三人の王 第二章 刺客 <5>
三人の王

第二章 刺客

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「ぐあっ!」ジルファーは反射的に、左肩を押さえた。
 左肩には、番人の右腕の穴と同じ大きさの穴が開いており、その
傷は焼け爛れていた。
(いっ……、今のはいったい?)
 ジルファーはいったい何が起こったのか、全くわからなかった。
そんなジルファーを余所に、再び番人の右手の穴が光で包まれた。
(これまでか……)
 ジルファーは覚悟を決めて、目を瞑った。その瞬間、番人のいた
場所が大爆発を起こし、ジルファーは爆風で後ろに吹き飛ばされて
しまった。
 その時、ジルファーはその衝撃でシルヴィファルツを取り落とし
てしまった。
「早く逃げてください!」状況を把握できないでいるジルファーの
所に、魔道士の声が飛ぶ。
 その声に反応して、ジルファーは番人から遠ざかった。魔道士が
手招きをする。
 ジルファーは急いで魔道士の方に近づき、一緒にその部屋から出
た。そして、同時にある事に気づいた。
 階段から、遠ざかってしまったのである。そして、ジルファーは
もう一つの事にも気がついて、舌打ちした。
 シルヴィファルツを落としたままだったのである。
「どうします?」魔道士がジルファーを見て聞く。その顔はまだ幼
く、少年のようであった。
「奴を倒せると思うか?」
「剣はおろか、魔法も全く効きませんでしたから……。無理でしょ
うね」
「じゃあ、逃げるしかないな」ジルファーが反対側の扉を開けに行
く。
「でも、階段は……」魔道士が言いかけるのをジルファーは目で制
した。
「助かりたかったら、自分の運を信じるんだな。ほら、奴が来たぞ」
魔道士の後ろの扉が開き、番人が部屋に入ってくる。
 それを見て、魔道士も急いで隣の部屋に逃げ出した。
「鍵を掛ける呪文か何か無いのか?」ジルファーが扉を閉めて、魔
道士に聞く。
「鍵ですか? ちょっと待ってください。えーと、時間と空間の神
はラルンでしたよね。ラルン・クエル・バトラ・ブレン」そう言う
と、魔道士は右手の杖で扉を軽く叩いた。
 すると、扉全体が一瞬だけ光った。
「今のが呪文なのか?」ジルファーが戸惑って聞く。
「えっ? あっ、今のはルーフ語なんですよ。今の言葉に直すと、
ラルン・扉・鍵・作る、だったかな? ルーフ語だと、唱える時間
が短くて楽なんですよ」
「へー、初めて聞いた。な……!」ジルファーは何かが割れる音を
聞いて、扉の方を見た。
 その扉には穴が開いてあり、番人の腕が覗いていた。
「それなら……。ルシフェシア・クレス・ローガ・ルシファ・チェ
ング」魔道士が両腕を広げる。今度は部屋全体が光った。
 しかし、番人は扉を完全に破壊して、部屋に入ってきた。
「そんな、部屋全体を最も堅い月の石に変えたのに?」魔道士が目
を見開く。
「考えてないで、逃げろ」ジルファーが魔道士のローブを無理やり
引っ張り、隣の部屋に逃げ込む。
 そして、幸運の神ラッシュを恨んだ。二人の入った部屋は館の端
のバルコニーへと通ずる部屋だったのである。
 しかも、番人は再び扉に穴を開け出している。他に扉が無いため、
二人にはバルコニーに出る道以外、残されていなかった。
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