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東京ラーメン日記1

1997/7/23:
東京ラーメンを久しぶりに食った。本当に久しぶりにおもえる。時間経過は、結果として、あっという間に感じるのだけれども、前の回の出来事を思い返すと、これはなかなか長く感じる。もちろんすべてのことがそういう訳ではないにせよ、特に期待に反して実現できなかった（と本人の思いがある）東京ラーメンに関しては、完全にこれに当てはまったのである。しかし、今日のラーメンを食うことに関しては、今までにない大きな問題が存在していた。風邪を引いてからの調子が悪いのである。つまり、飯が飯として味わえ、その満腹感が快感になるかどうか、という問題が存在しているのである。朝飯以来飯を食ってなかった私は、かなり空腹感を感じていた。当然この場合、量の多い「大盛り」をえらぶか、具沢山を志向して「チャーシュー麺」を食うかのどちらかが選ばれる。もちろん、節約という観点から「並」を頼むという手もあるが、物事をやる前には少し欲張ってしまうということもある。まさにここで行われた選択は、それに如実に表したものであった。
「大盛り」
前の客の食器が片付けられる前に座ってそう頼んだ。いつものように麺を2玉か、1・5玉手でつかんでほぐしながら熱湯の中にいれる。最近の傾向として、店主と近所付き合いをしているような、おばちゃんおっちゃんが一人は客として混じっているのであるが、今回も例外ではなかった。しかし、今日のその人は迫力に欠けた。といっては失礼であるが、取りたてて欠くべき事を会話したという感じは受けなかった。もしかしたら、そういう話をしていたのかもしれないが、まったく気に止める余裕もなかったのである。それはなぜか。それは、ラーメンの味の無さである。何か、味の内面、味の薄いスープを味わっているようなまずい要素しか残らないラーメンと格闘しなければならなかったのである。原因は分かっていた。やはり、かぜである。風邪を引くとなぜか味覚が正常でなく、機能が低下してしまう。そのくせ「苦み」だけは、ちゃんと感じてしまうという、状況の悪さがある。まった、風邪を引いてるものは、飯を食うなとでも言うのだろうか。（まあ、派手な飯はかぜのときは食わない方がいいというのは、本当だろうが。）まあ、原因はいずれにせよ、500円を消費することが確定した今になってはそういう状況は迷惑この上の無い物にしか感じない。麺が、これほどに、スープがこれほどにまずいのか。もしかして一遍に食う量が少なすぎるから、そう勘違いしてしまうのかもという、ほとんど、悪い人に付け込まれて、盲信してしまう宗教のように、変な理屈をつくってみては、それを実行してみたりしたがもちろん解決するはずがない。かえって、下が少々やけどしてしまった状態になって、余計に味が感じられない様になった。まさに、泥沼な状態である。
「もう、食べるのを止めてしまおうか。」
思わず禁断の句をつぶやきかけた瞬間、はらからあがってきそうな気持ち悪い感じを感じたのである。やばい。こんなところで、あげてしまうというのはいくらなんでも・・正直言ってそういう心よりは、その気持ち悪さは感じたくない。ここまでまずい思いをしてるのに一つもうまいところがないというのはいくらなんでも、いやである。その時は、ほとんど感情的に袋小路の自分を感じるしかなかったのであるが、その直後、救いともいえる感覚が下っ腹に感じたのである。
うんこ
である。上から出るだけが解決ではない。下に流すというのも一つの解決である。かぜの生で少々胃腸の調子が狂っていたのか、どうも腸の中が混乱してしまっていたのであろうか。いずれにしてもその混乱が、便意という形で、解決されるというのは、偶然にせよ、「うれしい」ことである。
「すいません」
いつもとは、幾分音階の上がった声でおやじを呼んだ声は、恥ずかしさに映ったのであろうが、実は嬉しさでもあった。まあ、今回「東京ラーメン」の便所初体験であったということもあろうが、やはり今までの葛藤の解決口が見出せたという純粋な心からの喜びであった。
洋式であった。ウォシュレットではなかったが、和式を思い描いていた僕にとっては、なんとなくうれしく思った。こう、体の調子の悪いときには、やはり洋式である。長時間座っていてもその余裕の持続が違う。その場所は、カウンターから見える調理場（お湯を沸かしたり、もやしを茹でたりするするところ）が切れたところを右折して裏に隠れる東京ラーメン定の高さにまで足を上げる必要があった。家庭の便所と共用だったのである。しかし、共用らしく「お手洗い」とこれ以上はないという字の大きさで書いた文字の書いた紙を貼りつけてあった。
うんこをした後に、飯の続きができるか？という疑問は小学生の中学生のころ多いに考えていたことであるが、今にいたってはまったくかけらも持っていなかった。「食える。」そういう結論である。だから、安心して用を足してからるんるん気分で調理場の廊下をスキップでもしてしまわんほどの勢いで歩んでいった。最終的な道案内をしてくれたおばちゃん（おやじが、「お客さん、トイレやってー。道案内してや。」とおばちゃんに頼むのである。) にありがとうございます、の挨拶を済ませた後、まるで、おやじが奥からもやしを出してくるかごとくにあゆみでたぼくは、おやじに「ありがとうございます」をいって再びスープのみを残した席に戻ってきた。先ほどよりは腹の調子が良くなったように感じ、スープも先ほどのように遠慮がちに注ぎ込む、というようなことは必要でなくなった。ただし、スープの味は薄い。熱さによるいやなやけども絵の様な状況が口の中に広がるのは事実であった。水がおいしかった。まるで、ラーメンのスープが行楽地で、水が家のような関係になっていた。それも行楽地は、人込み張りで楽しめる瞬間が微塵もなく、ただただ帰宅を期待するばかりにすごしてしまう行楽地である。結局、最後までまともなラーメンを味わうことなくその食事は終了した。まあ、最悪の事態である、「スープ」を残して後ろめたく去る、ということだけはいえるであろう。それだけで、その代金である500円をおやじに渡した瞬間、妙な満足感が選られたように感じた。別に、先ほどのおやじのしりあいとのはなしがてらでもそれを特に気にすることこともなく、東京ラーメンを後にすることができた。しかし、外は暑かった。
1997/6/30
最近ラーメンは並４００円である。その理由はやはり、節約ということになろうか。今日店にはいったのは午後８時４５分ぐらいであったが、店の中はずいぶん騒がしいものであった。お客がたくさんいたというのもあったが、やはり、店の主人たる親父が良く喋っているということが大きな原因であろう。なにやら、出っ歯の奥さんが妊娠している、新婚カップルに対して自分の娘の子どもの世話の体験談を話しているようである。
子どものおしめかえる時は、「あしをひっぱるな」おしりから腰の辺りを持ってせいよう。
ということを、教えたいらしかった。下手すると一生、足に障害が残るという。もしなってしまった場合でも早期発見早期治療で何とかなるらしいのであるが、まあ、予防という方法も結構有効な手段である。
うんうん、と横でうなずきながら時を過ごしていると、知らないうちにほとんど食べ終っていた。うむ、あまり味を味わった記憶がないが、出っ歯の奥さんとともに、後に問題を起こさない、惜しめの変え方を頭に記憶できたということで、それもまたひとつの東京ラーメンの味わいとして心にとどめておこうと思いながら、
