霞と舞---後日談

「アン、ドゥ、トロワ。アン、ドゥ、トロワ…」
 聖マリアンヌファレス女学園バレエ専科の生徒達は、今日もレッスンに励んでいた。その中に異彩を放つ、一人の少女がいた。
その少女は他の子達と違って、フランス帰りなだけに格段にレベルが高かった。
 だが、彼女が放つ異彩は、別の物だった。
「諏訪さん。今度のコンクール、まだ課題曲決めてなかったわよね」
「あ、はい。先生…」
「コンクールまでには、まだ時間あるけど、早いうちに決めて頂戴」
「判りました…」
 基本のバー・レッスンを終えた後、次のレッスンに入る前、バレエの指導者とその少女との間に交わされた会話の後、話を続けようと
指導者が声を掛けた。
「あ、それから諏訪さん…」
「何ですか。先生…」
「あ…、い、いや、何でもないわ…」
 指導者は少女の目つきの異様さに、口を噤んでしまった。指導者は高等部の年長の生徒に声を掛けた。
「ねえ、武村さん。諏訪さん、近頃雰囲気変わったんじゃなくて?」
「先生も、そう思います? 舞、こないだの食中毒で長欠して以来、ああなんです。着てる物のせいでしょうかね?」
 二人は横目でその少女を見つめた。
 諏訪舞は、床にペタンと座り込んで、シューズを履き替えていた。黒いバレエシューズを脱ぎ、ポワント(トゥ・シューズ)に履き替えて
いたのだが、ポワントも黒かった。普段、レッスン時に黒いポワントを履くことなど、あまり無い事だったが、特に規制を設けていない事も
あって、舞は黒いポワントを履いていた。レッスンに支障がある訳では無かったので、指導者も口うるさくは言わなかったが、遂、数日前
までは、ごく普通の淡いピンクのバレエシューズやポワントを履いていたのだが、急に黒いシューズに換えた事を、皆、訝しんだ。
 換えたのはシューズだけではなかった。
 やはり、これも数日前まで着ていた、ピンクの半袖のレオタードも、キャミソールタイプの黒に変えていた。タイツだけが白だった。その為、
普段の舞の子供っぽさが消え、異様な妖艶さを匂わせていた。
 
 レッスン終了後、ロッカー室で舞を待っていたのは立山霞だった。
「舞、恋人が待ってるわよ」
 生徒の一人が舞をからかった。その後、少し小馬鹿にした様な笑いが起きた。霞はそれを睨み付けた。舞は少し顔を赤らめた。
「御主人様待ってるから、荷物持ってそのままの格好でいいから、早くして…」 
   霞に小声で告げられると、舞はロッカーの荷物を、着替えを全て無造作にバックに詰めて更衣室を後にした。
   行き先は科学準備室だった。
   そこに、小早川葉月は待っていた。彼女は顕微鏡を覗きながら、観察をしていた。ドアをノックする音に続き、霞の声。葉月は顕微鏡
から目を離し、観察する手を休めた。
「入りなさい。開いてるから」
   葉月の涼やかな声に応えるかの様にドアを開け、霞と舞が入って来た。舞は着替えを詰め込んだバックを抱え、レッスンのレオタード姿の
ままだった。霞は制服を着ていたが、水泳の練習後のせいか、髪が濡れていた。
「遅くなって、すみません。舞ったら、グズグズしてるもんだから…」
   葉月は咎め立てるでもなく、優しげな笑みを浮かべ、顕微鏡の後かたづけを始めた。
「別にそれ程遅くなくてよ。それに、遅い時間の方が好都合よ」
   顕微鏡やプレパラートを片付けた後、葉月は椅子を回し、霞と舞の方に体を向けた。腕と脚を組んで、優しげな笑みを二人に見せた。
だが、その笑みにはサディスティックな色合いが浮かんでいた。
「さあ、霞、舞、もっと寄りなさい」
   緊張し、震えながら、前に進む舞。後から霞が抱きかかえた。
「落ち着いて、力を抜いて…」
   後から霞に抱かれているからか、舞は安心したような表情を見せた。それを見て、葉月の顔から笑みが消えた。
「舞、脚を開きなさい」
   舞は言われるままに、少し脚を開いた。 すると葉月は組んでいた足を伸ばし、サンダルを落とし、爪先を舞の股間に軽く充てた。
 微かな喘ぎ声を舞は上げた。葉月は舞の股間に充てた爪先をゆっくりと動かし始めた。その動きに舞の喘ぎ声は同調していった。そして、
躰の方も少しずつ身悶えを始め、霞が背後から抱き抱えて抑えつけていた。
