[合理的なパッキングとは]

 アウトドアフィールドへ臨むときのベーシックなスタイルが、自分の背中にすべての装備を背負って出かけることとすれば、ここまで紹介したように装備を厳選することが大切ですが、さらにその先、ザックへのパッキングも非常に重要な技術となってきます。キャンプをベースにトレッキングする場合でも、もちろんパッキングの技術は重要です。装備の技術革新が進み、コンパクトで軽量な装備ばかりになったとはいっても、数が集まればその重さはばかになりません。しかも、ただ歩行時のバランスを考えるだけでなく、装備の使用頻度によって取り出しやすさも考慮してパッキングしなければなりません。これには、かなり高度な想像力とインテリジェンスが要求されます。

[重いものは上、軽いものは下]

 パッキングの第一のポイントは、基本的に、重いものはザックの上部に、軽いものはなるべく下部に収納することです。なんとなく物理的に矛盾しているように思えるかもしれませんが、腰で荷重を支える縦長ザックの構造上、力学的に重いものを上にしたほうが、理に適っているのです。
 人間は歩くときに上体を前傾させます。とくに背中に荷物を背負っているときには、上体を直立させていては、そのまま後ろに倒れてしまいますから、自然と背中の上部に荷物を載せるような形の前傾姿勢をとります。重力は鉛直方向に向いているわけですから、このとき、ザックの上のほうに重いものが収納されていれば、前傾した背中上面に荷重が掛かり、重力は背骨から腰に自然に伝達されます。これで安定するわけです。
 逆にザックの下部に重いものがあると、荷重は背中を下へ押すようにはかからず、後ろに引く方向にかかってしまいます。これでは、体のバランスがとりにくく、荷を前方へ引き戻すための余計な力が必要となってしまいます。同じ理屈で、重いものはザックの中のなるべく体に近い位置にあったほうが安定します。
 そういった原理をふまえて、ほとんどの大型ザックはコンパートメント(気室)が上下二つに分かれる構造になっています。下のコンパートメントは軽いもの、主に衣類やシュラフを収納し、上部コンパートメントにはその他の装備を収納する形になるわけです。
 上下の重量バランスとともに、左右のバランスも大切です。左右で重さが違えば、ザックは重いほうに傾ぎ、歩行のバランスを崩すし、それを修正するための余分の体力も必要となります。左右方向も、体の重心に重いものがより近くなるように、ザックのなるべく中央部に重量物をパッキングするようにします。
 そして、冒頭にも紹介したように、重量バランスと同時に装備の使用頻度を考慮する必要があります。以下では、それも含めて、パッキングの実際を紹介していきたいと思います。
●追記
 パッキングの善し悪しを判断するのに、じつは非常に単純な方法があります。それは、パッキングし終えたザックを支えなしに平らなところに置いてみることです。ドサッと置いて、そのまま微動だにしないようだと、これは重心が下にきすぎている証拠です。また、左右か後方へ倒れてしまうようでもいけません。それはパッキングのバランスが崩れている証拠です。上手にパッキングされているザックは、ゆっくり前方へ傾ぐはずです。それは、重心がザックの上部内側にかかっているからです。

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