その日の朝、立山深雪は田中あずさと廊下で談笑していた。
            そこに通り掛かった、一人の少女に目が止まった。
         「ま、舞ちゃん? 諏訪さんちの舞ちゃんじゃなくて? 」
            声を掛けられた少女は深雪の方を向いた。中等部の制服を纏ってはいたが、背丈は低く、初等
         部の六年生位にしか見えなかった。さらに細くしなやかな体つきをしていて、透き通るような色白
         の肌をしており、後頭部にシニヨンを結って纏め上げた、漆黒の髪と、栗色の、よく輝く瞳が映えて
         いた。少女の方も深雪に気が付き、笑顔で応えた。
         「深雪お姉さん !! 」
         「やっぱり、舞ちゃんだ! 久しぶりっ! 元気してた? いつ、フランスから?」
         「先週の金曜よ。そのまま、再編入手続きしたの。 それでね、霞ちゃんと同じクラスになったの」
         「そう。良かったわね。また、霞と仲良くしてあげてね」
         「はい」
         「あ…、あの…、深雪ちゃん…、この子…」
            そこへあずさが口を挟む。
         「あ、あずちゃんに紹介するわ。この子、諏訪舞ちゃんって言って、昔、近所に住んでた、霞の幼な
         じみよ。初等部四年の時に、フランスにバレエ留学に行ったんだけど、今度、うちの学園にバレエ
         専科が出来たから、それで戻って来たの。で、舞ちゃん。このお姉さん、私のお友達で、バレーボ
         ール部のエース、田中あずささんっていうの。とってもいい人だから、仲良くしてね」
            深雪が互いを紹介すると、二人は互いに挨拶を交わした。
         「初めまして、田中先輩。私、諏訪舞と言います。よろしくお願いします」
         「こっちも、よろしゅうな。田中あずさや」
            ぶっきらぼうに頭を下げるあずさに対し、舞はバレエのレヴェランス(お辞儀)を見せた。その仕草
         がとても可愛らしかった。
         「舞ちゃん、確か、寮に入るんだったわよね。何かあったら、あずささんに相談するといいわ。で、
         あずちゃん、この子の事、お願いね」
         「ええよ。まかしとき」
            舞が立ち去った後、深雪はあずさの顔が深刻そうだったのに気が付いた。
         「どうしたの? 何か気になる事でも?」
         「大ありや。あの子、霞ちゃんの幼なじみやろ…。気になるのは、葉月の事や…」
            その一言で、深雪の表情が曇った。
            放課後。
            聖マリアンヌファレス女学園の室内プールに、立山霞はぼんやりと浮いていた。天井を見つめ、
         何か、想いに耽っていた。時折、人差し指で唇をなで回す仕草を見せる以外は、ただ、黙って浮か
         んでいた。
            が、突然、彼女は泳ぎ始めた。何かを吹っ切るかの様に、一心不乱に泳ぎ続けた。二、三回程
         ターンをした時、隣のレーンで誰かが飛び込む音がした。いつの間にか、霞との競争になった。二
         人共、何メートル泳いだか判らなくなる程、ターンを繰り返した。先に根を上げたのは霞の方だった。
         最後のゴールで遂に力尽き、取っ手に掴まり、ゼィゼィと息をした。苦しげな息を整えながら、隣の
         レーンに目を向けると、隣も泳ぎを止めていた。そこにいたのは小早川葉月だった。
         「せ、先生 !? 」
         「参ったわ。いい泳ぎっぷりだったわよ。随分集中していたみたいだし」
            笑顔で語りかける葉月に対し、霞はよそよそしく、プールから上がろうとした。すると、葉月は霞
         の腕を掴んで、プールの中に引きずり込んだ。大きな水音が響き、水飛沫が飛び散る。次の瞬間、
         霞は葉月に抱きかかえられており、股間と乳房を鷲掴みにされていた。
         「折角、誉めて上げたのに、何なの?」
         「ご、御免なさい…、あ…」
            葉月の指が水着越しに、霞の性器に食い込んできた。
         「本当なら、今の態度は許せないけど、目を錘って上げる。それより、あなた、私に何か隠してない
         かしら?」
            まるで接吻でも求めるかの様に、葉月は顔を近づけてくる。
