深雪運搬

「それじゃ、お散歩に行こうか」
「ふ、ふひゃぁ〜(い、嫌ぁ〜)」
猿轡越しの意味不明な声を立てながら精一杯首をふります。

全身をピッチリと締め上げる革のスーツ
足や手の指先までを被う革のスーツを着せられて、更にその上から幾本もの革のストラップを巻きつけられた私にできるのはただ涙を流してご主人様に許して頂ける様にお願いする事だけ。
「ゆうひへふひゃはひ(ゆるしてください)」
荷物の様に床に転がされたまま、ご主人様の姿を目で追いかけながらお願いを続ける。
身体を包む厳しい拘束とは逆に顔にはボール付きの猿轡が噛まされているだけ。
こんな格好で外に連れていかれたら、そしてその中に私を知っている人がいたら・・・
恐ろしい想像に更に激しく首を振りまわします。

「安心しなさい、そのまま連れ出したりしないわ」
そう言って私の前にしゃがんだご主人様の顔は優しいお姉さまの顔でした。
「ほへぇはふぁぁ(お姉さま)」
乱れた私の髪をそっと直してくれるお姉さまの手に甘える様に頬を摺り寄せる。
「今日は、あの中に入ってもらうわ」
部屋の隅に置かれた大きなスーツケースを目で示す。
「少し苦しいかもしれないけれど我慢してくれるわね」
「・・・ふぁひ(はい)」

ファスナーで開く様になっているスーツケースの中には私を動けなくする為の金具が幾つも取り付けられていて、カチンッという小さな音が聞こえるたびに
私はスーツケースの中に張り付けられていきます。 そして最後に私を締め上げながらファスナーが閉じられて・・・ 「きつくない?」 腰と肩をギュッと押え付けられ、強く抱きしめられた様な感覚に酔っていた私は、少しうっとりした表情でお姉さまに頷いて応えました。 「そう、じゃあそろそろ出かけましょうか?」 「ん?」 「蓋はこのままにしてあげる。  しっかり蓋をしてしまって可愛い深雪が窒息でもしたら大変だからね」 「むぅんん〜〜〜」 必死に首を振る私を無視してスーツケースが動き始める。 (いや) (蓋を閉めてください) (助けて!) 動き続けるスーツケースの中で必死に声を上げます。 このまま外に出てしまったらもう私は普通の生活に戻れないかもしれない。 猿轡の奥で必死に許しを請いながら、唯一自由に動かせる首を滅茶苦茶に振りまわします。 (お願いです。 冗談だって言ってください) それだけを祈りながら必死に許しを請い続ける私に冷たい声がかけられます。 「静かにして無いと余計に目立つわよ」 「・・・ぅぅ」 「・・・いい子ね」 お姉さまのその声を合図に私の前後に埋め込まれたバイブが動き始める。 小さなタイヤが地面を移動する振動がいつもと違う刺激をバイブに伝えてくる。 「うふぁぁぁぁぁっ」 両方から挟みこまれる刺激に大きな声が漏れます。 慌てて口を閉じようとしても噛まされたボールギャグが許してくれません。 「・・・ぁぅ・・・ぅぅ」 堪えるようにボールギャグをキツク噛み締めてもギャグの穴から熱のこもった声が漏れてしまいます。
深雪運搬中
カッコッカッコッ

遠くから足音が近付いてきます。
それでもお姉さまの進む速度は少しも変わりません。

(見られる、見られる、見られる!)

スーツケースの中で必死に身をよじります。
せめて手だけでも自由になれば・・・
必死に力を入れても厳重にスーツケースに張り付けられた身体は少しも自由になりません。
そんな間にも足音はどんどん近付いてきます。
スーツケースの隙間とご主人様がいるはずの空間を交互に目まぐるしく見つめます。
もう、どうして良いかも考えられません。
口の中はカラカラに乾き身体も小さく震えています。
ボールギャグのプラスチックにあたる歯の音がカタカタとうるさく音を立てます。

「・・・っ・・・・っ」

熱いうめき声が漏れるのを喉を締め付ける様にして必死に耐えます。
もう、足音はすぐ傍まで近付いてきています。
靴が砂を噛む音さえも聞き取れるくらい近くに・・・

顔を背けて隠れなければいけないのに、恐くて外の景色から目を離す事ができません。
身体を硬くして息を潜め、三角に切り取られた景色を見入られた様に見つめます。
まるで身体中が心臓になってしまったかのような錯覚を覚えながら

「ヒッ!!」

私の目の前をグレーの影が通り過ぎた瞬間、耐えきれずに短い悲鳴を上げてしまいます。
自分の悲鳴に心臓を鷲掴みにされながら必死に祈ります。

(気付かないで・・気付かないで・・通り過ぎて!!)

私の願いが通じたのか足音の主は何事も無かった様に遠ざかっていきます。
遠ざかる足音に全身の緊張が緩む。
知らず知らずに止めていた息を吐き出そうとしました。
「ぅくぁ・・・ぅぅふん〜〜」
息を吐く前に堪え続けていた刺激が身体を駆け抜ける。
抑えつづけていた快楽が背中を駆け上がって、抑えつけられた身体がピクンと動く。
逆らう様によじった身体の動きさえも巻き込んで・・・

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

喉の奥で絶叫を上げる。
身体が小さく小刻みに震える。
絶叫の代わりに漏れた息がボールギャグに邪魔されてヒューヒューと笛のような音をたてる。

「良く我慢したわね。 ・・・でも、すぐに次の人が来るわよ」

お姉さまの言葉の通り次の人の足音が近付いて来ています。
「ぅ・・・ヒューーッ・・・うん、ヒ、ヒューーーッ」
まだ痙攣の治まらない身体は自由が利かず、息を潜める事すらできません。
しかも私の身体は更に快楽を貪ろうと前後に埋め込まれたバイブを絞め付けていきます。
「うっ・・・んん・・・・ふひゃぁ」
何とか声を抑えようともがく私に容赦なく足音が近付いてきます。

もう私には、足音の主が気付かずに通り過ぎてくれる事を震えながら祈る事しかできませんでした。

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