三人の王 第三章 神の塔 <2>
三人の王

第三章 神の塔

< 2 >


(ちっ。やっぱり、警備が厳しくなっていやがる)
 町の路地裏で、城の警備を盗み見ている男がいた。その男は黒い
ローブを着込み、右手には短剣を隠し持っていた。
 その刃には、青い色の毒が塗られていた。
(銀龍将軍の奴が昨日、邪魔さえしなければ……)
 男は右手の怪我を憎々しげに見た。それは昨日、銀龍将軍レイン
につけられた傷であった。
(ゴランを殺した後で必ず、血祭りにあげてやる)
 それから、男がどうやって城に忍び込もうかと考えていると、城
の中から一人の男が出てきた。遠くからでもよくわかる、その金色
の鎧はルイサードの物だった。
 それを見て、男は慌てて気配を消した。
 ルイサードは城を出て町に入ると、しばらくして、立ち止まった。
(気配が二つ……。気配がばればれの方は昨日の暗殺者か。もう一
つの本当に微かな気配の方は誰だ?)
「将軍、何をしているんですか?」突然、ルイサードの後ろで声が
した。
「レトか。気配を消して、背後に忍び寄るのは良い趣味とは言えん
ぞ」
「そんな趣味は持ち合わせていませんよ」レトが苦笑いをする。
「行くぞ」ルイサードが歩き出す。
「鼠退治ですか」レトがルイサードの後についていく。
 その手にはいつ取り出したのか、二本の針が握られていた。
 二人は男の潜んでいた路地裏を通り過ぎていった。その直後、ル
イサードは右手の親指を立てて、上を指差した。
 すると、レトは宙に舞い、民家の屋根へと音も無く上がった。
 それを見届けると、ルイサードは腰の剣を引き抜いた。そして、
精神を集中させた。
 すると、ルイサードはその場から消え去り、次の瞬間、男の真後
ろに現れていた。
「な……?」ルイサードの気配に気づいて男は振り返り、驚きの声
を上げた。
 すかさず、ルイサードが男の右手目がけて、剣を振り降ろす。そ
れを男は頭上に跳んで避けた。
 と、そこにレトが飛び降りてき、男の両肩に針を突き刺そうとす
る。男はそれを半回転して蹴り上げた。
 そしてそのまま、屋根に上り、逃げていった。
「レト、本気を出せ」ルイサードが剣を鞘に、仕舞いながら言う。
「将軍こそ、本気のほの字も出してないじゃないですか」そう、レ
トが文句を言う。
「しかたがないな。追うぞ」そうルイサードが言った時、上で男の
声がした。
「その必要は無い」その声は、ローゲントの物だった。
 ローゲントは小脇に抱えていた男を下に落とすと、自分も地面に
降り立った。
「殺したのか?」レトがぴくりとも動かない男を見て聞く。
「こいつに、聞きたい事があるんだろ?」逆にローゲントが聞き返
す。
「そうだ」レトがローゲントの目を見据えながら答える。
「レト、そいつを連れて行け」ルイサードがレトに命令する。
 レトはいかにも面倒臭そうに男を担ぎ上げると、路地裏から出て
いった。そして、そこにはルイサードとローゲントの二人だけが残
された。
(こいつが、さっきのもう一つの気配の正体か)
「名前を聞かせてくれ。後で報奨金を渡すのでな」
「金なら、いらない」ローゲントがはっきりとした口調で言う。
「なら、他に欲しい物を言ってくれ」
「そうだな。国を一つ、くれんか?」ローゲントが笑みを浮かべる。
「生憎、品切れでな」ルイサードも笑みを浮かべた。
「そうか。なら、何もいらんさ」と、ローゲントがその場から去ろ
うとする。
「名前だけでも教えてくれないか?」ルイサードがそれを呼び止め
る。
「ローゲント・ラフュード。あんたは?」
「金龍将軍ルイサード」
「ルイサードか、覚えて置こう」そう言うと、今度こそローゲント
は立ち去っていった。
「レト、立ち聞きも良い趣味では無いぞ」ルイサードが路地裏を出
て言う。
「将軍、奴は必ず将軍の強大な敵となりますぜ。なぜ、今、殺しち
まわないんですか?」レトが不服そうに聞く。
「レト、俺は大陸で二番目に強いのはおまえだと思っていたが、間
違いだったようだな」ルイサードが呟くように言う。
「奴はいつか必ず、将軍を越えますぜ」
「それもまた運命さ」ルイサードはそう言うと、城へと戻っていっ
た。
 それをレトが追いかけていく。運命とは何かと考えながら……。
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