「あ、ああ…、ああ…、あ、ああ〜っ、あああぁぁっ」
   舞の喘ぎ声は次第に甲高く、大きくなっていった。
「霞!舞の声、大きいわよ!」
  葉月が小声でピシャリと言い放った。霞は舞の口を塞ぐ事を考えた。しかし、霞の両腕は舞の躰を抑えているので空いていなかった。すると
霞は舞の躰を捻り、自分の口を舞の口に押しつけた。舞は濁った、それでいて甘い呻き声を上げ始めた。
   葉月の表情がさらに険しくなり、残忍そうな笑みが浮かんだ。爪先を激しく動かし始め、舞も身悶えと喘ぎが激しくなっていった。
   絶頂を迎えた。
  舞の性器から愛液が溢れ出し、タイツとレオタードに染み出した。葉月の爪先まで濡れていた。
「霞。ストッキングが濡れちゃったわよ。拭いなさい」
   霞は跪き、葉月の爪先に唇を充て、舞の愛液を啜った。舌を出して舐めると、唾液でさらに濡れるので、乾いた唇を軽く充てて、愛液を啜り
取った。舞はそれを呆然と見ていた。すると葉月は舞を睨み、冷たい口調で言い放った。
「舞、何をボーッとしているの !?  着替えて先に車で待ってなさい」
   舞は無言で頷き、ロッカーを開けた。レオタードとタイツを脱ぎ、黒革のボンテージを自分で装着していった。
 
   すでに日が暮れており、暗闇の中、射るような小さな強い光が幾つも交錯する。
   一台の高級ワゴン車がヘッドライトの流れの真っ只中にいた。運転席には葉月が座り、助手席には霞が座っていた。葉月はブランド物の高
価なコートを、霞は学園指定のコートを着ていた。葉月は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、時折助手席と後部座席に目を移した。助手席の
霞は終始俯いたままだった。
   後部座席は、背もたれシートが倒され、広い空間になっていたが、そこには拘束状態で横たわる
舞の姿があった。両膝を折り曲げ、足の裏同士を合わせた状態で脚を180度開いた形で拘束され、性器とアナルにはバイヴが挿入されていた。
全身をほぼ黒革の拘束具で締め上げられた状態で、舞は頭を振り、悶えていた。荒い息で、ボールギャグでふさがれた口から濁った呻き声を、
絶え間なく上げ続けていた。目隠しのアイマスクから涙が、ボールギャグの隙間から涎が溢れ出す。霞は、そんな舞の痴態を横目でちらりと見ては、
顔を赤らめた。
「我慢できないの?」
   突然、霞に葉月が問いかけた。
「あ… !?  い、いいえ……」
   少々狼狽え気味の霞に、葉月は優しさと残忍さとが入り交じった笑みを見せた。
「いいのよ、正直に言って。コートの下のボンテージで締め上げられた躰が疼くんでしょ」
   霞は思わず両腕を胸元に引き寄せ、交差した手で胸を覆い、顔を真っ赤にして泣き出した。
   図星だった。実は霞のコートの下は殆ど後ろの舞と同じ状態だったからだ。四肢を拘束されていないのと、目隠しと猿轡をされていないのとの違い
くらいだった。しかも舞の責められている姿を見て、自分も欲情していた。それを葉月に見透かされていて、恥ずかしさに涙が止まらなかった。
「泣くことなくてよ。私だって、ほら…」
   葉月はコートの襟を少し開けて見せた。漆黒のエナメルのボンテージが見えた。
「もう少しで着くから、我慢してね」
   葉月はサディスティックな欲望を滲ませながらも、霞に優しげな笑みを見せた。
「あの……、ど、どこへ………… !? 」
   霞は小早川邸に向かっているにしては車を走らせている時間が長い事に気付き、訝しんだ。だが、霞の疑問と不安に葉月が答えるまでもなく、
目的地に到着した。
「着いたわよ。フフフ……」
   そこはホテルともマンションともつかない、不思議なビルだった。周囲を高い石垣で囲われ、石垣の上には木々が生い茂っていた。その木々に
隠れる様にそのビルは建っていた。周囲は都市の郊外、再開発地区らしく、民家は少ない。すでにあたりは真っ暗で、街灯の明かりは明るかった
が、民家が少ない分、それでも不気味だった。石垣の中央あたりに車二台分程の幅のあるシャッターがあり、完全に閉じられていた。葉月は車を
降り、シャッターレールの縁にある小さなボックスの蓋を開け、カードリーダーにカードを通した。するとけたたましい機械音と共にシャッターが開き始め、
