[ソフトハウスに眠るということ]

 キャンピングやバックパッキングの長い歴史を持つ欧米では、日本人の耳に馴染んだ"テント"という代わりに"ソフトハウス"という言葉がよく使われます。寒い外気や強い陽射し、風雨、あるいは外を徘徊する動物や、ときには人間を堅い壁でほぼ完璧に防ぐ普通の住居=ハードハウスに対して、そういった外部環境との境目に柔らかな布一枚しか持たないというのでソフトハウス。
 たとえば、山の中の一軒家に暮らしたとしても、一歩室内に入ってしまえば、しっかりした外壁に守られたその内部は、それは都会暮らしとさしたる違いはありません。でも、ソフトハウスに眠れば、外気の変化、動物たちの気配、きらめく星辰をじかにに感じ、より自然と融合する実感を得ることができます。
 テント生活はたしかに厳しいところがありますが、そこから得られるものは、その厳しさなんて忘れさせるほど豊饒です。

[キャンプサイト]

 アウトドアでなくとも、住環境の整備というのは誰でも気を使うところです。でも、現代の日本では、完全に満足のいく住宅を作るというのは、物理的にも金銭的にもほとんど不可能に近いことです。そこで、せめてテントくらいは、理想の環境に近い形で設営してみたいものです。なにしろ、テントの最大の利点は、持ち運びと設営の簡単さフレキシビリティなのですから。
 テントを設営する上でまず気にかけたいのは、ロケーションです。キャンプサイトに着いたら、あたりを見回して、自分がいちばん快適と感じる場所を探してみましょう……といっても、サイトによってはけっこう熾烈な先住権競争もあるので、なるべく早い時間にサイトに到着するのが、なにをさておきのセオリーともいえますが(そう考えると、キャンプ地まで現実の住宅事情があてはまってしまうようで世知辛いですけど)。
 自分のフィーリング優先で大まかなロケーションを選んだら、次に、そこがテントを張る場所として適当かどうか検討します。そのポイントを少し整理してみましょう。
・テントを張る十分なスペースが確保できるか
・そのスペースがフラットで、テントマットで解消できないほどの凹凸、とくに岩がないか
・人の体重などの圧力がかかったときに、地面から湿気が浸潤してきたりしないか。とくに地面が地衣類に覆われているところは注意が必要。晴れて乾燥しているときはいいが、いったん雨がふると地衣類が水分をたっぷり含んで、水の上にテントを張ったも同然となる。
・落石の危険がないか
・川岸なら増水、海辺なら津波に襲われる危険性がないか。また、万が一そんな危険に遭遇した場合、背後に避難路が確保できるか
・ 落雷の危険性はないか(尾根の上や、独立した高い木のそばは危険)
 といったところです。
 でも、現実的には、すでに整備されたキャンプ場にテントを張るケースが多いわけですから、そんなときはあまり神経質になる必要もないでしょう。ただ同じキャンプ場内でも、サイトの条件は微妙に異なりますから、ここに上げたポイントを加味して、よりよい環境のサイトを選定するといいでしょう。とくに、フラットであることと、凸凹がないこと、なるべく地面が乾いていること、この3点は快適なテント生活を送る上でとても重要です。
●追記
 登山では、キャンプ地に到着するのは遅くとも日没の2時間以上前でなければならないといわれます。それは、午後は山の天気が急変しやすくなるので、なるべく早く安全な体勢でサイトに落ち着く必要があるためと、キャンプサイトの条件をきちんと把握して、安全なサイトを確保するためには時間に余裕を持つ必要があるためです。上記にあげたポイントをチェックするためには、当然、日のあるうちにキャンプ地に到着するのが望ましいわけです。
 いちどテントを設営して、装備などをほうり込んでしまうと、もっとよさそうなサイトをみつけても、またパッキングしなおして、テントを移動しようという気は起きにくいものです。そこをベースキャンプにして何日も滞在するような場合は、とくに最初の設置場所の選定が、後のキャンプ生活を左右することになるのをお忘れなく。

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