         「か、隠してるって…、な…、何を…… !? 」
         「だって、今日の貴方、様子が変だったし。あの子が来てから」
         (あの子って…、まさか…)
            霞の目の前で、葉月の唇が声を出さずに何かを喋っていた。霞には唇の動きから、何を言わんと
         しているのか、はっきりと判った。
         “SU”“WA”“MA”“I” 〈スワ・マイ―諏訪舞〉
            その時、動揺していた霞は激しく藻掻きだし、葉月の腕を振り解かんとした。
         「し、知りません !!  何もっ !!  隠し事なんか、ありません !! 」 
            葉月は、落ち着き払って、しっかりと霞を抱きしめ、押さえつけた。
         「何を狼狽えているの? 私が知っているのは、諏訪さんが初等部の四年生までここにいて、あな
         たと仲良しだったって事だけ。そんな事、学園に残ってる資料調べりゃ、判る事よ」
            その時、霞は自分が墓穴を掘った事に気付き、後悔した。
         「ここじゃ何だから、マンション行きましょうか」
            葉月は霞を連れ、プールから上がった。
            約二時間後、二人は葉月のマンションにいた。そして、霞はストッキングと首輪だけの、ほぼ、全
         裸に近い姿で柱に鎖でくくりつけられ、葉月はボンテージに身を包んで、鞭を手に霞と向かい合って
         いた。もう、すでに霞の全身にはミミズ腫れが出来ていた。幼児体形ながらも、水泳で鍛えた躰は
         葉月のスパンキングによく耐えた。
         「霞。本当に、あなたと諏訪舞とは、ただの幼なじみなだけ?」
         「は…、はい…」
         「じゃあ、さっきの狼狽ぶりは何だったの?」
         「そ、それは…」
            答えに詰まる霞。すかさず、葉月の鞭が飛ぶ。鞭が空を切る音と、肉を打つ音と、霞の悲鳴が交
         錯する。これが先程から、繰り返されていた。業を煮やした葉月は、小型の電気器具を取り出し、そ
         こから伸びているコードを霞の乳首とラビアに繋いだ。コードの先のクリップにはギザギザが付いて
         いたので、とても痛かった。
            先と同じ問答が繰り返される。しかし、今度は、電流が霞を苛む。葉月がスイッチを入れると、霞
         は半狂乱になって、泣き叫んだ。
            そして、遂に観念した霞は、自分と舞との秘密を語り始めた。
         「ま、舞は…、私の…、ファースト・キスの相手なんです…」
         「何ですって !? 」
 
            話は霞が小学四年生の時まで遡る。
            舞がバレエ留学の為、フランスへ向かう当日。霞は空港に見送りに行った。見送りには舞の家
         族の他、何人かの友人、バレエ教室や聖マリアンヌの先生等、多くの人達が来ていた。
            そんな中、舞は霞だけを連れて、人の輪から離れた。そして、人目に付かないコインロッカーの
         影で…。
         「暫く、お別れね。霞ちゃん」 
         「そうだね。でも、一流のバレリーナになって、帰ってくるよね。私はオリンピックに出られるような
         水泳選手になるからね」
         「霞ちゃん…、あのね…」
         「ん? どうしたの? 舞…」
         「ひとつだけ、今まで他の人にも内緒にしていた事があるの…。私、霞ちゃんの事が好き…」
         「何を今更…? 私も舞が好きだよ。別に内緒でも何でも…」
         「いや…、その…、私の言う“好き”って事は…、霞ちゃん、目を錘って」
            霞は訝しげながらも、素直に目を閉じた。
            次の瞬間、霞は唇に柔らかく暖かい物の感触を感じた。それが舞の唇である事に気付くまでに
         は大した時間はかからなかった。二人は顔を赤らめ、お互いを無言で見つめ合った。やがて舞は、
         飛行機に乗り込む為、無言でその場を後にしたが、霞はその場に立ち尽くしたままだった。
 
         「で、飛行機が飛び立つ所も見送らなかったの?」
            葉月の問いに、泣きながら答える霞。
         「だって、あの子の本当の気持ちに気付いたんですもの…。でも、私の方は、あの子の気持ちに
