舞4章ファイナル

													
              			
     			

「いやあぁぁぁぁっ !! 」
 舞の悲鳴が暗闇に響いた。その悲鳴に驚いた葉月と睦月が目を覚まし、携帯用電気ランタンを
点けた。
「どうしたの !?  舞 !! 」
 自らの悲鳴で、舞も目を覚ましていた。電気ランタンの明かりが舞を照らした。ランタンを手
にした葉月が右から、睦月が左から舞を覗き込んだ。三人は三基の折り畳み式の簡易ベットを並
べて眠っていたのだった。ベットの上でシュラフに身を包んで横になっていた舞は、その
あどけない瞳をくるくるさせて、辺りを見回した。そして、漸く自分が忌まわしき地下室に監禁
されたままだった事を理解した。
「夢か……。でも、夢じゃないのね……」
 舞はため息を吐いた。葉月はランタンを点けっぱなしで手元のワゴンに置き、左手で頬杖を
突きながら、横になり、舞を見つめていた。
「夢を見ていたの……?」
「ええ……。とっても嫌らしい夢……。恥ずかしくて、淫らな夢……。思い出したくない夢……。
だけど、まだ、鮮烈に覚えている……」
 葉月は体を起こし、ベットに横座りになり、タバコに火を点けた。濃い緑色のシルクのネグリジェ
が少し乱れていた。
「忘れておしまいなさい…。そんな夢…」
「え…? 」
 葉月がタバコの煙を吐きながら言った。
「どんな夢か、粗方察しがつくわ。あれだけ責めまくって、嬲り尽くして、辱め続けたんですもの、
未だに霞との甘い百合の悦楽を夢に見れる方が、どうかしてるわ」
 舞の脳裏に、ここに監禁されてからの一部始終が浮かんできた。霞に見捨てられて、睦月と葉月に
犯され、熱蝋責めを受けた後、昼夜を問わず、休みなく責められ続けていたのだった。
「あれから、私…、どうしてたのかしら…?」
「ほぼ、丸一日眠っていたのよ。最後の電流責めで気を失ってね…。まぁ、無理もないわね。
あんたをここに監禁してから、二日半も不眠不休で責め続けたんだから。でも、初めてにしちゃ、
よく耐えたわねぇ。見直したわよ」
 左隣の睦月が話しかけた。シュラフから顔だけ出してる舞は、横目で睦月を見つめた。藤色の
シルクのパジャマを着た睦月が、横になりながら手を伸ばし、優しげに舞を撫でた。
 睦月の言う通り、舞はこの二日半、彼女らによって休み無く責め続けられていた。責める側
は二人で交代で休憩や仮眠をしながらだったが、責められる側は一人なのでまともに休ませ
て貰えなかった。入浴も食事も責めの一環だったので、気が休まらなかった。そして、到頭耐     
えられなくなり、失神してまい、そのまま今まで眠り続けてたのだった。
「正直な話、今度ばかりは奴隷を殺すかも知れないと思ったわ。深雪達も何度か死ぬかも知れ
ないと思ったけど、初めての責めで死なせるかも知れないと思ったのは、貴方が初めてよ」
 タバコの火を消しながら、葉月が衝撃的な話をした。
「こ…、ころ…… !? 」
 さすがに、舞も絶句した。葉月は今までの残虐行為が嘘のような、優しげな笑みを浮かべ、    
舞に覆い被さる様に上から舞の顔を見つめた。
「深雪達の時だって、"殺すつもりは…"は通らないと思ってるから、いつも覚悟はしてるのよ。    
でも、貴方は充分に耐えたわね。これは御褒美…、いや、お礼よ」
 そう言って、葉月は舞の唇に口づけした。舞のセカンド・キスはタバコの匂いがした。
「ヤニ臭い…」
 舞がそう呟くと葉月は苦笑いして答えた。
「調教が終わったら、霞の唇で清めて貰いなさい。もう少し、寝ましょうか」
   ランタンの明かりが消え、葉月は毛布にくるまった。
   暗闇に暫しの沈黙の時が流れた。
「眠れない…」
   舞が呟いた。
「あれだけ寝りゃあね…」
   隣で葉月が答えた。
「そうじゃなくて…、暑苦しい…」
   舞のその一言に、葉月は再びランタンを点けた。
「確かに、これじゃ暑いわよね」
    そう言って舞のシュラフのファスナーを開けた。シュラフ自体、安全ピンでマットに固定されて