葉月が車を中に入れると、シャッターは自動的に閉まり始めた。
  中は広々とした駐車場になっていて、しかも、一台あたりの駐車枠が意外と大きかった。大型の
乗用車が停められる様に設計されているらしく、実際、駐車している車は高級な車ばかりだった。霞と舞を降ろし、二人を引いて葉月はガラスの
自動ドアに向かった。その向こうには受付カウンターらしき場所があって、そこにはメイド服姿の、丁度美麗よりやや年上位の少女がいた。
「ようこそ。リリィ・プリズンへ」
「暫くぶりね。円ちゃん」
「覚えてて頂けて光栄ですわ。葉月女王様」
「今日は奴隷を二匹連れて来たんだけど…、私の部屋、用意出来てて?」
「はい。如何なる女王様方が、何時来られてもすぐに御使用出来ます様に、常に整理させて頂いております」
「有り難う。これからもお願いね」
「畏まりました。あの…、失礼ですが、そちらの御奴隷様二匹、初めてですよね」
「ええ、近頃奴隷にした娘達なの。宜しくね」
「では、今後とも御一緒に」
「そうさせて頂くわ」
  受付を済ませながらの会話の最後に、葉月は円という受付嬢に笑みを見せ、霞と舞を引き連れて、帳の奥に姿を消した。
「御主人様、ここは…」
   不安げな面持ちで霞が葉月に問いかけた。
「ここはね、“リリィ・プリズン―百合の牢獄”って言って、レズのサドマゾが集まる秘密のSMクラブなの。時々、Sの女王がMの奴隷少年を連れて
くる事もあるから、厳密なレズだけの場ではないけど」
   葉月は二人の拘束具を外し、四肢の枷を着け直しながら答えた。
「私はここの常連の会員でね。近々、女帝陛下にもお目通り願う様にするわ」
「じょ…女帝… !? 」
   二人の顔に、一層不安の色が増した。
「ここのオーナーでね、私なんか比べ物にならないサディストだから、貴方達、よがり死ぬまで責め尽くされるかも…。フフフ…」
   霞は葉月の残忍な眼差しに慄然とした。葉月以上のサディストの存在を、俄に信じられなかっただけでなく、葉月の眼差しが偽りでない事を
物語っていたので、その女帝陛下の嬲り物にされる自分の姿を想像出来なかったばかりか、したくもなかったからである。
  支度を終えた葉月は鞭を手に、二人の前に立ちはだかった。
「さあ、ここから先、奴隷は調教部屋まで二本足歩行は厳禁よ」
   軽く二人に鞭を当てた。悲鳴は上げなかったが、言われるがままに四つん這いになり、葉月は首輪の手綱を引いて、ロッカールームを後にした。
 
   幾つもの重々しい鉄扉が並ぶフロアの一角、広々としたロビーにあるテーブルを囲んで、ソファーに座って談笑している二人の婦人がいた。初老と
中年の上品な貴婦人風の女性達だったが、漆黒と深紅のボンテージに身を包み、時折、足下に跪いている沈んだ表情の少女と若い女性にピン
ヒールの踵を突き立てたりした。
   そこに葉月が霞と舞を引き連れて現れた。
「あら、お久しぶりね。葉月女王」
「ええ、ご無沙汰してましたわ。文子女王様に沙織女王様」
   葉月は二人の貴婦人と挨拶を交わした。女王としては、ここでは葉月は小娘扱いなのだろうか、二人の貴婦人に対し、葉月は“様”を付けて
呼んだ。だが、二人の貴婦人も、葉月を見下す風でもなく、結構気さくに会話を楽しんだ。
「ところで、そちらの奴隷は初めてよね」
「ええ、霞と舞と申します。今度、お貸ししますわ。それでは…」
   挨拶もそこそこに、葉月は二人を引いて調教部屋に向かった。 
   そこは正に別世界と言っても良かった。
   部屋そのものは、さして広くはなかったが、揃えてある責め具の数々は、小早川姉妹の持ってるそれらとは比べ物にならない数と質の良さだった。
「悔しいけど、女帝陛下の持ち物に比べたら、私の調教部屋なんか安物のオモチャだわ」
   それらを惜しげもなく、他の者に提供している、女帝陛下の度量の広さに、霞は驚かされた。
「さあ、折角女帝陛下に賜った調教部屋ですもの、思いっきり使わせていただきましょう。まず、舞。こちらにいらっしゃい」
   籐のチェアに脚を組んで座った葉月がまず、舞を呼んだ。
