何人も、陛下の御部屋で飼育されてるわよ」 「でも、いいんじゃないの? それはそれで、陛下に可愛がって貰えるんだし」 「そうね、廃奴にされるよりはね。増してや便所豚になんかにされたら悲惨だわ」 二人は額の汗を拭い、それぞれ帽子とメガネを直した。あどけなさの残る、二人のメイド少女はメイド長にしがみついて怯えていた。 「陛下、とても怖かった…」 「お控えの間では、優しかったのに…」 二人を安堵させようと肩を抱いた時、メイド長の連絡用PHSのベルが鳴った。 「はい、メイ奴長鞠亜です。第一皇女様ですか…。はい…。先ずは下剤…、 それとコルセットに塩化…、かしこまりました。大至急、特別 室にお持ちします。後ほど、この件でご報告を…」 メイド長の通話中、少女のメイド達は、終始、怯えた目つきで調教師長を凝視していた。 調教師長は睨み付けて言い放った。 「陛下の命令無しで鞭は振るわんから、安心しろ」 鉄扉の奥、特別調教室は意外と狭く、10畳程の広さで天井も2m半程の高さだった。四方を赤レンガの壁に覆われ、床は真紅のシートが張られ、 何ヶ所か金属製の丸い蓋が付いていた。足を引っかけたりつまずいたりしないよう、デコボコは殆ど無かった。 入り口の鉄扉のすぐ脇にガッシリとした木の椅子が置かれ、鉄製の鎖が巻かれていた。左の壁には×字架等の磔用の責め具が設置され、右側 の壁には縦長の木のベッドが置かれていた。ヘッドボードが無い病院等の診察台の様なベッドで、床板が隙間の広い簀の子になっていた。扉 正面の壁には三つのドアがあり、左から物品庫、キッチン、シャワー付きトイレになっていた。トイレの右奥の方にも細いスペースがあり、 一番奥には清掃用の大きなシンク、その左側に二段式の大きな引き戸があり、これは中にも引き戸があって、ここから消耗品の受け渡しが出 来る様になっていた。シンクの右側には戸棚があり、様々な責め具や消耗品が納められていた。天井には太い頑丈な丸太の梁が縦に1本横に2 本横たわり、幾つかの滑車や巻き上げ機が吊されていた。 葉月は、真っ先に調教室中央で巻き上げ機に手錠を引っかけられて吊され、足首に填められた枷は床の丸い蓋の中の金具に鎖で繋がれ、脚全 体を大きく開いた形に拘束された。そして股間の陰毛を剃り上げられてしまった。 羞恥で顔を赤らめながら、横目で睨む葉月を、女帝は冷たい眼差しで見返した。 「もうそろそろね…」 そうつぶやいた時、奥の受け渡し口で物音がし、ベルが鳴った。手配していた物が届いたら裏からメイドが鳴らす事になっていたのであった。 受け渡し口を開けると、頼んだ物とメイド長の顔が見えた。 「陛下、御確認、お願いします」 「下剤に胃腸薬、トイレットペーパー、ミネラルウォーター、消毒液…」 運ばれた物をチェックし、最後の物を確認した。 「コルセットに…、これね」 女帝は茶色い薬瓶を手にして残酷そうな笑みを浮かべた。 メイド長も冷酷そうな表情で答えた。 「はい、例の薬剤です。ドクトルの話ですと、このまま使用できるとの事です」 「ありがとう、ご苦労さまでした」 中と外の引き戸が閉められた。女帝はそれらの物を葉月が拘束されている場所に運び、ベットの上に置いた。巻き上げ機を緩めて伸びきった 腕を降ろさせると、飲料水と下剤を手にした。 「先ずはこれを飲むのよ」 女帝は葉月の髪を鷲づかみにし、頭を下げさせ、下剤を口の中に押し込み、水を大量に飲ませた。 咳き込む彼女を再び吊り上げ、物品庫から折りたたみチェアを出して座り、しばし待った。 「フフフ…、下剤が効いてくるまでの辛抱よ」 何を飲まされたか知った時、葉月の表情が強張った。 飲まされた下剤は即効性の物で、しかも多めに投与された為、約1時間程で効いてきた。 「い…、痛い…、お腹が…、い…、痛いっ!」 葉月は腹痛を訴え始めた。やがて腹痛が腹部の中央から、下腹部に移っていくのと共に便意も伴い始めた。その頃、女帝が戸棚の引き出しか ら何かを取り出し、消毒液で拭いていた。そして、アルミ製のトレーに茶色の薬瓶、ワセリン、ステンレス製浣腸器、そして、大きめのイチ ゴかプルーン程の大きさの楕円形の物が入れられて運ばれてきた。 真っ先に女帝が手にしたのは楕円形の物だった、それは肌色がかったピンクのゴム製らしく、イチゴに太い釘を刺してる様な形だった。