いたので寝返りが出来ず、それで苦しかったせいもあったが、シュラフの下で、黒革のシュラフの様な
拘束具に全身をスッポリと覆われていたのが最大の原因だった。その拘束シュラフの
ベルトを一本ずつ解いていき、中を開くと、そこにはハーネスで直立不動状態で拘束された、舞の
裸身があった。
   葉月は舞の拘束を完全に解くと、彼女を抱き起こした。そして、汗を拭いてやり、風呂場に連れて
いった。その時、舞は自ら四つん這いになっていた。
   風呂場は、ホテル等に備え付けられている、トイレと洗面台が一体化したユニットバスで、二人が
入るには少々狭かったが、舞が小柄だったので大した苦にはならなかった。二人は湯に
身を沈めて気分を和らげた。特に舞は調教後、初めて安心しきった表情を浮かべた。
   葉月が舞を後から抱きかかえるような姿勢になり、舞は背中に葉月の乳房の柔らかな感触
を感じ、葉月は自分の懐にスッポリと収まってしまう少女の滑らかな肌触りを感じ、互いの感触の心地
よさに、ウットリとしていた。
    特に舞は、この風呂場で、あの蝋燭責めの後、シャワーで冷水を嫌と言うほど浴びせられ、
乱暴に蝋を洗い落とされ、蝋の熱さに苛まれた後の身を切る様な水の冷たさに泣き叫んだ、あの時が
嘘の様に思えた。そうしている間に、石鹸が溶けた湯の中で、葉月の手が舞の体を這い回る。
舞の体を擦り、汚れを落としていたのだが、ゆっくりとした優しげな手つきだったので、その手触りの
良さにすっかり気を許してしまっていた。
   葉月は葉月で、舞の素肌の肌触りの良さを愉しんでいた。
「あ……、ああ………」
 時折、性感帯を軽く刺激されて、舞は微かな喘ぎ声を上げた。
「どお…? 感じる?」
 葉月の優しげな声での問いかけに、舞は頷いた。そして、ポツリと葉月に問いかけた。
「先生…、先生は、どうして…、どうして残酷なのに、優しいの……? 」
 葉月は沈黙した。そして、舞のヴァキナに軽く指を入れ、喘いだ所で、逆に問うた。
「貴方は、どうして、甘ったれで泣き虫なのに、意志が強いのかしら…?」
 再び沈黙の時が流れた。

 風呂上がりの舞を待っていたのは、睦月が作った朝食だった。料理を並べて待っていた彼女は、
入れ替わる様に、風呂場に向かった。葉月は舞を椅子に軽く縛り付け、食卓に付かせると、自分も舞の
隣に座り、口移しで食事を与え始めた。地下に監禁されて以来、まともな食事は初めてだった。
それまでは流動食を強引に、塞がれた口にチューブを通して押し込まれていた。
確かに、飢える事は無かったが、当然、下痢と腹痛に苛まれ続けた。さらに、追い討ちを
掛ける様に、浣腸をされた。
 お腹の調子は、丸一日の睡眠で快復していた。舞は葉月と唇を重ねる度に頬を赤らめながら、
ゆっくりと咀嚼した。
 食事を終えると、葉月は舞に今日一日は調教を休むと告げた。
「誤解しないでね。貴方を自由にはしないから。今日一日、体の疲れを取りなさいって事よ」
   そう釘を刺すと、葉月は舞の首枷に長い鎖を繋ぎ、床の金具に接続した。
   そして、三人はそれぞれ別々の時間を過ごした。
   舞は簡単なバレエの基礎レッスンを始めた。
   睦月は美麗に教科書とノート、CDラジカセを持ってこさせ、CDを聴きながら勉強を始めた。
   葉月は、美麗に持って来させた学校の書類に目を通した。そして、携帯電話で学校に電話
を入れた。相手は葉月の後輩の副担任だった。
「もしもし。高橋君? 小早川よ。どうも、有り難う。で、学校の方は…、ん……、判ったわ…。で、
進路指導の…」
   電話越しの仕事の打ち合わせが続いた。
「そう…。有り難うね。来週の月曜からは出れるから…、え…? かす…、立山さんが…? 判ったわ…。
私の方からも電話してみるわ。じゃあね…」
   葉月は霞の話題の所で声のトーンを落としたので、舞に気付かれなかった。先程まで使用していた