  その時、霞は舞の腕を取って自分の胸元に引き寄せ、しっかりと抱きしめた。
「何のつもり !?  霞。舞をこちらに寄こしなさい」
   静かながらも、葉月は厳しい口調で言い放った。しかし、霞はキリリとした眼差しで葉月を見据え、言い放った。
「舞は渡しません。舞は、私の舞はご主人様の物ではありません!」
   葉月の表情が殺気立った。チェアから立ち上がり、鞭を手に霞に歩み寄った。
「この期に及んで、まだ、この子を守るなんて事抜かすの !? この事は、もうケリがついてるのよ。舞は私の奴隷になったのよ。さあ、こっちに舞を渡し
なさい !! 」
「いやです !!  私の舞は私が守ります !! 」
   霞は後ずさりしながら言い切った。
「霞ちゃん…」
   霞の懐に抱かれた舞が呟いた。葉月は殺気立たせながらも笑みを浮かべ、手錠とロープを取り出した。霞は思わず生唾を飲んだ。
「そこまで言うなら上等だわ…。貴方に貴方の可愛い舞を守らせてあげる…」
   葉月は舞を抱き抱えたままの霞に手錠をかけ、手錠にロープを繋ぎ、それを二人にグルグル巻きにしていった。そして床に座らせ、霞の脚の内側に
舞がすっぽり収まる姿勢でロープを巻き付けた。霞は水泳をやってるだけあって、発育途上の年齢ながらも背が高く、ガッチリした筋肉質の躰をしていた。
一方舞はバレエをやってるためか、太るに太れなかった為、学年の中では一番背が低いばかりでなく、細い、華奢な体つきだった。その為、霞の懐と脚と
股にすっぽりと舞が入ってしまい、丁度霞の躰が舞を入れる籠の様になっていた。舞は霞の懐の中に蹲っていた。しかし、霞の中にいるという安心感故、
恐怖は感じなかった。
「さあ、覚悟なさい! 霞!」
   その一声と共に、鞭が空を切る音と肉を打つ音、霞の悲鳴とが同時に響いた。舞は思わず首を竦めた。激痛に霞の顔が歪んだ。ロープの下の霞の
背中の肌にはピンクの跡がついていた。一呼吸置いて、二打目の鞭が霞を襲った。この時は霞は歯を食いしばって、悲鳴を押し殺した。そして、また一呼吸
おいて三打目、四打目、五打目と、回を重ねていき、間隔も短くなり、遂には殆ど連続して鞭を打たれていった。
「アグッ !!  グウッ !!  ウグッ !! 」   霞は苦悶の表情を浮かべ、涙と脂汗を流しながら、必死でスパンキングを耐えた。舞は霞の懐で泣いていた。そして、居た
たまれず葉月に哀願した。
「もうやめて下さい! ご主人様! 私、貴方様の奴隷に喜んでなりますから、ですから霞ちゃんを助けて! もう、これ以上霞ちゃんを責めないで !! 」
   葉月の鞭が止まった。ところが、今度は霞の口から思わぬ言葉が出た。
「バカっ !!  誰のために、こんな辛い思いしてると思ってるのよっ !!  私はね、あんたが責められてる所なんか見たくないの !!  今でも、あんたを葉月様の奴隷に
なんかしたくないわよ !!  今度、自分から奴隷になるなんて言ってごらん !! このまま、あんたを締め潰すからねっ !! 」
「霞ちゃん……」
   霞に詰られ、舞は言葉を失った。そこへ葉月が寄り添って来て、舞に声をかけた。
「舞。霞の気持ちが解ったでしょ。貴方を奴隷にしたくないって気持ちが。貴方にはその気持ちに応える義務があるわ。霞が受けてる苦痛に遠慮なく
甘んじなさい」
   霞に惨い仕打ちをしてる人物の言葉とは思えない位、優しい言葉だった。その時の葉月の表情はとても優しげで暖かい笑顔だった。
「怖かったら泣いていいからね。大丈夫だから…」
   霞も少々引きつった笑顔で慰めた。そして、葉月は再び鞭を構えた。その時の葉月の表情は冷酷かつ残忍なものに変わっていた。
「霞。貴方には容赦しないわよ。貴方がそこまで言い切った以上、許しを乞うてもダメよ。どんなに泣きわめいても手を緩めないから、覚悟なさい!」
   葉月の鞭責めが再開した。再び鞭が空を切り、肉を打ち、霞が押し殺して濁った悲鳴を上げた。必死で歯を食いしばり、涙と脂汗を流しながら、肉を
切り裂く様な激痛に耐えた。鞭打つ音の間隔は次第に短く、速くなっていった。舞は霞の懐で、両手で耳を塞いで泣いていた。
(神様、霞ちゃんを助けて…。本当は私が霞ちゃんの代わり責められるべきなのに、霞ちゃんはそれを許さなかった…。こうして、霞ちゃんに助けられてる方が