「ごちそうさま」
の声を親父にかけた。
1997/ 6/17
東京ラーメンで、並を食った。実は今日はラーメンを食べるべき日ではないことを直感的に分かっていたのであるが、その直感を振り切って食べにいってしまった。その直感とは何か。食い終わってから意識として認識されたのであるが、それは、舌が麻痺してまともな味覚を感じない状態になっていたからである。原因は何だろうか。歯磨き粉のせいか、はたまた、口の中に残っている気持ち悪いものが有るためだろうか。よく分からないが、とにかく、まともな味覚が欠如していたことは確かであった。ただ、それを「腹が減っていた」ということのためにそういう事実を無視してしまっていたのである。結果は、やはりその厳然たる事実をひっくりかえすのに足りるようなものではなかった。はじめから終わりまで、味が薄かったのである。つまり、大盛りのラーメンスープを飲み終える直前の味覚が、ラーメンを食い始めるところからあったというわけである。うーん、なんとももったいないことをした。そういう気持ちがラーメン並みを食い進めるにつれ、高まっていくのがわかる。ラーメンスープを飲む段になって、何度残してしまおうかと思ったことか。しかし、かろうじてそれを行うことなく、飲みきったのであるが、いつもの充実感はまったくといっていいほどえられなかった。もちろん、おやじが悪いわけではない。岐阜で見たラーメンの名前ではないが、今回は「ラーメンはベストコンディション」でというのが大切だと、痛感した東京ラーメンを食べる機会であったことはまちがいない。
1997/6/10 今日は大盛りラーメンを食った。相変わらず、のみ終わりの味のまずさを克服できないでいる。おそらくは、水とスープののみ分けを工夫すればなんとかなりそうなのだが。
1997/6/10
おお、日記に書き込もうとして、前の日記を見たら、５日前ではないか。ちょっと東京ラーメンを食い過ぎている、ということを意識させられてしまった。それはさておき、今日は、大盛りラーメンを食った。今日は、妙に腹がすいていたのである。その食欲につられてついついこのような選択になってしまった。このメニューは汁を飲む段になって後悔するのであるが、食欲には負けてしまったのである。僕が最初にはいった時には、誰もいなかったが、大盛りをすすっている間に、「わあ、今日は、仲間をひきつれてきましたわ。」といいながら御入場のおばちゃん２人とおっちゃん一人、そのリーダー格のおばちゃんは前にここにきたらしく、
「うちは、ラーメン好きやけど。。。好みが合わんとおなじ店には来んわなあ。」
ときりだした。うんうんなるほど、それはいえる。僕でも、東京にいって食ったぼう中華料理チェーンのラーメンはよう食わんといった経験があるからなあ。と、心でうなずいてしまった。そうすると嬉しそうに親父が、
「そういうもんですかねえ」
といってたので、まんざらでもなかったのだろう。まあ、ここのラーメンの味は好きだ。ただ単に好きという以上にここの店の雰囲気がいいということもあるのであるが。
「あ、そうそう、ここはいつおやすみなんですか？」
ときくと、
「日曜と祭日です。日曜日は泳いでますよ。温水で。」
「へえ、温水プールですか。。」
といったあんばいで、話は、おやじのいっている温水プールの話になっていったのであるが、こっちはそれより、やはり、大盛りのスープは、最後の方はまずい、と思ってしまうのがきにかかっていた。スープを飲まなければ、それでいいのかも知れないが、その時は、その時で、目の前に残ったスープが今まで感じた味で作られた雰囲気が一気に消滅してしまうのである。故に、ついつい最後までのんてしまうのであるが、最後はやはりまずい。困ったもんだ。いつかは解決する方法をあみ出すつもりではあるのだが、今はまだその見通しがついていない。それでも、おいしかった。うむ。
1997/6/5
久々の東京ラーメンである。何か新しい店にでも来たかのような錯覚に教われたかのような感覚であった。注文したのは、並ラーメン。何のオプションもつけていない。行く道中に、大盛りにするか、のみにするかで迷ったものだが、結局腹もそれほど空いていなかったし、出費が少ないほうである、並ラーメンにすることにした。後で考えるとちょうど良かったような気がする。大盛りラーメンは、面も多いが器がでかいだけに汁も多い。汁は、同じ味のはずであるが、量が多い分後のほうの味が悪くなってしまうのだ。舌が麻痺してしまうのである。だから、ちゃんとおいしい味を味わうためには、できるだけその量は多くないほうがいい。しかし、ある程度飲まないと満足できない量と言うものもあるから、適度な汁の量がいると言うものだ。今日は、その量が腹の具わいなどをかんがみて｢並｣がもっとも適したものであると言うことだったのである。今日は、それに新しい発見もあった。汁が妙に明るいのである。何と言うか、下まで見通せる深さが前より大きくなったと言うのであろうか。
「おっちゃん、ちょっと、醤油入れ忘れたんとちゃう？｣
という突っ込みをしたくなるほどに、汁の色が明るいのである。見慣れないその姿を見て、一瞬どきっとして食うのを躊躇したのであるが、えいや、ということで、思い切ってやってみたのである。うん。これはなかなか。以前よりいいかんじの味である。味が洗練されたように感じた。汁を変えたのはなかなかすばらしい結果にぼくにはおもえた。その味を味わってから見たおやじのしみは、どうも以前のそれとは様相を異にする気がして仕方がなかったが、それはやはり気のせいであろうか。
「よ、んひゃくえんぅ」
５００円玉をあずけるに委ねるときに返ってきた、その値段を告げる声にも何か違うものを感じた。ここ、東京ラーメンは、おやじが元気な限り続くな。今まで続いてきた秘密を少しでも見破れた気がして、何か明日は本塁打が打てるような気がして、妙な震えを感じながら店を後にした。
「おおきに」
「おおきに、どうも」
そう言えば、奥さんはそこにいたはずだったのに、あまり印象に残らなかったな。確か、持ち前のぶっきらぼうさをふんだんに生かしながらぼくのラーメンに具を入れたのは奥さんだったのに、実に不思議なことであった。
1997/5/15
何かたて続けに、ここで食事している自分に気がついて少々恐い気もする今日この頃である。また食ってしまった。それも、営業終了１５分前のにゅうてんである。当然最後の客になってしまっている。大盛りラーメンであった。最近の金銭感覚とそのコストパホーマンスに引かれての注文であった。でも、何か満足できないものを感じる。やはり、飯や、餃子が必要なのだろうか。飯ならばここでも注文できるのであるが、どうもその値段を引き上げる原因をわざわざ作り上げることが今の自分にはできそうもない。終了間際の客というのは、やはり、無言のプレッシャーというものを感じるものである。何となくソワソワした親父、給水器の電源を切る親父、切りかけたチャーシューをかたずける親父、麺の入れてあるはこに布きれをかぶせる親父、少々ブッキラぼうな、態度を営業時間から見せる奥さんとは違って、いつもは、楽しそうに途切れ途切れの鼻歌で楽しませている親父だけに、そのプレッシャーは目で見える以上のものを醸し出しているのである。それゆえに、いつものようにスープをじっくり味わう余裕もなく、そそくさとでてきてしまった。うむ。
1997/5/10
東京ラーメンを食うチャーシュー麺であった。さらに、９時前ににゅうてんしたので、最後の客となった。おかげで、おやじの煙草の煙を浴びせ掛けられ、なんとなくはよでていってくれという感じを受けるにいたったのである。
