三人の王 第二章 刺客 <3>
三人の王

第二章 刺客

< 3 >


 一夜が明けた。ジルファーが窓を開けて空を見上げる。昨日とは、
打って変わった曇り空であった。
 まるで、自分の未来を暗示しているようだ。そういう思いが、ジ
ルファーの脳裏をよぎった。
「よし、行くぞ」ジルファーは自分に言い聞かせるように、そう呟
いた。
 そして、ジルファーは宿を出て北へと歩いていった。しばらく歩
いていくと、ジルファーはようやく宿の主人の言っていた言葉の意
味がわかった。
 なぜなら、北の町外れに一目で誰も住んでいない事がわかる、古
くて汚いが立派な二階建の屋敷があったからである。
(あれがシュールの館か。あそこに機械王国グレンザードの番人が
いるのか……。どうせ、いらなくなった機械兵だろうな)
 ジルファーが館に近づいていくと、館の壊れかけた門に、二頭の
馬が繋がれているのに気がついた。どうやら先客がいるらしい。
 ジルファーは門を潜り、扉の前まで来た。そこでジルファーは少
し躊躇った。なぜか今頃になって、一人だという事を実感したのだ。
 そんなジルファーを急かすかのように、雨が降り出してきた。そ
の雨でジルファーは我に帰り、扉を押し開いて館の中へと入っていっ
た。
「レン……、早……、呪…………、ろ」ジルファーが館に入ると同
時に、二階から何者かの声が戦闘の騒音と共に聞こえてきた。
 その瞬間、ほとんど本能的にジルファーは走り出していた。
 扉を二度開けた後の大きな部屋に、階段はあった。そこにあった
一体の屍を飛び越え、ジルファーは階段を駆け上った。
 その途中、轟音とともに館全体が揺れ動いたため、ジルファーは
階段から転げ落ちそうになった。
(今のは呪文か? 魔道士か魔道戦士がいるのか)
「アルカート!」しばらくして、右手の方からさっきとは違う人物
の悲痛の叫びが聞こえてきた。
「こっちか!」ジルファーはシルヴィファルツを引き抜くと、声の
した方に走り出した。
 ジルファーがここだと見当をつけた扉を荒々しく開けると、そこ
には二人の男がいた。そして、その二人の前に機械の番人がいた。
 二人のうちの一人は戦士で、頭に何かで刺されたような穴が開い
てあり、その穴は焼け爛れていた。その戦士を庇うように立ってい
る男は、ローブを着ているため魔道士だとわかった。
 そして、機械の番人はと言うと、青色の金属で身を固めている人
間型の機械だった。しかし、右腕には手首から先が無く、その代わ
り、腕に人間の手首位の大きさの穴が開いていた。
(これが番人か……)
 ジルファーは左手で汗を拭った。殺気は感じられない。しかし、
それが余計にジルファーを焦らせたのであった。
「新たな侵入者に警告する。今から五分以内に、この館より立ち去
りなさい」番人がジルファーを左手で指差して言う。その声は、人
間の声そっくりであった。
「うるさい!」ジルファーがシルヴィファルツを振り上げ、番人に
襲いかかる。
「待ってください!」魔道士がそれを止めようとする。しかし、ジ
ルファーを止める事はできなかった。
 ジルファーは番人に近づくと、狙い定めてシルヴィファルツを降
り下ろした。それを番人は避けようともしなかった。
 その番人に、シルヴィファルツは容赦無く襲いかかった。が、番
人に傷一つつける事すらできなかった。
「つうっ!」ジルファーの両腕に、激痛が走る。
「侵入者は、警告を無視した。よって、攻撃に移る」番人はそう告
げると、ゆっくりと右腕をジルファーに向けて差し出した。
「何だ?」ジルファーは両手の痛みも忘れて、その右腕を食い入る
ように見た。
 と、右腕の穴の奥が光り出し、そうかと思うと穴全体が眩いばか
りの光に包まれた。
「逃げてください!」魔道士が叫ぶ。
 その声に反応してジルファーは横に跳んだ。
 が、一瞬速く番人の右腕の穴から、光が飛び出した。その瞬間、
ジルファーの左肩に激痛が走り、その後、感覚を失った。
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