楕円 形本体から出ている部分は細く、その上の平たい所には穴が開いていた。 「これは特製のアヌス栓よ。これを貴女のアヌスに挿せばお漏らししないで済むのよ」 一瞬葉月の目が見開いた。もうすぐ出そうな物が出せなくされるという、恐怖が彼女を襲った。 「あ…、い、いやっ!! やめてっ!! 」 哀願虚しく、葉月の肛門にワセリンが塗られ、栓が押し込まれていった。 「ん、んあっ!! あああっ!! 」 本体の一番幅広い部分が入る時、肛門が張り裂けそうな痛みに襲われたが収まってしまうと、くびれた部分は細かった為、異物感はしたもの の楽だった。しかし、直腸内で広がっている為そう簡単には、いきんでも押し出せなかった。 「苦しい…、苦しい…、苦しい…」 そう呟きながら苦悶の表情を浮かべる葉月を降ろし、拘束を解いた女帝は物品庫のドアを開けた。中にあった真紅のラバースーツに着替えて ガスマスクを着け、角形のポリ製のタライを引っ張り出した。 うずくまって苦しむ葉月の元に戻ると、彼女を見下ろし、そして、押っつける様に蹴飛ばした。 「きゃああっ!! 」 悲鳴を上げた葉月を伏せさせ、お尻を突き上げる姿勢を取らすと、浣腸器とビーカー、先程の浣腸液を用意した。浣腸液をビーカーに移し、 「特製の塩化マグネシウムとグリセリンをブレンドした浣腸液よ。ちゃんとした医者に作らせた物だから安心しなさい。名前位聞いてるでし ょうけど、昔の浣腸液“ドナン”よ」 それを聞かされた葉月は一瞬青ざめた。叔母や文子女王から、その浣腸液について聞かされていたからだった。 アヌス栓に挿入された浣腸器は、薬剤を葉月の体内に送り込んでいった。 「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」 注入とほぼ同時に、焼けただれる様な猛烈な腹痛と便意に襲われた。下剤で催していた腹痛と便意に、さらなる追い打ちをかけた。 「ぐあぁっ!! ああっ!! お…、お腹が焼けるっ!! ぐあぁぁぁぁっ!! 」 余りの苦しさに、葉月は七転八倒して、床に転げ回った。そんな彼女を女帝は抱きかかえて起こし、膝立ちでタライをまたがせ、膝に砂の入っ た布製のウェイトを紐で括り付けた。ウェイトは片方10sあった。そして、手錠の鎖を巻き上げ機にかけて、それを上に引き上げた。葉月の背筋が伸びきり、ほぼ垂直になった。 「苦しい…、だ…、出させて…」 「いいのよ。遠慮無くお出しなさいな…」 苦悶の表情で哀願する葉月に、女帝は冷ややかな笑みで答えた。しかし、アヌス栓をされている葉月は、どんなにいきんでも大便を出せなかっ た。 「ぬ…、抜いて…、抜いて下さい…」 「バンドで固定してる訳じゃないから、腹圧で出せる筈よ。さあ、思いっきり出しなさい」 確かに栓だけであったが、中での大きさからとても出せなかった。涙と共に脂汗が激しく流れた。 「じゃあ、腹圧を高めましょうか。フフフ…」 女帝は葉月の腹部にコルセットを充てた。コルセットの感触で女帝の真意を悟った葉月は腰と尻を激しく振って抵抗した。 「ああっ!! いやっ!! 」 しかし、抵抗も抵抗したうちに入らず、葉月はコルセットを装着された。 そして、女帝は背中の紐を締め始めた。 「ぐあっ!! ぐっ!! ぐ…、ぐるしいっ!! ぐえぇっ!! 」 コルセットの紐が締め上げられ、葉月のウェストは蜂の胴の様にくびれていった。 「ああ…、あが…、がが…」 最早呼吸もままならなくなり、彼女は次第に青ざめていった。 だが、腹部が締め上げられた事で腹圧が上がり、直腸内に貯まっていた物を押し出し始めた。 そして、葉月の肛門括約筋が拡げられ、激しい激痛が彼女を襲った。最も、その激痛に悲鳴を上げられる状態ではなかったが。 栓が押し出されると異臭と濁った音を出しながら、黄土色の流動物が大量にタライに流れ込んだ。女帝は直ぐさまコルセットの紐を緩め始めた。 葉月は表情を緩め、溜息をつきながら安堵の色を浮かべた。手錠を巻き上げ機から外すと、力尽きたかの様に四つん這いになった。女帝は葉月 のアヌスを拭き取ると、タライの洗浄を始めた。 その間、葉月はグッタリと倒れ込んでいた。 タライを片付けると、女帝は横たわる葉月の背後、臀部の辺りに立って、彼女を見下ろしていた。 