バスルームに場所を移し、中のトイレの便座に座り、再び携帯電話を入れた。

   とある商店街の一画に、その店はあった。聖マリアンヌファレス女学園女子寮にほど近い、
この商店街は半ば聖マリアンヌファレスの生徒達の憩いの場でもあった。良家のお嬢様達が多い
聖マリアンヌの生徒達が好む、高級ブランドの店が立ち並ぶ一方で、昔ながらの庶民的な匂いを
維持していた。庶民的な気さくさが、そういう空気に触れずに育った少女達には新鮮だったからだろう。
商店街の中心部、日当たりの良い広場は、ちょっとした公園になっていた。
   立山深雪と田中あずさはベンチに座り、目の前のクレクレタコ屋のたこ焼きを手にしていた。
   が、二人とも暗く沈んだ表情を浮かべ、折角のたこ焼きも、喉を通らなかった。
「舞ちゃん…、このたこ焼き、気に入ってくれたんやけど…」
   あずさが深雪に呟いた。そう。二人とも、舞を救えなかった事が引っ掛かっていたのだ。特に
あずさは、普段の陽気さからは考えられない位、悲しげな色を浮かべていた。葉月達に責めら
れても、決して根を上げず、屈する事の無い心身の持ち主であったあずさも、舞の事は非常に堪えて
いたのだ。
「あずちゃん…。これ以上、自分を責めるのは、体…、いや、心にも毒よ…。もう、舞ちゃんの事、
諦めて頂戴…」
   突然、あずさはたこ焼きを頬張り始めた。そして、租借しながら、大粒の涙をポロポロと流し    
始めた。烏龍茶で流し込み、口の中が空になった所で、再び、呟き始めた。
「舞ちゃん…、今頃、葉月らに、酷い目に合わされてんのやろなぁ…。可哀想な舞ちゃん…。
うち…、あのまま葉月んちのドア、蹴破って、舞ちゃん連れ出しておけば良かったんや…」
   深雪は、自責の念に押し潰されそうなあずさを見るのは初めてだった。自分の巻き添えで
葉月達の手に掛かった時以上に、深雪は心を痛めた。
「あずちゃんのせいじゃないわ…。確かに、あの子には可哀想だけど、ハッキリ言って、あの子の
自業自得だわ…」
    その一言に、あずさは涙目で深雪を睨み付けた。
「何で、そこまで言えるねん !!  そんな薄情もんやったんか !?  深雪ちゃんは…」
    それに対し、深雪は冷静かつ、毅然とした表情で答えた。
「そうよ…。私、本当は、あの方々よりも冷酷な人間なのかも知れないわ…。今の私にとって、
これ以上霞やあずちゃんを辛い目に合わせない事が先決よ。その為だったら、舞ちゃんをも見捨てるわ」
    あずさは押し黙ってしまった。本気で舞を見捨てる訳ではないことを読み取っても、舞の件で
深雪が全ての泥を被るつもりなのを察すると、もう、何も言えなかった。
    あずさは諦めざるを得なかった。
    そこに、深雪の携帯の着メロが鳴った。アドレスから葉月からだと知ると、深雪はベンチから離れて
電話に出た。
「もしもし。深雪です」
〈葉月よ。ご機嫌、いかが?〉
「最悪ですわ」
   深雪は険しい表情と、きつい口調で葉月と会話していた。
〈副担の高橋君から聞いたんだけど、霞、学校休んでるんですって?〉
「ええ、あれ以来、ずっと休んでるんです。あの子、舞ちゃんの事がショックで、ずっと泣きっぱなし
なんです!  殆ど食事らしい食事も取らないで。あんな、辛そうなあの子を見るの、もう嫌ですわ」
〈そうだったの…〉
   深雪の表情は、怒りに満ちた物に少しずつ変化していった。
「そればかりじゃありません。あずちゃんだって、自責の念に押し潰されそうなんです。私…、
自分の事で貴方方を恨む気はないですけど、今回の件…、舞ちゃんに手を出した事だけは、
許せませんわ!」
   深雪は葉月の逆鱗に触れるのを覚悟の上で言い切った。もしかしたら、後日、この電話の
事で葉月に責められるかも知れないと思った。電話の向こうで、怒りの形相を浮かべる葉月の姿が、
深雪の脳裏に浮かんだ。
   ところが、当の葉月は少々悲しげな色を浮かべ、優しそうな笑顔で口を開いた。
「そうね…。確かに、貴方が怒るのも当然よね…」