辛いわ…。誰か、霞ちゃんを助けて…)
   舞の心の中の悲痛な想いとは裏腹に、葉月の鞭はエスカレートしていった。しかし、霞の悲鳴は止み、歪められてた表情が緩み始めた。そして、その
目つきは異常なまでに虚ろだった。
「舞……。コンクール、優勝……、おめでとう………」
   自分の懐に顔を埋めて、舞に笑顔で語りかけた。その目つきも笑顔も尋常ではなかった。
「し、しっかりして!霞ちゃん!」
   舞の励ましも空しく、霞は舞を抱いたまま、横に崩れた。
「か、霞ちゃぁーん! 助けてっ! 霞ちゃんが死んじゃうっ! 霞ちゃんがっ!霞ちゃん…」
   パニックになって泣き叫ぶ舞の声が遠ざかっていくのを意識しながら、霞は意識を失っていった。
 
(舞、あんなに小さかったんだ…。抱いてみて判った…。それに、とっても抱き心地良かった…)
   霞は夢見心地だった。葉月の鞭の苦痛よりも舞を抱いてる心地よさに酔いしれていた。
   火照る背中にヒンヤリとした感覚を覚え、意識を取り戻した。霞は鉄のフレーム剥き出しのベットにうつ伏せで寝かされ、手足を大きく開いた形で拘束
されていた。背中には濡れタオルと、幾つかの氷嚢が置かれていた。それらは霞の背中の熱を取り除いていき、痛みが和らぐ快感に浸っていた。だが、
意識が回復していくにつれ、霞は驚愕の光景を目の当たりにする事となった。
   霞の耳に舞の呻き声が聞こえて来た。この時、霞は意識を完全に回復させ、舞の姿を認識した。
   舞は全裸で椅子に鎖で、脚を180°開脚した状態で括りつけられていた。剥き出しにされた恥部に
太いバイヴがねじ込まれていた。アヌスにもアナルバイヴが挿入され、ボールギャグを咬まされた口から涎と濁った呻き声を出しながら、よがり、悶えていた。
恥部からも大量の粘液が溢れ出て、バイヴの駆動音と、舞の呻き声、鎖の軋む音がシンクロしていた。舞の目つきは虚ろになり、顔も紅潮していた。
   その有様を見て、霞は戦慄した。そして、突然狂ったかのように藻掻き、激しく手足の枷を引っ張った。霞が拘束されてるベットが悲鳴を上げた。当然、
霞も泣き叫んだ。
「や、やめてぇぇぇぇっ !!  舞を責めないでっ !!  嬲らないでっ !!  いやぁーっ !!  いやぁぁーっ !! 」
   霞が意識を取り戻した事に葉月が気付いた。
「お目覚めのようね。ご覧なさい。貴方の舞は、あんなにバイヴによがっているわよ…」
 横目で冷ややかに霞を見つめる葉月。霞はうつ伏せの状態から顔を捻って葉月を睨み付けた。
「酷い…。酷いよぉ…。私の舞にあんな事するなんて。私の気持ち、解ってくれた筈だったのに。私が舞を守りたいって気持ちを…」
「だったら、あの程度の鞭で気絶するんじゃないわよ。貴方がもう少し堪えられたら、貴方だけを責めるつもりだったんだけどね…」
   霞は言葉に詰まってしまった。
  確かに霞は気を失ってしまった以上、何も言えなかった。いくら舞を守りたいと言い張っても、気絶してしまっては、どうにもならなかった。結局は舞を
守れなかったのだ。
「でも、普段の鞭責めよりは遙かに耐えていたし、いつもならヒィヒィ泣きわめいて許しを乞うてたのに、舞が絡むと、悲鳴を押し殺して耐えられるの
ね……。見直したわ」
   葉月は霞を誉めたが、そんな誉め言葉は霞の慰めにはならなかった。
「その御褒美にいいこと教えてあげる。舞は貴方の奴隷になりたいんですって」
   霞は一瞬、我が耳を疑った。
   舞が自ら奴隷になることを承知しただけでなく、最も舞を奴隷にするのを嫌がっていた者の奴隷になりたいと言った事に疑問と憤りを感じた。
「う、嘘でしょ。舞…。あ…、あんたが私の奴隷になりたいだなんて、本気じゃないよね。嘘だよね…」
   霞は舞が葉月の言葉を否定するリアクションを期待していた。舞が自分から奴隷になる事を承諾するとは思いたくなかっただけでなく、あろう事か、
自分の奴隷になりたいだなんて、そんな事を言う筈がないと信じたかった。
   だが、その後の舞の態度と言動は霞の淡い期待を、大きくうち砕くものだった。