何かに気付き、ブーツの爪先を彼女の尻の割れ目に押し付けた。 女帝のブーツに黄色い液体が付着した。 まだ下剤が効いている為、少し垂流れていたのだった。 「葉月、起きなさい」 女帝は乗馬鞭で軽く葉月を叩き、起き上がる事を促した。ゆっくりとした動きで体を起こし、正座する葉月の前に、汚れたブーツを差し出した。 「良くも私の靴を汚物で汚したわね。舐めて綺麗にしなさい…」 手錠を填められた葉月の両手が女帝のブーツにゆっくり伸びた。そのまま舐めると思った女帝は冷酷な笑みを浮かべた。 ところが、葉月はそのブーツを掴んで、正座して背筋を伸ばしたまま自分の口元に持ち上げた。その為、女帝は予想外の行動にバランスを崩 し、尻餅をついてしまった。 怒った女帝は葉月を乗馬鞭で滅多打ちにした。 「一体、どういうつもりなのっ!? 普通、這いつくばって舐めるものでしょ!! 」 苦痛に表情を歪めながらも、葉月は姿勢を正して、凜とした口調で見上げて答えた。 「私は這いつくばりません。決めたんです。自分からは這いつくばらない、犬や豚にはならないって…」 女帝はその答えを聞いて呆気にとられた。今まで、こんな毅然とした態度をとる娘に会った事がなかったからだった。 「自分から奴隷になる気はないって事ね。でも、最終的に貴女を女王にするか奴隷にするか。決めるのは私よ」 「陛下が私を“女王に値せず”と判断したら、その時はその時です。自分から判断を下す事は考えてません」 自ら女王として自惚れてもいないし、奴隷として卑下もしない。そう言いたかったのだった。 女帝はその言葉を聞き、不適な笑みを浮かべながら、折りたたみチェアに座り、改めてブーツを突きだした。 「それなら、この姿勢なら舐めれるでしょ。お舐め」 葉月は不快そうな表情で靴を舐めた。 舐め終わった頃、震えながら口元を抑えていると、女帝が声をかけた。 「今、口にしたもの、本来流すところに流しなさい」 そう言われると、葉月はトイレ付きシャワー室に駆け込み、嘔吐した。 シャワー室から疲れた表情で出てきた葉月は、戸棚の胃腸薬を飲む事と大人用紙おむつを履く事を命じられた。おむつを履いて戻ると、ラバー スーツを脱ぎ、全裸で椅子に座る女帝が待っていた。 「ここに座りなさい」 唯一身につけていた、黒い網ストッキングを履いていた足で自分の正面を軽く叩いて、座る場所を指示した。葉月が座ると、女帝は自分の股間 を軽く開き、葉月に恥部を見せた。 「さあ、クンニで私を気持ち良くさせなさい」 葉月は一瞬、凍りついた。あの時の事が脳裏に浮かんだ。 叔母の家で、彼女にクンニリングスをさせなかった、あの日。 叔母はどんな思いで私にクンニをしようとしてたのか。 ただ単に己の変態的性癖や欲望からだけだったのか。 違う。 私に「気持ち良い」と感じさせたかったからではないのか。 恥ずかしい事ではあったが、私の為にしようとした事ではなかったのか。 それなのに、自分はそれをさせなかった。 そう考えた時、自責と後悔の念が葉月を苛み、女帝から目を逸らし、ボロボロと涙を溢し始めた。 「どうしたの、始めなさい」 「お断りします。クンニはしません」 女帝の眉間がピクリと動いた。しかし、葉月の様子に訝しんだ彼女は、その胸の内に耳を傾けた。 「そう、貴女の敬愛する叔母様に、そんな意地悪しちゃったの…」 「あの時の詫びとして、先に叔母と互いにクンニしたいんです。ですから陛下にクンニはしません」 「フフフ…。いいわよ。その代わり…」 不適な笑みを浮かべた女帝は葉月の頭を掴み、股間に近づけた。 「私に背いた事と、貴女自身が許せないと思った事への罰を与えましょう。よろしくて?」 強ばりながらも、葉月は小さく頷いた。 次の瞬間、女帝の股間から葉月目がけて、黄色い液体が大量に放出された。 思わず葉月は咽せて咳き込み、しきりに唾を床に吐き出した。 「今日はこの辺にしましょうか」 座り込んで小水に咽せる葉月を無視して、女帝は物品庫から大きなジュラルミンケースを引っ張り出した。 「さあ、これが貴女の寝床よ。これからこの中で貴女は眠るのよ」 ケースを開くと、中は厚手の柔らかいマットが全面に貼られていた。