〈はぁ…?〉
   深雪が拍子抜けした声を上げた。
「霞やあずさには可哀想な事したわね…。深雪。霞に伝えてほしいんだけど…」
   深雪は葉月の言葉に聞き入った。
   自宅に帰った深雪は、真っ直ぐ霞の部屋に入った。そこには、ベットの上で布団にくるまる
霞の姿があった。朝、深雪が作っておいたおじやも、手つかずで机に置かれたままだった。
   微かに布団が揺れた。深雪は霞に声を掛けた。
「霞。先生ね、来週の月曜日には出てこれるそうよ。それまでには舞ちゃんの調教済ませる
そうだから、仕上がったら見に来いですって…」
   深雪が冷えたおじやを下げようとした時、布団の中から霞がぼそりと返事をした。
「行きたくない…」
   深雪の手が止まった。さらに霞の声が続いた。
「奴隷にされた舞なんか、見たくない…」
   さすがに深雪も我慢ならずに、霞に叱りつけた。
「いい加減にしなさいよ! あんたは、奴隷にされた舞ちゃんを見捨てる気? 本当に舞ちゃん
の事、好きだったら、あの方の奴隷であろうと無かろうと、関係ないはずよ」
   突然起きた霞は、枕を深雪に投げつけた。この三、四日程、ろくすっぽ食事も取らずに布団
にくるまって泣き伏せていたので、窶れて、蒼白い顔をしていた。目の回りには隅が出来ており、
腫れぼったかった。
「さっさと舞を諦めた、お姉ちゃんに何が判るって言うのよっ !! 」
   霞は涙を浮かべて、姉を睨み付けた。深雪は毅然して、霞に答えた。
「そう…。確かに、私はいち早く舞ちゃんを救う事を諦めたわ…。あずちゃんは最後の最後まで
食らい付いたけど、最終的には無駄だった…。後、私達に出来る事と言えば、私達と同じ道を辿ろうと
している舞ちゃんを見守る事だけ…。心から舞ちゃんを愛しているのなら、霞、あんたには、
奴隷にされた舞ちゃんを見届ける義務があるわ」
   深雪は、妹に言い聞かせている自分が、いかに葉月達以上に冷酷かつ残酷な人間である
かと思った。妹に、最愛の親友の、最も見たくない姿を見届けろと言う。しかも、数日前まで、
そんな姿は見たくないが為に、親友と喧嘩までして、守ろうした。だが、それも無駄に終わった。
そうなった途端、今度はその、守れなかった親友のなれの果てを見届けろと…。
   しかし、霞もまた、もう、何も言えなかった。何故なら、この期に及んでは、深雪の言う通りに
するしか無かったからだ。しかも霞自身、舞を守れなかった事と、葉月に啖呵を切っておきながら、
最終的に葉月に這い蹲った事に対する負い目があった。
「もう、あの子に意地悪しなくて済むのよ…」
   深雪は普段の優しげな笑顔を再び見せた。

   翌日の朝。
   葉月達は地下室に籠もって、四日目の朝を迎えていた。いや、全く日の射さない、この地下室では、
最早、時間の感覚が麻痺していた。持ち込まれた時計、ラジオやテレビ、そういった
無機的な時間経過でしか、時間を知る由が無かった。特に、彼女らに調教されている舞は、時
間の経過という物については、何ら意味を持たなくなっていた。何故なら、調教が進行するに
連れて、自分が次第にマゾ奴隷にされていくのを自覚するようになりつつあり、そして、自分に
この先待っているのは、霞達と同じ運命だという事が見えていたからだった。
   舞は黒革のボンテージに身を包んでいた。黒の網タイツと腿まである編み上げブーツのピンヒールを
履かされ、コルセットと貞操帯が一体化した様な、革製の拘束レオタードを着せられていた。
腕には薄い革の長手袋を履かされ、髪も左右にシニョンを二つ結われ、お団子に革のシニョンカバーを
被せられていた。首と手足には、それぞれ枷が填められ、長い鎖が繋げられていた。
ボンテージに覆われていない、顔、肩から胸に掛けての、露出した肌がボンテージの黒に映えて、
異様に白かった。普段から色白な舞だったが、ここに監禁されてから、全く陽に当たってないせいか、
異様に白かった。いや、白かったのは、ただ、陽に当たってないせいだけではなかった。
