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…とりあえず、掃除だけでも終わらしてこよう。うん。お仕事お仕事!
そう思って、ちょっと名残惜しく思いながら歩き出した。


なんだったんだろーなー。おいしいお菓子が手に入ったとか?…いやいやイタちゃんじゃあるまいし。
オーストリアさんが喜びそうなこと…希少なチケットをゲットしたとか。ああ、それかも。すっごい有名なとこ、とかの。絶対取れないってやつ。
そういえばこの間も、聞きにいきたいですね、是非。って言ってたし。名前忘れたけど。なんだったっけ。

でも、オーストリアさんなら顔パスなのになあ。…そんなことをするのは真剣に演奏してくださっている方々に失礼ですって。
まあらしいって言えばオーストリアさんらしいんだけど…。

それか、楽譜、とか。あ、ピアノとか?…うむ。音楽系のなんかだろうな。とりあえず。うん。

そう自分を納得させて掃き掃除を続けていると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。
「オーストリアさん?」
ここです。そう声を張ると、階段の上から彼の姿。あれ。コート着てる。お仕事かな?

「ああ、ここでしたか、ハンガリー。」
「はい。お仕事ですか?」
「ええ。少しの間留守にしますよ。…その前に。」
降りて来た彼が目の前に立つ。まっすぐな瞳が私を見る。…どうしたんだろ?

「あなたにお話があります。」
「…は、」
「少々込み入った話なので、私が帰ってきたら部屋に来てください。ああ。今はあまり時間がありませんが…手短かに用件だけ伝えることもできます、どうしましょうか?」
聞きたいですか?そう尋ねられて、え、あ、と少し悩む。
話。…真剣な、話?
それって、例えば。…告白とか。
…いやいやそれを手短かに用件だけ告げられても困るし。というか違うだろう。国としての話、だろう。きっと。
今聞きたい…気もするけどでも、オーストリアさん急いでそうだし…
…でも、気になるなあ…。

「後で聞かせてもらってもいいですか?」
尋ねると、彼はうなずいた。


「失礼しまーす…。」
帰ってきた彼に呼ばれ、部屋にそっと、入る。
「ちょっと座っていてください。」
彼は書類の整理をしているようで。言われたとおり、座って待つ。
ちょっとしてから、お待たせしてすみません。と彼が向かい側に座った。
「いえ。…で、話って…?」
ああはい。彼はそう言って。


「縁談がきました。」
「……は、い……?」


「…だれ、が、ですか?」
思わずそう尋ねると、私のです。とさらり。
「は……?」
「まあ、政治的な観点が大きいんですが。」
そんなに驚くことでしょうか。首をかしげる彼。
「あまり強い国とはいえませんから。婚姻と同盟と。そういったことで国を強化していくのはあたりまえのことでしょう?」
…ああ、このひとにとっては、そういうこと、なんだ。婚姻って。
でも、昔。彼は、そう。私とも。…でも、けど、だって。
「ハンガリー…?」
不思議そうな声に、指を握り込んでぎゅ、と手のひらに爪を立てて。
仕方ないことなんだ。きっと。
「それと同時に、あなたの独立、も考えているのですが…。」

ああ、そうやって。彼は。私じゃない他の人と。
…暮らすんだ。


「…嫌です。」
「じ、冗談、ですよね?」