しかし、その形と大きさから、体を丸めて入る以外に考えられず、しかも 背が高く手足の長い葉月には、かなり窮屈な姿勢になる事は必至だった。 「恐らく、窮屈で眠れないと思うから、良い物をあげるわ」 睡眠剤でも飲まされるのかと思いきや、女帝が取り出したのは、太いバイブと大きめなローターだった。女帝はおむつを降ろすと、ローターを アヌスに、バイブをヴァキナに押し込み、スイッチを入れた。 性器と肛門内に感じた振動に、葉月は喘ぎ声を上げ始めた。 「フフフ…。気持ち良いでしょ。夢見心地の中で眠りなさい」 女帝はそう言いながら、葉月にボールギャグを噛ませ、手首足首に枷を填めてケース内に押し込み、そして閉じた。ケースの中は思ったより広 かったが、脚を折り曲げて一夜を過ごすにはかなり窮屈だった。葉月の頭の辺りに小さな丸い窓が開いていて、他にも点の様な光が差し込んで いた。これらは空気穴として開けられていた物で、葉月が窒息する心配は無かった。窓から女帝が自立式ハンモックを用意しているのが僅かに 見え、程なくして灯りが消えた。 葉月は完全な闇に包まれた。しかし、静寂は訪れず、体内のバイブの振動が彼女を苛んだ。やがて、窮屈な姿勢を取らされている事による苦痛 まで彼女を襲い始め、今まで感じた事の無い絶望感を感じ始めた。 (叔母様……………、睦月……………) 朦朧とする意識の中、葉月は叔母と妹の事が脳裏に浮かんだ。両親や高校の友人の事は思い浮かばず、彼女達の事だけ思い浮かんだ。 バイブにより繰り返されるオルガズムと身体の苦痛で、失神しかけた時、ケースが開けられた。 「おはよう。よく眠れたかしら」 葉月はケースが開くとそのまま外にグッタリと倒れ込んだ。ぎこちない動きで立ち上がろうとする葉月に、女帝は鞭を加えた。 「急に立ち上がると、体に良くないわよ。少しずつ慣らしなさい」 女帝は葉月の首輪に手綱を繋ぎ、水を飲ませながら四つん這いで少しずつ歩かせた。 (這いつくばらないって、犬にならないって決めたのに…) 葉月は屈辱感から涙を流していた。 体が慣れた頃、葉月に食事が用意された。一応キチンとした料理だったが、犬用のトレーに盛られていた。当然、箸もスプーンも無しである。 「どうしたの? 食べなさい」 食べようとしない葉月を女帝は訝しんだ。 「昨日、申した筈です。這いつくばらないって」 「犬の様に食べる位なら、這いつくばった内に入らないわよ。さあ、犬の様にお食べなさい」 明確に犬の様に食べる事を促された葉月は、ハッキリと首を横に振った。 「なら、犬の様には食べなくて良いわよ。ガチョウになって貰うから…」 葉月は意味が判らなかった。 女帝は葉月を鉄扉の横にあった椅子に座らせ、鎖を全身に巻き付けて椅子に縛り付けた。椅子は床に直に固定されていたのでひっくり返る危険 はなかった。 暫くして女帝がキッチンから持って来たのは、ミキサーにかけた葉月に食べさせる筈だった料理と、ステンレス製の漏斗だった。しかし、その 漏斗はパイプ部分が少し太く、異様に長かった。 女帝は葉月の顎を?んで上に向かせると、漏斗のパイプを口に挿入し始めた。 「あがっ!! うががっ!! 」 漏斗のパイプは喉の奥深く、食道を通り、胃まで達していた。先端は少し丸められていた上、食用油を塗られていたので食道等を傷つける事無 く、スンナリと入っていった。しかし、葉月は激しい嘔吐感と痛みに襲われた。だが、鎖で全身を固定していたのと、頭を上げて口から胃まで 一直線になった所でパイプを挿入されているため、全く身動きが取れなかった。 そんな葉月の口の漏斗に、ミキサーの流動食が注ぎ込まれた。嘔吐感を覚える最中に、流動食を注がれている為、吐き気に追い打ちをかけた。 僅かに動く手首足首を激しく振って、苦痛を訴えた。 しかし、女帝は無視してミキサーの中の流動食を全て流し込んだ。 漏斗を引き抜くと、葉月は顔を降ろし、吐こうとした。しかし、直ぐさま女帝が口にハンカチを押し込み、口を塞いだ。 「駄目よ!! 飲み込みなさい!! 」 吐きかけた嘔吐物が再び飲み込まれたのを確認すると、女帝は葉月の口を塞ぎ直した。顔半分を覆う様な革製の猿轡を被せられた。口の部分 の内側に大きな突起物があり、それが厳重に彼女の口を封じた。 「さあ、始めるわよ」 女帝は鎖を解き、葉月を立たせて、次の調教を始めた。