   舞は睦月に化粧を施されていた。
   顔ばかりでなく、肩から胸、背中にかけて、白いファンデーションを塗られていたのだった。
  エボニー(眉ペンシル)とマスカラによってくっきりと描かれた眉とアイラインは、漆黒の髪と共に、
白磁の如き肌に映えていた。全身白と黒に統一された中、瞼の青いアイシャドーと深紅のルージュが、
舞の表情を妖しくさせた。そこには普段の舞の、中学二年生らしからぬ子供っぽさは微塵も無かった。
異様なまでの妖艶さだった。
   これには小早川姉妹も予想外だったらしく、慄然としながらも、彼女らのサディスティックな願望を
一層掻き立てた。
「驚いたわね…。奴隷化粧してあげたら、こうなったのよ…」
「本当に、あの舞なの… !? 」
   緊張し、少し不安げな面持ちで葉月達を見上げながら跪く舞を、葉月達はボンテージに身を包み、
立ちはだかって見下ろしていた。そして、満足げな笑みを浮かべていた。
   葉月が乗馬鞭を手に、舞に話し始めた。
「舞。これから貴方の調教の、最後の仕上げを始めるんだけど、その前に、貴方の本当の気持ちを確かめ
させてもらうわ。いいわね」
   目が合う二人。頷く舞。
   突然、葉月は舞の目の前に、沢山の鍵を纏めた鍵束を投げた。舞はそれを手に取った。
「貴方に二つの選択肢を与えて上げる。その鍵束には、貴方のそれぞれの枷と枷と鎖を繋げている南京錠の
鍵が全て揃っているわ。それだけじゃなく、この地下室の入り口の鍵も纏めてあるの」
   鍵束を見つめる舞。さらに葉月は言葉を続ける。
「もし、貴方が私達の奴隷になるのが嫌なら、その鍵で枷を外して、ここから出て行きなさい。
それで貴方の調教は、ここで終了よ…。そのまま、北海道かフランスに戻りなさい。霞達は貴方を奴隷に
するのを、今でも嫌がっているわ…。今なら…、辱められた傷は簡単には癒えない
けど、引き返せるわ。奴隷にならなくて済むわよ」
   鍵束を無言で見続ける舞。
「逆に、私達の…」
   葉月が言葉を続けようとした、その時。舞は突然、持っていた鍵束を地下室の隅に投げつけた。
金属音が地下室に響いた。少し驚いた表情で、葉月は投げられた鍵束に目を向けた。そして直ぐさま舞に
視線を戻したが、その時、初めて舞に怒りの色を浮かべた表情を見せた。舞に唾を吐かれた時でさえ、
怒りの色は見せなかった。だが、この舞の態度に、葉月は怒りを覚えていた。
「貴方…、どういうつもりなの…? 本来なら、貴方に考える時間を与えるつもりだった…。もし、
貴方が鍵で拘束を解いて、ここを後にしても、それはそれで貴方の最終判断だから、私達はそれを
尊重するつもりだった…。貴方の手から、私の手に鍵を戻して、貴方の全てを私達に委ねる意思表示を
させるつもりだったんだけど…」
   葉月は舞が投げた鍵束を拾いに行きながら、静かな口調で話しかけた。そして、鍵束を睦月に預けると、
舞の目の前に立ち、履いていたピンヒールのヒールを舞の腿に突き立てた。思
わず、舞は軽い悲鳴を上げた。
「それを貴方は、考える事もせず迷う事なく、部屋の隅に投げ飛ばした。もう少し、丁寧な態度だったら、
調教の仕方を考えても良かったんだけど、ああまで私達を愚弄して、霞達の気持ちを踏みにじるってんなら…」
   踵を舞に突き立てたピンヒールをそのまま肩に持って行き、そのまま、舞を蹴り、押し倒した。
舞は悲鳴を上げて倒れた。
「貴方には罰が必要ね! もう、昨日の様な優しい態度は取らないから、覚悟なさい!」
   舞は床に伏せっていた。
「いつまで床に伏せてるの !?  さあ、元の姿勢に戻りなさい !!  そこに直りなさい !! 」
   舞は体を起こし、再び跪く姿勢に戻った。葉月は舞の首輪に繋がる鎖を掴み、自分の胸元に引き上げた。
舞は立ち上がらざるを得なくなり、葉月と顔が接近した。冷酷そうな笑みを浮かべ、葉月は再度舞を問い質した。
「もう一度聞くわよ。舞。本気で私達の奴隷になる気?
