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あなたが属国では、都合が悪いんです。 「…だってー…」 これって嫌われたってことかな。だよねえそれ以外にあり得ないよねえああ! ばふん。ベッドに突っ伏して深いため息。 都合が悪いと言ったのはほかでもないオーストリアさんだ。 …だから、あなたには独立してもらいますって。 呆然としている間に、話は終わってしまったわけで。 「…うー…」 …なんか悪いことしたかなあ。オーストリアさんに迷惑かけたかなあ。 ただそばにいたい。その願いも叶わく、なる、みたいで。 「…っ…」 あ、やばい、本気で泣きそう。 …知ってる。彼が、私の知っている彼ではないことは。頭ではわかってる。 けど、だって。オーストリアさんだから。心がそう訴える。彼は、例え世界が違っても、間違いなく彼だと。 …だから、好きになってしまった、わけで。 ぐす、と鼻をすすって目を閉じる。 ああもう、本当に心が張り裂けそう…! 一度、ぎゅ、と目を閉じて、深呼吸。 こぼれた涙を拭って、いや。とつぶやく。 「まだ、だ。」 彼の言葉の真意を聞いてもいないのに、諦めるなんて。 それに、ちゃんと、私の気持ち伝えてない。 そばにいたいって。伝えてない。 なけなしの勇気を振り絞って、ベッドから起きあがる。 泣くのは、やりきってからでも遅くない! オーストリアさん、と呼ぶと、本に目を落としていた彼が視線をあげた。美しい紫。その色に、怯みそうになって気合いを入れ直す。 「質問があるんですけど。」 「はい、なんですか?」 ぱたん。本を閉める彼の動作が終わるか終わらないか。息を吸って、ソファの背を強く握った。 「私のこと嫌いですか!?」 勢い込んで、それだけ、尋ねる。 途端に怖くなるけど、でも。 …勘違い、だったら。 「…どうして、そう?」 穏やかな声。…だって、都合が悪い、とか。小さな声で言い返す。 …怖い。返事を聞くのは。 もし、いやオーストリアさんは言わないと思うけど、嫌いです、なんて言われたら立ち直れない自信がある。 でも。 まっすぐに彼を見つめる。 「…ああ…すみません、そんなつもりではなかったんですよ。」 嫌いになんて、なれるわけがないでしょう。 その一言に。 張りつめていた糸が、切れた気がした。 はあああ。深くため息。 「よかったあ……」 ほら。違った。…諦めなくてよかった。間違ってなかった! 「じゃあ…なにが都合、悪かったんですか?」 首を傾げる。嫌われていないなら。…私がいると都合が悪いこと? 「…あー…その…」 歯切れの悪い答えに、きょとんとする。 「…言ってしまうと、独立してもらう意味がなくなってしまうので…」 秘密です。今はまだ。 笑ってそう言われて、はあ。と返すしかなかった。 そしておとずれた、この家を出て行く日。 …悲しいし、寂しい。けど。 「また来ます」 「いつでも。…待ってますよ。」 その一言に、笑ってみせて。 …あんまり長くここにいると、出ていけなくなりそうだ。 「じゃあ、私行きますね。」 「はい。…今までありがとうございました。」 何もしてないのに。むしろしてもらってばかり、で。 けど、これ以上話していたら本当に、泣いてしまいそうだから。 覚悟を決めて、玄関のドアに手をかける。 「ハンガリー」 「はい?」 「あなたが好きです。私と付き合ってください。」 世界が、止まる。 「…え、」 「もちろん、これは命令などではありませんから。」 独立したあなたには、命令なんてできませんから。振り返った先で、晴れ晴れと彼は笑う。 …ああそうか。都合が悪いって、命令だと思われちゃうとかそういう意味か。 頭のどこかでそんなことを思って。 そうでもしないと叫びだしてしまいそうだった。 うれしくてうれしくてうれしくて!! こらえきれなかった涙が、つ、と頬を流れる。 「…私も、好き、です。」 なんとかそう、返して。 そうしたら、彼は嬉しそうに微笑んだ。 歩み寄ってくる彼に、まっすぐ向き直って深呼吸。 そのとき、きん、と小さな金属がぶつかるような音と。 扉が開く、音がした、気がした。 |