三人の王 第三章 神の塔 <5>
三人の王

第三章 神の塔

< 5 >


 その数分程前、一人の男が馬を歩ませていた。と、そこに見るか
らに柄の悪そうな二人組が馬に乗って現れた。
「おい、兄ちゃん。ここは俺達の縄張りなんだよ。通行料として、
有り金全部、差し出すんだな」片方の背の高い男が、薄気味悪い笑
みを浮かべる。
 それを聞くと、その男は笑みを浮かべた。そして、馬の向きを変
えて走り出した。
「野郎っ!」もう片方のふとっちょが叫ぶ。
「逃がすかっ!」のっぽも叫んで、男を追いかける。
 男と二人の盗賊の追いかけっこはしばらくの間、続いた。
 と、突然、男は落馬した。二人の盗賊はここぞとばかりに、男に
追い着いた。
「へっ、へっ、へっ」二人は薄気味悪い笑みを浮かべて、倒れたま
まの男を見た。
「おい、おまえら」そこに、ジルファーとレングは現れた。
「なんだ、てめえらは? 死にてえのか?」ふとっちょが二人を睨
つける。
「死ぬのは、お・ま・え・だ」ふとっちょに向かって、何者かの声
がした。
 それは倒れている男の物だった。
「なんだと!」怒ったふとっちょが、倒れている男の方を振り向い
た。
「ぐっ!」その首に短剣が突き刺さり、ふとっちょは地面に仰向け
に倒れた。
「き、きさまー!」のっぽが馬から飛び降りて、男に切りかかる。
 その攻撃を男は避け、逆にのっぽの腹に膝蹴りを加えた。のっぽ
はそれで気絶し、その場に倒れた。
「ちっ。録に金を持っちゃいねえ」男は盗賊達の懐から、財布を取
り出しながら呟いた。
 それをジルファーとレングは、目を白黒させて見ていた。男がそ
れに気づく。
「さっきは、ありがとよ。意味は無かったが、一応、礼は言っとく
ぜ」
「いや、どういたしまして」ジルファーが慌てて言う。
「しかし、あんたら。ここら辺を二人だけで彷徨くのは止めた方が
良いぜ。こういう輩がここら辺には、腐る程いるんでな。ま、俺も
その一人だがな。そういや、これからおまえらはどこに行くんだ?」
「え……? ああ、神の塔に行こうと思ってるんだ」ジルファーが
答える。
「神の塔? 無理だな」男があっさりと否定する。
「なんでだ?」
「腕の立つ盗賊が必要なんだよ。俺みたいな、な。化け物どもなら、
おまえら二人でなんとかできるかも知れないが、罠だけは無理だろ
う?」
「そうだな。しかし、盗賊を雇うにはどっかの町に行かなきゃなら
ないし……」
「よし、俺がついていってやろう。普段なら金を取るんだが、今回
は特別に只でいいぞ」男が半ば強引に、話を進める。
「んー。旅は道連れとも言うから良いか。俺の名はジルファー、で、
こいつがレングだ」
「俺の名はシルファード、由緒正しい盗賊さ」
「あれ? ティナがいませんよ」レングが辺りを見回して言う。
「良いんじゃないか? もう、用が済んだんだろ」
「何を二人で、ぶつくさ言ってるんだ?」シルファードが自分の馬
を連れて来て言う。
「いや、こっちの話さ。じゃあ、行くか」
 その後、三人は馬に乗り込み、神の塔に向かって馬を歩ませていっ
た。
< 6 >


戻る