 なったが最後、もう、この悦楽地獄から二度と逃れられなくなるわよ。この地獄はここの外、普通の生活を
してても付きまとうわよ。本当にそれでもいいの?」
 この問いに対し、舞は瞳を潤ませながら答えた。
「わ、私にとっては、霞ちゃんと離れ離れになってる方が地獄だわ」
 葉月に怒りの色が消えた。睦月から鍵を受け取り鎖を外し、四肢の枷を別の鎖に繋ぎ直した。
それらは床や天井際の壁に繋がっていた為、舞の体は×印状に手足を伸び切らせた形に固定された。
 そして、舞の正面に葉月、背後に睦月が、それぞれ鞭を構えた。舞は緊張した面持ちを見せ、微かに震えていたが、
これから始まる責めに対して、恐怖の色を見せなかった。
「貴方、霞の気持ち、判ってて?」
 この葉月の一言の直後、葉月の鞭が舞の腿を襲った。舞は濁った悲鳴を上げて頷いた。
「霞は貴方を奴隷にしたくなかったのよ」
  後から睦月の鞭が、舞のお尻を打ち据える。再び、舞は悲鳴を上げた。
「それなのに、貴方は奴隷になる事を選んだ。霞と離れ離れになりたくないが為に。つまり、貴方は、
自分の事しか考えてないのね…」
「は…、はい…。ま、舞は…、自分の事しか考えてない、悪い子です…。霞ちゃんの気持ち…、深雪お姉さんの
気持ち…、あずさお姉さんの気持ちを裏切り続けた、いけない子です…」
 葉月の問いに、舞は苦悶の表情を浮かべながら答えた。葉月は冷酷そうな笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「フフッ…、自分の事が判っている様ね」
「はい…。ですから…、舞に罰を与えて下さい。舞を罰して下さい!」
「お望み通り、罰して上げるわ!」
 葉月の鞭が振り下ろされた。
 鞭が空を切る音。
 鞭が舞の肉を打つ音。
 舞の悲鳴。これらが同時に発せられた。
「この変態っ!」
 後から睦月の罵声と鞭が飛んだ。
「ああっ! ま、舞は変態ですっ!」
 悲鳴を上げながら、舞は睦月の罵声に答えた。
「この淫売っ!」
「あううっ! 舞は淫売ですっ!」
 前からの葉月の罵声と鞭に、舞は答えた。
「この牝豚っ!」
「ああーっ! そうです !!  舞は牝豚ですっ !! 」
「この痩せ豚っ !! 」
「あああっっ !!  舞は…、舞は痩せ豚ですっ !! 」
「牝犬っ !!  マゾ犬っ !!  発情犬っ !! 」
「あっ !!  あっ !!  ああっ !!  そうですっ !!  舞は牝犬ですっ !!  マゾ犬ですっ !!  発情犬ですっ !!」
 激しい鞭打ちの最中、葉月達は舞の人格をも貶める言葉ばかりを並べ立て、罵声で舞を蹂躙した。
だが、舞は葉月達の、自分に対する言葉の陵辱を肯定するかの様に答えた。
 葉月の手が止まる。舞は苦しげに体を捩らせ、苦悶の表情を浮かべ、脂汗をかき始めた。
「私が淫売と言えば、淫売だと言い…、マゾ犬と言えば、マゾ犬だと言う…。そこまで自分を卑下してまで、
霞と一緒にいたいの…?」
 葉月は手にしていた鞭の柄で舞の顎を持ち上げた。項垂れていた舞が顔を上げると、頬には涙で溶けたマスカラが、
流れた跡があった。
「は…、はい…。私…、霞ちゃんを愛してるの…。ずっと、側にいたいの…。その為だったら、
淫売にも、牝豚にもなります。ですから、どうか私を貶めて下さい!」
   乱れた息で、舞は訴えた。葉月は別の鞭を持って来て、身構えた。
「お望み通り、貴方をマゾ豚にして上げる。覚悟なさい」
「はい、お願いします…」
   再び、葉月達の鞭が乱れ飛んだ。鞭が空を切る音と、舞の肉を打つ音、舞の悲鳴と喘ぎ声が地下室に響いた。
「この淫乱豚っ !!  マゾ豚っ !!  発情豚っ !! 」
