花子さんの就職便り

<花子さんの就職便り><喫煙者太郎さんの春便り>

 タバコの大好きな太郎さんは,47才の中堅企業のサラリーマン。最近鼻詰まりが気になっています。2月27日,近所の内科を受診したところ,花粉症の診断を受けました。太郎さんはこれまで、アレルギー体質とは思っていなかったのですが、言われてみればここ数年春先になると目がかゆかったり、鼻づまりで夜,寝苦しいことがありました。

 太郎さんの喫煙歴は30年近くに及び,健康を考え,最近ニコチン含有量の少ないたばこに替えましたが、本数が以前の20本から40本に増えています。主治医の先生はタバコをやめなさいと言いますが、太郎さんは花粉症とタバコは,いったいどんな関係があるのかと疑問に思っています。

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<眞弓先生のアドバイス>

 喫煙により鼻や目の粘膜が刺激を受け、花粉によるアレルギー症状が悪化したり,薬が効きにくくなってしまいます。太郎さんはタバコをやめた方がよいですね。それから周りの人の喫煙でも症状は悪化しますから、部屋の中での喫煙はやめてもらいましょう。
 同じ部屋でタバコを吸われると,有害物質が高濃度に含まれる副流煙も部屋の空気を汚します。このため,室内にいる人はタバコを吸う人も吸わない人も,有害物質(アンモニア、ホルムアルデヒド,ベンツピレン,ニトロサミン,NOx,一酸化炭素など数百種の物質)により,長時間刺激を受けてしまいます。一般には受動喫煙により、約70%の人が目や鼻、喉の症状を訴えることが知られています。

 患者さんの中には,スギ花粉の飛散時期だけでなく一年中鼻づまりや鼻汁で悩まされる鼻アレルギーの方がおられます。この場合ダニやホコリ、ペットによるアレルギーが多いのですが,禁煙を実行することでアレルギー症状が消えたり、軽くなったりして,健康に過ごせるようになった方も多くおられます。

 今年の花粉の飛散量は昨年と比べて2〜3倍多いと言われています。薬に頼るばかりでなく,あなたも今年は禁煙を実行してみませんか。春の訪れがとても楽しみになりますよ!!

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 喫煙者太郎さんは半信半疑ながらも、禁煙にチャレンジしました。そして,−−−
 久しぶりに,通院中の外来でまゆみ先生から
「花粉症の状態は、いかがでしたか?」と聞かれて
「そう言えば、今年は花粉症、とっても楽でした。おかしいな今年は花粉が多いと言うことだったのに−−−−」と答えると

まゆみ先生はにっこり笑って
「禁煙して良かったですね。」

 そんな太郎さんの職場に、新人が配属される季節になりました。今度の新人は20才の花子さんです。花子さんは職場で咳をすることが多く、太郎さんも花子さんの風邪は長いなーと心配していました。

 ある時苦しそうな花子さんに声をかけてみると,昔、小児喘息がありその後良くなり薬も飲まなくても良かったのですが、太郎さんの職場に来た頃から、また、咳がひどくなって、寝ていても明け方に目が覚めることが、時々、あるようになったとのことです。

 そう言えば、職場は執務時間もデスクでの喫煙は自由で、午後ともなると紫煙がたなびいていることもしばしばです。空調機のフィルターの汚れがひどいと総務課の備品係から文句を言われたこともありました。

 これはなんとかしなければいけないと、太郎さんも考えています。
 さて、太郎さんの今後の行動は?→次週をお待ち下さい。

 

 太郎さんは,タバコ情報に詳しい友達の次郎さんに,職場分煙について相談してみました。
 次郎さんの職場はすでに3年前から、執務室は禁煙。タバコを吸う人は喫煙室に行って喫煙するルールになっていました。太郎さんは次郎さんの「遅れているな−、おまえの職場!」に愕然としました。

 次郎さんの話によると、1992年4月労働安全衛生法が改正され、事業者は、(快適な職場環境の形成のための措置)を継続的かつ計画的に講ずることが義務づけられました(第71条の2)。そして、労働省はこれを受けて1992年7月、「快適職場指針」を告示したということです。
 この中では『屋内作業場では空気環境における浮遊粉塵や臭気などについて,労働者が不快と感じることがないよう維持管理されるよう必要な処置を講ずることとし、必要に応じ作業場内における喫煙場所を設定するなどの喫煙対策を講ずること』(労働省告示第59号の第2の1の(1))と国が職場の喫煙対策を法的に初めて義務づけています。そして、1996年3月には厚生省から『公共の場における分煙のあり方』が,また、同年2月には労働省からも『職場における喫煙対策のガイドライン』が発表されています。

 そんなことになっているとは,全く知らなかった太郎さん,花子さんのためだけではなく、職場のみんなのためにも議論を巻き起こすことにしました。

 ちょうどその頃、太郎さんの職場の健康管理組合では、疾病予防のための健康教室を企画し、テーマを募集していました。これは、いいチャンスです。太郎さんは、「職場の分煙について」を希望として提出しました。その後、職場ではたなびく紫煙の中で、禁煙、分煙の議論が沸騰することになっていくのです。−波瀾万丈−

 健康教室に「職場の分煙について」が採用されました。どうやら健康管理組合でも、赤字削減問題について検討していたらしく,喫煙関連疾患の医療費を減らしたいという意向があったのです。事前にアンケート調査がなされました。結果は太郎さんが予想していたとうり,喫煙者は職場の分園には消極的、それに比べて非喫煙者は8割以上が執務中は職場を禁煙にして欲しいという希望を持っていました。
 この溝を埋めるためには加害者である喫煙者に、周囲の人が蒙る受動喫煙の害を理解してもらわなければなりません。健康教室には禁煙指導とタバコの有害性に詳しいまゆみ先生を,講師にお願いすることになりました。各職場からは労働安全衛生委員、健康管理センターの看護婦さんが出席し,学んだことを職場に広めてもらうこととなりました。出席者の半数以上が喫煙者という勉強会になりました。タバコを吸うのはこちらの勝手と、最初は様子見がてらの委員が多かったのですが、次第に表情が真剣になり、終了時の感想では「周囲の人にこれほど悪影響があるなんて,ショックでした。」という人までありました。どうやら喫煙派の7から8割は職場での喫煙をやまめなければならないという意見に変わったようです。

 ところが、いざ各職場に帰って分煙を進めようとすると、喫煙者の反対の声があがりました。「仕事の能率が悪くなる。」「吸うのは嗜好なんだから、個人の自由じゃないか!」「アメリカでは禁煙らしいが、何でもアメリカのまねすることはないじゃないか!」花子さんは「タバコを吸う人は吸わなくても死にはしないけど、喘息の私はタバコの煙を吸うと発作を起こすのです。仕事中に息を止めているわけにはいきません!」と強く訴えました。健康管理委員の太郎さんは,勉強会の資料をコピーし配ることにしました。

 喫煙者の人たちもようやく事情をのみこみ、分煙を受け入れることになりました。分煙は、喫煙場所を別に設置する必要があるそうです。具体的な案を作成することになった太郎さんの仕事も忙しくなりそうです。−−−以下、次週に続く

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