三人の王 第三章 神の塔 <1>
三人の王

第三章 神の塔

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 龍王国ルーフィスの首都レイバーン。人口一千万のそのレイバー
ンに今、一つの事件が起きていた。その事件とは、国王暗殺未遂で
ある。
「ええい、まだ、見つからんのか!」ルーフィスの王城シモーンの
玉座に、一人の太った男が踏反り返って騒ぎ立てている。
 それがこのルーフィスの国王ゴランである。
「今、銀龍軍、精鋭一万が探索しております。しばらく、御待ちを
……」ゴランの前に膝をついている男が、宥めるように言う。その
男は体全体を金色の鎧兜で包んでいた。
「しばらくだと? さっきから、そればかりではないか。あれから、
もう二時間も経っとるんだぞ」
「金龍将軍ルイサードよ。金龍軍を率いて奴を捜し出すのだ。これ
は予の命令だ!」突然、ゴランが立ち上がって叫んだ。
「畏まりました」金龍将軍ルイサードはそう言うと、立ち上がって
王の間を出ていった。
「将軍、どうしたんですか?」王の間を出てきたルイサードを見て、
廊下で待っていた男が聞く。
「出陣だ」ルイサードが廊下を歩きながら言う。
「我々がですか? たかが一匹の野鼠を捕えるのに」男がいかにも
不機嫌そうに言う。
「その野鼠が捕まらないので、陛下は御怒りなのだ、レト」
「はい、はい、わかりました。で、いかほど連れて行きますか?」
レトが冗談めかして聞く。
「百だ。選抜は任せる。三十分後に、城の前に集合だ」
「わかりました」レトは言うと、ルイサードと別れて、金龍軍の兵
舎の方に歩いていった。
(百人か……。いやに多く取ったな。まあ、あのでぶは少ないと言
うだろうがな)
 レトは歩きながら、そんな事を考えていた。
 ちょうどその頃、レイバーンに一人の男が近づいて来ていた。そ
れは、ローゲントであった。
(あれがルーフィスの首都レイバーンか。しかし、いやに騒がしい
な)
 しばらくして、ローゲントはレイバーンに入った。途中、検問所
があったが、ローゲントは特に問いただされはしなかった。
 どうやら、外に出て行く人間だけを調べているようだった。
 ローゲントはまず、宿を捜した。その間にもローゲントは何度も、
重装備の兵士達と擦れ違った。
 そのどの鎧の胸にも、銀龍の紋章がついているのが見えた。
「おやじ、部屋はあるか?」ローゲントは手頃な宿に入った。
「相部屋でよろしいんでしたらありますよ」宿屋の主人が、愛想笑
いをしながら言う。
「ああ、良い」
「おい、アトラ。客を部屋に案内しな」
 奥から、宿の主人の息子らしい少年が現れる。そして、ローゲン
トを二階の部屋に案内した。
 ローゲントが案内された部屋は二人部屋だった。広さは普通の宿
よりも一回り程、広いぐらいであった。
 先客はベッドの上に座って、右腕に包帯を巻いていた。どうやら、
怪我をしているらしい。
「手伝おうか?」ローゲントが床に荷物を置いて、男に話しかける。
「いや、気にしないでくれ」男が答える。
「そうか。ところで、いつもここは、物々しい連中が彷徨いてるの
か?」ローゲントが鎧を脱ぎながら聞く。
「さあな。俺はここの人間じゃないんでね」
「なにか、重大な事件でも起きたのかな。例えば……、国王暗殺と
か」
 その時、男の動きが一瞬だけ止まったのを、ローゲントは見逃さ
なかった。
「あんたはもう、ここを出るのか?」ローゲントがわざと話題を変
える。
「いいや、なぜだ?」
「いや、なに、ふと思っただけさ」
(なるほど、いつでも逃げ出せるように、荷物を一纏にしているの
か)
「さて、夜通し馬を走らせてきたから、寝るとするか」ローゲント
は二本の剣をベッドの側に立て掛けると、横になった。
 実際、ローゲントは夜通し馬を走らせてきたわけではなかった。
 が、ローゲントはすぐに深い眠りに落ちていった。そして、ロー
ゲントが目覚めたのは真夜中だった。
「やはりな……」ローゲントが隣のベッドを見て呟く。そこには、
男の姿は無かった。
 ローゲントはベッドから降りると、窓を開けて夜の闇へと消えて
いった。
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