「ああっ !!  もっと言って !!  もっとぶって !! 」
「淫乱っ !!  阿婆擦れっ !!  獣っ !! 」
「もっと !!  もっと詰ってっ !!  もっともっと責めてぇっ !! 」
   正に狂気に満ちた光景だった。しかし、鞭責めを開始した当初は、葉月達は手加減して押さえ気味に鞭を振るっていた。
数日前、舞に初めての鞭を浴びせかけた時、あまりにも激しく打ち続けた為、舞は半狂乱になって苦しみ、泣き叫んだ。
初めての鞭の痛みが激しかったのを体で覚えていたので、押さえ気味に打たれている今度は、程良い刺激になっていた。
それから少しずつ、数日前の激しさに戻していった。その時には舞は鞭の痛みに慣れて来ており、苦痛から快感へと
変容していった。
「あ…、ああ……、あうう……、ああうう……、うううう………」
  突然、舞の膝が崩れ、腰を落とした。両手首を鎖で吊されていたため、床に倒れ伏す事は無かったが、力なく項垂れる
だけだった。顔は汗と涙と涎で濡れ、微かに痙攣を起こしていた。
股間からも何やら液が垂れ、葉月は当初、失禁したと思っていた。しかし、液の臭いを嗅いで、尿でない事を確認した。
「あらあら、鞭だけでイっちゃうなんて…」
「も、もっと…、もっと、やって…」
   再び葉月の鞭が飛んだ。激しさは一層激しさを増していった。
「ああっ !!  ああっ !!  もっとっ !!  もっと苛めてっ !!  もっと嬲って !! 」
いつ果てるか知れない、スパンキングの嵐。舞は身を捩らせながら悶え、被虐の悦楽に呑
まれ、沈んでいった。

 地下室に通じる扉が開き、葉月が出てきた。睦月も続いた。彼女達は一週間ぶりの日光に
心地よい眩しさを感じた。
「んーっ、眩しい…」
「ホント…、一週間ぶりですものね」
 入り口の前には美麗が出迎えていた。
「おはよ…、いっ !? 」
 挨拶をしようとした美麗だったが、葉月の足元を見た時、絶句した。
 そこには深紅のラバーに覆われた、人の形の物体が四つん這いになっていた。頭から手足の先まで一体化した全身ラバースーツで、
頭のマスク部分は目隠しと猿轡がベルトで着けられていた。後頭部のファスナーの上には長い髪を出す穴があるらしく、そこには
シニョンカバーが被せられていた。両手の部分には指が無く、ゴムの中では拳を握った状態だった。そして、手首、二の腕に黒革の
枷が填められていた。脚の方には、腿と足首に枷が填められており、さらにスーツ自体がピンヒールと一体になっていた。が、その
ヒールは伸ばした爪先よりも長い為、立って歩く事は不可能だった。腰には黒い合皮のコルセットが、首には鞭打ち治療用のギプスを
思わせる幅広の首輪が填められていた。それぞれの枷が鎖で繋がっており、首輪には手綱が繋がれ、それは葉月に握られていた。
アヌスの位置からはゴムチューブが伸びていて、その先端にはゴムポンプが睦月の手中に握られていた。
「お嬢様…、これは…」
 美麗は目を丸くして訊ねた。葉月は冷酷な笑みを浮かべ、答えた。
「いいでしょ。奴隷人形"MAI"よ。さあ、来るのよ。MAI」
「んぐうぅっ!」
 葉月が無造作に手綱を引くと、そのゴムの人の形は、泣きそうな呻き声を上げて、よろめい
た。そして、必死で四つん這いで葉月の後をついていった。時折、後で睦月がゴムポンプでエアーを送るたびに、苦しげな呻き声を上げ、
お尻を振った。
 美麗はその光景を強張った表情で見送った。
 それから数時間後。
 霞は葉月のマンションを訊ねた。朝、いつものマンションに指定時刻に来る様、電話があったのだ。合い鍵でドアを開け、
沈んだ面持ちで足を踏み入れた。そこには、覚悟していたとは言え、正視に耐えがたい光景があった。
「フフフ、クンニは上手。フェラも上手」
