翌朝、グローリン宅を再訪しました。グローリンはしばらく研究に没頭していたため、村の伝染病騒ぎを知らなかったそうです。彼は、アストラル空間の汚染が著しいことから、おそらく今回の事件はホラーが引き起こしているだろう、という推定を下しました。
私には判断材料が少ないのですが、名高き元素魔術師の感覚によって得られた傍証は、私を納得させ得るものでした。今は人命を尊重するのが先決という事ですね。
「他にも頼みたい事があるが、まずはこの村の危機を救って欲しい」という依頼を提示された時、川辺の方からちょっとした騒ぎが聞こえてきました。私たちが騒ぎの元に急行すると、一隻の船が川辺に到着した所でした。ヒューマンの魔術師風の男性、そしてトゥスラングの魔術師風の女性という2人の珍客は、下船して村の中ほどへと歩き出しました。男性の恐ろしげな風格と眼付けによって、集まってきていた村人達は道を開けてしまいました。明らかに2人ともアデプトであるようです。2人に今回の病気の事で協力を要請すると、興味を持った様子でした。
彼らを伴い、再びグローリン宅へと戻り、あらためて今回の件に関わる情報を2人の魔術師に提示します。2人は協力を承知してくれましたので、お互いに自己紹介をすることになります。ヒューマンの方はアフニールという名前だけ名乗り、トゥスラングはトゥールと言うエレメンタリストである事を語ってくれました。
魔術師2人とは、誠に興味深い組み合わせです。特にアフニールは奇妙な雰囲気を持っているような気がします。真実は分かりませんが、かなり特異な技術や知識を心得ているのではないでしょうか?
トゥールは、川の中にあるトゥスラングの村を訪れました。その村の住人達は、地上の村での流行り病にホラーの気配を感じたために自分達の村に閉じこもったらしいと言う話です。そして、閉じこもる際には、地上の村の代表にホラーの危険性を伝えたという事も語ってくれたそうです。
川に潜り情報を聞いてくるという考えは、川の種族トゥスラングならではですね。彼らにしてみれば当たり前の発想でしょうが、私には考え付けませんでした。
今回の病の犠牲者が子供ばかりである事、村の代表の孫娘が昏睡状態になっている事、そして既に子供を失っている家族についての情報を得た私たちは、二手に別れて聞き込みをする事にしました。メンバーは、フラベラム、シャープ、エイミィ、トゥールの4人と、アフニール、ウルフバンダー、私の3人という組み合わせです。
私たちは、子供を失った家族の一つを訪れました。しかし、アフニールの遠慮ない質問によって、反感を買ってしまいました。慌てて私たちは弁解しましたが、子を失った親は激情に駆られてしまい、とても話の聞ける様子ではありませんでした。
油断をしていたとはいえ、あのような発言に持込まれるとは..。虚実の真理を求める幻影魔術師である私は、虚をつかれた事でかなりのショックを受けてしまいました。しかし、収穫もあります。アフニールは油断ならないほど効率的で、他人の感情にさほど頓着しない性格であるらしい、という事です。
仕方ないので、この村の医者を訪ねる事にしました。そこでは、病気の症状と進行速度についての情報と、重態に陥るのは常に2人の患者である事を聞きます。今重態なのは、村の代表であるホーイッチさんの孫娘と、イアンさんのお子さんだそうです。特に、後者の病状がより進行しているという事です。
フラベラムたちと合流して相談をしていると、アフニールは興味深い知識を披露してくれます。それは、マインドスラッグというホラーについての情報でした。人に悪夢を見せ、その強い恐怖を吸い取るホラー。それに取り付かれた状況と、今回の病の病状は、かなり類似性を示していました。マインドスラッグは対象にずっと取り付いて対象を苦しめるのに対して、今回は誰もホラーの姿を見ていない事などから、アフニールは「マインドスラッグの亜種の仕業ではないか」と推測します。
うーむ、なんという知識と洞察力でしょう。ホラーという得体の知れない強力な存在について造詣が深いとは、彼は一体何者なんでしょう。ホラーを憎んでいるのか、それともその力を利用する術を求めているのか、単なる探求心なのか..彼の冷徹な表情からは、真意を見出す事は出来ません。
しかし新たな情報を入手しました。患者の看病をしていた家族は何故か眠りに落ちてしまい、子供の苦しげな悲鳴で目を覚ます、という共通性があったのです。では、犯人は周囲のものを眠らせて、患者を苦しめているのでしょうか?
