三人の王 第二章 刺客 <7>
三人の王

第二章 刺客

< 7 >


「どうします? もう、逃げ場がありませんよ」そう、魔道士がジ
ルファーを見て聞く。
「ここから、飛び降りるか?」ジルファーが下を指差して言う。
 しかたなく、二人はバルコニーに出たのである。
「高すぎます。足を挫いたら、逃げられなくなりますよ」魔道士が
下を見て言う。
「どちらにしても、このままなら確実に死ぬ。それなら、少しでも
生き延びろうとする努力をしようぜ」
「そうですね。もう、時間も無いし……」番人がバルコニーに出て
きたのを見て、魔道士が言う。
「じゃあ、一、二の三で行くぞ」雨はいっそう、強くなっていくよ
うだった。
「一、二の三!」二人がバルコニーから飛び降りようとする。
 その瞬間、辺りが眩いばかりの光に包まれた。耳が潰れんばかり
の轟音が鳴り響く。
 そのため、二人は金縛りになったように動けなくなった。
「くっ……。いっ……たい、何が……起きたんだ?」ジルファーが
目を開ける。
「雷……、だったようですね」魔道士がその問いに答える。
 その二人の前に番人はいた。体のあちこちから煙が出ている。雷
が直撃したのである。
「死んだのか?」ジルファーが番人に近づこうとする。
 そのジルファーに向かって、番人が右手を向ける。そして、右腕
の穴が光で包まれようとする。
「やばい!」それを見てジルファーは今度こそ、バルコニーから飛
び降りようとした。
 と、その時、その光は消えた。そして、番人はその場に崩れ落ち
た。
「今度こそ死んだのか?」ジルファーがそろそろと番人に近づいて
いく。
「そうみたいですね」魔道士が安心したように言う。
(しかし、なぜこの番人に雷は落ちたんだろう? 金属は雷が落ち
やすいとはいっても……)
 魔道士の頭に疑問が過った。
「さて、宝捜しをするか。そういえば自己紹介がまだだったな。俺
の名はジルファー、ジルファー・シークだ」ジルファーの声が魔道
士を我に帰させる。
「僕の名はレング・デュエルスです。みんなはレンと呼んでいます。
今年で十六才です」
「へえー、俺と四才も違うのか」
 その後、二人はバルコニーから館に戻っていった。
 まず二人はシルヴィファルツを取りに、番人のいた部屋へと戻っ
ていった。
「アルカート、おまえを殺した番人は死んだぞ。安心して成仏して
くれ」レングが戦士の死体に近づいて話しかける。その目から涙が
零れた。
「おい、早いとこ宝を探そうぜ。そいつの墓を建てるんだろ?」
「ええ。じゃあ、二手に分かれましょう」レングが涙を拭いながら、
言う。
「よし、俺は一階を調べよう。調べ終わったら、ここに集まろう」
 その後、二人は手分けして館を調べたが、宝を見つける事はでき
なかった。
「おかしいな。まさか、あの番人を買うのに全財産を使ったんじゃ
ないだろうな?」
「グレンザードの機械兵……。炎の神の国の神兵か……」レングが
呟く。
「ん……! ちょっと待てよ。レン、おまえだったら宝を守らせる
番人は、どこに置く?」
「え……? 僕でしたら、宝のある部屋のすぐ傍ですね」
「俺もそうだ。で、番人はここにいたのか?」
「ええ、ここにいました。あっ! すると、宝は……」
「隠し部屋……。と、なるわけだ。例えば、この壁のどこかにとか
な。え……?」
 ジルファーが壁に手をついて寄りかかろうとすると、その壁が突
然回転して、ジルファーは部屋の外によろけ出てしまった。
 そして、ジルファーは音を立てて倒れ込んだ。
「いてて。……!」起き上がったジルファーは声を失った。
 ジルファーの目の前には眩いばかりの財宝があった。それはジル
ファーが今まで見たこともない程の量だった。
「す……、すごい」後からやってきたレングも財宝を見て声を失う。
「金貨で百万枚分はあるな。蛇退治の報酬が金貨千五百枚だったか
ら、六百倍以上はあるな。しかし、二人じゃ持ちきれないんじゃな
いか?」
「大丈夫です。魔法の袋がありますから」レングが小さな袋を取り
出す。
 その後、魔法の袋に全ての財宝を詰めると、二人はアルカートの
死体を残して、館を出ていった。
 一時間程して、二人はアルカートの死体を運び出すため館に戻っ
てきた。死体は墓ができるまで、教会に保管することになり、二日
後、死体は立派な墓に埋葬された。
「どうだ、レン。俺と一緒に旅をしないか?」墓から帰る途中でジ
ルファーは突然、レングに話しかけた。
「えっ?」物思いに耽っていたレングは突然、現実に引き戻された。
「いや、嫌ならいいんだ」
「いえ。行かせてください。ここにはいたくないんです」
「じゃあ、どこに行く? 俺は大陸の国はリッペスしか知らないん
だ」
「僕とアルカートは大陸最古の王国、ローフーンを目指していたん
です。でも、僕は特に行きたかった訳ではないんですけどね。アル
カートに行く用事があったんです」
「ローフーンってのはそんなに古いのか?」ジルファーはその王国
の事がなぜか気になった。
「ええ。建国千年を越える由緒正しい王国です」
「ロガルド王国が建国五百年ぐらいだから倍近いな。じゃ、その王
国に行くか」ジルファーがあっさりと決める。
「良いですよ。特に行きたい国はありませんから……」
「しかし、戦争ってのを一度体験してみたかったな」ジルファーが
少々残念そうに言う。
「その機会はありますよ。まだ、平和といっても表面だけの事です
から」
「それもそうだな。で、ローフーンはどっちにあるんだ?」
「北西。いえ、北北西ですね。北のルーンス王国経由が良いでしょ
うね」
「決まりだな。明日にでも行こうぜ」
 次の日、二人はルーンス王国へと馬を歩ませていった。
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