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「聞きたい…かな」
気になります。そう言えば、そうですか、とうなずいて。


「縁談がきました。」
「……は、い……?」


「…だれ、の、ですか?」
思わずそう尋ねると、あなたのです。とさらり。
「は……?」
「まあ、あなたの独立の前段階として、ですが。すぐあなた一人にするわけにはいきませんから。」
「は、あ…。」
まぬけな返事しか返せない。何を言っているのかわからない。

「一ヶ月ほどしたら、あなたはここを出て、そこへ行くことになりますので。」
そのつもりで。さらり、と。そう、言われて。


「…どうして、」
「?貴女のためを思って…」
その一言にかっとなった。
うれしくない。全然うれしくない!

「私の為なんて全然うれしくない!」
怒鳴った。目をつむる。嫌だ、嫌、絶対嫌!
「え…」
「私のためを思うなら、出ていけなんて言わないでください!」
「いや、出ていけとは言ってませんが…」
「お願いですから!」
ぎゅ、と拳を握りしめる。そうでもしていないと、泣いてしまいそうだ…!


「お願いだから、私をそばに置いてください…っ!」
それだけでいい。他にはもう、何にもいらない!


「あなたが好きなんです…!!」

思いっきり叫んで。
しばらくしてから、その意味にはっと、した。
呆然としている、彼の表情。

「あ、や、その…。」
どうしよう。どうしようどうしよう。
言うつもりじゃなかった。…ずっと一緒にいられるなら、それで。
十分だったのに…!
後ずさる。うろ、と視線をうろつかせても、いい言い訳なんか浮かばない。
自分から、こんな、関係を壊すようなこと言っちゃうなんて…!

「っごめんなさい!」
うつむいたまま怒鳴って、踵を返して、ドアに手を伸ばす。
「ハンガリー!」

呼び止められても、止まれるはずもなく。


かつん、金属が落ちる音がした



『鍵のかけら』を手にいれた!


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