その可能性を確認するために、イアンさんのお子さんを預かって、私たちで見張っている事にしました。有事に備えて、広い場所(宿屋1階の酒場)を借りる事にしました。主人は快く承諾してくれたので、テーブルなどを部屋の隅の方に積み上げ、私たちとグローリン、イアンさん親子は、それぞれ夜に備えました。
アフニール、ウルフバンダーの2人は、万一に備えて酒場の外に待機していました。そして、夜も更けた頃、突如として眠気が襲ってきたのです...。
私が目を覚ますと、イアンさんのお子さんも目を覚ましており、親子の嬉しそうな笑顔が目に飛び込んできました。仲間に事情を尋ねると、予想通りホラーが姿を現したので、眠らずにすんだグローリン、ウルフバンダー、アフニール、そして目を覚ましたトゥール、エイミィ、フラベラムらの活躍で、退治する事に成功したそうです。
はっきりいって、今回の事件は不覚の連続です。またも虚をつかれ、しかも戦いが終わるまで目覚める事が出来ないとは..。今後は、ホラーの力を振り払えるように、意志の強さを鍛えなければならないと考えています。
とりあえず事件は解決をしたように思えましたが、良く考えると重態患者がもう1人出ているのです。私たちは万が一を予想して、ホーイッチさんの家へと急行しました。建物の中に声をかけても返事がないので、やむなく中へ突入する事にしました。先行するウルフバンダーの後を追います。開いた扉の向こうでは、触手の生えた奇妙な生き物が子供の頭に張り付いていました。慌てて放ったかげろうの矢は、思った以上に衝撃を与えられたようです。勇敢なる仲間たちの波状攻撃の前に、ホラーは案外あっさりと崩れ落ち、消滅しました。
酒場での戦いでは傍観者にすらなれなかったので、今回は多少なりとも役に立てたでしょうか。何にせよ、ホラーを目撃することができ、しかもホラーといえども現実と虚飾の境を完全には見定められていないという事を知り、私の進むべき道の深遠さを実感すると同時に、誇りにさえ思えました。力の使い方を謝らなければ、より高みに登る事が出来るでしょう。
酒場に戻り、テーブルなどを戻した私たちは、朝まで休む事にしました。イアンさんは、礼を言いに訪れました。村の子供たちの病状を確認してもらうと、どの子にも症状は見られなかったそうです。イアンさんからは食事に招待されました。そして私たちは、「まだホラーがいるかもしれない」という疑念から、その晩も村中を見てまわったりしたのですが、特に異常はありませんでした。そのため、この事件は解決しただろう、という結論を下しました。
グローリン宅を訪れると、彼はタスク老から「ウルフバンダー(とその仲間たち)の力を見定め、実力ありと判断したら、指輪の謎を追い求めるように勧めて欲しい」と頼まれていた事を明かします。私たちは、どうやら認められたようです。真実の月というその指輪が、呪文(特に幻覚呪文)に耐性を与える力を持っている事は判っているそうです。残された謎を探るため、とりあえず私が指輪を預かる事にしました。
非常に気になります。え?何が?「幻覚呪文」に耐性を与えるということは、幻覚と現実の境にささやかな影響を与えている事に他なりません。この指輪の謎を追う事で、私の求める真実に近づけるかもしれないんですよ..。
さて、改めてグローリンから依頼を受けました。防具の防護効果を高める手段を研究するために、サーペント川の上流に棲むという灼熱ガニという巨大な生き物の甲羅を取ってきて欲しいというものです。さほど急ぐ依頼ではないそうなので、私たちはまずティデェイスで見つかったケーアの探索に赴く事にしました。