         応えられる自信が無い…。私も舞が好き…。だけど、あの子の想いは、私のそれを上回ってた…。
         だから、中途半端な事はしたくなかった…。気持ちが整理できないままで、あの子を見送りたくな
         かった…」
            泣きじゃくる霞を見つめる葉月の眼差しは、先程の行為が嘘の様に優しげだった。そして、ハン
         カチを取り出し、霞の涙をぬぐってやった。
         「霞。あなた、諏訪さんの事、どう思ってるの? あなたもレズっぽい意味での“好き”なの?」
         「判らない…。自分の気持ちが判らないの…」
            葉月の優しげな眼差しの中に、一瞬、残酷そうな光が差した。
         「それじゃあ…、諏訪さんと一緒に奴隷になる?」
            次の瞬間、霞の表情が凍り付いた。彼女が最も恐れていた事態に陥ってしまった事を実感した
         からであった。 姉の深雪の親友、あずさでさえ、この快楽地獄に巻き込まれてしまった。しかし、
         深雪とあずさは、あくまで親友同士であって、舞の様なレズっ気の様な所は無い。それでもあずさ
         は霞達姉妹の巻き添えになってしまった。もし、舞の事を葉月らに知られたら、きっと、只では済ま
         ないと思った。
            それが現実になろうとしていた。
         「い…、今、何て… !?」
         「諏訪舞を奴隷にすれば、きっと貴方の気持ちだって、もっと正直になれる筈よ」
         「だ…、駄目ぇーっ !!  それだけは駄目ぇーっ !!!!」
            霞は藻掻き、柱を折り、鎖を引きちぎらんばかりに暴れた。最も、鎖が切れよう筈もなく、自分の
         肌を痛めただけだったが…。
         「何でも、素直が一番よ」
            葉月は霞の髪を、優しく、愛おしげに撫でた。霞は葉月の、その一言に抗う事が出来なかった。
         舞が葉月の奴隷になる。その言葉に激しく拒絶反応を示し、自分が傷つくのも辞さず、藻掻いた。
         その時、霞は初めて、舞に対する本当の気持ちに気付いた。
            舞が好き。舞と唇を重ねたい。その気持ちに偽りは無かった。それを改めて気付かせたのは葉
         月だった。確かに、全てに素直になる事で、霞は今まで曖昧だった、舞に対する想いがはっきりと
         してきた。そして、心苦しかった気持ちが晴々としていった。
            しかし、それは同時に、霞に、ある強固な決意を抱かせる事にもなった。
         「お願いです。ま、舞を私の様な奴隷にする事だけは、おやめ下さい。 今まで以上に御奉仕します。
         何でも言う事を聞きますから、あの子にだけは…」
         「何でも…、って言ったわね」
         「は、はい…」
         「だったら、諏訪舞を私に献上しなさい」 
            その言葉に、霞は自らの過ちを知った。そして、激しく頭を振り、泣きじゃくった。
         「い、いやっ !!  それだけはいやぁっ !! 」
            その時、葉月の顔に怒りの色が差した。
         「何でも言う事聞くって言ったでしょ !!  あれはウソだなんて言わせないわよ !! 」
         「いやっ !!  いやっ !!  いやっ !! 」
            葉月は無造作に、霞のヴァキナに指を四本突っ込み、中で掻き回した。霞はたまらず、絶叫した。
         葉月は同じ問い掛けをしたが、霞は首を縦に振らなかった。
         「仕方ないわね。お姉さんに説得してもらおうか」
            霞は驚きの表情を見せた。姉の深雪が来ていた事を知らなかったからだ。葉月が妹の睦月を呼
         ぶと、睦月は裸で縛られた深雪を連れ立って、現れた。目と目が合う深雪と霞。霞は口を開いた。
         「お、お姉ちゃん。い、今の話、聞いてた…?」
            頷く深雪。猿轡をされていたので、言葉は出なかったが、その瞳は全てを知った事を物語った。
         「私も聞いたわよ。霞。あんたの親友って、そういう“気”があるんだ。いい趣味してるじゃない」
            少々意地悪げに睦月が口を挟んだ。
         「睦月、からかうんじゃないわよ。で、深雪。あなたの妹に、親友を奴隷として献上するように説得