1997/5/6
東京ラーメンを食う。現在最も満足度の高いチャーシュー麺である。今回は特に際立ったトピックはなかった。しかし、何もないと言うのも、ここに東京ラーメン健在、と言うことを言わしめる事実であるので、悪いことではない。何よりちゃんとここで、すすれると言うのが、僕にとって最もうれしいことなのだ。ううむ、あえていうなら、スプーンの話題がある。
1997/5/1
東京ラーメンを食う大盛りラーメンであった。今日は、ちょっとその食うスピードが、速かったのか、少々したがやけど気味であって、味がよく分からなかったと言うのが正直な意見である。今日の発見は、奥さんの出迎えの挨拶である。おやじはいつも「いらっしゃい」なのだが、無口な奥さんの出迎えの挨拶は聞いたことがなかった。ところが、今日はその無口な奥さんが、いつのなくおしゃべりであって、それが聞かれたのである。「おこしやす」京女と言う気分であった。
この日は、ちょっと下を火傷気味にしてしまったので、ここの味の半分も味わえなかったような気がする。情けないというか実に惜しいことをしてしまったものだ。
1997/4/26
東京ラーメンで、並を食う。今日は比較的、驚くべき事実を発見することがなく、平穏にすすることができた。唯一の例外は、おやじの包丁を研ぐシーンを拝めたことである。その方法は、主に、焼きブタの固まりをスライスして、ラーメンの上に載せられる多きかにするために用いている包丁で、調味料を入れるスプーンと同様なほど歴史を感じさせる代物である。今日は、ラーメンをすすぎながらその包丁を研ぎ器で研ぐシーンを拝むことができた。また、ぶっきらぼうな盛り付けの割にはしっかりと標準を守っている奥さんの技、というものもあった。
1997/4/17
今日は、チャーシュー麺を食った。これにいたるには、一大決意が隠されている事は、まさかここのおやじも気づいてまいるまい。ただ、奥さんは、もう気づいているかもしれないが。奥さんは、なぞの多い存在なのである。ゆえに、自分のできる推測の範囲で考えられる性質のに身で判断できかねることが余りにも多すぎると言うことは、事実であろう。さて、その一大決意とは何か。それは、チャーシュー麺に対する偏見をうちやぶらんとする決意である。この東京ラーメンと付き合い出して、まだ１年もたたないのであるが、回数としては、これまで通ったラーメン屋では、最も多いところになるのは間違いない。その多くの回数の中で、食ってきたメニューで最も多いのはおそらく、｢大盛りラーメン｣であろう。これは、名前から分かるように、コストパフォーマンスの高そうなメニューの一つである。そして、ただラーメンを食うにしても、いろいろと腹の減る世代である。並では済まされない空腹を満たしてくれるのが、これである。その次には、おそらく並であろう。これはかなり定番である。それほど腹が減っていないとき、でも何か腹におめておきたいぐらいに程よく腹が減っているときがある。この時は、すかさず、サッシをはけながら｢並｣と叫ぶのが常套なのである。その後は、何だろう。多分、｢大盛りチャーシュー｣であろう。これはもっとも盛りだくさんな、麺スープ、具からなる。スペシャルメニューである。昔は、その割引率も、感覚的に高いものがあり、本当に腹が減って、ご無沙汰にここを訪れたときには決まってこのメニューだったように記憶してる。まあ、カレーライスに挑戦していないのは、さて置くことにして・・これ以外のオプションメニューは、気分次第で選ばれてもよさそうのものだが、基本重視で、それについていろいろな意見を得てから、応用に行くと言うそのポリシーから、オプションメニューも、あえて棚に上げておくことにしよう。そうすると、残りは一つである。そう、｢チャーシュー麺｣だ。このメニューは、具はたくさんあるのだが、その器が並と同じだけに、全体としての量に魅力が欠け、何かだまされた気持ちに襲われるメニューとして、刷り込みされてしまっているのであった。多分、おやじは悪くない。４００＋１６０円の値段は、おやじがそれ相応の値段として考え出したのだろうし、それだけのチャーシューはのっていると思う。しかし、麺を食った後に汁にも漂わない、チャーシューの量はどうだ、具もたいして多くないではないのか？という偏見がどうも頭の中を駆け巡っているのが事実なのである。今回（大幅な寝坊により）、たまたまよった東京ラーメンではあったが、それに対するわだかまりがサッシに手を振れる瞬間によぎったのである。その結果が、「チャーシューお願いします｣の言葉となって具現化された。
そのメニューが出てくるまで、空席が少ない状態の店を見回して、この店は｢男の店｣になってるなと思わず思うほど、男男してたのに、珍しく、カップルでない女の客がいることに気がついた。やはりいいものである。ただの咳もちっと高い音に聞こえるその人は、なんともいえない色気を感じるの十分な状況を醸し出していた。もちろん、直接的な色気ではない。女の子がラーメンを食べると言う状況が、色気となって、我が心を打った。彼女には申し訳ないことになったかもしれないが、さりげない目の動きによって、常にその様子を視界に納めようと言う努力にいそしんでしまった。ああ。
それはそうと、そういう目配せをしていたこととは無関係に、おやじは、もくもくと注文を現物に仕立てて行く。そして出来上がったメニューが目の前に現れたとき、愕然として驚きが、体中を打った。「多いではないか！」そんなことばがほとんど音声になるぐらいに頭の中で破裂したのである。並もそうではあったが、ほとんど零れそうなぐらいのスープと、麺はもちろんのこと、それ以上にもやし、しなちくが多い。それらによって大目に入っているはずのチャーシューが見えてあるのかどうかも分からないぐらいなのであった。「むむ」関心を表す言葉にならない唸りを上げながらそのものに挑んだのであるが、成る程、具が多いことに驚かされた。幾分熱さが抑え目だったこともあるが、その量の多さはなかなか食いがいのあるものである。麺を食い尽くした暁にも、まだチャーシューが２枚ほどスープの中に漂っていたのである。今までの偏見が見事に吹っ飛んだ。まあ、メニューが熱すぎない、水をがぶ飲みしない、という要因が必要なものの、これさえ守っておれば、このチャーシュー麺実に満足できるメニューであることが今日初めて分かった。既に６６０円のかなたまで言ってしまった大盛りチャーシューまで手が出ない今、このチャーシュー麺と言うメニューは、これからの東京ラーメン生活において欠くことのできない重要な役割を果たして行く予感のする土曜日であった。
1997/4/16
これほど、渇望しながら訪れた東京ラーメンも久しい。行こうと思いながら、それがかなわず、何回も何回もそういうことのくりかえしであった事実は、最近感じていなかった感動を呼び起こすのに十分な状況を作ってくれた。そして、今日はそれだけに留まらず、昨日から、ほとんど見ずに近いカルピスで過ごしていたということによる空腹状況が、その感動を倍増させるに事足りるものであった。こういう時は、決ってあのメニューを頼む。
大盛りラーメン
ここの単品で最高額のメニューは「大盛りチャーシューメン」なのだが、いつか話した通り、その値段は一気に３０円ほども値上げがなされているのである。それでいて、それがかかれている値段表の最上段には、「平成６年１月より」とかかれているのである。これは、あきらかに、まちがったことをかいていることになる。僕は、心を鬼にしてそれに対する無言の抗議をしているのである。