   舞は、涙が浮かぶ瞳で霞を睨み付けた。葉月に唾を吐いた時程の憎悪の色は無かったが、それでも舞が霞を睨んだのは、生まれて初めてだったと
言えるかもしれなかった。そして、舞はボールギャグの奥から濁った唸り声を上げた。
「何か言いたげね。舞」
   葉月は舞の口からボールギャグを外した。舞は唾液を飲み込み、霞に対し、自分の不満をぶつけ始めた。 
「ひ、酷いよ。霞ちゃん……。いくら、私を守る為だって、私をそっちのけで全部の苦しみを背負い込もうとして…」
   霞は当初、舞の本音が理解出来なかった。しかし、彼女の言葉を聞くうちに、彼女の想いが理解出来ていった。
「霞ちゃんが私が責められてるの見たくないなら、私だって霞ちゃんが責められてるの見たくないよ。
だけど、私達、二人して葉月様の虜にされちゃったのよ。もう、被虐の悦楽に染まってしまっているのに、霞ちゃんは私を置き去りにしちゃおうとして…」
   舞の瞳から涙がポロポロと流れ落ちた。それを見て霞は舞の気持ちを理解した。
「どうして、一緒に快楽の地獄に堕ちようって、言ってくれないの……? 私だけ置き去りにされるの、やだよぉ………」
   霞は言葉を失った。自分が守りたかった、被虐の悦楽地獄から救い出したかった少女が、自分と同じ運命を辿ることを望んでいた事にショックを
受けていた。
(私、舞の気持ち、判ってなかったんだ…)
   霞は目を背けた。舞のことを大事に想いながらも、舞の気持ちを蔑ろにしていた事に後ろめたさを感じていたからだった。
「お互い、相手の事を大事に想いながらも、想い過ぎたばかりにすれ違っていた様ね」
   葉月はバイヴのスイッチを切り、ハンカチで舞の涙を優しく拭いてやった。
「霞。今度は貴方が舞の気持ちに応える番よ。奴隷が奴隷を持つなんて滑稽だけど、貴方が私の奴隷である以上は、舞も私の奴隷になる事に
変わりはないから認めてあげる。どうなの? 霞…」
 霞は答に詰まった。舞が葉月や自分の奴隷になってまで、自分と同じ被虐の悦楽を共有する事を望んでいたからだった。目の前の甘ったれながらも
一途で純真な少女の気持ちを踏みにじりたくはなかったが、陵辱の生贄にもしたくなかった。
 そして、迷ったあげく、自分の気持ちに正直であることを選んだ。
「私……、舞が奴隷になる事……、絶対に認めない。私だろうと葉月様だろうと、何人たりとも舞を奴隷にする事を認めないし、舞が奴隷になりたい
なんて思う事すら許さない!」
 霞はキッと舞を見据えて言い放った。
 その時目が合っていた舞も、霞を睨み付け言い放った。
「何よ!  霞ちゃんの判らず屋!  意気地なし! 」
「なんですって!」
「だって、そうじゃないの! 私が奴隷になった姿を見届ける勇気がないから、私が奴隷になるのを嫌がっているんでしょ! だったら意気地なしの
臆病者よっ!」
「あ、あんたこそ、分からず屋の意気地なしの、臆病者よっ!」
「なっ、何て… !? 」
「元はと言えば、あんたが私のそばにいたいが為に、フランスから帰ってきたのが元凶じゃないの !!  自分にとってかけがえのないバレエを投げ捨てる
意気地なし! いつも私について回ろうとする甘ったれ!こっちの気持ちも判ろうとしない強情っぱり !! 」
 恐らく、生まれてこのかた、ただの一度もケンカをしたこともない、そしてこれから先もするとは思えない者同士のケンカだった。
   そこに葉月の荒っぽい仲裁が入った。
「ケンカ止めっ!」
   葉月は手早く、舞の乳首とラビアに安全ピンを刺した。
「ぎゃっ! 痛いっ! 痛いっ!」
   舞の表情が苦痛に歪んだ。そして、葉月の次の行為に恐怖の色を浮かべた。葉月は舞に止めた安全ピンに電極クリップを挟み、そのクリップのコ
ードはすぐ側の機械に繋がっていた。
「そ、それだけは… !! 」
   やや引きつった声で哀願する舞を無視して、葉月は機械のスイッチを入れた。すると、舞の乳首とラビアに電流が流れた。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ !!  ぎゃーっ !!  ぎゃーっ !! 」
   舞は気が狂わんばかりに絶叫し、激しく藻掻いた。感電して躰を痛めたり、火傷したりする程の強い電流ではなかったが、少女を痺れさせ、躰を