         してほしいんだけど、してくれるわよね」
            睦月を窘めた後、葉月は深雪に問うたが、当然、深雪も頭を振った。
            すると、睦月は部屋の奥から、学校の珠算の授業で使う、教材用の大きな十露盤を持ち出し、
         床に置いた。深雪と霞の顔に恐怖の色が浮かんだ。
         「何をやるか。わかってるわね」
            睦月は深雪の膝の内側を軽く蹴った。すると深雪はカクンと腰を落とし、十露盤の上に座り込ん
         だ。深雪の脛に激痛が走った。同時に睦月が後で肩を押さえているので立ち上がる事が出来なか
         った。猿轡をされた深雪の口から濁った悲鳴が漏れた。
         「深雪。霞を説得するわよね」
            睦月が深雪の猿轡を外しながら、自分の体重を深雪に預けた。
            十露盤の珠が深雪のすねに食い込む。苦悶の表情を浮かべ、脂汗が流れる。
         「するんでしょ!」
            さらに、葉月が深雪の腿に膝を乗せた。激痛の中、葉月の肩越しに霞を見据えた。そして、何か
         意を決したかの様に口を開いた。
         「霞…、ま、舞ちゃんを…」
            苦痛と戦いながら、さらに言葉を続けた。
         「舞ちゃんを奴隷にしてごらん! 私が許さないからね !! 」
            激しい口調と厳しい表情で、深雪は霞に言い放った。すると、葉月と睦月は深雪から離れた。
            二人はピンヒールを脱ぐと、それぞれ、深雪の左右の肩に手を掛け、そして、腿に飛び乗り、飛
         び跳ねた。未だかつて体験したことの無い激痛に、深雪は絶叫した。そして、失神して倒れた。
            霞は泣きながら、その有様を見ていた。そして、姉を苦しめた二人の視線が霞に向けられた。
         「どお? お姉さんと同じ目に遭いたい? それとも、素直に言う事を聞く?」
            葉月の問いに、霞はゆっくりと頭を振った。
            数分後、深雪は気絶したまま縄を解かれ、ベットルームに寝かされていた。一方、霞は三角木
         馬に跨がされていた。その三角木馬は、エッジは少し丸められていたが、霞は膝を折り曲げた状
         態で脚を縛られ、膝には乗馬で使う鐙が付けられていた。
            霞は苦痛に耐えていた。歯を食いしばり、脂汗を流しながら、苦悶の表情を浮かべていた。時折、
         葉月が汗を拭いてくれていた。 こんな、苦しい思いをさせている張本人とは思えない程、優しげな
         手つきだった。
         「霞、無理をしないで、一言言いなさい。楽になるわよ。あなたの気持ちは判ったから」
            霞は葉月の言葉にも無言で、ひたすら、歯を食いしばって耐えた。葉月は口移しで水を与え、霞
         の肩に手を掛けた。そして、そのまま、軽く抱いた。すると、霞は低い、濁った悲鳴を上げた。葉月
         が抱きついて来た事で、股間に体重がかかったからだ。
         「諏訪さんを私に献上するわよね」
         「しちゃいなさいよ。その方があなたの為よ」
            今度は反対側から睦月が抱きついて来た。二人分の体重が股間にかかった。さらに、二人は、
         鐙に足を軽く乗せた。これにはたまらず、霞は悲鳴を上げた。堅く閉じた瞼から涙が溢れ出る。
            二人が離れると、幾分楽になったのか、霞の悲鳴が止んだ。俯き、嗚咽しながら、荒い息をした。
         それを見つめる葉月は、霞に問いかけた。
         「これ以上やると、あなた、死ぬかもよ。最後にもう一度聞くわ。諏訪さんを献上するわね」
            霞はゆっくりと顔を上げ、涙が溢れる瞳でキッと葉月を見据え、険しい表情で、そして、しっかりと
         した口調で葉月に言い放った。
         「舞は…、私の舞は渡さない。私の舞は絶対に貴方の奴隷になんかしないっ !  私が守るっ !! 」
            つぎの瞬間、葉月と睦月は、鐙に足をかけ、霞に飛び乗る形で彼女の肩を強く押さえつけた。足
         は鐙を踏んだままで突っ張った為、二人分の体重を体に預けられた上、脚が下に引っ張られた状
         態となり、物凄い体重が霞の股間に掛かり、この世の物とは思えない様な激痛が霞を襲った。