大盛りチャーシュー（チャーシューメンは可）は頼むまいと。
ゆえに、量がある唯一のメニュー「大盛りチャーシュー」に白羽の矢があたるのであった。そういう駆け引きが心の中であったことは、もちろん親父は知らないだろう。ヒョウガラにも思えるしみの横顔を見せるはくはつの紳士たる親父は、いつものように一カ月ほどあいたのにもかかわらず、いつものように感じる風景を形作っている。ラジオでない、テープからの音楽。それにあわせて、やや遅れながら、かつ、一部の音のみを広い出して歌う鼻歌。どう見て気いて感じとっても、いつもの風景にしか思えない姿を浄水器（イオン水）からコップに水を注ぎながら見ていた。今日は、いつもなら５杯は水を飲むところを３バイにおさえた。更に顕著なことに、いつもなら大量に水を消費する最後の汁のみの時に、全く水を消費しなったのである。それほど自然に味わえたことを表している。思い起こせば、最近、目の前におかれている、「辛い調味料」を利用して、まっかいけのラーメンにして食っているのが習慣になっていた。それは確かにおいしいのであるが、最後の汁のみの時の辛さ。それに耐えるために、できるだけ素早く飲み、水でその補完をしていたこと。実はこれらの行為によって、それまで感じていたうまさが舌に残らずすべて胃に流れていってしまうのである。何かおかしいと無意識に思っていたのは、これだったのだ。今日それに気がついた。ちょっとでも、その調味料をいれてしまうと、どうも左手に水を持っていない時がすまない状態になるので、調味料を減らしても、あまり意味がなかったのである。今日、全く入れずに食って良くわかった。ただ、このままで、同じうまさを感じられるかどうかというのはわからない。元来猫舌な私は、熱いのが苦手である。故に熱過ぎるラーメンは、その熱さゆえ、ろくに味あわずに、冷やすことに一所懸命になってしまうことになることが多かった。今日の東京ラーメンの並の熱さをそれに気をとられないぐらいに感じるためには、もっと熱いものになれなくてはいけないのではないか、とおもうのである。なかなか難しい問題にぶつかった。
1997/3/*
このあいだに、並を食べたはずだが、記録するのを忘れたので、その存在だけを記しておく。
1997/3/6
大盛りを食った。今日は、次から次へと注文が舞い込む状態の東京ラーメンを見るのははじめてであった。最初、自分が入ってきたときには、すでに子連れの家族がカウンターでまさに注文をしようとしようとしているところで、自分もそれに便乗したのだが、その時、奥にいる家族のメニューを作っていたのだ。われわれの注文が作られている途中に２人組みが入ってき、さらに１人がはってくるという始末。｢ちょっとまってくださいね。｣というおやじの言葉を聞いたのはこれが初めてでなかったが。われわれのちゅうもんが現物化した後、３人の注文を作り出すと、５人家族が入ってきた・・その注文が終わったのを見計らって、会計をしたのであるが、たばこを吸うまもなく働くおやじに改めて好感を持ったのは言うまでもなかろう。
1997/2/24
このページが更新されるのは久しぶりである。ほんとに、芯からそう思うほど久しぶりに思えるだ。というのは、と今日ラーメンにいこうとすると、その日は気がついたら別の夕食を食ってしまっていたり、目と鼻の先のところをとおりかかっても、その日は臨時休業だったり、なぞの団体客で満員になってたりして、その機会を逃してきたのだ。ほとんど、「君の名は」のような状態である。わざと仕掛けてるのでは、と思われるほど、見事に振られ続けてきたのである。そして昨日はその３週間ほど続いてきた「振られること」が遂に終りを告げることになったのである。
久しぶりの店内は、実際はいってみるとそんなに久しぶりに感じさせないほど変わっていなかった。しかし、久しぶりにはいっただけあって、前までに見逃していた新しい事実を発見することができた。「価格表」である。以前にこの価格表が新年を向かえると同時にリニューアルされた、ということを述べたことがあったが、あの時は明文化して表現してはいなかったが、「平成６年１月」から「平成９年１月」に日付が変わったという趣旨のことを表現したかったのであるが、実はそれが間違いであることがわかったのである。日付は、「平成６年１月」のままだったのだ。つまり、親父は前のを「書き直し」ただけだったのである。しかし、大盛りチャーシューが３０円アップしていることはその表記と矛盾する事実ではある。そういうこともあって、久しぶりのラーメンは、大盛りチャーシューにはせず、「大盛りラーメン」にすることにした。そして、また、最近３カ月で新しく装備された「辛み調味料」を「これぐらいなら大丈夫だろう」という「自分の常識」の範囲で投入してしまったところ、やはりその常識はその調味料に通用しなかったらしく汁を飲むのに水を５はいもおかわりすることになってしまったのである。前の経験が全くいかされていない。何とかしてもらいたいものだ（自分）。
それと、話は戻るが、ラーメンを食っていた時に、はじめてみる光景を目にした。生肉の塊を包丁で切っているのである。今までも、肉を切っている姿は見たことがあった。しかしそれは、チャーシュー用の肉を、薄く切っていたものであった。それとは全然違う。まさか、生肉のままラーメンに入れるわけはなかろう。ならば、それは一体何なのか？食べながらその解を考えていたのだが、（辛い）汁を３分の１ほど飲み終えたぐらいのところで気がついた。
「カレー」だ。
ここ、東京ラーメンの２台メニューのうちの一つをなす「カレー」の存在を一瞬でも忘れていた自分が恥ずかしいとその時思った。その時、おもむろに水を飲み干し、浄水器から出る水でそのコップを満たす行為をしてしまったのは、反射的にそれに対するわびを体現したかったにちがいないと今思えばそう感じる。
1997/2/1
たまたまとおりかかった東京ラーメンであったが、いつもなら何台か止めてある自転車が一台もない。
「そういえば、昨日の夜も、東京ラーメンの看板に灯がともってなかったもんな。また休みやろ。」
とおもいながらも、結構気になるので、注意深くその入口付近を眺めていると、なにかがちがうのである。単に休みの時であれば、「本当に休んでます」とい売った雰囲気の店前であるのだが、それとは違う何かを感じられずにはいられないかった。そして、フッと入口の横に目をやると、例のたて看板（高さ５０センチほど）があるではないか。
「ラーメン４００円、営業中」
いつもなら、それは道なりとは直交してたてられているのだが、それとは９０度ずれた方向にたてられていたのだ。どうりで、いつもの感じが違うはずである。素直に営業中であるとしんじられなかったわけである。実際、私の疑問が完全に拭いさることができたのは、東京ラーメンの店のほぼ正面にさしかった時、もうすでにそこでは中の様子が半分ぐらいは伺える位置である。もう少しはなれた位置からでは、ちょうちんが出ているのも確認したが、これは、いつもでているかもしれないので、営業中であることの決め手にはならなかった。
そこまでして、注目した、東京ラーメンであったから、どうしても入らずにはいられないかった。ただし、そんなに腹が減っていたわけでもなかったし、最近、大盛りチャーシューが値上がったことへのささやかな抵抗として、もっとも安いラーメン「並」をたのむことにした。さすがにゆで卵だけとか、もやしスープだけでは、最低限の食欲すらみたせないので、見送ることにはなった。それとは直接関係ないが、重大な出来事に遭遇することにもなった。