壊さない程度に苦痛を与えるには充分な強さだった。
「舞っ! 舞っ! 止めてーっ !!  舞が死んじゃうーっ !! 」
   ベットの上でうつ伏せに拘束されている霞が泣き叫んだ。すると今度は葉月は霞に手を掛けた。
「人の心配なんかしてられなくしてやるわ」
   冷たい口調で言いながら、葉月は霞の足首の枷を外し、下腹部を持ち上げた。霞は尻を突き出したポーズになった。
   次の瞬間、何かが霞の肛門に入ってきた。一瞬苦痛に霞の表情が歪み、小さな悲鳴を上げ、力が抜けたような表情で喘ぎ始めた。霞の肛門には
500tのグリセリンの瓶が突き立てられていた。瓶の口にはポリエチレン製の、浣腸器の様な特注の注入口が付けられていたが、それでも瓶から直接
グリセリンを入れられてる事には変わりなかった。
   霞にはこの後、もう一本のグリセリン、計1000t注ぎ込まれた。
   霞への浣腸を終えると、葉月は霞にアヌス栓を差し込み、元の姿勢に拘束し直した。霞はグリセリンで膨らんだ下腹部がベットのフレームで圧迫
されて、余計に苦しめられた。その間、葉月は床にビニールシートを敷き、電流責めに苦しめられていた舞から安全ピンと電極を外してやり、傷の
手当をしてやった。傷は大した事なかったが、舞は気絶していた。
   霞の方は限界に達していた。しかし、アヌス栓を挿入されているため自力での排泄が出来ず、激しい腹痛と便意に苛まれ続けていた。そんな霞を
焦らすかの様に、葉月は藤色の全身ラバースーツに着替え、ガスマスクも装着した。
   椅子に鎖で括りつけられた姿勢で項垂れて気絶している舞に、葉月は冷蔵庫から取り出したワインを無理矢理飲ませた。アルコールに咽せて咳き
込み、舞は意識を取り戻した。
「お目覚めのようね、お姫様…。フフフ…」
   皮肉混じりに葉月は舞をお姫様と呼んだ。そして、霞が横たわっているベットの縁に軽く腰掛け、舞と向かい合った。そして、葉月の手は霞のアヌス
栓に触れていた。
「舞。これから貴方の愛する霞の脱糞ショーを見せて上げる」
   一瞬、二人の顔が強張った。ガスマスクの下、葉月の瞳に残忍かつ冷酷な光が宿り、マスクのフィルター越しに掠れた声が聞こえてきた。
「貴方が奴隷になりたい者の惨めな姿を見届けなさい。こんな無様な姿の霞の奴隷になりたいのなら、貴方はそれを見届ける義務があるわ」
  霞と舞の表情が強張った。そして、霞は猛烈な便意と闘いながら、絞り出すような声を出した。
「み…、見ないで、舞…。見ないでッ!」
 すぐさま、葉月の手が霞の肛門にねじ込まれているアヌス栓に伸びた。
「さあ、舞! 貴方が愛する霞の恥ずかしい姿を、しっかり見届けるのよっ!」
「見ないで! 舞っ !!  見るなぁぁーっ !! 」 
   霞の絶叫と同時に、葉月は無造作にアヌス栓を抜き取り、霞の腰の上に座った。次の瞬間、霞の腹部に圧力が掛かり、肛門から大量の汚物が
異臭と濁った不快音を放ちながら噴出した。汚物は部屋中に散らばり、葉月のラバースーツにも付着した。 
   その様を舞は見なかった。涙を流しながら、固く目を閉じて、見ないようにしていた。
 葉月は立ち上がり、マスクを外しながら舞の所に、鞭を手にし、詰め寄った。
「どうして、見なかったの !? 」
 葉月は、舞の顎に鞭の柄の先端を突きつけた。
「だって…、霞ちゃんが…、見るなって…」 
   舞は、固く閉じた瞼から涙を溢れさせながら、葉月に答えた。
   葉月の表情に、怒りの色とサディズムの歓喜の色が浮かんだ。
「霞の言う事は聞けても、私の言う事は聞けないって言うの…?」
   葉月は、舞の顎に当てていた鞭の柄を、さらに押っつけた。その時、舞は頷いた。
   次の瞬間、葉月の鞭が舞を襲った。
   鞭が空を切る音、肌を打つ音、舞の悲鳴、半狂乱で泣き叫ぶ霞の声が、ほぼ、同時に起こった。
「ああっ !!  ああっ !! 」
「止めてぇっ !!  舞が、舞が死んじゃうっ !!  」
   白磁の様に白い舞の肌が、見る見るうちにピンク色に染まっていき、やがて、それは深紅の線も交える様になっていった。葉月の鞭の振るう音は、