 居間の中央、椅子に座った睦月は舞にクンニリングスとフェラチオをやらせていた。睦月の二つの性器と舞の唇と舌の粘液が、
それぞれ絡み合う音を立てる。やがて、睦月は絶頂を迎え、双方の液が噴出し、舞の顔を濡らした。
「あうぅ…、う…、うう…、ん? か、霞ちゃん!」
   舞も、霞の存在に気付いた。霞は泣きながら、舞の痴態を見つめていた。
「見ないで!  霞ちゃん!  ああっ !!  あぐっ !! 」
   突然、舞は床に伏して、身を捩らせて悶え始めた。
「ま、舞っ !! 」
   霞は舞の側に駆け寄ろうとした。が、後から誰かが止めた。葉月だった。手にはバイヴのリモコンが握られていた。
「見なさい。あれが舞の本当の姿よ」
   舞は股間に装着されたT字バンドの、ヴァキナとアヌスの辺りを激しくさすった。脚をばたつかせ、腰を揺さぶり、
苦悶の表情を浮かべ、のたうち回った。最初のうちは、悲鳴に近かった喘ぎ声も、次第に甘美な物に変わっていき、
悶え方も苦しげなものから淫らなものへと変わっていった。股間を押さえていた手は次第に全身を撫で回し、すでに苦悶の表情も消え、
悦楽に酔いしれた表情になっていた。
   霞はその光景を泣きながら目の当たりにしていたが、葉月の胸を軽く何度も叩き、縋り付くように訴えた。
「先生のバカバカ…。何で舞をこんなにしちゃったのよぉ。返して。私の舞を返してよぉぉ…」
   後は葉月の胸で子供の様に泣きじゃくるばかりだった。葉月は穏やかな笑みを浮かべ、霞を自分の懐に優しく包んだ。

   翌日。
   舞は再び、日常に戻された。だが、その日常は数日前までとは、何かが違っていた。
前にも増して、舞は甘ったれになった。霞は勿論、深雪かあずさか、常に三人のうちの誰かに
くっついて回った。殆ど、三人の"金魚のフン"と言っても良かった。だが、霞達は霞達で、舞を
突き放すどころか、積極的に引っ張り回した。つい最近までの冷淡ぶりからの180度方向転換
ぶりに、周囲は訝しんだ。
   そんなある日。
   午前の授業の中休み。舞は職員室に葉月を訊ねた。
「あら、諏訪さん。何か御用?」
   涼やかな笑みを浮かべる葉月に対し、舞は沈んだ面持ちだった。少々青ざめてはいたが、
その割には頬が少し紅潮していた。
「先生にお話があるんですが…、ここじゃ……」
   もじもじと口を開く舞。葉月は整理していた書類を閉じて、席を立った。
「いいわ。場所を変えましょう」
   ここは科学準備室。科学の様々な教材や標本が並んでいた。ここの管理は葉月が担当していたので、殆ど葉月の個室に近かった。
事実、部屋の奥には葉月の机があり、ちょっとした個人の研究室になっていた。
   部屋に鍵を掛け、二人っきりになると、葉月は椅子に腰掛け、舞に言った。
「話って、何かしら? 大方、察しはつくけど。ウフフ…」
   焦らす様な葉月に、舞は涙目で訴えた。
「お願いです……。外して下さい……」
   舞は制服のスカートとスリップを捲り上げた。下にはバレエのタイツを履いていたのだが、それには貞操帯のラインがくっきりと
浮かんでいた。
「これじゃ…、バレエのレッスン…、出来ません…」
   今にも泣き出しそうな舞に、葉月は優しげな笑顔を見せた。だが、その直後の言動は、その笑顔とは大きくかけ離れた、
残酷なものだった。
「いいわよ。貴方のお口で、私をイかせる事が出来たら、外して上げる」
   そう言って、パンティを降ろし、大きく股を開いた。舞は嗚咽しながら、跪き、葉月の股間に顔を埋めていった。










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