「カレー」が売り切れていたのである。
これは驚くに値するであろう。確かに、カレーを注文しているひとはいた。しかし、それにしても売り切れてしまうほどの注文が殺到するとは、あまりにもきょうがくすべき出来事ではあるまいか。この驚きが嘘でないことを祈りつつ、筆をおくこととする。
1997/1/16
欝になるとなかなか現状復帰がしにくい性格の私は、新規一転をはかる方策を考えあぐねいていた。その時、ふと思いついたのが、ここ東京ラーメンでラーメンを食うことであった。しかし、他でもかいたように、営業をしていて、かつ、満員でない時にこの店の前をとおりかかることがなかったから、今回もそうである可能性を感じていたのだが、現実はそれを嬉しくも裏切ってくれることとなった。久しぶりの親父。べつに変わった様子も感じさせない...... ん？ちょっと違う。それは、親父か？いや相変わらずの鼻歌交じりでの調理、隣に客の前では亭主関白ぶりを発揮される奥さん。彼らは変わらなかった。では変わったところというのは？何か昔より部屋の雰囲気が白いのである。そう、シロイハ紙。メニューがかかれた紙が一新されていたのである。前のメニューは、確か、平成６年とかかれていたから、３年ぶりだろうか。新年にふさわしい出来事であった。その内容はというと、結論からいうと、ほとんど変化はなかった。唯一といっていいほどの変化は、「大盛りチャーシューメン」の値段である。値段が一気に、３０円値上がった（６６０円）。その時思った感想は、「ああ、今日は大盛りラーメン（５００円）にしておいて良かった。」３０円の違いは少ないと思われるかも知れないが、それを知らないで、支払の時にはじめて知るときのショックははかり知れないものを感じるのだ。それを回避できた安堵の快楽は、なかなかそのラーメンの味を豊かにしてくれる。しかし、今日は失敗した。それは、「辛みの調味料」の入れすぎであった。おかげでスープを最後まで飲めるかどうか不安に思うことになったし、その後の約一日ほど、腹の調子を崩すことになり、便所に片手で足りない回数かようことになってしまったのだ。
1996/12/10
久しぶりに東京ラーメンを訪れた。雨も降っているし、もしかしたら今日は誰もいないのかなと思ったら、意外にそうではなかった。カウンターに一人、奥の座敷に三人。いつものように、奥の三人は、話に盛り上がり、カウンターの一人は、物静かに一人、しなちくラーメンと小ライスを食べていた。
「何にしましょう」
「大盛りラーメン、お願いします。」
そういうやり取りの後、おやじが水を汲むまで待ちきれずに、イオン浄化水を自ら汲みにいってしまった。この行為に関して、おやじは少し不満を持っていたようである。それは、注文したラーメンが目の前にきて、食べ始め、その残りがスープ半分程度になったときの行動で明らかになった。
スープは残り少なく、このままは席をなれると持っていかれかねないという強迫観念から、残りを水を節約しながら飲んでいると、
「いれましょうか？」
といってきたのである。私は、水を飲むとき目をつぶってしまうという癖があるため、それまでおやじが話し掛けてくる前兆をまったく知り得なかったため、結構驚いてしまった。
「ああ、お、おねがいします。」
その驚きを隠そうとして、余計に落ち着きを失ったような返答をしてしまったが、それとは反対に、おやじは何か勝ち誇ったような顔をしているように私には、みえた。奪うかのようにコップを奪ったおやじは、その中に少し残っていた水をいきよいよく捨て、イオン浄化水の機械からではなく、薬缶にはいっている方の水をコップにいてれ持ってきた。まるで、「この水のほうがおいしいねんで、水のことは私に任してもらわな。」とでもつたえているかのような顔で、
「はい」
といって手渡したのであった。水一つにも拘りを見せるおやじ。こうでなければ、うまいものもうまくない。東京ラーメンのうまさはここになる、と、ここに来始めてから思ってきたことが、なにか、今日始めて頭の中で像として結んだ思いだった。テープからき置けてくる音楽、それに負わせるように途切れ途切れ発声するおやじの鼻歌、そういうことを感じてから、何か崇高なものに聞こえてくる気がしたのは、やはり気のせいなのだろうか。
1996/11/26
今日は、大盛りチャーシューを食べた。しかし、その一番高額な単品メニューにも関わらず、最大級の心地よさ（親父とのコミュニケーション）が得られたわけではなかった。それどころか今まででもっとも、まずかったラーメンになってしまった。誰が悪いというものでもなく、また、私がその人を非難するという権利は有しないが、それでも、あのラーメンはまずかった。味というものがなく、ただただ少々やけど気味の（味ツボミがちょっと麻痺すること）舌の気持ち悪さだけが残ったのである。そしてそれを決定的にしたのは、かえり際の挨拶が全く省略されたことである。
「すいません、どうも、すいません」
あれが全くなかったのであった。楽しく話するのは、いいが、もう少し何とかならなかっただろうか。大人げない親父の姿に、ちょっと淋しい思いがした。
1996/11/7
久しぶりのここでのラーメンは、「ラーメン」であった。最近は機会が得られなかったというわけではなく、いこうと思えばいつでもいけたものなのだが、いこうとするたびに、「生協の方がいいのでは？」とか、「ラーメンにのる気でない」とか、言い訳を付けながら避けていたのである。「ラーメンに対する、スランプ」というものだろうか。（われなが呂い辰討癲△修譴録�戮芯掌紊亡兇犬覺恭个任△辰董" その時の感覚を信じて長い間にわたって食事をしないことにしておくと後悔してしまうので注意が必要だ。この日は、３時間３０分の空腹を防ぐための食事としてこのラーメンを食べたので、そのような失敗は起こしていない。
1996/9/11
「ちゃーしゅーメン」を食した。