次第に間隔が短くなっていった。しかし、舞の悲鳴は、それに反比例して、数が減っていった。鞭の一振りごとに苦痛に身を捩らせていた舞であったが、
動きも止まっていった。
   苦悶の表情で歪んだ、舞の表情が緩み始めた。最早、全身の間隔が無くなりつつあり、苦痛を通り越した後の快感に酔いしれかけていた。泣き
わめいて、葉月を詰る霞の叫びが遠のいていくのを感じながら、舞の意識は遠のいていった。
 
   舞が再び意識を取り戻した時、全身にヒンヤリとした感触を覚えた。何やら柔らかく、それでいて冷たく、濡れたモノが体中を這い回っていた。舞は
全裸で床に横たわっていて、首と四肢に填められた枷には鎖が繋がっており、その鎖の先端は何かが動いていて、ジャラジャラと音を立てていた。
   霞だった。
   霞も首と四肢に枷を填められ、その枷は鎖で舞のそれに繋げられていた。鎖に余裕があったので、ある程度自由に動けた。そして、霞は、時折
砕いた氷を口に入れ、冷えた舌で舞の傷を舐めていたのだった。舌で傷を冷やしてくれていた事を知った舞は、泣きながら霞を抱きしめ、今度は、
冷えた霞の舌を暖めるかの様に、キスをし、舌を絡めていった。
「霞ちゃん……、霞ちゃん……」
   舞はその華奢な肉体を、霞の筋肉質の躰に擦り込ますかの様に密着させていった。
「霞ちゃん。私、霞ちゃんの奴隷になるわ…。葉月様が許さなくとも…。そう、霞ちゃんの懐が私の牢獄…。霞ちゃんの手足に、私は拘束されるの…。
ずっと私を、霞ちゃんの懐に閉じこめて…」
「舞。まだ、そんな事言うの……。私は、私の舞を奴隷になんかしない…。例え何人たりとも…。だから、ずっと、私の懐にいなさい…。私の懐にいる
限りは、私が守ってあげるからね。だから、二度と奴隷になるなんて言わせない…」
   二人の、いや、二匹の幼い牝獣は、それぞれの肉体を互いに貪りあった。
   汚れた部屋を片づけ、シャワーを浴びていた葉月がバスローブを纏って、二人の前に立ちはだかった。二人は抱き合いながら、躰を起こし、座った
まま、葉月を見上げた。
「まあまあ、私をそっちのけで、二匹だけの世界に埋没しちゃって…」
   怒りはなかったが、やや、蚊帳の外に置かれた事に対しての嫉妬と退屈さを、葉月は覚えた。
   つまらなさそうな表情で、蝋燭を取り出し、火を着け、蝋がが充分に熔けるのを待った。熔けた頃、葉月の顔にサディスティックな笑みが戻り、突然、
蝋が二人の躰に振りまかれた。
   二人は思わず、悲鳴を上げた。
 
   後日。
 
   小早川家別邸にて。葉月はビデオを見ていた。映っているのは、バレエコンクールで「海賊」のヴァリアシオンを踊る舞の姿だった。舞は美希に
作らせた深紅のチュチュをひらひらと靡かせて、軽やかに踊っていた。
「とても上手ね。私、バレエの事は詳しくないから、難しい事は言えないけど、とても素敵だわ。そうよね。霞」
   ニッコリと微笑みながら、葉月は自分の股間に視線を移した。ソファーに腰掛ける葉月の股間に顔を埋めていたのは、全身を拘束具で拘束
された霞だった。黒革の猿轡を被せられ、辛うじて開けられた口の部分から舌を出し、葉月にクンニをさせられていた。霞は何時になく悲しげな瞳を
していた。
「舞を返してほしいのね。大丈夫よ。貴方が私をイかせる事が出来たら、返してあげるから。フフフ…」
   葉月は再び目線を変えた。今度は真横、やや上の方だった。そこにはビデオのチュチュと同じ姿の舞が、荒縄でがんじがらめに緊縛され、天井
から吊されていた。その華奢な躰に縄が食い込み、幾ら柔い躰とは言え、その辛さに涙が溢れていた。嗚咽は手拭いの猿轡に押さえつけられ、
濁った声しか出せずにいた。
「霞が私をイかせるまで、ブランコ遊びでもしましょうか」
   手元の縄を無造作に引っ張った。それは舞の腰に繋がっていた。
   天井から吊された舞が、激しく揺れた。
   その恐怖から、舞は思わず絶叫した。
   だが、猿轡の為に、悲鳴はかき消され、濁った呻き声にしかならなかった。
   天井から吊され、揺らされる舞を後目に、霞は一心不乱にクンニを続けた。








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