            霞の絶叫が部屋中に響いた。
            凄まじい絶叫を上げ、気が狂わんばかりに泣き叫ぶ霞を尚も抑え付け、鐙を踏みつける葉月と
         睦月。それは霞の失神で終わった。全身汗だくになり、涙をを溢れさせながら白目を剥き、口から
         泡を吹き、ぐったりとした霞の縄を解いてやり、膝枕で介抱してやる葉月から、霞を気遣う言葉が
         発せられた。
         「こんなになるまで耐えたんだから、この子から献上させるのは勘弁して上げましょう」
         「お姉さま。諦めるの? 諏訪舞って子から手を引くの?」
         「この子から、奴隷として献上させるのは勘弁してやるだけよ」
            先程の残忍ぶりが嘘の様な、愛しげな口調だった。
         「じゃあ、こっちからモーションかける?」
            睦月の問いに葉月は頭を振った。
         「取りあえず、蜘蛛の巣でも張って、様子を見ましょう」
            その時、二人のサディスト姉妹の瞳に残酷な光が差した。
         「どんな可愛い蝶々がかかるかしら」
            二人は冷酷そうに笑った。
            夜は更けていた。
            深雪と霞が地獄の責め苦を味わされていた頃、女子寮のロビーでは、消灯前の一時を愉しむあ
         ずさと舞の姿があった。二人は早速、仲良しになり、様々な話に興じていた。
         「へぇ。今、北海道におるんか。おとんとおかん」
         「そうなの。私がフランスに行ってる間に、パパが転勤になっちゃったの。そして、引っ越しちゃって」
         「寂しゅうないか?」
         「へっちゃらよ。霞ちゃんも、深雪お姉さんもいるし」
         「さよか…。で、深雪ちゃんらとは、付き合い、長いんか?」
            紙コップのジュースを一口すすり、舞は答えた。
         「昔、こっちにいたとき、御近所だったの。深雪お姉さんにはね、妹みたいに可愛がってもらったの。
         私、一人っ子だから、本当のお姉さんみたいに思っているの」 
         「霞ちゃん、お姉さん取られて、やきもち焼いたりせぇへんかったんか」
         「そんな事 ないわ。霞ちゃんとは深雪お姉さんより仲良しだったし」
         「なぁ、舞ちゃん。深雪ちゃんも、霞ちゃんもええ人やろ。ここの学校、ええ所のオジョーサマが多い
         やろ。深雪ちゃんもオジョーサマなんやねんけどな。結構、苦労知らずなお上品ぶった、高ピーな
         連中も多い中、深雪ちゃんはそんな事あらへん。人あたりがよくて、気さくで、お嬢様っぽさを鼻に
         かける様な所があらへん」
            あずさの手の中の紙コップ。中の氷が揺れる。
         「神戸の震災で、学校も友達ものうなって、その悲しさも悔しさもバレーボールにぶつけとったらな、
         ここのバレーの監督にスカウトされたんや。せやけど、ここの連中、ええとこのお嬢ばかりで、変な
         プライドやら見栄やらに凝り固まっとうのが多くてな。なかなか気ぃ合う友達おらんくて、イライラし
         とったら、深雪ちゃんにおうてな…」
            あずさと深雪の身の上話を進めようとしたあずさを遮る様に、舞が声を掛けた。
         「ねぇ、あずさお姉さん。深雪お姉さんとは、どこまで…」
         「へっ !?  どこまでて、何いうて…」
            舞は顔を赤らめながら、次の言葉を続けた。
         「キスしたことあります…?」
            次の瞬間、大笑いしながら、あずさは答えた。
         「何いうてんねん !!  うちと深雪ちゃんは、そないな関係やあらへん !!  ハハハッ !! 」
            少女漫画の読み過ぎだと、言わんばかりに笑い飛ばすあずさだったが、次の舞の一言で、笑い
         が消えたばかりでなく、何か言い知れない戦慄を感じた。
         「私と、霞ちゃんは…、そうなの…。そういう関係なの………………」
            別の場所で、霞が葉月に話した事を、舞はあずさに話していた。それを聞いてあずさは、何やら
         危ういものを感じずにはいられなかった。
 


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