初めてのメニューではないので緊張はしなかったが、ひさしぶりの並の器のラーメン（といいつつ前回もなみの器のラーメン、並、であったが、まだ、ここのラーメンは「大きな器だ」という感じがだ残っているのであえて、に書いた）であったので、なかなか新鮮な感じがした。

店の中には、いつもの親父と今日は奥さんも立っていた。イツモナラ、「カレーェ」と呼びかけられた時ぐらいしか登場しないのであるが、露が器に入り、麺が器に入れられた後の盛りつけは、彼女の仕事である。

「７番の人、チャーシューね」

小声で奥さんに耳打ちする姿は、３０年の重みを感じさせるのに十分な迫力を感じるものがあるのである。しかし、心なしか奥さんが入れた時は、親父さんが盛りつけした時よりも勢いが少ない、もっとはっきりいえば、少なめの盛りつけであることが多いように思われるのだが、私の気のせいなのだろうか。（嘘だっただ誰か訂正してくれ）
1996/9/7
今日は「なみ」を食することにした。ちょっとした腹ごしらえという意味合いだろうか。このメニューを食うのは久しぶりであるが、結構量はみためよりはあるように感じる。意味まで少し多めに感じていたことが多かったので、積極的に「なみ」「チャーシュー」をこれから食うことになろうとその時思った。
1996/9/3
夕飯としてここのラーメンを食うのは久しぶりのことである。もっといえば、ここで食うこと自体久しぶりであった。この店の前にきたことまで合わせるとそんなに間はないのであるが、さすがに「店の前まで来ただけ」で食った気にあるほどの境地には達していない。

昨日に実はここで夕飯をとる予定であった。しかし、「はやし」なるお好み焼きやで食することになったので、残念ながらあきらめざるを得ないのであった。その悔しさもバネに訪れた店内は、あいかわらず変わりばえのしない風景であった。もちろんとんでもないぐらいに変貌されてもそれはそれで尋常ならぬ不安に駆り立てられるのであるが、ちょっと不満に思う時があることもある。しかし、この変わりなさがここの一つのよい点であるのは偽らざる事実である。今回はいった時にもこの気持ちか一瞬のうちに心のなかを通り過ぎそれがひと段落したときにちょうど店のサッシを閉めることになる。

「大盛りチャーシュー」このように久しぶりにきたときなどの嬉しい時には、その気持ちを表す為に高めのメニューを頼んでしまうのであるが、相変わらずこれになってしまうのである。
「いつかは、ラーメン＋カレー」の昭和四十年代の子ども狂気乱舞な黄金メニュー（ラーメンが好きなのは、かの皆川おさむの「黒猫のタンゴ」シングルのB面にはいっていた「ニッキ、ニャッキ、ニュキ、ニョ」の歌詞の中の一説で明らかだが、カレーが好きだという証拠は意外と思い当たらない。ゴレンジャーのキレンジャー（故人）がカレー（それも黄色い奴）好きだったことでかろうじて与えられようか。（年代的に遅過ぎるか））を頼めないというのは、あまりにも大将と奥さんに実は失礼なことであるのだが、あのコンロと鍋の壁は厚い、と思うのであった。

