三人の王 第二章 刺客 <6>
三人の王

第二章 刺客

< 6 >


 その頃、ローゲントは中立地帯を越え、ジャルサスの国境に入ろ
うとしていた。そこでローゲントは馬の歩みを止め、ゆっくりと後
ろを振り返った。
(おかしいな。気は感じられるんだが)
 ローゲントはシーンを出た時から、誰かが後をつけている事に気
がついていた。だが、まだ一度もその姿を見てはいなかった。
(夜を待つか。今に見ていろよ)
 ローゲントは前を向き、再び馬を歩ませ始めた。そして、夜にな
ると馬を手頃な木に繋いだ。
 そして、近くの木に寄りかかって、ローゲントは寝たふりをした。
 しばらくして、ローゲントに一人の男が近づいてきた。その男は
三十ぐらいで、左手に短剣を持っていた。
 男はローゲントのすぐ傍まで来ると、ローゲントの首目掛けて短
剣を振り下ろした。
「くっ!」と、ローゲントではなく、男が声を上げた。
 ローゲントの右手が男の左手首をしっかりと掴んだのである。
 次に、ローゲントは右手に力を入れた。男は左手に持っていた短
剣を落とした。
 ローゲントはそれを見ると、右手を離して立ち上がった。
「どうした? 変身してもいいんだぞ」ローゲントは剣を抜かず、
男を嘲笑った。
「ふっ、甘いな。すぐに止めを刺せばよいものを……」男がローゲ
ントから遠ざかる。
「破壊と混沌の神スタークよ。我にその力を分け与え給え……」と、
男が両手を空に向かって差し上げる。
 すると、男の体がだんだんと薄くなり始めた。そして、完全に男
の姿は無くなり、そこには靄のような物だけが残った。
「ははははは。我こそは霧の民ファーク。この俺を斬ることはでき
んぞ。おまえはここで窒息死するのだ」
「そうかな」ローゲントはにやりと笑い、剣を一本だけ抜いた。
 そして、剣を両手で構えると、ローゲントは目をつぶった。剣先
に全神経を集中させる。
「くらえ! 空裂斬!」ローゲントが全身全霊をもって剣を振り降
ろす。
 その瞬間、空間に亀裂が縦に生じた。そのため、空間に無が生じ、
空間が無を塞ごうと動き出す。
「そんな! 吸い込まれる!」その無はファークのいる場所に生じ
たため、ファークは動く事ができない。
 それ所か、ファークは空間と一緒に無の中に吸い込まれていった。
「記憶を無くした俺が、名前以外に覚えていた技だ。と、言っても
もう聞いてはいないだろうな」ローゲントは剣をしまうと、木に寄
りかかって座った。
 そして、今度こそ本当に眠りについたのであった。
 翌日、ローゲントは進路を北西に変え、再び馬を走らせ出した。
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