しかし、今日は結構いい経験をした。わたしは、結構ラーメンを食べる時に水を飲む。最低でも２杯。大盛りになれば３杯は下らないのであるが、最後に大盛りチャーシュー分の金をはらって、財布にお釣りを戻している際に、大将が
「お水よろしいですか」
と聞くのである。その時は、食い終りに水をくみにいかないですむように計画的に水を飲んでいたので、おもわず
「いいですよ。」
といってしまい、その申し出を断ってしまったが、後でもらっておけば良かったと思った。しかし、そのような申し出ああること自体悪い気のしないことであり、やっと「常連」扱いされてきたのかも知れないとおもえなくもなく、素晴らしく爽快な出店となったのであった。
1996/8/28
いつものように昼飯を摂ろうと、鞠小路を北にあがっていつものコカコーラの看板を目指したが、店の前にまったく自転車がみえない。これはやばいな、と思いつつも店の前まで言ってみると、案の定である。今週の日曜日から木曜日（明日）まで休みます、という模造紙にマジックで書かれた文字がすべてを語っていた。それと同時に前に店で食っているときに目に入ったカレンダーにちょうど今目にした期間だけ赤のマジックでまるで「クイズ百人に聞きました」の第一問目の不正解の時に表示される赤字の罰マークの様に描かれていた事を思い出すに至り、「そうやったか」と誰にとはいわず、悔やんで見せながら生協の食堂に足を向ける私であった。
1996/8/23
大盛りを食べる為に、東京ラーメンへ向かう。まさに私が店にはいった時、結構店の中はゴッたがえしていた。そのためどうしても人と人との間に開けられた一つの椅子に座らざるを得ず、ただでさえ暑苦しいラーメンやをいっそう暑くするものがあったのである。ただ、しばらくして、巨大冷房機による冷気によってその発言は撤回を余儀なくされるわけであるが。

私の座ったところの横、とりわけ左横は、毛の薄さを誤魔化す為に極力毛の長さを短くしたと思われる白人系の異国の人であった。予想通り、なみのラーメンを注文しており、かつ、すすることを忘れてあまり美味しくなげに（目に映る限りにおいては）食べていたのである。彼は無口であった。やはり、おやじとこころで話をしているのだろう。私は、邪魔をしないことに決めた。

そうしてみると、いつもは感じる軽い火傷症状、あの舌がひりひりするやつ、が、マトモに感じられずに大盛りを食することができた。そう、そのせいか、いつもその場できになってながらものちにはすっかり忘れてしまっている「ガーリックか何かのうまみを与える調味料をくわえるのは、なぜかコーヒースプーンのえのほうである」ということを店を出てからも記憶から消えないでいた。

異国の毛の薄い人が先に店を出てしまうと、なみだ目でこちらを見ながら「ラーメンと小ライス」を注文する、夏・スポーツ少年風の大学生がラーメンの暑さに咽ぶ我視界にとびこんできた。うんむ、それに喜ぶほどの性格転換を行なっていないわたしにとっては、一昨日に手に入れたVTの盛り上がりのなさに虚脱感に襲われ一時間は放心状態のまま何もできなかったことに続く、あまりにもひどいしうちなのではなかろうかと思ったのであるが、それは、親父が目の前ですったタバコの煙が目に染みたせいなのであろうかと自分に言い訳する。

それにしても、ここの飯に関するものは、大・小のライス以外にないのが至極残念であるが、「静」なるこのラーメン屋には、「動」なるチャーハン（の作る動作）を導入することは、喫茶店の方式でそれを出す以外にないと思われるがやはり３０年のキャリアのある親父にはそれは許せないのでは、と想像できる。（しかし、カレーぇ、はどうなっているのか！という意見は、抹殺する。）
1996/8/19
今日は最後の客として入店した。入店した時には、客が一人、こ鉢のラーメン（後に、チャーシューメンと判明するのだが）をすすり、この静けさと、それにたまに混ざる親父の途切れ途切れの鼻歌、そして、私の視線に耐えられなくなったのか、小さい器のすべての汁を飲み干すことなく、
「ご馳走様」
といって、その場を去ろうとする客、この客が長居できるかどうかというのは、客一人増えるか増えないかで、簡単に変化してしまう何らかの微妙なバランスによって保持されている場の状態に大きく影響を受けるのだろうか。私の経験では、同じ東京ラーメンの食事をしたあとでも、なんとなく、舌の上の感覚が異なっている。自分では気がつかなくても、無意識に、その微妙な場の雰囲気を感じてたのかも知れない。

「たまごカレーェ」

例の「奥」へ響く声は、奥さんの耳に届いたのだろうか。奥のコンロに置いてある鍋に火がつき、再加熱をはじめた、更に緻密に計量器ではかられた水がとうじられた。

そのミニな姿のカレーが、私の隣の席に届けられた時、ちょうど、私は汁をのみ終えたところであった。

なるほど、タマゴカレー（正式名称は、玉子入りカレー）は、４２０円カレーに生卵を入れただけやったのか。

感動にもならないはずのたわいないことが、そのラーメンの味の余韻をずいぶんと増幅してくれる。人の、カレーは見て楽しいが、まだ、それを自らの口から叫ぶことに対するたがは、まだ外れないでいる、わたしであった。
1996/7/20(海の日祝日土曜)
遠出をする時の腹ごしらえには、「東京ラーメンだ」と決めている私は、土曜日にも開店してくれる、近所にはすくないみせということで、（しかし、夜は、早過ぎる）久しぶりに、その麺とスープと親父のはなうたと、この「東京ラーメン」を経験した人でも、よほどの通い詰めをしていない人にしか知られていないだろう、おやじの少し、身をそらしながら、おくの奥さんに、「カレーェ」とよぶ、その声とを楽しみにいこうと、マリノコウジ通りを北に進んでいくと、何やらいつもある、看板「営業時間午前１１時から午後９時」と独特のカラーリングにて作られた明朝体の文字が目に入らず、店の前は、何もないかのように、開けているその様が、遠くから、見えてしまった。

もしや？と、前の「午後６時で閉めます」の張り紙の経験を思い出しながら、同じようなことがあるのではないか？と思いつつも、それを確実に確認できる距離までは、近付きつつある自分自身に、「やっぱ、とうきょ、ラアァメン！」と某歌の節で拳入れながら歌ってしまうがごとくに愛する姿を見たような感じさえした。

しかし、現実は、それぐらいの愛情で、現実が曲げられるものではない。東京ラーメンのサッシの入口は、かたく閉じられ、カーテンがかけられていたのであった。

しかし、前の時と様子が違う。前は、サッシのガラスに、厚紙の上にかいた「都合により、午後六時に閉めます」という、文字があったのに、今日は、そのことわりすらない。

土曜という、ともすれば、休みだと勘違いしそうな曜日ではあったが、過去５回はこの曜日に食っている私には、全くそれも感じていない。現に、その時も、全く疑いなく、下宿から、出てきたのである。

どうしたんだろうか？何かあったんであろうか？「便りのないときは、何も心配することは起こっていない。」という経験則にそのまま流されてしまうには、その事実は、重過ぎるように感じている。

(この疑問は、次の回にとかれた！)
1996/7/13
きょうは、東京ラーメンの中でもっとも高価な単品「大盛りチャーシュー」を食することになった。（６４０円である）この味のすばらしさは、ラーメンのものと量以外ないと思われるが、それはそれで、量の２乗に比例する形で、楽しさを満喫する法則をかんがえれば、飛躍的な素晴らしさの向上とは、これのことだと実感できるものがある。

それと、一ついっておかなければならないことがある。それは以前に述べた、鼻歌を載せる曲のことである。実は、以前には小学生が歌うような歌と書いていたが、どうもそれは間違っているようだ。正解は、「イタリヤの腹のそこから発声しないと歌えない歌」である。私個人でいえば、「高校２年の時の音楽の授業でやった歌」ということになろうか。
1996/7/12
今日はついていない日であった。今日こそは、久しぶりに、あのダツサラ親父のラーメンを食さんとまりのこうじ通りを北にいったのであるが、

本日は都合により、午後６時に店を閉めます。

なる無情の掲示が、あったのである。

かなしかった。しかたなく（といったら失礼だが、落胆したという気持ちがそう私にかかしめたのである）向かいのコロッケやで、食事することにしたのであるが、何か、ああいうところで、１次会をするという２０人ぐらいの集団が、酒も入っていないのに騒いでいたのにあい、更にその気持ちは、落ち込まざるを得ないことになってしまった。
うっとうしい梅雨の日(1996/7/6)
その入口にあるサッシに手をかけると、中で、畳に腰かけながらタバコをすっている店主は、はっとしたような顔をして、立ち上がりかけ、私がサッシを開け切った時に、

いらっしゃいぃ

と、声をかける。そしてすかざす、私は、メニューに目を通し、注文を告げる。

大盛りラーメン

「大盛りラーメンね」
その声が、叫んだ後は、ひたすら静寂が続く、わけではない。

注文を告げた客に対して、逃すまいという意気込みをも感じさせるコップ水の配給が素早く終った後、（ときたま、そのタイミングが、客がセルフサービスであると勘違いする、に十分に遅くなる時があって、その時は、貴重な親父の声、「入れてますよ！」ということばを聞くことができる。このときは、心からの笑顔で、彼に答えたくなるものである。）
時によって異なるが、なぞの小学生の音楽の教科書にのっているような曲のメロディーがながれる中、それにあわせた、親父の鼻歌がそれを追いかける。もちろん、彼の手は、麺をほぐしたり、豚のスープのベースをかき混ぜたり、ラーメンの準備を休まず続けながらも、ゆったりした、

「悠々自適だ」

という言葉を体現してるような、動きで、我々（客）をたのしましてくれる。

ラーメンの仕上げとして、２年前ぐらいから多めに入れる時の値段が値上げされた葱（ねぎ）をはらはらと私の食べるべきラーメンに振りかけた時、親父の頭は、部屋の蛍光灯にさえ、渋く映える。

はぃ、大盛りラーメンです。

私は、決って、「どうも」といってしまうであるが、これは、もっともなされるやりとりではないようだ。もっとも多いのは、心の中で、満面の笑みで、「うまそー！」と叫んでいるが、顔は無表情を保つ、という奴である。いかに、親父と以心伝心のやりとりで、平和になるかがポイントなのである。

そして、突如として、親父とのつながりが切れる。ラーメンを食おうと思った瞬間である。

二三口やる間は、その姿は、ほとんど視野からは消える。それは、いやなことに思われるかも知れないが、そうでもない、実は、必要なことなのだ。ラーメンを食う時でも、特にスープを飲む時は、食べては、少し、水をやり、食べては水をやるという繰り返しで、味をできるだけ落さないように食しあるいは、味わうのである。それと、同じである。

ラーメンを食うことと、無言の親父の以心伝心を繰り返すことによって、どんどん気持ちが高揚していく。単に、ラーメンと水の繰り返しだけでは、得られない、

その高揚が、ときとして、味を低めてしまうこともある。水を飲むのを忘れてしまうのである。それは、その時には、いやな感じがしないが、後になってじわじわと、あらわれるので、始末が悪い。これで、良く後悔してしまうであるが、何とかならないものであろうか。

そして、会計のやりとり。

親父は向うからは、当然、声をかけようとしない。客を追い出して、印象を悪くするのは、彼もいやだからだ。いい具合を見計らって、私は、いう。

「ご馳走さん」

「５００円、ですっ。」

勘定を渡すと、麺のおいてある台の引出しから、おつりを取り出して、いう。

「すいません、どうも」

これが、ありがとうございました、である。ここで、一気に、外に出る体制に入らなければならない。またくるよ、とか、どうも、とかいうのは、最小限にする。心で伝えるか、次回の訪問でそれを体現するかどちらかにするのである。

東京ラーメン日記1

大盛りラーメン

「カレー」だ。

「カレー」が売り切れていたのである。

本日は都合により、午後６時に店を閉めます。

いらっしゃいぃ

大盛りラーメン

はぃ、大盛りラーメンです。

「ご馳走さん」

「５００円、ですっ。」

「すいません、どうも」

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